関連当事者との取引は、それだけで問題になるわけではありません。問われるのは、網羅的に把握できているか、承認の手続を経ているか、条件が妥当だと説明できるか、解消の方針があるかという点です。
洗い出しの方法には申告書と名簿の突合という2つがあり、片方だけでは必ず漏れます。両方をやったうえで差分を確認するのが実務的な進め方です。
この記事では、洗い出しの対象、点検の5段階、承認と条件の確認、解消の方針の扱い、子会社での漏れの防ぎ方を整理します。
- 洗い出しの対象になる5つの関係と、それぞれの把握の手がかり
- 関連当事者取引の点検を5段階で行う進め方
- 申告書と名簿の突合を両方やるべき理由
- 承認の手続と条件の妥当性をどう確かめるか
- 解消の方針が動いているかの見方
- 子会社と海外拠点で漏れを防ぐ方法
図 関連当事者取引の洗い出しの判定
📌 結論 取引の有無より手続の記録が問われる
関連当事者との取引は、それだけで問題になるわけではありません。上場審査で問われるのは、そうした取引を会社が網羅的に把握できているか、必要な承認の手続を経ているか、条件が第三者との取引と比べて妥当だと説明できるか、そして解消に向けた方針があるかという点です。
会社法は、取締役が自ら会社と取引をする場合や、会社が取締役の債務を保証するような場合に、取締役会の承認を求めています。承認を受けずに行われた取引は、後から手続の瑕疵として問題になります。内部監査は、この承認が漏れなく行われているかを確かめる役割を担います。
申告書と名簿の突合の両方をやらないと漏れる
🧭 洗い出しをどう行うか
洗い出しの方法は2つあり、両方をやることが必要です。1つは、役員と主要株主から関係する会社や親族について申告書を提出してもらう方法。もう1つは、株主名簿や役員名簿と取引先マスタを名称や所在地で機械的に突合する方法です。
申告書は毎期取り直さないと異動が反映されない
申告書だけに頼ると、本人が関連当事者だと認識していない取引が漏れます。逆に突合だけに頼ると、名称が異なる会社を見つけられません。両方をやったうえで、突合で出てきたが申告になかった先について、本人に確認するという流れが実務的です。
申告書は毎期取り直します。就任時に一度取っただけでは、その後に親族が起業した、役員が別の会社の株式を取得したといった変化が反映されません。定時株主総会の前後など、時期を決めて定例の手続にしておきます。
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📊 承認と条件の確認
該当する取引が見つかったら、次に確かめるのは承認の手続です。取引を始める前に取締役会の承認を得ているか、議事録に取引の相手方と内容、条件が記載されているかを見ます。取引が先に始まり、後から承認を取っているという例は珍しくありません。
取引の存在より、手続と記録の欠落が指摘の中心になる
条件の妥当性については、第三者との取引と比べて不利な条件になっていないかを確かめます。相見積もりを取っている、市場の相場資料を参照している、同種の取引の実績と比較しているといった記録が残っていれば説明ができます。記録がない場合、条件そのものが妥当であっても妥当だと示せません。
不動産の賃貸借のように継続する取引では、契約更新のたびに条件を見直しているかも見ます。何年も前の条件のまま自動更新されている状態は、相場との乖離が生じていないかの確認が必要になります。
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🗂 解消の方針をどう扱うか
上場を目指す会社では、関連当事者取引は原則として解消する方向で検討することが求められます。事業上どうしても必要な取引もありますが、その場合は必要性と条件の妥当性を説明できる状態にしておく必要があります。
内部監査としては、解消の方針が定められているか、方針に沿って進んでいるかを確認します。方針そのものを決めるのは経営の役割ですが、決めた方針が実行されているかを確かめるのは監査の範囲です。何年も方針だけがあって動いていない状態は指摘の対象になります。
解消が難しい取引については、なぜ必要なのかという説明が文書で残っているかを見ます。口頭の説明しかない状態だと、審査の場で説明が揺れる可能性があります。取締役会で必要性を確認し、議事録に残しておく形が確実です。
⚖️ 子会社と海外拠点での漏れ
関連当事者の把握で最も漏れやすいのが、子会社での取引です。親会社の役員からしか申告を取っていない場合、子会社の役員が関係する取引は捕捉できません。子会社の役員にも同じ申告書の提出を求める運用にします。
海外子会社では、現地の慣行として代表者の関係する会社と取引をしている例があります。現地では通常の商慣行であっても、連結ベースでは関連当事者取引として扱われます。往査の際に、主要な取引先の中に現地の役員が関係する先がないかを確認します。
指摘を書くときは、取引の存在そのものを問題として書くのではなく、把握の仕組み、承認の手続、条件の記録、解消の方針という4つの観点のどこが欠けているかを明確にします。会社が次に何をすればよいかが分かる形にすることが、この領域の指摘では特に重要です。
❓ よくある質問
A. 取引の存在そのものが直ちに問題になるわけではありません。把握の仕組み、承認の手続、条件の妥当性の説明、解消の方針という4点が整っているかが問われます。
A. 毎期取り直します。就任時に一度取っただけでは、その後に親族が起業した、役員が別会社の株式を取得したといった変化が反映されません。
A. 足りません。本人が関連当事者だと認識していない取引が漏れるため、株主名簿や役員名簿と取引先マスタの突合を併せて行います。
A. 取引開始前の承認が原則です。事後承認になっている場合は、規程に事前承認を明記し、運用を改めることを是正案として示します。
A. 相見積もり、市場の相場資料、同種取引の実績との比較などの記録を残します。条件が妥当であっても記録がなければ妥当だと示せません。
A. 更新のたびに条件を見直しているかを確認します。何年も前の条件のまま自動更新されている状態は、相場との乖離の確認が必要です。
A. 必要性と条件の妥当性を文書で説明できる状態にします。取締役会で必要性を確認し議事録に残しておく形が確実です。
A. 子会社の役員にも同じ申告書の提出を求めます。親会社の役員からしか申告を取っていないと、子会社での取引が捕捉できません。
📄 まとめ
関連当事者取引の監査は、取引の有無ではなく、把握の仕組みと手続の記録が問われる領域です。
洗い出しは申告書と名簿の突合の両方を行います。片方だけでは必ず漏れが出ます。
承認は取引開始前が原則です。条件の妥当性は相見積もりや相場資料といった記録がなければ示せません。
解消の方針が決まっているか、方針どおりに動いているかを確認します。方針だけがあって動いていない状態は指摘の対象になります。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
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