内部監査の始め方|上場準備で作る体制と年間の回し方

内部監査は、上場準備のなかでゼロから作ることになる数少ない機能です。経理や労務は形があっても、内部監査室は非上場のうちは存在しないのが普通だからです。

やっかいなのは、会社法に内部監査の根拠条文がないことです。何人置けとも、何を見ろとも書かれていません。それでいて上場審査では、規程があるか、独立しているか、1年を通して回した実績があるかが問われます。

この記事は、内部監査室の立ち上げから年間の回し方、テーマごとの見方までを1本にまとめ、それぞれのくわしい解説への入口にしたものです。

この記事でわかること

  • いつ設置して、何人でどう回すか
  • 年間の流れ(計画から報告、フォローアップまで)
  • テーマごとに何を見るか
  • 三様監査の連携と、報告経路の作り方
  • 内部監査とJ-SOXの評価はどこが違うか

📌 会社法に根拠がないという出発点

監査役監査は会社法381条1項、会計監査人監査は会社法396条1項と金融商品取引法193条の2第1項に根拠があります。内部監査だけが、会社法上の根拠条文を持ちません。

そのぶん、社内規程が唯一のよりどころになります。内部監査規程で、どの機関の下に置き、誰に報告し、何を対象とするかを自分で決めることになります。規程に準拠すると書くか、参考にすると書くかでも、求められる水準が変わります。

根拠がないからといって軽い機能ではありません。内部統制の実施基準は、内部監査人が取締役会と監査役会に直接報告できる仕組みを求めています。この一文は2023年4月7日の改訂で新設されました。社長にだけ報告する体制は、いまの基準では通りません。

📌 いつ、誰が、何人で

設置の時期は逆算で決まります。N-2期に1サイクルを通しておくのが目安です。申請期になってから作ったのでは、運用実績を示せません。

論点 実務の勘どころ
人数 基準はありません。兼務1名でも回せますが、年に実施できるテーマ数から逆算し、3年で全体を一巡させる監査サイクルを組みます
兼務 独立性が問われるのは4つの面です。自分が作った仕組みを自分で監査していないか(自己監査)が最大の論点になります
外部委託 作業は委託できますが、判断は会社に残ります。計画の承認、指摘の決定、報告、フォローアップは会社が行います
規程 内部監査規程より先に整えるべき規程があります。順番を間違えると、監査の基準になる社内ルールがない状態になります

📌 1年をどう回すか

内部監査は、年間計画から始まって次年度の計画に戻る円環です。1周を通しておかないと、審査で見せる記録が揃いません。

  1. 年間計画を作る。リスク評価にもとづいて対象を選びます。計画を作る前に、監査役等の関心事項を聞いておくと、あとの連携が楽になります
  2. 予備調査をする。規程、フロー、過去の指摘を読み、当たりをつけます
  3. 往査する。ヒアリングと現場確認、証憑の突合を行います
  4. 調書を書く。手続、入手した証拠、結論を残します。あとから第三者が同じ結論に至れるかが基準です
  5. 報告書を書く。指摘は重要度で区分し、是正の期限と責任者を明確にします
  6. フォローアップする。是正されたことを確認して初めて1件が閉じます

指摘が毎年同じ内容で並ぶ会社があります。原因は5つの型に分かれ、多くは手順が実務と合っていないか、守る動機がないかのどちらかです。是正案を作る前に、なぜ守られないのかを見てください。

📌 テーマごとに何を見るか

3年で一巡させるなら、年に扱えるのは数テーマです。優先順位は、金額の大きさ、不正が起きやすいか、上場審査で見られるかで決まります。

領域 主な着眼点
購買と支払 発注権限、相見積り、検収と支払の分離
販売と売上計上 与信、出荷と検収の証憑、期末の計上時期
現金預金と経費精算 実査、承認、私的経費の混入
労務管理 労働時間の記録、割増賃金、36協定
IT アクセス権、変更管理、バックアップ
子会社 親会社の規程の適用範囲、往査の頻度
関連当事者取引 取引条件の妥当性、承認と開示の漏れ
棚卸資産と固定資産 実地棚卸の立会、遊休資産、除却の記録

