配偶者を経理に、子を営業に。中小企業では、社長の家族が従業員として働いていることが珍しくありません。給与を払うこと自体はまったく問題ありませんし、実際に働いているのであれば損金になります。
ところが法人税法には、役員給与とは別に、役員と特殊の関係のある使用人への給与だけを対象にした損金不算入の規定が置かれています。第36条です。この条文の存在を知らないまま家族の給与を決めていると、調査の場ではじめて「不相当に高額な部分」という言葉に出会うことになります。
この記事では、社長の家族に払う給与について、まずその人が税務上の役員か使用人かを分けたうえで、使用人だったときにかかる制限を条文の順に整理します。役員給与の全体像は役員給与の税務 完全ガイドにまとめています。
この記事の見出し
🧭 入口は「役員か使用人か」の切り分け
家族への給与を考えるとき、最初に決めるべきはその人が税務上の役員に当たるかどうかです。ここを間違えると、あてはめる条文がまるごと変わります。
法人税法第2条第15号の役員には、取締役などとして登記されている人のほか、これら以外の者で法人の経営に従事している者のうち政令で定めるものが含まれます。政令は施行令第7条で、第2号は同族会社の使用人のうち、施行令第71条第1項第5号イからハまでを役員から使用人に読み替えた要件をすべて満たし、かつその会社の経営に従事しているものを挙げています。いわゆるみなし役員です。
同じ家族でも、持株と経営への関与によって、あてはまる箱が変わります。
登記された役員とみなし役員は第34条、役員と特殊の関係のある使用人は第36条、いずれにも当たらない使用人は特段の制限を受けません。第34条は支給の形と金額の両方を縛るのに対し、第36条が縛るのは金額だけです。この違いが、家族の処遇を設計するときの分かれ目になります。
家族が役員になっている場合の判定は、法人税法第34条第2項と施行令第70条第1号によります。非常勤の役員に報酬を払う場合の考え方は別の記事で整理しています。
みなし役員に当たるかどうかの持株要件は、株主グループの順位で50パーセント超に達するグループに属していること、そのグループの所有割合が10パーセントを超えていること、本人(配偶者およびこれらの者の所有割合が50パーセントを超える場合における他の会社を含みます)の所有割合が5パーセントを超えていること、の3つです。国税庁タックスアンサーNo.5200が、この要件と所有割合の考え方を説明しています。持株のある家族従業員を雇っている場合は、まずここを確認してください。
⚖️ 第36条が対象にする「特殊関係使用人」
使用人であっても、役員と特殊の関係のある人については、金額の相当性が問われます。
内国法人がその役員と政令で定める特殊の関係のある使用人に対して支給する給与(債務の免除による利益その他の経済的な利益を含む。)の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。(法人税法第36条)
「政令で定める特殊の関係のある使用人」は施行令第72条にあり、次の4つが掲げられています。
| 号 | 条文の文言 |
|---|---|
| 第1号 | 役員の親族 |
| 第2号 | 役員と事実上婚姻関係と同様の関係にある者 |
| 第3号 | 前二号に掲げる者以外の者で役員から生計の支援を受けているもの |
| 第4号 | 前二号に掲げる者と生計を一にするこれらの者の親族 |
親族に限られません。生計の支援や生計を一にすることを通じて、範囲は外側へ広がります。
📋 生計の支援と、生計を一にすること
第3号と第4号は、通達で意味が補われています。法人税基本通達9-2-40は、施行令第72条第3号に規定する「役員から生計の支援を受けているもの」とは、その役員から給付を受ける金銭その他の財産、または給付を受けた金銭その他の財産の運用によって生ずる収入を生活費に充てている者をいう、としています。
9-2-41は、施行令第72条第4号により特殊関係使用人の判定を行う場合について、1-3-4を準用するとしています。その1-3-4は次のように定めています。
「生計を一にする」こととは、有無相助けて日常生活の資を共通にしていることをいうのであるから、必ずしも同居していることを必要としない。(法人税基本通達1-3-4)
同居していなくても生計を一にする場合があります。別居している大学生の子に仕送りをしながら、その子をアルバイトとして雇っているようなケースでは、第1号の親族に当たるかどうかとあわせて、この考え方が効いてきます。
📏 いくらまでなら相当と認められるのか
不相当に高額な部分の金額は、施行令第72条の2が定めています。
内国法人が各事業年度においてその使用人に対して支給した給与の額が、当該使用人の職務の内容、その内国法人の収益及び他の使用人に対する給与の支給の状況、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの使用人に対する給与の支給の状況等に照らし、当該使用人の職務に対する対価として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額(法人税法施行令第72条の2)
