内部通報制度と内部監査|受付から調査までの流れと役割

上場準備の会社では、内部通報の窓口を内部監査室が兼ねている例がよくあります。人数の制約から自然な形ではありますが、通報制度と内部監査は目的も進め方も違う仕組みです。

混ぜたまま運用すると、調査に時間を取られて年度計画が進まない、あるいは自分が調査した領域を後から監査することになって独立性が説明できない、という問題が出ます。

この記事では、2つの違いを整理したうえで、通報を受けてからの流れ、内部監査が調査を担うときの限界、通報を監査計画に活かす方法、審査で確認される点までをまとめます。

この記事でわかること

  • 内部通報制度と内部監査の役割の違いを5つの場面で整理
  • 通報を受けてからの6段階の流れと、最初にやるべきこと
  • 利益相反の確認と、被通報者が経営陣である場合の扱い
  • 内部監査が調査を担うことで生じる独立性の問題
  • 通報の内容を監査計画に反映する際の書き方
  • 上場審査で確認される制度と記録のポイント
通報を受けたらどう動くか通報の内容と緊急性を確かめる経営者が関与している可能性があるか監査役に直接報告するはいいいえ法令違反や不正の疑いがあるか調査の体制を作り事実を確かめはいいいえ通報者が特定されるおそれがあるか保護の措置をとるはいいいえ事実を確かめ、再発を防ぐ仕組みを整える

図 内部通報を受けたときの対応の判定

📌 結論 通報制度と内部監査は別の仕組み

上場準備の会社で、内部通報の窓口を内部監査室が兼ねているという例はよくあります。人数が限られるため自然な形ではありますが、2つは目的も進め方も違う仕組みです。混ぜたまま運用すると、通報の調査に時間を取られて年度計画が進まない、あるいは自分が調査した領域を後から監査することになって独立性が説明できない、という問題が出ます。

会社法は、企業集団を含めた業務の適正を確保する体制の整備を求めており、その体制の一部として通報の仕組みが位置づけられます。上場審査では、窓口があるかどうかだけでなく、通報が実際に処理され記録が残っているかが確認されます。

内部通報制度と内部監査の役割の違い場面内部通報制度内部監査きっかけ働く人からの申告年度計画にもとづく往査対象申告された個別の事案業務プロセス全体進め方事実関係の調査と是正統制の有効性の評価秘密の扱い通報者の特定を避ける対象部署に往査を通知する結果の使い道処分と再発防止報告書と改善提案

2つは別の仕組みだが、通報の内容は監査計画の材料になる

🧭 通報を受けてからの流れ

通報が入ったときに最初にやるべきことは、受理した事実を記録に残すことです。受付番号をつけ、受付日、通報の手段、内容の概要を残します。ここが曖昧なまま調査に入ると、後から時系列を説明できなくなります。

通報を受けてからの流れを6段階に分ける受付窓口が受理し受付番号をつけて記録する利益相反の有無を確認し調査の担当を決める調査の範囲と手法を決めて着手する関係者からの聴取と資料の確認を行う事実認定を行い処分と是正を検討する通報者に結果の概要を伝え記録を保存する

調査の担当を決める前に利益相反を確認する

次に確認するのが利益相反です。通報の対象が誰かによって、調査を担当できる人は変わります。被通報者が調査担当の上長であれば、その担当は外れる必要があります。被通報者が経営陣であれば、社内での調査には限界があるため、監査役等が関与する体制や外部の弁護士に依頼する枠組みが必要になります。

調査の過程では、通報者が特定されないような進め方が求められます。通報の内容をそのまま関係者に示すと、誰が話したかが推測できてしまうことがあります。聴取の対象を通報の当事者に限らず広げる、資料の確認から入るといった工夫で、通報があったこと自体を伏せたまま事実を確かめられる場合があります。

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📊 内部監査が調査を担うときの限界

内部監査が通報の調査を担当すると、その領域については後から独立した立場で監査することが難しくなります。自分が事実認定をした案件について、後日その業務プロセスの統制を評価するという構図になるためです。

内部監査が通報対応に関わるときの注意点論点望ましい形避けたい形窓口の設置社外窓口を併設する社内の1か所のみ調査の担当事案ごとに独立性を確認常に内部監査が担当被通報者が上位者監査役等が関与する体制経営陣だけで判断記録の保存受付から結論まで一連で残す口頭で処理して記録なし再発防止監査計画に反映する個別の処分で終わらせる