読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか

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📌 質を上げるための道具立て

手当たり次第に見ても、限られた時間では終わりません。

  • 3ラインモデルで、第1線(現業)、第2線(管理)、第3線(内部監査)の役割を分けます。内部監査が規程の整備を主導すると、第2線と重なって独立性の説明が難しくなります
  • リスク評価で対象を絞ります。金額、頻度、統制の弱さ、過去の指摘で点数化するのが実務的です
  • サンプリングの考え方を決めておきます。件数の根拠を説明できることが大切です
  • ウォークスルーで1件を最初から最後まで追い、実際の流れと文書の差を見つけます
  • データ分析で全件を対象にできる場面があります。深夜の伝票、同一金額の連続、承認者と起票者の一致などです

そして品質評価です。年1回の自己評価で、独立性、計画、調書、報告、フォローアップの各場面を点検し、記録に残します。1人体制でレビューが難しい場合は、外部の目を1年に1度入れる方法があります。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の整備支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

📌 三様監査の連携と、J-SOXとの違い

監査役監査、内部監査、会計監査人監査は、それぞれ根拠も対象も違います。連携している実態を示せるかが審査で問われます。年間計画を渡す、往査に同行する、指摘を共有する、期末に意見交換をするといった場面を、あらかじめ年間の日程に組み込んでおいてください。

もうひとつ混同されやすいのが、内部監査と内部統制報告制度(J-SOX)の評価です。目的も対象も報告先も違います。内部監査は業務全般を対象に経営に助言する活動で、J-SOXは財務報告の信頼性に絞って有効性を評価し、内部統制報告書として外部に出すものです。

作業は重ねられます。ウォークスルーや証憑の突合は共通するため、調書の書き方を揃えておくと両方に使えます。ただし評価範囲の決め方や不備の判定はJ-SOX固有の作法があるので、そこは分けて考えてください。

🔗 論点別のくわしい解説

立ち上げる

1年を回す

テーマごとに見る

技法と品質

ほかの監査や制度との関係

❓ よくある質問

Q. 内部監査室は何人必要ですか

A. 人数の基準はありません。兼務1名の会社もあります。大切なのは、年に実施できるテーマ数から逆算して監査サイクルを組み、3年程度で全体を一巡させる計画になっていることです。

Q. 経理部長が内部監査を兼務してもよいですか

A. 経理を監査する場面で自己監査になります。兼務そのものが禁止されるわけではありませんが、自分の担当領域は監査対象から外すか、外部の力を借りるといった手当てが要ります。

Q. 内部監査はいつから始めればよいですか

A. N-2期に1サイクルを通しておくのが目安です。申請期に立ち上げても運用実績を示せません。規程の整備、計画、往査、報告、フォローアップまでを1年で回した記録が必要です。

Q. 内部監査とJ-SOXの評価は同じ人がやってよいですか

A. 実務では同じ担当者が兼ねることがあります。ただし目的が違うので、調書と報告は分けて作ります。J-SOXの評価者としての独立性は別途問われます。

Q. 社長にだけ報告する形ではだめですか

A. 内部統制の実施基準は、取締役会と監査役会に直接報告できる仕組みを求めています。経営者が是正しない場合の経路がないと、内部監査の意味がなくなるためです。

📄 まとめ

内部監査には会社法上の根拠条文がありません。だからこそ、規程で自分の役割を決め、独立性を確保し、1年を通して回した記録を残すことがすべてになります。

立ち上げはN-2期が目安です。人数の基準はありませんが、3年で一巡する監査サイクルを組み、リスク評価で対象を絞ります。テーマは金額、不正の起きやすさ、審査での見られ方で優先順位をつけます。

報告経路は取締役会と監査役会に直接。三様監査の連携は、年間日程に場面を組み込んでおくと実態を示せます。

いちばん多い失敗は、着手が遅れて運用実績を示せないことです。規程の完成度より、1サイクル回した記録のほうが評価されます。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。内部統制の基準および実施基準、コーポレートガバナンス・コードは改訂されます。実際の体制づくりにあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

📚 参考(公的な一次情報)

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