同条は、退職給与についても別の物差しを置いています。その使用人のその法人の業務に従事した期間、その退職の事情、同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの使用人に対する退職給与の支給の状況等に照らして相当と認められる金額を超える部分、という書き方です。
給与と退職給与で、照らす対象が入れ替わります。退職給与では在職期間と退職の事情が前面に出ます。
数値で見てみます。営業事務を担当している配偶者に月80万円、年960万円を支給していたとします。同じ業務を担当する他の使用人の給与水準や、同種同規模法人の支給の状況に照らして相当と認められる金額が年360万円と判断された場合、差額の600万円が損金不算入になります。960万円から360万円を引いた600万円です。会社の税負担が増える一方で、本人の受け取った960万円は給与として所得税の課税対象のままです。
法人税法第36条には、役員給与のような形式基準(定款や株主総会の決議による限度額との比較)がありません。実質の相当性だけで判定されるため、社内の給与テーブルや職務分掌のような、比較の土台になる資料を自社で用意しておくことが重要になります。
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🔀 役員の場合と、どこが違うのか
役員について過大部分を定める施行令第70条第1号イと、使用人について定める第72条の2は、よく似た書き方をしています。ただし細部が違います。
| 比べるところ | 役員(施行令第70条第1号) | 特殊関係使用人(施行令第72条の2) |
|---|---|---|
| 比較する社内の給与 | その使用人に対する給与の支給の状況 | 他の使用人に対する給与の支給の状況 |
| 比較する社外の給与 | 同種同規模法人の役員に対する給与の支給の状況 | 同種同規模法人の使用人に対する給与の支給の状況 |
| 形式基準 | 定款の規定や株主総会等の決議による限度額等と比べる定めがある | 形式基準に当たる定めはない |
| 支給の形の制限 | 定期同額給与などの3類型に当てはまることが必要 | 支給の形についての制限はない |
この表からわかるとおり、家族が使用人であれば、支給の形の自由度は役員より高くなります。期の途中で昇給させても、賞与を出しても、それだけで損金不算入にはなりません。制約は金額の相当性に集約されます。
もうひとつの違いは、家族が役員の場合に効いてくる使用人兼務役員の考え方です。法人税法第34条第6項は、使用人としての職務を有する役員を、役員のうち部長、課長その他法人の使用人としての職制上の地位を有し、かつ常時使用人としての職務に従事するものと定めています。ただし施行令第71条第1項第5号の持株要件を満たす同族会社の役員は、使用人兼務役員とされません。家族が役員でありながら現場の職務も担っている場合は、この点も確認が必要です。
🎁 家族に賞与を出すときに気をつけること
使用人への賞与は、損金になる事業年度が施行令第72条の3で定められています。決算期末に未払計上する、いわゆる決算賞与を出す場合は、同条第1号か第2号の要件を満たす必要があります。
| 区分 | 損金になる事業年度 |
|---|---|
| 第1号 労働協約または就業規則により支給予定日が到来している賞与 | 使用人に支給額の通知がされ、かつ支給予定日または通知をした日の属する事業年度に損金経理をしているものに限り、支給予定日または通知をした日のいずれか遅い日の属する事業年度 |
| 第2号 通知・支払・損金経理の3要件を満たす賞与 | 使用人に支給額の通知をした日の属する事業年度 |
| 第3号 上記以外の賞与 | その賞与が支払われた日の属する事業年度 |
第2号の3要件は、支給額を各人別に、かつ同時期に支給を受けるすべての使用人に対して通知していること、通知した金額を通知した日の属する事業年度終了の日の翌日から1か月以内に支払っていること、その支給額につき通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていることです。
法人税基本通達9-2-43は、支給日に在職する使用人のみに賞与を支給することとしている場合のその支給額の通知は、施行令第72条の3第2号イの支給額の通知には該当しない、としています。就業規則や賞与規程に在職要件を書いていると、決算賞与の未払計上が認められません。
なお9-2-44は、パートタイマーや臨時雇い等の身分で雇用している者(雇用関係が継続的なもので、他の使用人と同様に賞与の支給の対象としている者を除きます)とその他の使用人を区分している場合には、その区分ごとに通知を行ったかどうかを判定することができるとしています。家族をパート勤務で雇っている場合は、この区分の考え方も確認しておいてください。
🗂 実態を示す記録をそろえる
第36条は、支給した後で相当性を検証される規定です。調査の場で問われるのは「その人が何をしていたか」であり、答えられるかどうかは記録の有無で決まります。
| 示したいこと | 用意しておく資料 |
|---|---|
| 職務の内容が具体的であること | 職務分掌表、担当業務の一覧、成果物や提出物の控え |
