対価の額が契約の時点で確定していない取引は珍しくありません。数量に応じたリベート、成果に連動する報酬、返品の可能性がある販売などです。収益認識基準は、これらを変動対価として見積り、取引価格に含めることを求めています。
この記事では、変動対価の2つの見積方法と、見積った額をそのまま計上できない場合がある収益の減額に関する制限を整理します。
- 変動対価に該当する取引の型
- 最頻値法と期待値法の使い分け
- 見積った額に対する収益の減額の制限
- 見積りを毎期見直すときの実務
図 変動対価の見積方法と制限の判定(制限は見積方法にかかわらず検討します)
📌 変動対価とは
変動対価とは、顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分をいいます。値引き、リベート、返金、インセンティブ、業績に基づく割増金、ペナルティなど、さまざまな形をとります。契約書に将来の条件が書かれていなくても、取引慣行や過去の対応から顧客が期待していれば、変動対価として扱います。
実務でよくあるのが、年度末の値引き交渉です。契約上は定価で販売していても、期末に一定の値引きに応じることが慣行になっているのであれば、その分を見積って取引価格から減額することになります。
📌 2つの見積方法
変動対価の見積りには2つの方法があります。取引の性質に応じて、より適切に予測できるほうを選びます。
契約ごとに、より適切に予測できるほうを選び、継続して適用します。
最頻値法は、結果が2つしかない場合に適しています。ボーナスを受け取るか受け取らないか、といった二者択一の状況です。期待値法は、取引の数が多く結果が分散する場合に適しています。多数の顧客に対するリベートや返品の見積りがこれにあたります。
選んだ方法は、類似の契約について継続して適用します。契約ごとに有利な方法を選ぶことはできません。
📊 記載例
数量に応じたリベートがある場合の、2つの見積方法による違いです。
前提 年間購入額が5,000千円を超えた場合に3パーセント、10,000千円を超えた場合に5パーセントのリベートを支払う契約。当期の第1四半期に2,000千円を販売した。過去の実績から、年間購入額の分布は次のとおりと見込まれる。
| 年間購入額の水準 | 確率 | リベート率 | 加重平均 |
|---|---|---|---|
| 5,000千円以下 | 20パーセント | 0パーセント | 0.0パーセント |
| 5,000千円超10,000千円以下 | 50パーセント | 3パーセント | 1.5パーセント |
| 10,000千円超 | 30パーセント | 5パーセント | 1.5パーセント |
| 合計 | 100パーセント | - | 3.0パーセント |
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 販売額 | 2,000 |
| リベートの見積り(3.0パーセント) | △60 |
| 計上する収益 | 1,940 |
| 返金負債 | 60 |
取引の件数が多く結果が分散するため、期待値法を用いています。最頻値法であれば、確率が最も高い3パーセントを用いることになります。
会社名と数値は架空です。四半期ごとに見込みを更新し、差額は当期の収益として調整します。
年度末に近づくほど不確実性は下がります。第4四半期には実績が固まるため、見積りと実績の差額を調整することになります。
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📌 収益の減額に関する制限
変動対価を見積っても、その全額を取引価格に含められるとは限りません。基準は、変動対価の額に関する不確実性が解消される際に、認識した収益の額の著しい減額が生じない可能性が高い部分に限り、取引価格に含めることを求めています。
見積れるからといって全額を計上できるわけではない、という制限です。
この制限は、収益を前倒しで計上して後から取り消すという事態を防ぐためのものです。見積れるかどうかと、計上してよいかどうかは別の判断だという整理です。
これらに当てはまるほど、取引価格に含められる金額は小さくなります。
実務では、これらの要因に当てはまる取引について、見積額の一部だけを取引価格に含めることになります。たとえば新規事業で実績データがない成果報酬であれば、確実に得られる最低額だけを収益とし、上振れ部分は実現するまで待つという判断がありえます。
📌 見積りの見直し
変動対価の見積りは、各決算日に見直します。見直しによる変動は、その期の収益として調整します。過去の期に遡って修正するわけではありません。
見直しに必要なのは、実績データの蓄積です。リベートの達成率、返品率、値引き率を取引先の類型ごとに集計できる仕組みがあれば、見積りの精度が上がります。上場準備の過程では、このデータの取得が最初の作業になることが多くあります。
契約条件の洗い出しから、見積方法の選択、制限の適用、実績データの集計設計までをお受けします。収益認識基準の適用支援と上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
❓ よくある質問
A. あります。取引慣行や過去の対応から顧客が値引きを期待していれば、変動対価として見積ります。書面の有無ではなく実態で判断します。
A. 収益の減額に関する制限を適用し、著しい減額が生じない可能性が高い部分だけを取引価格に含めます。不確実性が高いほど、計上できる金額は小さくなります。
A. しません。見積りの変更として、その期の収益で調整します。ただし当初の見積りに合理性がなかった場合は、誤謬として扱われる可能性があります。
📄 まとめ
変動対価は、最頻値法または期待値法で見積り、取引価格に含めます。結果が二者択一なら最頻値法、多数の取引で分散するなら期待値法が適しています。
見積った額をそのまま計上できるとは限りません。著しい減額が生じない可能性が高い部分に限るという制限があり、実績データが乏しい取引ほど計上できる金額は小さくなります。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
全体像と適用の準備
ステップ1 契約の識別
ステップ2 履行義務の識別
ステップ3 取引価格の算定
- 取引価格の算定
- 変動対価(この記事)
- 返品権付き販売
- 重要な金融要素
- 顧客に支払われる対価
ステップ4 取引価格の配分
ステップ5 収益の認識
表示と開示と実務
📚 参考(公的な一次情報)
- 企業会計基準委員会(ASBJ) 収益認識に関する会計基準および適用指針
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 企業内容等の開示に関する内閣府令(e-Gov法令検索)