契約を獲得するために支払った手数料や、契約を履行するために先行して発生したコストは、収益認識基準のもとで資産として計上する場合があります。従来は支払時に費用処理していたものが、繰り延べられることになります。
この記事では、契約獲得の増分コストと、契約を履行するためのコストの2つについて、資産計上の要件と償却の方法を整理します。
- 契約獲得の増分コストとして資産計上できるもの
- 契約を履行するためのコストの3つの要件
- 償却期間をどう決めるか
- 1年以内なら費用処理できる簡便的な取扱い
図 契約コストを資産に計上するかの判定(償却期間が1年以内なら費用処理もできます)
📌 2つの契約コスト
収益認識基準に関連して資産計上が問題になるコストは、大きく2つに分かれます。契約を獲得するために発生したコストと、契約を履行するために発生したコストです。
獲得コストは、契約が取れなければ発生しないものに限られます。
契約獲得の増分コストとは、顧客との契約を獲得するために発生したコストで、その契約を獲得しなければ発生しなかったものをいいます。成功報酬型の販売手数料が典型です。回収が見込まれる場合に、資産として計上します。
一方、契約を獲得できたかどうかにかかわらず発生するコストは、増分コストにあたりません。営業担当者の固定給や、提案書の作成費用は、受注できなくても発生するため費用処理します。
📌 履行コストの3つの要件
契約を履行するためのコストは、他の会計基準の範囲に含まれない場合に、3つの要件をすべて満たすときだけ資産計上します。
一般管理費や、履行の進捗を反映しない無駄なコストは資産にできません。
発生の条件が契約の獲得に連動しているかが判断の分かれ目です。
実務では、受注後の初期設定作業やシステムの構築費用が該当するかが論点になります。その作業が将来のサービス提供に使う資源を生み出しているのであれば、資産計上を検討します。単に契約開始時に必要な事務作業であれば、費用処理です。
📊 記載例
契約獲得の増分コストを資産計上し、償却する例です。
前提 3年契約のサービスを受注し、営業担当者に成功報酬として300千円を支払った。この報酬は受注できなければ支払われない。契約の更新が見込まれ、便益を享受する期間は4年と見積った。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 契約獲得の増分コスト | 300 |
| 償却期間 | 4年 |
| 各期の償却額 | 75 |
| 年度 | 期首残高 | 償却額 | 期末残高 |
|---|---|---|---|
| 1年目 | 300 | 75 | 225 |
| 2年目 | 225 | 75 | 150 |
| 3年目 | 150 | 75 | 75 |
| 4年目 | 75 | 75 | 0 |
償却期間は契約期間の3年ではなく、更新を含めた便益の享受期間である4年としています。
償却費は、収益を認識するパターンに対応する形で計上します。
会社名と数値は架空です。従来は支払時に費用処理していたコストが、資産として繰り延べられます。
なお、償却期間が1年以内である場合には、資産計上せずに発生時に費用として処理する簡便的な取扱いが認められています。
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📌 償却期間の決め方
資産計上したコストは、それが関連する財またはサービスの顧客への移転のパターンに応じて償却します。償却期間は、契約期間そのものではなく、そのコストによって便益を享受すると見込まれる期間です。
契約の更新が見込まれる場合、更新後の期間も含めて償却期間を設定します。3年契約でも、実績として多くの顧客が更新しているのであれば、償却期間は3年より長くなります。この判断には、過去の更新率のデータが必要です。
設定した償却期間は毎期見直します。更新率が想定より低下したのであれば、償却期間を短縮します。
📌 1年以内なら費用処理できる
契約獲得の増分コストについては、償却期間が1年以内である場合には、資産計上せずに発生時に費用として処理することが認められています。実務上の負担を減らすための簡便的な取扱いです。
短期の契約が中心で、更新も見込まれない事業であれば、この取扱いにより従来どおりの費用処理を続けられます。採用する場合は会計方針として継続適用します。
📌 減損の検討
資産計上した契約コストは、帳簿価額が、その資産に関連する財またはサービスと交換に受け取ると見込まれる対価の残額から、直接関連するコストを控除した金額を超える場合に、超過額を減損損失として計上します。
顧客が契約を早期に解約した、価格の引下げに応じたといった事情があれば、回収可能性を見直します。契約単位で資産の残高を管理し、契約の状況の変化を把握できる仕組みが必要になります。
対象コストの洗い出しから、資産計上の要件の判定、償却期間の設定、残高管理の設計までをお受けします。収益認識基準の適用支援と上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
❓ よくある質問
A. 固定給は契約の獲得にかかわらず発生するため、増分コストにあたらず費用処理します。成功報酬として契約獲得時にのみ支払われる部分は、資産計上の対象になります。
A. 便益を享受する期間で判断します。契約の更新が見込まれるなら、更新後の期間も含めます。過去の更新率のデータが根拠になります。
A. 償却期間が1年以内であれば、費用処理する簡便的な取扱いを選べます。1年を超える場合は資産計上が原則です。
📄 まとめ
契約獲得の増分コストは、契約が取れなければ発生しなかったコストに限られます。成功報酬型の手数料は資産計上の対象ですが、固定給や提案書の作成費用は費用処理です。
償却期間は契約期間ではなく、便益を享受する期間で決めます。更新が見込まれる場合は更新後も含めるため、更新率のデータが必要になります。償却期間が1年以内なら、費用処理する簡便法も使えます。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
全体像と適用の準備
ステップ1 契約の識別
ステップ2 履行義務の識別
ステップ3 取引価格の算定
ステップ4 取引価格の配分
ステップ5 収益の認識
表示と開示と実務
- 契約資産と契約負債
- 契約コスト(この記事)
- 法人税との差異
- 上場審査で問われる論点
📚 参考(公的な一次情報)
- 企業会計基準委員会(ASBJ) 収益認識に関する会計基準および適用指針
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 企業内容等の開示に関する内閣府令(e-Gov法令検索)