商品を購入した顧客にポイントを付与する制度は、小売、飲食、サービス業で広く使われています。収益認識基準では、このポイントを追加の財またはサービスを取得する選択権として捉え、一定の場合に履行義務として扱います。
この記事では、ポイント制度の会計処理を整理します。従来のポイント引当金による処理から何が変わるのか、失効の見込みをどう織り込むのかを扱います。
- ポイントが履行義務になるかどうかの判断
- 取引価格をポイントに配分する計算の方法
- 失効の見込みを独立販売価格にどう反映するか
- 自社ポイントと他社ポイントの処理の違い
図 ポイントが重要な権利にあたるかの判定
📌 重要な権利かどうか
顧客に付与するポイントが履行義務になるのは、それが顧客に重要な権利を与える場合です。重要な権利とは、その契約を締結しなければ顧客が得られなかった値引きをいいます。誰でも受けられる通常の値引きと同じ水準であれば、重要な権利にはあたりません。
重要な権利かどうかは、その顧客だけが得られる値引きかどうかで判断します。
実務では、購入額に応じて付与されるポイントのほとんどが重要な権利にあたると判断されます。その商品を買った顧客だけが次回の購入で値引きを受けられるからです。一方、会員登録をすれば誰でももらえるクーポンのように、購入と結びついていないものは履行義務になりません。
📌 独立販売価格の見積り
ポイントを履行義務とした場合、取引価格を商品とポイントに配分します。配分の基礎になるのがポイントの独立販売価格です。ポイントは単独では販売されていないため、見積る必要があります。
見積りの基本は、ポイント1点あたりの価値に、使用されると見込まれるポイント数を乗じる方法です。ここで失効の見込みを織り込みます。付与したポイントのうち一定割合は使われずに期限を迎えるため、その分は独立販売価格から除きます。
📊 記載例
購入額の1パーセント相当のポイントを付与する場合の処理です。
前提 商品10,000千円を販売し、100千円相当のポイントを付与した。過去の実績から、付与したポイントの10パーセントは失効すると見込まれる。
| 履行義務 | 独立販売価格 | 配分後の取引価格 |
|---|---|---|
| 商品の販売 | 10,000 | 9,911 |
| ポイント | 90 | 89 |
| 合計 | 10,090 | 10,000 |
ポイントの独立販売価格は、付与額100千円から失効見込み10パーセントを控除した90千円としています。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 売掛金 | 10,000 | 売上高 | 9,911 |
| 契約負債 | 89 |
その後、ポイントが使用されるたびに、使用された割合に応じて契約負債を売上高へ振り替えます。失効の見込みは毎期見直します。
会社名と数値は架空です。付与した時点で売上の一部を繰り延べる点が、従来のポイント引当金との大きな違いです。
従来はポイント引当金として費用計上する処理が一般的でしたが、収益認識基準では売上高そのものを繰り延べます。売上高が減り、負債が増えるという形で財務諸表に表れます。
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📌 失効の見込みをどう見積るか
失効の見込みは、過去の実績から算定します。付与したポイントのうち、実際に使用された割合と失効した割合を、付与から失効までの期間にわたって集計します。制度を開始したばかりで実績がない場合は、同業他社の水準や制度設計から推定することになりますが、根拠の説明が難しくなります。
見積りは毎期見直します。使用率が想定より高ければ、繰り延べる金額が増えます。見直しによる差額は、その期の収益として調整します。上場準備会社では、ポイントの付与と使用のデータを制度単位で集計できる仕組みがあるかが、まず確認されます。
📌 他社ポイントを付与する場合
共通ポイントのように、他社が運営するポイントを顧客に付与する場合は考え方が変わります。自社は商品を提供する義務を負うわけではなく、ポイントの運営会社に対価を支払うことで顧客への付与を手配しているにすぎません。
自社で商品を提供する義務を負うかどうかが分かれ目です。
この場合、自社は代理人の立場に近くなり、運営会社に支払う額を収益から控除するか、販売促進費として処理します。どちらになるかは、顧客に支払われる対価に該当するかどうかで判断します。顧客に対する値引きの性質が強ければ売上からの控除、独立したサービスの対価であれば費用処理です。
制度設計の確認から、独立販売価格の見積り、失効率の算定、システム対応の要件整理までをお受けします。収益認識基準の適用支援と上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
❓ よくある質問
A. 使えません。収益認識基準では、ポイントを履行義務として売上高を繰り延べます。引当金として費用を計上する処理から、収益の繰延べに変わっています。
A. 制度の設計、有効期限の長さ、他社の一般的な水準などから推定することになります。ただし根拠が弱くなるため、付与と使用のデータを早期に蓄積することが重要です。
A. 失効の見込みを合理的に見積れないため、使用されるまで繰り延べ続けることになります。長期にわたって契約負債が残るため、残高の管理が必要になります。
📄 まとめ
ポイントが顧客に重要な権利を与えるものであれば、履行義務として扱い、取引価格を配分して繰り延べます。従来のポイント引当金による費用処理から、売上高の繰延べに変わりました。
配分の基礎になるのはポイントの独立販売価格で、失効の見込みを織り込んで見積ります。実績データの有無が見積りの精度を左右するため、付与と使用を集計できる仕組みを先に整えてください。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
全体像と適用の準備
ステップ1 契約の識別
ステップ2 履行義務の識別
ステップ3 取引価格の算定
ステップ4 取引価格の配分
ステップ5 収益の認識
表示と開示と実務
📚 参考(公的な一次情報)
- 企業会計基準委員会(ASBJ) 収益認識に関する会計基準および適用指針
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 企業内容等の開示に関する内閣府令(e-Gov法令検索)