工事契約に関する会計基準は、収益認識基準の適用にあわせて廃止され、収益認識基準に統合されました。工事進行基準という名称は基準上なくなりましたが、進捗に応じて収益を認識する考え方は引き継がれています。
この記事では、工事契約の収益認識が何から何に変わったのかを整理し、あわせて工事損失引当金の計上について扱います。
- 工事契約基準から収益認識基準への移行で何が変わったか
- 成果の確実性という要件がなくなったことの意味
- 工事損失引当金の計算と計上のタイミング
- 受注制作のソフトウェアの扱い
図 工事契約の収益をいつ認識するかの判定
📌 工事進行基準は引き継がれたか
従来の工事契約に関する会計基準では、工事の進行途上において成果の確実性が認められる場合に工事進行基準を適用し、認められない場合は工事完成基準を適用していました。収益認識基準では、この区分がなくなっています。
枠組みは入れ替わりましたが、進捗に応じて認識するという考え方は引き継がれています。
代わりに、一定の期間にわたり充足される履行義務に該当するかを3つの要件で判断します。工事契約の多くは、顧客の土地の上で建設する場合は要件2に、受注生産で他に転用できず出来高を請求できる場合は要件3に該当し、期間にわたって収益を認識することになります。
成果の確実性が認められない場合の扱いも変わりました。従来は工事完成基準でしたが、収益認識基準では原価回収基準を適用します。完成まで収益ゼロではなく、発生した原価と同額の収益を認識します。
📌 期間がごく短い場合の特例
工期がごく短い工事契約については、代替的な取扱いとして、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識することが認められています。受注制作のソフトウェアについても同様です。
ごく短いという期間について、基準は具体的な日数を定めていません。実務では、四半期を超えない程度、あるいは決算期をまたがない程度を目安とする例が見られます。採用する場合は、自社の基準を定めて継続して適用します。
📌 工事損失引当金
工事契約について損失が見込まれる場合、その損失を工事損失引当金として計上します。これは収益認識基準の定めではなく、引当金の一般的な考え方によるものですが、工事契約の実務では必ずセットで検討します。
損失が見込まれた時点で、将来の損失も含めて一度に計上します。
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📊 記載例
工事損失が見込まれる契約について、引当金を計上した例です。
前提 契約金額10,000千円の工事。当初の見積総原価は9,000千円だったが、資材価格の高騰により見積総原価が11,000千円に増加した。当期末までに発生した原価は5,500千円である。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 契約金額 | 10,000 |
| 見積総原価 | 11,000 |
| 発生原価(累計) | 5,500 |
| 進捗度 | 50.0パーセント |
| 累計収益 | 5,000 |
| 累計原価 | 5,500 |
| 当期までの損失 | △500 |
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 工事全体で見込まれる損失(10,000-11,000) | △1,000 |
| すでに計上した損失 | △500 |
| 工事損失引当金の計上額 | 500 |
工事全体で1,000千円の損失が見込まれ、うち500千円は当期までに計上済みです。残る500千円を工事損失引当金として計上します。
会社名と数値は架空です。将来の期に生じる損失も、見込まれた時点で計上します。
工事損失引当金は、収益認識基準ではなく、引当金の一般的な考え方にもとづいて計上します。損失が見込まれた時点で全額を計上するという保守的な処理です。
📌 見積りの更新が要になる
工事損失引当金を適時に計上するには、見積総原価を継続的に更新する必要があります。資材価格の高騰、工期の延長、仕様の変更といった事情があれば、見積りは変わります。
月次で実績原価を集計し、残りの工事に必要な原価を見積り直す仕組みがあれば、損失の見込みを早期に把握できます。この仕組みがないと、期末になって初めて大きな損失が判明することになります。上場準備の過程では、原価管理の月次サイクルが確立しているかが確認されます。
📌 受注制作のソフトウェア
受注制作のソフトウェアも、工事契約と同じ考え方で処理します。顧客の要求に合わせて開発するもので他に転用できず、契約上出来高を請求できるのであれば、期間にわたって収益を認識します。
ソフトウェア開発では、工数の見積りが原価の見積りに直結します。工数管理の仕組みがプロジェクトごとに整っているかが、進捗度の測定と損失の把握の両方を支えます。人件費の配賦基準を明確にしておくことも必要です。
要件の判定から、進捗度の測定方法の選択、工事損失引当金の計算、月次の原価管理の設計までをお受けします。収益認識基準の適用支援と上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
❓ よくある質問
A. 一定の期間にわたり充足される履行義務に該当しない場合は、一時点での認識になります。また工期がごく短い場合は、完全に充足した時点で認識する代替的な取扱いが使えます。
A. 原価回収基準を適用します。完成まで収益をゼロにするのではなく、発生した原価と同額の収益を認識し、利益をゼロにします。
A. いません。引当金の一般的な考え方によるものですが、工事契約では必ずセットで検討します。損失が見込まれた時点で、将来の損失も含めて計上します。
📄 まとめ
工事契約に関する会計基準は廃止され、収益認識基準に統合されました。成果の確実性という要件はなくなり、一定の期間にわたり充足される3要件で判断します。成果が不確実な場合は原価回収基準です。
工事損失引当金は、損失が見込まれた時点で将来分も含めて計上します。適時に把握するには、月次で見積総原価を更新する仕組みが欠かせません。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
全体像と適用の準備
ステップ1 契約の識別
ステップ2 履行義務の識別
ステップ3 取引価格の算定
ステップ4 取引価格の配分
ステップ5 収益の認識
表示と開示と実務
📚 参考(公的な一次情報)
- 企業会計基準委員会(ASBJ) 収益認識に関する会計基準および適用指針
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 企業内容等の開示に関する内閣府令(e-Gov法令検索)