IFRSの公正価値測定の注記|3つの水準と開示

公正価値は、IFRSの多くの基準で使われる共通の測定尺度です。金融商品、企業結合で取得した資産、減損テストにおける処分費用控除後の公正価値など、登場する場面は広範囲にわたります。そのため、公正価値の定義と測定の枠組み、そして注記のルールは1つの基準にまとめられています。

この記事では、上場準備会社がIFRSを任意適用する場面を想定して、公正価値の測定の考え方と、3つの水準に分けた注記の作り方を整理します。非上場株式を保有している会社では、とくに関係の深い論点です。

この記事でわかること

  • 公正価値が市場参加者の視点で測定されるという意味
  • 3つの水準がインプットの観察可能性で決まる仕組み
  • レベル3の資産がある場合に必要になる追加の開示
  • 非上場株式を保有している会社が準備しておくこと

📌 会社の意図ではなく市場参加者の視点

公正価値は、測定日において市場参加者の間で秩序ある取引が行われた場合に、資産を売却して受け取るであろう価格、または負債を移転するために支払うであろう価格です。重要なのは、会社が実際にいくらで売るつもりかではなく、市場参加者ならいくらで取引するかという視点で測定する点です。

公正価値を測定する手順測定の対象となる資産または負債の単位を決める主要な市場、なければ最も有利な市場を特定する市場参加者の視点で最有効使用を考える評価技法を選び、使えるインプットを最大限用いる使ったインプットからヒエラルキーの水準を判定する

測定は会社の意図ではなく、市場参加者ならどう考えるかで行います。

非金融資産については、市場参加者にとっての最有効使用を前提に測定します。会社が現在の用途で使い続ける予定であっても、市場参加者が別の用途でより高い価値を生み出せると考えるならば、その用途を前提とした価格になります。遊休地を保有している場合などに影響します。

📌 水準はインプットで決まる

公正価値は、測定に使ったインプットの観察可能性に応じて3つの水準に分類されます。活発な市場の相場価格をそのまま使えるものがレベル1、直接または間接に観察できるインプットを使うものがレベル2、観察できないインプットを使うものがレベル3です。

公正価値のヒエラルキーレベル使うインプットレベル1活発な市場における同一資産の相場価格上場株式、市場のある債券レベル2直接または間接に観察可能なインプット類似取引の価格、金利や為替の相場から算定する価額レベル3観察可能でないインプット非上場株式、独自の事業計画にもとづく評価

レベルは評価技法ではなく、使ったインプットのうち最も低い水準で決まります。

注意したいのは、水準が評価技法ではなくインプットで決まる点です。割引現在価値法という同じ技法を使っていても、市場で観察できる金利だけを使えばレベル2、独自の事業計画にもとづく将来キャッシュ・フローを使えばレベル3になります。また、複数のインプットを使った場合、全体の水準は最も低い水準のインプットが重要である限り、その水準になります。

📌 レベル3は開示の負担が大きい

レベル3に分類される資産や負債については、開示の要求が一段と厚くなります。使用した観察可能でないインプットの内容、期首残高から期末残高への調整表、そして主要なインプットを合理的な範囲で変動させた場合に公正価値がどう変わるかという説明が求められます。

公正価値の注記で示す内容区分内容共通水準ごとの残高、評価技法、水準間の振替の有無とその方針レベル3観察可能でない主要なインプット、期首から期末までの増減、感応度の説明非経常的な測定減損の測定など、経常的でない場面で公正価値を用いた場合の内容

レベル3は情報量が最も多く、注記の分量も水準に応じて増えていきます。

上場準備会社では、非上場の株式や、企業結合で取得した無形資産の評価がレベル3に該当します。これらの評価では、割引率、成長率、将来の売上見通しといったインプットを使うことになり、その内容と数値の範囲を注記で示すことになります。評価を外部の専門家に委託している場合でも、注記の作成責任は会社にあるため、算定の前提を理解しておく必要があります。

📌 水準間の振替の方針も定める

期中に水準が変わった場合、その事実と理由を注記で示します。あわせて、どの時点で振替があったとみなすかという方針を定め、注記で説明します。期首の時点で振り替える方法、振替の原因となった事象が生じた時点で振り替える方法、期末の時点で振り替える方法があり、いずれかを継続的に適用します。

実務でよくあるのは、保有していた非上場株式が上場したことによるレベル3からレベル1への振替と、活発だった市場の取引が細ったことによるレベル1からレベル2への振替です。投資先の上場を予定している会社では、振替の方針をあらかじめ決めておくとよいでしょう。

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📌 非上場株式を持つ会社の準備

日本基準では、市場価格のない株式を取得原価で計上できます。IFRSにはこの扱いがなく、非上場株式も公正価値で測定します。したがって、保有している投資先について、期末ごとに公正価値を算定する仕組みが必要になります。

算定にあたっては、直近の増資の価格、類似上場会社の指標を使う方法、事業計画にもとづく割引現在価値法などが用いられます。投資先の事業計画や財務情報を継続的に入手できる関係を作っておくことが、実務上の前提になります。株主間契約で情報提供義務を定めておくといった対応が、移行の準備としては効果的です。

