その他の包括利益の注記|2つの区分と振替の示し方

その他の包括利益は、将来において純損益に振り替えられる項目と、振り替えられない項目に区分して表示します。その項目が最終的に損益として実現するかを示す情報です。

注記では、当期に発生した金額と当期に純損益へ振り替えた金額を分けて示します。変動が新たに生じたものか、過去のものが実現したものかで意味が違うためです。

この記事では、2つの区分、発生額と振替額、税効果の表示、資本性金融商品の選択、確定給付制度の再測定を整理します。

この記事でわかること

  • その他の包括利益の2つの区分と、含まれる項目
  • 発生額と振替額を分けて示す理由
  • 振り替えた金額をどの科目に計上したかの開示
  • 税効果の2つの表示方法と、項目ごとの税額の注記
  • 資本性金融商品の評価差額をその他の包括利益に表示する選択
  • 確定給付制度の再測定で日本基準と違う点

📌 結論 振り替えられるかどうかで分ける

その他の包括利益は、将来において純損益に振り替えられる項目と、振り替えられない項目に区分して表示します。この区分は、その項目が最終的に損益として実現するかどうかを示すもので、読み手にとって重要な情報になります。

在外営業活動体の換算差額やキャッシュ・フロー・ヘッジの評価差額は、一定の事象が起きたときに純損益へ振り替えられます。一方、確定給付制度の再測定は振り替えられず、利益剰余金へ振り替えるという扱いになります。

その他の包括利益の2つの区分区分含まれる項目の例特徴純損益に振り替えられる在外営業活動体の換算差額売却や清算のときに純損益へ移る純損益に振り替えられるキャッシュ・フロー・ヘッジの評価差額ヘッジ対象が損益に影響するときに移る純損益に振り替えられる負債性金融商品の評価差額売却のときに純損益へ移る振り替えられない確定給付制度の再測定振替はなく利益剰余金へ移す振り替えられない資本性金融商品の評価差額選択した場合は振替がない振り替えられない有形固定資産の再評価剰余金再評価モデルを選んだ場合

2つの区分に分けて表示することが求められる

🧭 発生額と振替額を分ける

注記では、当期に発生した金額と、当期に純損益へ振り替えた金額を分けて示します。この2つを合わせたものが、当期のその他の包括利益の変動額になります。

その他の包括利益の注記を作る4段階項目ごとに当期の発生額を集計する当期に純損益へ振り替えた金額を分けるそれぞれの税効果を項目ごとに示す2つの区分に分けて表示する

発生額と振替額を分けて示すのが基本

分けて示す理由は、当期の変動が新たに生じたものなのか、過去に生じたものが実現したものなのかで意味が違うためです。換算差額が増えていても、それが為替の変動によるものか、子会社を売却して振り替えたものかで、読み取り方が変わります。

振り替えた金額については、包括利益計算書のどの科目に振り替えたかも示します。売上原価に振り替えたのか、金融費用に振り替えたのかで、業績の見え方が変わるためです。

📊 税効果の表示

その他の包括利益の各項目は、税効果を考慮した金額で表示します。表示の方法は2つあり、各項目を税引後の金額で示す方法と、税引前で示して税額を一括で控除する方法です。

税効果の示し方方法どう表示するか注記での補足税引後で表示各項目を税引後の金額で示す項目ごとの税額を注記で示す税引前で表示各項目を税引前で示し税額を一括で控除項目ごとの内訳を注記で示す

どちらでもよいが、項目ごとの税額は必要になる

どちらの方法をとっても、項目ごとの税額は注記で示すことが求められます。したがって、集計の段階で項目ごとの税効果を把握できる仕組みが必要になります。

実務でつまずきやすいのが、この項目ごとの税効果の集計です。全体の繰延税金の計算とは別に、その他の包括利益に関わる部分を切り出す必要があります。決算の作業に組み込んでおかないと、後から分けられません。

📊 記載例

その他の包括利益の注記の例です。組替調整額と税効果を区分して示します。

設例 その他の包括利益の内訳

その他の包括利益(単位:百万円)
区分 項目 当期発生額 組替調整額 税効果 税引後
純損益に振り替えられることのない項目 その他の包括利益を通じて公正価値で測定する金融資産 128 △39 89
純損益に振り替えられることのない項目 確定給付制度の再測定 △64 19 △45
純損益に振り替えられる可能性のある項目 在外営業活動体の換算差額 210 210
純損益に振り替えられる可能性のある項目 キャッシュ・フローヘッジ 56 △38 △5 13
合計 330 △38 △25 267

会社名と数値は架空です。2つの区分に分けたうえで、項目ごとに当期発生額、組替調整額、税効果を並べる形が読みやすい様式です。

純損益に振り替えられることのない項目に分類した金融資産は、売却しても組替調整額が生じません。この点が日本基準と大きく違うため、注記の様式でも欄を設けないのが通例です。

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📁 実際の開示事例

その他の包括利益を2つの区分に分け、項目ごとに当期発生額、組替調整額、税効果額を示している例です。

実際の開示事例 味の素株式会社(証券コード2802)

