1つの契約に複数の履行義務がある場合、取引価格をそれぞれに割り振る必要があります。割り振りの基礎になるのが独立販売価格です。単独で販売したらいくらになるかという価格を、履行義務ごとに把握または見積ります。
この記事では、取引価格の配分の考え方と、独立販売価格を見積る3つの方法を整理します。製品とサービスをセットで販売している会社では、必ず通る論点です。
- 取引価格を配分する基礎となる独立販売価格の考え方
- 独立販売価格を見積る3つの方法と使い分け
- 残余アプローチを使える場面の限定
- 配分の計算と収益認識時期への影響
図 独立販売価格の見積方法の選び方
📌 独立販売価格の比率で配分する
取引価格は、それぞれの履行義務の独立販売価格の比率にもとづいて配分します。独立販売価格とは、財またはサービスを独立して企業が顧客に販売する場合の価格をいいます。契約上の価格ではなく、単独で売ったらいくらかという価格です。
まず観察可能な価格を探し、なければ見積るという順序です。
最良の証拠は、その財またはサービスを単独で販売している場合の価格です。価格表があり、実際にその価格で販売した実績があるのであれば、それを使います。観察できる価格がない場合に限り、見積ることになります。
📌 見積る3つの方法
基準は、独立販売価格を見積る方法として3つを示しています。どれを使うかは、入手できる情報によって決まります。
残余アプローチは使える場面が限られており、他の方法が優先されます。
調整した市場評価アプローチは、市場の価格から見積る方法です。競合他社が同種のサービスをいくらで提供しているかがわかれば、それを基礎に自社の状況に合わせて調整します。
予想コストに利益相当額を加算するアプローチは、原価から積み上げる方法です。原価計算の仕組みがあり、目標とする利益率が明確であれば使えます。受託開発やカスタマイズのように、案件ごとに原価が変わるサービスに向いています。
📌 残余アプローチの制限
残余アプローチは、取引価格の総額から他の履行義務の独立販売価格の合計を差し引いて算定する方法です。計算は簡単ですが、使える場面が限定されています。
使えるのは、同一の財またはサービスを異なる顧客に幅広い価格帯で販売している場合か、その財またはサービスの価格をまだ設定しておらず、独立して販売したこともない場合です。単に価格表を作っていないというだけでは使えません。
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📊 記載例
独立販売価格が観察できないサービスについて、残余アプローチを使った例です。
前提 ソフトウェアのライセンス、導入支援、1年間の保守を1つの契約で1,800千円で販売した。導入支援と保守は単独でも販売しており価格が定まっているが、ライセンスは顧客ごとに価格が大きく異なり、独立販売価格を直接観察できない。
| 履行義務 | 独立販売価格 | 把握の方法 |
|---|---|---|
| ソフトウェアのライセンス | 1,100 | 残余アプローチにより算定 |
| 導入支援 | 500 | 単独販売の実績価格 |
| 保守サービス | 200 | 単独販売の実績価格 |
| 合計 | 1,800 | - |
| 履行義務 | 配分額 | 収益認識の時期 |
|---|---|---|
| ソフトウェアのライセンス | 1,100 | 引渡した一時点 |
| 導入支援 | 500 | 支援が完了した一時点 |
| 保守サービス | 200 | 1年間にわたり |
| 合計 | 1,800 | - |
この設例では取引価格の合計と独立販売価格の合計が一致するため、値引きは生じていません。
ライセンスの価格が顧客ごとに大きく異なる場合に限り、残余アプローチを使えます。単に価格表がないという理由では使えません。
会社名と数値は架空です。残余アプローチは要件が限定されている点に注意してください。
残余アプローチを複数の履行義務に同時に使うことはできません。1つの契約の中で価格が観察できない履行義務が2つ以上ある場合は、他の方法を組み合わせる必要があります。
📌 配分が収益の時期を変える
配分の結果は、収益の計上時期に直接影響します。一時点で認識する履行義務に多く配分されれば当期の売上が増え、期間にわたって認識する履行義務に多く配分されれば繰り延べられます。
だからこそ、独立販売価格の見積りには客観性が求められます。当期の売上を増やしたいという意図で一時点の履行義務に多く配分することは認められません。見積りの方法と根拠を文書にし、継続して適用することが必要です。
📌 実務での進め方
まず、単独で販売している財またはサービスの価格表を整備します。実際にその価格で販売した実績があれば、それが最良の証拠になります。上場準備会社では、セット販売しかしておらず単独の価格が存在しないというケースがよくあります。
その場合は、原価の集計単位を履行義務に合わせることから始めます。導入支援に何時間かかっているか、保守にどれだけのコストがかかっているかが分かれば、予想コストに利益相当額を加算する方法が使えます。原価計算の仕組みが、そのまま収益認識の基礎になります。
独立販売価格の把握から、見積方法の選択、配分計算の設計、原価集計の仕組みづくりまでをお受けします。収益認識基準の適用支援と上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
❓ よくある質問
A. 契約上の内訳が独立販売価格と一致しているとは限りません。単独で販売した場合の価格を確認し、乖離があれば独立販売価格にもとづいて配分し直します。
A. 使える場面が限定されています。価格帯が幅広い場合か、価格を設定しておらず単独販売もしたことがない場合に限られます。
A. 類似の状況では継続して適用します。方法を変える場合は、変更の理由と影響を説明できる必要があります。
📄 まとめ
取引価格は独立販売価格の比率で配分します。単独販売の実績価格が最良の証拠であり、それがない場合に3つの方法から選んで見積ります。
配分は収益の計上時期を直接動かすため、見積りの客観性が問われます。単独の価格がない会社は、原価を履行義務ごとに集計する仕組みを作ることが、そのまま配分の根拠になります。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
全体像と適用の準備
ステップ1 契約の識別
ステップ2 履行義務の識別
ステップ3 取引価格の算定
ステップ4 取引価格の配分
- 独立販売価格と配分(この記事)
- 値引きの配分
ステップ5 収益の認識
表示と開示と実務
📚 参考(公的な一次情報)
- 企業会計基準委員会(ASBJ) 収益認識に関する会計基準および適用指針
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 企業内容等の開示に関する内閣府令(e-Gov法令検索)