収益認識に関する会計基準は、売上をいつ、いくら計上するかを決める基準です。それまで日本には売上に関する包括的な会計基準がなく、実現主義という考え方のもとで、業種ごとの慣行や税務の取扱いに沿って処理されてきました。この基準は、その判断の枠組みを5つのステップとして明文化したものです。
この記事は、収益認識基準を全体として理解するための入口です。基準の対象と適用時期、5つのステップの流れ、従来の実務との違い、そして上場準備会社が着手すべき順序までを一度に整理します。個別の論点は、このシリーズの各記事で扱います。
- 収益認識基準が何を決めた基準で、どの会社に適用されるか
- 5つのステップがどの順で何を判断するものか
- 出荷基準や返品調整引当金など、従来の実務がどう変わるか
- 上場準備の過程でいつ、何から着手すべきか
図 5つのステップのどこに論点があるかの判定
📌 何を決めた基準か
収益認識基準が扱うのは、顧客との契約から生じる収益です。売上高として計上する金額と、その計上時期を決める枠組みを示しています。逆に、金融商品から生じる利息や配当、リース取引から生じる収益、保険契約から生じる収益などは、それぞれ別の基準が扱うため、この基準の対象外です。
適用時期は、上場会社と会社法上の大会社などについて2021年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から強制適用となっています。上場準備会社は、上場する時点で適用済みであることが前提になるため、申請の前から適用しておく必要があります。中小企業については、これまでの企業会計原則にもとづく処理を継続することも認められています。
📌 5つのステップで判断する
基準の中核は、5つのステップです。誰との契約かを決め、その契約に約束が何個あるかを数え、いくら受け取るかを見積り、それを約束ごとに割り振り、約束を果たした時点で収益にする。この流れを、すべての契約に当てはめます。
この順序で判断します。前のステップの結論が次のステップの前提になるため、順番を入れ替えることはできません。
実務で判断が分かれるのは、ステップ2の履行義務の識別と、ステップ5の充足時点です。1つの契約に見える取引が実は2つの約束を含んでいたり、逆に別々の契約に見える取引が1つのまとまりだったりします。ここを間違えると、収益の金額も計上時期も変わります。
📌 従来の実務と何が変わるか
最も大きな変化は、収益を認識する基準が支配の移転になった点です。従来の実現主義では、財貨の移転または役務の提供と、対価の成立という2つの要件で判断していました。収益認識基準では、顧客がその資産を使用し、そこから便益のほとんどすべてを享受できるようになった時点で収益を認識します。
金額そのものより、いつ、いくらを、どの単位で計上するかの考え方が変わります。
注意したいのは、この基準が売上の総額を減らす基準ではないという点です。多くの取引では、従来と同じ時期に同じ金額が計上されます。変わるのは、複数の要素を含む契約、値引きや返品が伴う契約、代理人として関与する契約といった、判断の余地がある取引です。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
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📌 影響が出やすい取引
自社にどれだけ影響があるかは、扱っている取引の型で決まります。単純な物品販売だけであれば影響は限定的です。一方で、次のような取引がある場合は、契約書を1つずつ確認する必要があります。
上場準備会社では、最初の2つと3つ目が論点になることが多くあります。
本人か代理人かの判定は、売上高の金額そのものを変えるため、影響が最も目立つ論点です。総額から純額に変われば、売上高は大きく減ります。利益は変わりませんが、売上高を経営指標にしている会社では説明が必要になります。上場準備の過程では、成長率の見え方にも関わるため、早い段階での確認が欠かせません。
📌 上場準備ではいつ着手するか
申請期をN期とすると、監査の対象になるのはN-2期からです。したがってN-2期の期首時点で適用済みであることが必要になります。方針を固めるのはN-3期のうちが望ましく、遅くともN-2期の初めには結論を出しておきます。
申請期の前に方針を固めておかないと、比較年度の数値を作り直すことになります。
作業量が読みにくいのは、契約書の棚卸しです。取引先ごとに条件が違う、基本契約と個別契約に分かれている、口頭の合意が残っているといった状況では、確認そのものに時間がかかります。売上高の上位から順に、金額の大きい取引類型を先に片づける進め方が現実的です。
📊 記載例
製品の販売と保守サービスを1つの契約で提供する場合の、5つのステップの当てはめです。
契約の内容 製品の引渡しと、引渡し後1年間の保守サービス。契約金額は1,200千円。
| 履行義務 | 独立販売価格 | 配分後の取引価格 | 収益認識の時期 |
|---|---|---|---|
| 製品の引渡し | 1,000 | 960 | 引き渡した一時点 |
| 保守サービス | 250 | 240 | 1年間にわたり均等 |
| 合計 | 1,250 | 1,200 | - |
独立販売価格の合計1,250千円に対して契約金額が1,200千円であるため、50千円の値引きを各履行義務に比例して配分しています。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 売掛金 | 1,200 | 売上高 | 960 |
| 契約負債 | 240 |
保守サービスの240千円は、1年間にわたって毎月20千円ずつ契約負債から売上高へ振り替えます。
会社名と数値は架空です。契約金額をそのまま売上にせず、履行義務ごとに分けて配分するのが基準の考え方です。
この設例では売上高が1,200千円から960千円に減り、残りが契約負債になります。売上の総額そのものは変わりませんが、計上する期がずれる点が実務への影響です。
契約類型の洗い出しから、履行義務の識別、取引価格の配分、注記の作成までを通してお受けします。収益認識基準の適用支援と上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
❓ よくある質問
A. 多くの取引では変わりません。ただし、代理人と判定された取引は総額から純額になり、売上高が大きく減ります。値引きや返品が多い取引では、見積りの分だけ計上額が変わります。
A. 中小企業については従来の処理を継続できます。ただし上場を予定している場合は、申請の前から適用しておく必要があります。監査の対象年度から適用済みでなければ、比較年度を作り直すことになります。
A. 法人税法でも、収益の額は原則として引渡しの日または役務の提供の日の属する事業年度の益金に算入するとされており、会計の処理と整合する形で整理されています。ただし完全に一致するわけではないため、差異が生じる項目は個別に確認します。
📄 まとめ
収益認識基準は、売上をいつ、いくら、どの単位で計上するかを5つのステップで判断する枠組みです。基準の全体像をつかむには、まず自社の契約がどの型に当てはまるかを見ることから始めます。
上場準備会社にとっては、監査の対象年度に間に合わせることが最優先です。契約書の棚卸しに時間がかかるため、売上高の大きい取引類型から順に、判断の根拠を文書として残していく進め方をおすすめします。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
全体像と適用の準備
- 完全ガイド 5つのステップと全体像(この記事)
- 適用範囲と適用時期
- 実現主義との違いと支配の移転
ステップ1 契約の識別
ステップ2 履行義務の識別
ステップ3 取引価格の算定
ステップ4 取引価格の配分
ステップ5 収益の認識
表示と開示と実務
📚 参考(公的な一次情報)
- 企業会計基準委員会(ASBJ) 収益認識に関する会計基準および適用指針
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 企業内容等の開示に関する内閣府令(e-Gov法令検索)