返品を受け付ける条件で商品を販売した場合、返品されると見込まれる部分については収益を認識しません。従来の返品調整引当金による処理から、売上高そのものを減額する処理に変わっています。
この記事では、返品権付き販売の会計処理を整理します。小売業や卸売業のほか、返品条件付きで出荷している製造業でも該当する論点です。
- 返品調整引当金から何が変わったか
- 返金負債と返品資産を両建てで計上する仕組み
- 返品率の見積りに必要なデータ
- 実際に返品を受けたときの処理
図 返品権付き販売の処理の判定
📌 返品見込み分は収益にしない
返品権付きの販売では、企業が権利を得ると見込む対価は、返品されない部分に限られます。したがって、返品されると見込まれる部分については収益を認識せず、返金負債として計上します。あわせて、返品されると見込まれる商品を回収する権利を返品資産として計上します。
返金負債と返品資産を両建てで計上するのが基本の形です。
利益への影響は同じでも、売上高と売上原価の金額が変わります。
従来の返品調整引当金は、売上高を全額計上したうえで、返品により失われる利益相当額を引当金として計上する方法でした。収益認識基準では、そもそも収益として認識しないという整理に変わっています。
📊 記載例
返品権付きで商品を販売した場合の仕訳です。
前提 販売価格1,000千円、原価600千円の商品を、30日以内の返品を認める条件で販売した。過去の実績から返品率は5パーセントと見込まれる。回収に要する費用は考慮しない。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 売掛金 | 1,000 | 売上高 | 950 |
| 返金負債 | 50 | ||
| 売上原価 | 570 | 商品 | 600 |
| 返品資産 | 30 |
| 項目 | 従来の処理 | 収益認識基準 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,000 | 950 |
| 売上原価 | 600 | 570 |
| 返品調整引当金繰入額 | 20 | - |
| 利益 | 380 | 380 |
利益は同じ380千円ですが、売上高が50千円、売上原価が30千円それぞれ減少します。
会社名と数値は架空です。売上高が減る点が、従来の処理との最も大きな違いです。
実際に返品を受けたときは、返金負債を取り崩して現金または売掛金を減額し、返品資産を商品に振り替えます。返品されなかった分は、返品期間の終了時に収益として認識します。
📌 返品率をどう見積るか
返品率の見積りは、過去の実績にもとづきます。商品の類型ごと、販売チャネルごとに返品の実績を集計し、そこから見込みを算定します。新商品で実績がない場合は、類似商品の実績を参考にします。
見積りにあたっては、変動対価と同じく収益の減額に関する制限が適用されます。返品率の見積りに大きな不確実性がある場合、計上できる収益はより小さくなります。実績データが乏しい会社ほど、保守的な見積りを求められることになります。
上場準備会社では、返品の受入れを販売部門が個別に判断していて、データとして集計されていないことがあります。返品の理由、時期、金額を記録する仕組みを整えることが、見積りの前提になります。
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📌 返品資産の測定
返品資産は、商品の従前の帳簿価額から、その商品の回収に要する費用と価値の下落分を控除して測定します。回収に費用がかかる場合や、返品された商品が再販売できず処分するしかない場合は、その分を減額します。
季節商品やモデルチェンジのある商品では、返品された時点で価値が大きく下がっていることがあります。この場合、返品資産の金額は帳簿価額よりかなり小さくなり、その差額は費用として認識されます。
📌 返品期間が終了したとき
返品期間が終了し、返品されないことが確定した部分については、返金負債を取り崩して収益として認識します。同時に、返品資産を売上原価に振り替えます。
実務では、返品期間が決算日をまたぐ販売について、期末時点の返金負債と返品資産の残高を正しく把握することが求められます。販売時点と返品期間の管理をシステムで行えるようにしておくと、決算作業が大幅に楽になります。
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📌 委託販売との違い
返品権付きの販売と混同されやすいのが委託販売です。委託販売では、商品を相手先に引き渡しても支配は移転しておらず、相手先が第三者に販売した時点で収益を認識します。引渡しの時点では在庫として自社に残ります。
両者を区別する着眼点は、相手先が商品を自由に処分できるか、代金の支払義務が引渡しの時点で生じているか、相手先が在庫リスクを負っているかです。返品権付きの販売であれば、相手先は購入者として支配を得ており、返品はあくまで権利にすぎません。一方、委託販売では相手先は預かっているだけで、売れ残れば返すことが前提になっています。
実務では、契約書の名称が売買契約でも、実質的に委託販売と評価される取引があります。返品が無条件で認められ、売れ残りが常に返ってくる運用になっているのであれば、支配が移転していたといえるかを慎重に判断する必要があります。返品率が著しく高い取引は、この観点から確認しておくべきです。
❓ よくある質問
A. 売上高と売上原価の金額が変わるためです。売上高は投資家や取引先が見る重要な指標であり、返品見込み分を含めた金額を示すことは実態と合わないという考え方です。
A. 類似商品の実績や業界の水準から見積ることになりますが、不確実性が高いと判断されれば計上できる収益が小さくなります。返品データの集計を早めに始めることをおすすめします。
A. 返品資産の測定にあたって、価値の下落分を控除します。処分するしかない場合は、返品資産をゼロまたは処分価額で計上することになります。
📄 まとめ
返品権付きの販売では、返品見込み分の収益を認識せず、返金負債と返品資産を両建てで計上します。返品調整引当金による処理は廃止されました。
利益への影響は従来と同じでも、売上高と売上原価が減ります。見積りの前提となる返品実績のデータを、商品の類型ごと販売チャネルごとに集計できる仕組みを整えてください。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
全体像と適用の準備
ステップ1 契約の識別
ステップ2 履行義務の識別
ステップ3 取引価格の算定
- 取引価格の算定
- 変動対価
- 返品権付き販売(この記事)
- 重要な金融要素
- 顧客に支払われる対価
ステップ4 取引価格の配分
ステップ5 収益の認識
表示と開示と実務
📚 参考(公的な一次情報)
- 企業会計基準委員会(ASBJ) 収益認識に関する会計基準および適用指針
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 企業内容等の開示に関する内閣府令(e-Gov法令検索)