内部監査が調査を担うほど、その領域の監査の独立性は弱まる

現実的な整理としては、通報の一次受付は総務や法務に置き、内部監査は調査への協力と、結果を監査計画に反映する役割にとどめるという形があります。それができない規模の会社では、調査を担当した事案の領域については翌年度の往査で第三者の関与を入れる、という運用で補います。

いずれの形をとるにせよ、誰がどの役割を担うかを規程で決めておくことが必要です。上場審査では、体制が文書で定まっているかと、実際にそのとおりに動いた記録があるかの両方が確認されます。

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🗂 通報の内容を監査計画にどう活かすか

通報は、内部監査にとってリスクの所在を示す貴重な情報です。個別の事案として処理して終わらせるのではなく、年度計画を立てる際の材料として使います。特定の部署からの通報が続いている、同じ種類の申告が複数の拠点から出ているといった傾向は、統制の設計そのものに問題があることを示しています。

ただし、監査計画に反映する際に通報の内容をそのまま書くと、通報者が特定される恐れがあります。計画書には、対象領域と重点項目という形に抽象化して書き、通報が背景にあることは口頭での説明にとどめるという扱いが実務的です。

通報がゼロという状態も、それ自体が論点になります。制度が知られていない、使っても意味がないと思われている、報復を恐れているといった原因が考えられます。周知の状況や、匿名で通報できるかどうかを内部監査が確認し、必要であれば制度の設計自体を指摘の対象にします。

⚖️ 上場審査で確認される点

審査で確認されるのは、規程の有無、窓口の設置状況、周知の方法、受付から結論までの記録、そして通報者が不利益な取り扱いを受けない旨が定められているかという点です。社外窓口を設けているかどうかも問われます。社内の窓口だけでは、被通報者が経営陣である場合に機能しないためです。

記録については、件数だけでなく、それぞれがどう処理されたかまで説明できる状態にしておきます。処理中のまま長期間止まっている案件があると、制度が機能していないという評価につながります。処理の期限の目安を定め、期限を過ぎた案件を管理する仕組みまで含めて整えておくのが安全です。

内部監査としては、これらの点を年に1回は点検の対象に含めます。通報制度そのものを監査の対象とすることで、制度の運用に対する第三者の視点が入り、審査での説明もしやすくなります。

❓ よくある質問

Q. 内部通報の窓口を内部監査室が兼ねてよいですか

A. 人数の制約から兼ねている会社は多くあります。ただし調査を担当した領域はその後の監査の独立性が弱まるため、規程で役割を明確にし、翌年度の往査で第三者の関与を入れるなどの手当てが必要です。

Q. 社外窓口は必ず必要ですか

A. 設置が望ましいところです。社内の窓口だけでは被通報者が経営陣である場合に機能しないため、審査でも社外窓口の有無が確認されます。

Q. 通報者が特定されないようにするにはどうしますか

A. 通報の内容をそのまま関係者に示さないことが基本です。聴取の対象を広げる、資料の確認から入るといった進め方で、通報があったこと自体を伏せたまま事実を確かめられる場合があります。

Q. 通報がゼロの場合はどう評価しますか

A. 良い状態とは限りません。制度が知られていない、使っても意味がないと思われている、報復を恐れているといった原因が考えられるため、周知の状況と匿名性の確保を確認します。

Q. 調査の担当はどう決めますか

A. 事案ごとに利益相反を確認して決めます。被通報者が調査担当の上長であればその担当は外れ、経営陣であれば監査役等の関与や外部の弁護士への依頼を検討します。

Q. 通報の内容を監査計画に書いてよいですか

A. そのまま書くと通報者が特定される恐れがあります。対象領域と重点項目という形に抽象化して書き、背景の説明は口頭にとどめるのが実務的です。

Q. 処理中のまま止まっている案件があると問題ですか

A. 制度が機能していないという評価につながります。処理の期限の目安を定め、期限を過ぎた案件を管理する仕組みまで整えておくのが安全です。

Q. 通報制度そのものを内部監査の対象にできますか

A. 有効な進め方です。年に1回は点検の対象に含めることで、制度の運用に第三者の視点が入り、審査での説明もしやすくなります。

📄 まとめ

内部通報制度と内部監査は別の仕組みです。役割を規程で分けておかないと、独立性の説明ができなくなります。

通報を受けたら、まず受理の記録を残し、次に利益相反を確認してから調査の担当を決めます。順番を逆にすると後で説明できません。

内部監査が調査を担った領域は、その後の監査の独立性が弱まります。一次受付を別部門に置くか、翌年度に第三者の関与を入れて補います。

通報の傾向は監査計画の材料になります。ただし計画書には抽象化して書き、通報者が特定されない形にします。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

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