一定の期間にわたり収益を認識する契約であっても、進捗度を合理的に見積れないことがあります。契約の初期段階や、仕様が固まっていない開発案件です。この場合、収益をまったく計上しないのではなく、発生した原価と同額の収益を認識します。これを原価回収基準といいます。
この記事では、原価回収基準の考え方と、通常の方法への切替えを整理します。日本基準に固有の取扱いであり、国際的な基準とは異なる点でもあります。
- 原価回収基準を適用する場面と要件
- 収益と原価が同額になり利益がゼロになる仕組み
- 進捗度が見積れるようになった時点での切替え
- 進捗度を見積れない状況を減らすための体制
図 進捗度を見積れないときの処理の判定
📌 利益をゼロにして収益は認識する
原価回収基準とは、履行義務を充足する際に発生する費用のうち、回収することが見込まれる費用の金額で収益を認識する方法です。収益と原価が同額になるため、利益はゼロになります。損失も出ません。
収益をまったく計上しないのではなく、原価と同額を計上するのが原価回収基準です。
原価回収基準では、利益はゼロですが損失も出ません。
この方法をとる理由は、収益をまったく計上しないと、作業が進んでいる実態が財務諸表に表れないためです。かといって、進捗度が見積れないのに収益を推定するのは根拠がありません。そこで、確実に回収が見込まれる原価の分だけを収益とするという中間的な処理をとります。
📌 適用する場面
進捗度を合理的に見積れないのは、主に契約の初期段階です。要件定義が終わっておらず、必要な作業量が見えていない状態では、総原価を見積れません。
最後の1つは会社側の体制の問題であり、整備すれば解消します。
注意したいのは、最後に挙げた原価の集計体制の問題です。契約ごとに原価を集計できていないために進捗度を計算できないというのは、会社側の体制の問題であり、本来解消すべきものです。この理由で原価回収基準を適用し続けると、監査で体制の不備を指摘されることになります。
📊 記載例
契約の初期段階で進捗度を見積れず、原価回収基準を適用した例です。
前提 契約金額20,000千円の受託開発。第1四半期は要件定義の段階で総原価を見積れず、発生原価は1,200千円。第2四半期に仕様が確定し、見積総原価が14,000千円と算定できた。第2四半期末までの累計発生原価は4,200千円。
| 四半期 | 発生原価(累計) | 適用する方法 | 収益(累計) | 当期の収益 |
|---|---|---|---|---|
| 第1四半期 | 1,200 | 原価回収基準 | 1,200 | 1,200 |
| 第2四半期 | 4,200 | 進捗度による | 6,000 | 4,800 |
| - | - | 進捗度30パーセント | - | - |
第1四半期は原価と同額の1,200千円を収益とし、利益はゼロです。
第2四半期に進捗度を見積れるようになったため、累計の進捗度30パーセントを契約金額に乗じた6,000千円を累計収益とし、既に計上した1,200千円との差額4,800千円を当期の収益とします。
会社名と数値は架空です。切替え時に累計で調整するため、当期の収益が大きく出ることがあります。
四半期開示を行う会社では、この切替えのタイミングで売上高が跳ねることになります。開示の際に説明が必要になる場合があります。
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📌 切替え時の影響
進捗度を見積れるようになった時点で、通常の方法に切り替えます。切替えは、その時点の累計進捗度で累計収益を再計算し、既に計上した額との差額を当期の収益とする形で行います。
設例のように、切替えのタイミングで当期の収益が大きく出ることがあります。四半期ごとに開示している会社では、特定の四半期だけ売上高が跳ねる形になります。投資家への説明が必要になるため、切替えの見込み時期を事前に把握しておくことが望まれます。
📌 適用を減らすための体制
原価回収基準は、進捗度を見積れないというやむを得ない状況への対応です。適用する契約が多いということは、見積りの精度が低いということでもあります。上場審査では、なぜ見積れないのかが問われます。
体制として整えるべきは、契約ごとの原価集計と、総原価の見積りの手続です。案件の着手時に工数を見積り、月次で実績と比較して見積りを更新する仕組みがあれば、進捗度は算定できます。プロジェクト管理の仕組みが、そのまま会計処理の基礎になります。
また、契約の初期段階でも、過去の類似案件の実績があれば総原価を見積れることがあります。案件のデータベースを整備しておくと、見積りの根拠として使えます。
適用の要否の判断から、原価集計の設計、総原価の見積り手続の整備までをお受けします。収益認識基準の適用支援と上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
❓ よくある質問
A. 適用している期間は利益ゼロです。進捗度が見積れるようになって通常の方法に切り替えた時点で、それまでの分もあわせて利益が計上されます。
A. 進捗度が見積れない状態が続くのであれば継続します。ただし、なぜ見積れないのかの説明が求められます。体制の不備が理由であれば改善が必要です。
A. 収益を認識せず、発生した原価はそのまま費用となります。さらに損失が見込まれるなら、工事損失引当金など損失の引当ての検討が必要です。
📄 まとめ
原価回収基準は、進捗度を合理的に見積れない場合に、発生した原価と同額の収益を認識する方法です。利益はゼロになりますが、作業が進んでいる実態は財務諸表に表れます。
適用する契約が多い状態は、見積りの体制が整っていないことの表れでもあります。契約ごとの原価集計と総原価の見積りの手続を整えることが、結果として会計処理の質を上げます。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
全体像と適用の準備
ステップ1 契約の識別
ステップ2 履行義務の識別
ステップ3 取引価格の算定
ステップ4 取引価格の配分
ステップ5 収益の認識
表示と開示と実務
📚 参考(公的な一次情報)
- 企業会計基準委員会(ASBJ) 収益認識に関する会計基準および適用指針
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 企業内容等の開示に関する内閣府令(e-Gov法令検索)