また、算定の結果として評価損益が毎期の純損益またはその他の包括利益に計上されることになります。金額が大きい場合は業績の見え方に影響するため、当初認識時にその他の包括利益を通じた測定を選ぶかどうかも含めて、方針を検討しておく必要があります。

📊 記載例

公正価値の注記の例です。水準ごとの残高と、レベル3の増減を示します。

設例 公正価値のヒエラルキー

(1)経常的に公正価値で測定する金融商品

水準別の残高(単位:百万円)
区分 レベル1 レベル2 レベル3 合計
上場株式 180 180
非上場株式 460 460
デリバティブ資産 18 18
デリバティブ負債 △24 △24
合計 180 △6 460 634

(2)レベル3の増減

レベル3の調整表(単位:百万円)
項目 金額
期首残高 420
購入 20
その他の包括利益に認識した評価差額 20
売却
期末残高 460

(3)レベル3の評価技法および観察可能でないインプット

非上場株式の公正価値は、類似上場会社の株価倍率法により算定しております。主要な観察可能でないインプットは非流動性ディスカウント(30パーセント)であり、当該ディスカウントが5ポイント上昇した場合、公正価値は33百万円減少します。

(4)水準間の振替

当連結会計年度において、水準間の振替はありません。

会社名と数値は架空です。振替がない場合も、その旨を記載します。振替の認識時点に関する方針も、会計方針の注記で説明します。

非上場株式を保有する会社では、この注記がレベル3の説明で最も長くなります。評価を外部に委託していても、技法と主要なインプットは会社として説明できる必要があります。

📁 実際の開示事例

レベル3に区分した非上場株式について、評価技法、調整表、評価プロセスまで示している例です。

実際の開示事例 味の素株式会社(証券コード2802)

レベル3のその他の包括利益を通じて公正価値で測定する金融資産は、市場性のない株式等であり、主に類似企業比準法及びその他の評価技法等を用いて評価しております。公正価値は類似企業の株価収益率比準等によって変動することが想定されます。

なお、観察可能でないインプットを合理的に考えうる代替的な仮定に変更した場合に著しい公正価値の増減は見込まれておりません。

経常的に公正価値で測定するレベル3の資産及び負債の調整表は以下のとおりです。

レベル3の調整表(単位:百万円)
期間 期首残高 その他の包括利益 購入等による増加 売却等による減少 期末残高
前連結会計年度 19,572 1,480 1,093 △1,835 20,311
当連結会計年度 20,311 625 1,042 △89 21,889

その他の包括利益で認識した金額は、連結包括利益計算書のその他の包括利益を通じて測定する金融資産の公正価値の純変動に含めております。

前連結会計年度及び当連結会計年度においてレベル間の振替はありません。

レベル3に区分される公正価値測定についての評価プロセスに関して、財務部門責任者により承認された評価方針及び手続きに従い、財務部門担当者が四半期ごとに公正価値を測定しております。

出典:味の素株式会社(証券コード2802)「有価証券報告書」(2026年3月期、2026年6月12日提出)連結財務諸表注記 39.公正価値

▶ 読み方 レベル3の注記に必要な要素がそろっています。評価技法(類似企業比準法)、主要なインプットが変動したときの見方、期首から期末までの調整表、振替の有無、そして評価プロセスです。最後の評価プロセスの記載に注目してください。誰が承認した方針に従い、誰が、どの頻度で測定しているかを書いています。非上場株式を持つ上場準備会社は、この体制を先に作っておくと、注記がそのまま書けるようになります。

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非上場株式の公正価値は、算定の前提の整理から始まる作業です。評価の枠組みの設計から注記の作成まで、IFRSの導入支援と上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。

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❓ よくある質問

Q. 非上場株式を取得原価のままにしておくことはできますか。

A. できません。IFRSでは市場価格がない株式も公正価値で測定します。ごく限られた状況で取得原価が公正価値の最良の見積りとなる場合はありますが、原則としては算定が必要です。

Q. 評価を外部の専門家に任せた場合、注記はどう書きますか。

A. 外部に委託した事実を書くだけでは足りません。使用した評価技法と主要なインプットの内容を会社として説明できる必要があります。委託先から前提の説明を受け、社内で理解しておくことが前提になります。

Q. レベル3の感応度の説明はどこまで必要ですか。

A. 主要な観察可能でないインプットを合理的な範囲で変動させた場合の公正価値の変化を示します。数値で示す方法と、影響の方向と程度を文章で説明する方法があります。

📄 まとめ

公正価値は、会社の意図ではなく市場参加者の視点で測定します。水準は評価技法ではなくインプットの観察可能性で決まり、レベル3に分類されるものほど注記の分量が増えます。

上場準備会社にとって最も影響が大きいのは、非上場株式を取得原価のままにできない点です。投資先の情報を継続的に入手する仕組みを作っておくことが、移行の準備として最も効果的です。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

📚 参考(公的な一次情報)

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