複数の履行義務がある契約で値引きが生じている場合、その値引きをどう割り振るかが問題になります。原則はすべての履行義務に比例して配分しますが、一定の要件を満たす場合には特定の履行義務にだけ配分します。
この記事では、値引きの配分と、変動対価の配分について整理します。セット販売や抱き合わせ販売を行っている会社では、確認が必要な論点です。
- 値引きを比例配分する原則と、特定配分できる例外
- 特定の履行義務に値引きを配分する3つの要件
- 変動対価を特定の履行義務に配分する場合
- 配分の違いが期をまたぐ契約に与える影響
図 値引きを特定の履行義務に配分できるかの判定
📌 原則は比例配分
契約における約束した財またはサービスの独立販売価格の合計額が、取引価格を超える場合、その差額が値引きです。この値引きは、原則としてすべての履行義務に対して比例的に配分します。
比例配分にすることで、どの履行義務にも同じ割合の値引きが反映されます。契約全体で1割引なら、それぞれの履行義務も1割引になるという考え方です。
📌 特定配分できる3つの要件
ただし、値引きが特定の履行義務に関するものだと客観的に示せる場合には、その履行義務にだけ配分します。この特定配分が認められるのは、3つの要件をすべて満たす場合です。
原則はすべてに比例配分です。特定配分は例外的な取扱いです。
要件の中心は、その組合せを通常単独で販売しており、そこでの値引きの額が観察できることです。実際にセットとして販売した実績があり、その価格が個別の合計より安いという事実がなければ、特定配分はできません。
📊 記載例
セット販売の値引きを、特定の履行義務にだけ配分できるかどうかの比較です。
前提 製品A、製品B、製品Cを合計2,700千円で販売した。独立販売価格はそれぞれ1,000千円、1,000千円、1,000千円で、合計3,000千円。300千円の値引きが生じている。
製品Bと製品Cのセットは、通常2,000千円ではなく1,700千円で販売しており、この組合せに300千円の値引きがあることが観察できる。
| 履行義務 | 独立販売価格 | 配分額 |
|---|---|---|
| 製品A | 1,000 | 900 |
| 製品B | 1,000 | 900 |
| 製品C | 1,000 | 900 |
| 合計 | 3,000 | 2,700 |
| 履行義務 | 独立販売価格 | 配分額 |
|---|---|---|
| 製品A | 1,000 | 1,000 |
| 製品B | 1,000 | 850 |
| 製品C | 1,000 | 850 |
| 合計 | 3,000 | 2,700 |
製品Aが先に引き渡され、製品BとCが翌期に引き渡される場合、当期の売上は900千円と1,000千円で100千円変わります。
会社名と数値は架空です。3要件を満たすかどうかで、期をまたぐ契約の売上が変わります。
3要件を満たすことを示すには、セット販売の価格設定の記録が必要です。単に営業担当者がこの製品を値引きしたと説明するだけでは足りません。
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📌 なぜ配分の方法が重要か
すべての履行義務が同じ時期に充足されるなら、配分の方法が変わっても各期の収益は変わりません。影響が出るのは、履行義務の充足時期が分かれている場合です。
設例のように、製品Aを当期に引き渡し、製品BとCを翌期に引き渡すのであれば、当期の売上は配分の方法により100千円変わります。ソフトウェアと保守のように、一時点と期間にわたるものが混在する契約では、この差がさらに大きくなります。
📌 変動対価の配分
変動対価についても、契約全体に配分するか、特定の履行義務に配分するかという論点があります。原則は契約全体ですが、2つの要件を満たす場合には特定の履行義務に配分します。
成功報酬が特定の作業にひも付いている場合などが該当します。
たとえば、システム開発と運用保守を含む契約で、開発の完了時期が早まった場合に成功報酬を受け取る条件があるとします。この報酬は開発という履行義務に個別に関連しているため、開発に配分することが適切です。運用保守にまで配分すると、実態と合いません。
逆に、契約全体の顧客満足度に応じて支払われる報酬であれば、特定の履行義務にひも付いていないため、契約全体に配分します。報酬の条件が何に連動しているかを、契約書で確認することになります。
📌 記録として残すこと
特定配分を行う場合は、その根拠を記録します。セット販売の価格設定の実績、値引きの理由、どの履行義務に値引きが属するかの判断です。監査では、比例配分ではなく特定配分を選んだ理由が確認されます。
実務では、価格表とセット割引の一覧を整備しておくことが有効です。営業部門が独自に値引きを決めている場合は、値引きの承認記録から根拠をたどることになりますが、後から整理するのは手間がかかります。価格の設定ルールを先に決めておくことをおすすめします。
セット販売の価格設定の整理から、特定配分の要件の判定、変動対価の配分方法の設計までをお受けします。収益認識基準の適用支援と上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
❓ よくある質問
A. 原則は比例配分です。3つの要件をすべて満たす場合に限り、特定の履行義務にだけ配分できます。要件は厳格で、セット販売の実績が必要です。
A. できません。要件は、その組合せを通常単独で販売しており値引きの額が観察できることです。担当者の説明だけでは根拠になりません。
A. 2つの要件を満たす場合に配分します。報酬の条件が特定の履行義務に個別に関連しているかを、契約書で確認してください。
📄 まとめ
値引きは原則としてすべての履行義務に比例配分します。特定の履行義務にだけ配分できるのは、その組合せをセットで販売した実績があり、値引きの額が観察できる場合に限られます。
配分の方法が影響するのは、履行義務の充足時期が分かれている契約です。一時点と期間にわたるものが混在する契約では差が大きくなるため、価格の設定ルールを先に決めておくことをおすすめします。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
全体像と適用の準備
ステップ1 契約の識別
ステップ2 履行義務の識別
ステップ3 取引価格の算定
ステップ4 取引価格の配分
- 独立販売価格と配分
- 値引きの配分(この記事)
ステップ5 収益の認識
表示と開示と実務
📚 参考(公的な一次情報)
- 企業会計基準委員会(ASBJ) 収益認識に関する会計基準および適用指針
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 企業内容等の開示に関する内閣府令(e-Gov法令検索)