収益認識基準の適用範囲と適用時期|対象外の取引と上場準備の期限

収益認識に関する会計基準は、すべての収益に適用されるわけではありません。適用されるのは顧客との契約から生じる収益に限られ、利息や配当、リース取引から生じる収益は他の基準が扱います。まず自社のどの取引が対象になるかを確定させることが、検討の出発点です。

この記事では、収益認識基準の適用範囲と適用時期を整理します。上場準備会社が、いつまでに適用しておく必要があるのかという実務上の期限についても扱います。

この記事でわかること

  • 収益認識基準の対象になる取引と、対象外になる取引の区別
  • 会社の区分ごとの適用の要否と、強制適用の時期
  • 上場準備会社が適用を終えておくべき時期
  • 適用範囲を確かめるときの実務の手順
収益認識基準の対象になるか対象の取引を1つ選ぶ金融商品やリースなど他の会計基準が定める取引か他の基準を適用するはいいいえ対価を受け取る相手が顧客に当たらないか基準の対象外はいいいえ同業他社との商品の交換など対価の交換が目的か基準の対象外はいいいえ収益認識基準を適用して5つのステップで判断する

図 その取引に収益認識基準が適用されるかの判定

📌 顧客との契約から生じる収益が対象

この基準が適用されるのは、顧客との契約から生じる収益です。顧客とは、対価と交換に企業の通常の営業活動により生じたアウトプットである財またはサービスを得るために、企業と契約した当事者をいいます。つまり、自社が本業として提供している財やサービスの相手方が顧客です。

収益認識基準の対象と対象外区分具体例根拠となる基準対象製品の販売、サービスの提供、工事契約、ライセンスの供与収益認識に関する会計基準対象外受取利息、受取配当金金融商品に関する会計基準対象外リース取引から生じる収益リースに関する会計基準対象外保険契約から生じる収益保険業に関する会計基準等対象外固定資産の売却損益固定資産の会計基準

顧客との契約から生じる収益かどうかで判断します。営業外収益や特別利益は対象外です。

対象外になる取引は、他の会計基準が優先して適用されるものです。金融商品から生じる利息や配当、リース取引から生じる収益、保険契約から生じる収益がこれにあたります。固定資産の売却も、通常の営業活動によるものでなければ対象外です。

判断に迷いやすいのが、本業に付随して生じる収益です。たとえば不動産会社が販売用不動産を売却すれば対象になりますが、自社で使っていた本社ビルを売却すれば対象外です。同じ不動産の売却でも、通常の営業活動によるアウトプットかどうかで扱いが変わります。

📌 いつから適用されるか

収益認識基準は、2021年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から強制適用されています。対象は、金融商品取引法にもとづく開示を行う会社と、会社法上の大会社および会計監査人設置会社です。中小企業については、これまでどおり企業会計原則にもとづく処理を継続することが認められています。

会社の区分と適用の要否会社の区分適用実務での扱い上場会社強制適用2021年4月1日以後開始する年度から会社法上の大会社強制適用同上上場準備会社事実上必須監査の対象年度から適用済みである必要がある中小企業任意従来の企業会計原則にもとづく処理も可能

上場準備会社は強制適用の対象ではありませんが、監査を受ける以上は適用が前提になります。

上場準備会社は、強制適用の対象そのものではありません。しかし上場申請にあたっては金融商品取引法にもとづく監査を受けることになり、その監査の対象となる年度から適用済みであることが求められます。申請期をN期とすると、監査の対象はN-2期からです。したがってN-2期の期首時点で適用を終えている必要があります。

📌 適用範囲を確かめる手順

実務では、売上高に計上している取引を洗い出すことから始めます。取引先の類型と契約の型で分類し、それぞれが顧客との契約から生じる収益かどうかを確認します。この段階で対象外のものを除いておくと、検討する範囲がはっきりします。

自社が対象かを確かめる順序売上高を構成する取引を科目と取引先の類型で洗い出すそれぞれが顧客との契約から生じる収益かを確認する対象外の基準が優先して適用される取引を除く残った取引について5つのステップを当てはめる判断の結果を会計方針として文書にまとめる

対象外の取引を先に外しておくと、検討する範囲がはっきりします。

洗い出しの単位は、勘定科目ではなく取引の類型にします。同じ売上高という科目の中に、製品の販売、保守サービス、ライセンスの供与といった性質の違う取引が混ざっていることが多いためです。取引の類型ごとに契約書の条件が違えば、5つのステップの当てはめ方も変わります。

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📊 記載例

売上高に含まれる取引を、対象かどうかで仕分けた例です。

設例 売上高の内訳と適用の要否

売上高の構成(単位:百万円)
取引の内容 金額 収益認識基準の対象 理由
製品の販売 2,400 対象 顧客との契約から生じる収益
保守サービス 380 対象 同上
ソフトウェアの使用許諾 220 対象 ライセンスの供与に該当
社宅の転貸収入 18 対象外 リースに関する会計基準が適用される
合計 3,018

営業外収益に計上している受取利息12百万円および受取配当金5百万円は、金融商品に関する会計基準が適用されるため、収益認識基準の対象外です。

会社名と数値は架空です。売上高に計上している取引でも、他の基準が優先する場合は対象外になります。

この仕分けは、会計方針の注記を書くときの材料にもなります。どの取引にこの基準を適用したのかが、読み手に伝わる形にしておきます。

📌 適用初年度の経過措置

適用初年度には、いくつかの経過措置が用意されています。原則は新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡って適用する方法ですが、適用初年度の期首より前に新たな方針を遡及適用した場合の累積的影響額を、期首の利益剰余金に加減する方法も認められています。後者を選べば、比較年度の数値を作り直す必要がありません。

上場準備会社の場合、監査の対象年度の前から適用しておけば、この経過措置を使う場面自体がなくなります。逆に、監査が始まってから適用する形になると、比較年度の作り直しが発生します。早めに着手するほど作業量が減るという構造です。

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❓ よくある質問

Q. 営業外収益に計上している収入も対象になりますか。

A. 顧客との契約から生じる収益であれば対象です。ただし受取利息や受取配当金は金融商品に関する会計基準が適用されるため対象外です。表示区分ではなく、収益の性質で判断します。

Q. 適用初年度に比較年度も作り直す必要がありますか。

A. 原則は遡及適用ですが、累積的影響額を期首の利益剰余金に加減する経過措置を選べば、比較年度の修正は不要です。どちらを選んだかは注記で説明します。

Q. 非上場のまま推移する場合、適用しないことに問題はありますか。

A. 中小企業であれば従来の処理を継続できます。ただし金融機関や取引先から会計基準への準拠を求められる場合や、将来の上場を視野に入れる場合は、早めに適用しておくほうが後の負担は小さくなります。

📄 まとめ

収益認識基準の対象は、顧客との契約から生じる収益です。利息や配当、リース取引から生じる収益は他の基準が扱うため、まず対象外の取引を外して検討の範囲を絞ります。

上場準備会社は強制適用の対象ではないものの、監査の対象年度から適用済みであることが前提になります。申請期の2期前の期首が実質的な期限になるため、逆算して着手する時期を決めてください。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

📚 参考(公的な一次情報)

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