36.その他の包括利益(当連結会計年度)

純損益に振り替えられることのない項目(単位:百万円)
項目 当期発生額 税効果額 税引後
その他の包括利益を通じて測定する金融資産の公正価値の純変動 4,024 △1,798 2,225
確定給付制度の再測定 △11,711 3,340 △8,370
持分法適用会社における持分相当額 729 729
純損益に振り替えられる可能性のある項目(単位:百万円)
項目 当期発生額 組替調整額 税効果額 税引後
キャッシュ・フロー・ヘッジ(為替リスク) △1,613 2,194
キャッシュ・フロー・ヘッジ(金利リスク) 653 228
キャッシュ・フロー・ヘッジ(小計) △960 2,422 △462 1,001
ヘッジコスト剰余金 290 △248 5 46
在外営業活動体の換算差額 75,790 △4,883 971 71,878
持分法適用会社における持分相当額 1,590 △2 1,588

その他の包括利益合計 69,099百万円

出典:味の素株式会社(証券コード2802)「有価証券報告書」(2026年3月期、2026年6月12日提出)連結財務諸表注記 36.その他の包括利益

▶ 読み方 2つの区分に分けたうえで、項目ごとに当期発生額、組替調整額、税効果額を並べています。注目したいのは、純損益に振り替えられることのない項目には組替調整額の欄が現れない点です。金融資産の評価差額を売却しても純損益へ振り替えないという扱いが、様式そのものに表れています。キャッシュ・フロー・ヘッジについては為替リスクと金利リスクを分けており、どのリスクをヘッジしているのかが読み取れます。

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🗂 資本性金融商品の選択

株式などの資本性金融商品については、公正価値の変動をその他の包括利益に表示するという選択ができます。この選択をした場合、売却しても純損益には振り替えられません。

持合株式や取引先の株式を保有している会社では、この選択が業績の見え方に大きく影響します。選択しなければ、株価の変動が毎期の純損益に反映されます。選択すれば、純損益は事業の成果だけを表すことになります。

この選択は個々の金融商品ごとに、当初認識時に行い、後から取り消せません。したがって、適用開始の段階でどの銘柄について選択するかを決めておきます。注記では、選択した理由、対象となる銘柄の内容、期中に売却した場合の情報を示します。

⚖️ 確定給付制度の再測定

退職給付の制度がある会社では、確定給付制度の再測定がその他の包括利益に計上されます。数理計算上の差異や、制度資産の運用の実績と見込みの差といった要素です。

日本基準では、数理計算上の差異を一定の期間にわたって費用処理することが認められていますが、IFRSでは発生した期にその他の包括利益として一括して認識します。この違いにより、日本基準からの移行時に資本の額が変わることがあります。

また、振り替えられない項目であるため、その後に純損益へ影響することはありません。利益剰余金へ振り替える処理を行う会社が多く、その場合は持分変動計算書でその動きが示されます。注記では、再測定の内訳と、割引率などの主要な仮定を併せて説明します。

❓ よくある質問

Q. なぜ2つに区分するのですか

A. その項目が最終的に純損益として実現するかどうかを示すためです。読み手にとって意味の違う情報になります。

Q. 発生額と振替額はなぜ分けるのですか

A. 当期の変動が新たに生じたものか、過去のものが実現したものかで読み取り方が変わるためです。

Q. 振り替えた金額はどこまで示しますか

A. 包括利益計算書のどの科目に振り替えたかも示します。売上原価か金融費用かで業績の見え方が変わります。

Q. 税効果はどう表示しますか

A. 各項目を税引後で示す方法と、税引前で示して税額を一括控除する方法があります。どちらでも項目ごとの税額は注記で示します。

Q. 項目ごとの税効果の集計が難しいです

A. 全体の繰延税金の計算とは別に、その他の包括利益に関わる部分を切り出します。決算の作業に組み込んでおかないと後から分けられません。

Q. 株式の評価差額をその他の包括利益にできますか

A. 資本性金融商品については選択できます。ただし売却しても純損益には振り替えられません。

Q. この選択は後から変えられますか

A. 個々の金融商品ごとに当初認識時に行い、後から取り消せません。適用開始の段階でどの銘柄を選択するか決めます。

Q. 確定給付制度の再測定は日本基準と違いますか

A. 日本基準では一定期間にわたる費用処理が認められますが、IFRSでは発生した期に一括してその他の包括利益として認識します。

📄 まとめ

その他の包括利益は、純損益に振り替えられる項目と振り替えられない項目に区分します。

注記では発生額と振替額を分け、振り替えた先の科目も示します。

税効果は表示方法を選べますが、いずれの場合も項目ごとの税額を注記で示します。

資本性金融商品の選択は当初認識時に行い、後から取り消せません。適用開始時に方針を決めます。

確定給付制度の再測定は発生時に一括して認識します。日本基準からの移行で資本の額が変わることがあります。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

📚 参考(公的な一次情報)

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