得意先に対して支払う販売奨励金、棚代、協賛金といった金銭は、従来は販売促進費として費用計上することが一般的でした。収益認識基準では、これらを顧客に支払われる対価として捉え、原則として取引価格から減額します。
この記事では、顧客に支払われる対価の判定と、あわせて現金以外の対価の測定を整理します。売上高の金額が変わる論点であり、上場準備では必ず確認されます。
- 顧客に支払われる対価を費用処理できる場合と、売上から減額する場合
- 販売奨励金や棚代など、実務でよくある支払いの扱い
- 独立販売価格を超える部分をどう扱うか
- 株式や物品で対価を受け取った場合の測定
図 顧客に支払われる対価の処理の判定
📌 別個の財またはサービスの対価か
顧客に支払われる対価とは、企業が顧客に対して支払う、または支払うと見込まれる現金の額をいいます。値引き、リベート、クーポン、クレジットのほか、顧客が企業に対して負う債務と相殺できるものも含まれます。
別個の財またはサービスを受け取っているかどうかが判断の中心です。
判断の中心は、その支払いによって顧客から別個の財またはサービスを受け取っているかどうかです。受け取っているなら通常の仕入と同じで、費用として処理します。受け取っていないなら、実質的な値引きであり、取引価格から減額します。
受け取っている場合でも、支払額がその独立販売価格を超えるなら、超える部分は値引きとみなして取引価格から減額します。相場より高い金額を支払っているのであれば、その差額は値引きだという整理です。
📌 実務でよくある支払い
取引先に支払う名目はさまざまですが、名称ではなく実質で判断します。
名称ではなく、自社が何を受け取っているかで判断します。
棚代や陳列協力金は、判断が分かれやすい支払いです。小売業者が自社の商品を目立つ場所に置くことは、小売業者自身の販売活動でもあります。企業が別個のサービスを受け取っているとまではいえないことが多く、取引価格から減額する扱いが一般的です。
一方、物流センターの利用料のように、独立したサービスの提供を受けていることが明確であれば費用処理します。判断の根拠として、そのサービスを他社からも購入できるか、支払額が市場の水準と整合しているかを確認します。
📊 記載例
販売奨励金と共同広告の負担金を区別して処理した例です。
前提 当期の売上高は20,000千円。得意先に対して、販売奨励金600千円と、共同広告の負担金400千円を支払った。共同広告には自社の商品名とロゴが掲載されており、独立した広告として発注した場合の相場は350千円である。
| 支払いの内容 | 金額 | 扱い | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 販売奨励金 | 600 | 取引価格から減額 | 別個のサービスを受け取っていない |
| 共同広告の負担金(相場の範囲) | 350 | 販売費として費用処理 | 広告というサービスを受け取っている |
| 共同広告の負担金(相場の超過分) | 50 | 取引価格から減額 | 独立販売価格を超える部分 |
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売上高 | 19,350 |
| 販売費 | 350 |
売上高20,000千円から、販売奨励金600千円と共同広告の超過分50千円を減額しています。
会社名と数値は架空です。同じ支払先への支払いでも、内容により扱いが分かれる点が要点です。
実務では、支払いの根拠となる資料が重要です。共同広告であれば、掲載内容と相場を示す資料があれば費用処理の根拠になります。資料がなければ、実質的な値引きとして扱われる可能性が高くなります。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
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📌 現金以外の対価
対価が現金でない場合もあります。顧客から株式を受け取る、物品やサービスを受け取るといった取引です。この場合、受け取ったものの時価で取引価格を測定します。
受け取ったものの価値で測るのが原則です。
時価を合理的に見積れない場合は、移転した財またはサービスの独立販売価格を基礎に測定します。上場準備会社では、取引先の未公開株式を対価として受け取るケースがあり、時価の算定が論点になります。
顧客が材料や設備を無償で提供する場合も、現金以外の対価として扱うかを検討します。その材料に対する支配を企業が得るのであれば、対価として取引価格に含めます。単に預かって加工するだけであれば、対価には含めません。
📌 支払いの一覧を作る
実務の第一歩は、得意先に対する支払いを一覧にすることです。販売促進費、支払手数料、広告宣伝費といった科目の中に、顧客への支払いが混ざっていることがあります。支払先が売上の相手先と一致するものを抽出すると、検討の対象が見えてきます。
抽出した支払いについて、何を受け取っているのか、その対価として妥当な金額かを整理します。この作業は営業部門への確認が必要になることが多く、経理部門だけでは判断できません。上場準備の過程では、支払いの承認手続の中に、この判断を組み込んでおくことをおすすめします。
支払いの洗い出しから、対価性の判断、独立販売価格との比較、業務フローへの組み込みまでをお受けします。収益認識基準の適用支援と上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
❓ よくある質問
A. いいえ。顧客から別個の財またはサービスを受け取っている場合は費用処理を続けます。受け取っていない場合、または支払額が独立販売価格を超える場合に、その部分を売上から減額します。
A. 多くの場合は控除しますが、独立したサービスとして評価できる余地はあります。契約内容と実態を確認し、判断の根拠を残してください。
A. 時価で測定しますが、未公開株式は時価の算定が難しいため、移転した財またはサービスの独立販売価格を基礎に測定することが多くなります。
📄 まとめ
顧客に支払われる対価は、別個の財またはサービスを受け取っているかどうかで、費用処理と売上からの減額に分かれます。受け取っていても、独立販売価格を超える部分は減額の対象です。
まず得意先への支払いを一覧にし、何を受け取っているかを整理することから始めてください。判断には営業部門の情報が必要になるため、支払いの承認手続の中に確認の仕組みを組み込んでおくと運用が安定します。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
全体像と適用の準備
ステップ1 契約の識別
ステップ2 履行義務の識別
ステップ3 取引価格の算定
ステップ4 取引価格の配分
ステップ5 収益の認識
表示と開示と実務
📚 参考(公的な一次情報)
- 企業会計基準委員会(ASBJ) 収益認識に関する会計基準および適用指針
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 企業内容等の開示に関する内閣府令(e-Gov法令検索)