内部監査を外部に委託してよいか、という質問をよく受けます。結論からいえば、委託は可能です。禁じる法令はなく、上場審査でも委託自体が問題とされることはありません。
ただし、委託できるのは作業の部分です。年度計画の決定、報告書の承認、是正の指示という判断の部分は、会社に残ります。ここを取り違えて丸投げすると、内部監査の主体が誰なのかを審査で問われます。
この記事では、委託できる範囲と自社に残すもの、委託の3つの形、委託先を選ぶときの確認事項を整理します。
- 外部委託できる作業と、会社に残る判断の線引き
- 全面委託・部分委託・共同実施の使い分け
- 委託先を選ぶときに確認する5つの点
- 委託していても会社が必ず行う4つの作業
- 上場審査での説明のしかた
図 内部監査で外部に委託できる範囲の判定
この記事の見出し
📌 結論 作業は委託できるが、判断は委託できない
作業は委託できますが、判断と責任は委託できません。この線引きが設計の出発点です。
内部監査の外部委託を禁じる法令はありません。上場審査でも、外部委託していること自体を理由に問題とされることはありません。実際、専門性の高い領域を外部に頼っている上場会社は多くあります。
ただし、委託できるのは作業の部分です。年度計画をどうするか、指摘をどう扱うか、是正をいつまでに求めるかという判断は、会社が行います。委託先が代わりに決めることはできません。
この線引きが曖昧なまま丸投げすると、審査で内部監査の主体が誰なのかを問われます。外部が作った報告書に社内の誰も目を通していない、という状態が最も危うい形です。
🧭 委託の3つの形
上場を見据えるなら、共同実施を経て自社単独に移行する形が審査で説明しやすくなります。
全面委託は、内部監査を立ち上げたばかりの会社が選ぶ形です。計画の草案から往査、報告書の草案まで外部が担い、会社は承認と是正の指示を行います。短期間で体制の形が整う利点があります。
部分委託は、主要な業務プロセスは自社で監査できているが、情報システムや労務のように専門知識が要る領域だけを外部に頼む形です。費用を抑えやすく、社内に知見も残ります。
共同実施は、外部の監査人と社内の担当者が一緒に往査を行う形です。社内担当者が手続と調書の作り方を身につけられるため、数年後に自社単独へ移行する道筋が描けます。上場を見据えるなら、この形がもっとも説明しやすくなります。
いずれの形でも、契約書に業務範囲を明記してください。どこまでが委託先の役割で、どこからが会社の判断かを文書で示せることが、審査での説明になります。
📄 委託先を選ぶときの確認事項
調書が引き継げない形式だと、委託をやめた瞬間に監査の履歴が途切れます。契約前に確認してください。
まず確認したいのが、会計監査人との関係です。会計監査を担当している監査法人が内部監査を全面的に受託すると、自らが構築に関与した内部統制を自ら監査することになり、独立性の問題が生じます。会計監査人とは別の専門家に依頼するのが安全です。
次に、調書の様式です。委託先の独自様式で作られた調書は、委託をやめた瞬間に社内で再現できなくなります。自社の様式に落とし込める形か、あるいは様式ごと引き継げる契約かを、事前に確認してください。
そして、移行の支援まで含まれているかどうかです。ずつと委託し続ける前提の契約と、2年後に自社単独へ移行する前提の契約では、進め方が変わります。上場準備であれば後者を選ぶべきです。
全面委託から始めて共同実施に移り、最終的に自社単独へ移行する。この流れを前提に設計します。監査手続書と調書の様式は貴社に引き継げる形で作成し、担当者の方に往査へ同行いただきながら進めます。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の導入、内部監査対応を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
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📊 費用の考え方
委託費用は、テーマ数と往査日数で決まります。1テーマあたりの標準的な工数は、予備調査2から3日、往査2日、調書と報告書の作成3から4日で、合計7から9日です。この工数に単価を掛けたものが費用の目安になります。
全面委託で年4テーマなら、年間30日から36日分になります。部分委託で年1テーマだけなら、7日から9日分です。子会社への往査が加わる場合は、移動日を別に見込んでください。
費用を抑えたい場合は、共同実施にして社内担当者が調書の作成を担う形が有効です。外部は手続の設計とレビューに集中し、作業量を減らせます。
🗂 委託していても会社がやること
委託していても、会社が必ず行う作業があります。第1に、年度計画の承認です。委託先が作った計画案を、内部監査部門を管掌する役員が確認し、取締役会に上程します。
第2に、報告書の受領と経営者への報告です。委託先の報告書をそのまま回覧するのではなく、社内の担当者が内容を理解し、経営者に説明できる状態にしてください。審査ではこの点が確認されます。
第3に、是正の指示とフォローアップです。指摘を受けた部門に是正計画を出させ、期限を管理するのは会社の役割です。委託先に督促を任せると、社内での実効性が落ちます。
第4に、調書の保管です。委託先が作成した調書も、会社の記録として保管します。契約終了時に返却を受ける取り決めを、契約書に入れておいてください。
⚖️ 上場審査での説明のしかた
審査では、外部委託していることを隠す必要はありません。むしろ、なぜ委託しているのか、どこまでを委託し、どこからを自社で判断しているのかを整理して説明できることが求められます。
説明の材料になるのは、委託契約書、年度計画の承認記録、報告書、そして社内担当者が経営者に説明した記録です。この4点があれば、主体が会社にあることを示せます。
また、いつまで委託を続けるのかという計画も聞かれます。上場後も委託を続ける方針であれば、その理由と社内の管理体制を説明してください。移行を予定しているなら、時期と進め方を示します。
❓ よくある質問
A. 委託できます。禁じる法令はなく、審査でも委託自体は問題になりません。
A. 監査手続の設計、往査、調書の作成、報告書の草案までです。計画の決定、報告書の承認、是正の指示は会社が行います。
A. 避けてください。自らが関与した内部統制を自ら監査することになり、独立性の問題が生じます。
A. 1テーマあたり7から9日の工数が目安です。全面委託で年4テーマなら年間30日から36日分になります。
A. なりません。委託の範囲と会社の判断の部分を整理して説明できることが大切です。
A. 会社の記録として保管します。契約終了時に返却を受ける取り決めを契約書に入れてください。
A. 方針として説明できれば構いません。上場準備であれば自社単独への移行計画を示すほうが評価されます。
A. 共同実施にして、社内担当者が調書の作成を担う形が有効です。外部は設計とレビューに集中します。
📄 まとめ
内部監査の外部委託に法令上の制限はありません。作業は委託できますが、計画の決定と報告書の承認、是正の指示は会社に残ります。
全面委託、部分委託、共同実施の3つの形があります。上場を見据えるなら、共同実施から自社単独への移行が説明しやすくなります。
会計監査人と同一の法人への委託は避け、調書が自社に引き継げる形かを契約前に確認してください。
委託していても、年度計画の承認、経営者への報告、是正の指示、調書の保管は会社が行います。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
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