| 実際に勤務していること | 出勤簿やタイムカード、業務日報、社内メールやチャットの記録 |
| 社内の他の使用人と釣り合うこと | 賃金規程と給与テーブル、同等の職務を担う使用人の給与水準がわかる資料 |
| 賞与の要件を満たすこと | 各人別の支給額通知の控え、支払の記録、損金経理の仕訳 |
❗ よくある形と、その先に起きること
| よくある形 | 起きること |
|---|---|
| 実際には勤務していない家族に給与を払う | 職務の内容を示せず、相当と認められる金額がごく低く見積もられる。差額が損金不算入になる |
| 同じ職務の他の使用人の数倍の給与を払う | 他の使用人に対する給与の支給の状況に照らして説明できず、超える部分が否認される |
| 株式を持つ家族従業員に賞与を払う | みなし役員に当たれば役員給与の枠に入り、賞与は原則として損金にならない |
| 在職要件を残したまま決算賞与を未払計上する | 通知が施行令第72条の3第2号イの通知に当たらず、支払った事業年度まで損金にならない |
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❓ よくある質問
家族への給与に、金額の上限を定めた規定はありますか
ありません。施行令第72条の2は、職務の内容などに照らして相当と認められる金額を超える部分を損金不算入とする、という書き方をしています。金額そのものを数字で示した定めはないため、判断は個別の事実関係によります。
別居している親を従業員にした場合も第36条の対象ですか
施行令第72条第1号は「役員の親族」を掲げており、同居を要件にしていません。したがって別居していても親族であれば対象になります。なお第4号の生計を一にすることの判定については、法人税基本通達1-3-4が、必ずしも同居していることを必要としないとしています。
家族が退職するときの退職金にも制限はかかりますか
かかります。施行令第72条の2は、退職給与について、その法人の業務に従事した期間、退職の事情、同種同規模法人の使用人に対する退職給与の支給の状況等に照らして相当と認められる金額を超える部分を損金不算入としています。在職期間の記録が重要になります。
役員の家族であれば、全員が第36条の対象になりますか
使用人であることが前提です。その家族が経営に従事しており、みなし役員に当たる場合は、第36条ではなく第34条の適用を受けます。持株のある親族従業員については、施行令第7条第2号の要件に当たらないかを先に確認してください。
相当かどうかは、何と比べて説明すればよいですか
社外の同種同規模法人のデータは会社側からは見えません。実務では、まず社内で比較の土台をつくることになります。職務分掌を定めて職務の内容を特定し、賃金規程と給与テーブルで同等の職務を担う使用人の水準を明らかにしておく。この2つがあると、他の使用人に対する給与の支給の状況という物差しに対して、自分の言葉で答えられます。
📄 まとめ
社長の家族に払う給与は、まずその人が税務上の役員か使用人かで道が分かれます。役員であれば第34条、特殊関係使用人であれば第36条、いずれにも当たらなければ一般の給与です。
第36条には形式基準がなく、支給の形の制限もありません。裏を返せば、金額の相当性だけがすべてです。だからこそ、職務分掌と賃金規程という、社内の比較の土台をつくっておくことが効きます。家族だからと手続を省くのではなく、他の従業員と同じ手続で採用し、同じ規程で処遇する。それが、いちばん強い説明になります。
すでに支給が始まっている場合でも、今期からできることがあります。職務分掌を文書にする、出勤の記録を残す、賃金規程を整えて他の使用人との位置づけを明確にする。金額を動かす前に、金額を説明できる状態を先につくっておくことをおすすめします。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
🔗 参考(公的な一次情報)
- 法人税法(e-Gov法令検索) 第2条第15号(役員の意義)、第34条、第36条(過大な使用人給与の損金不算入)
- 法人税法施行令(e-Gov法令検索) 第7条(役員の範囲)、第70条、第71条第1項第5号、第72条(特殊関係使用人の範囲)、第72条の2(過大な使用人給与の額)、第72条の3(使用人賞与の損金算入時期)
- 法人税基本通達 第9章第2節第8款 使用人給与 9-2-40(生計の支援を受けているもの)、9-2-41(生計を一にすること)、9-2-42、9-2-43(支給額の通知)、9-2-44
- 法人税基本通達 第1章第3節 同族会社 1-3-4(生計を一にすること)
- 国税庁タックスアンサー No.5200 役員の範囲
本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、法令・通達および国税庁の公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は改正される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、専門家にご確認ください。