IFRSでは、注記は財務諸表の構成要素の1つとして位置づけられています。財政状態計算書から注記までを合わせて、完全な1組の財務諸表となります。
日本基準と比べて大きく違うのは、何をどこまで書くかを会社が判断する場面が多いことです。基準の要求をすべて書くのではなく、重要性のあるものを選んで書きます。
この記事では、完全な1組の財務諸表の構成、日本基準との違い、注記の構成の決め方、制度上の位置づけ、上場準備での着手点を整理します。
- 完全な1組の財務諸表を構成する6つの要素
- 日本基準の注記とIFRSの注記の6つの違い
- 重要性の判断で書く項目と省く項目を分ける考え方
- 注記の順序と構成を会社が決められること
- 指定国際会計基準と連結財務諸表規則の関係
- 注記から逆算して記録の粒度を設計する発想
📌 結論 注記は財務諸表の一部
IFRSでは、注記は財務諸表の構成要素の1つとして位置づけられています。財政状態計算書、包括利益計算書、持分変動計算書、キャッシュ・フロー計算書、そして注記を合わせて、完全な1組の財務諸表となります。
日本基準でも注記は財務諸表の一部ですが、実務上の感覚としては、様式で定められた項目を埋めるという色合いが強くなります。IFRSでは、何をどこまで書くかを会社が判断する場面が多く、その判断の跡が注記に表れます。
注記は付属資料ではなく、財務諸表の構成要素の1つ
🧭 何が違うのか
最も大きな違いは、重要性の判断が求められることです。基準が求める開示項目をすべて書くのではなく、自社にとって重要性のあるものを選んで書きます。重要性がない項目については、基準が求めていても記載しないという判断があり得ます。
IFRSでは、何を書くかを会社が判断する場面が増える
逆に、基準が明示的に求めていなくても、財務諸表の利用者が理解するために必要な情報があれば追加します。開示の目的から考えるという姿勢が、IFRSの注記の基本になります。
もう1つの違いが、判断と仮定の説明です。見積りに用いた仮定、その仮定が変わった場合の影響、会計方針を選ぶ際の判断といった内容を、具体的に書くことが求められます。日本基準の注記と比べて分量が増えるのは、主にこの部分です。
📊 記載例
連結財務諸表注記の冒頭に置く構成の例です。IFRSは注記の並び順を定めていないため、会社が読み手にとって分かりやすい順序を決めます。
| 番号 | 注記の見出し | 位置づけ |
|---|---|---|
| 1 | 報告企業 | 枠組み |
| 2 | 作成の基礎(準拠性、測定の基礎、機能通貨、見積りの利用) | 枠組み |
| 3 | 重要性がある会計方針 | 枠組み |
| 4 | セグメント情報 | 業績の内訳 |
| 5 | 現金及び現金同等物、営業債権、棚卸資産 | 資産 |
| 6 | 有形固定資産、使用権資産、のれん及び無形資産 | 資産 |
| 7 | 営業債務、借入金、リース負債、引当金 | 負債 |
| 8 | 資本および剰余金の内訳 | 資本 |
| 9 | 収益、販売費及び一般管理費、金融収益及び金融費用 | 損益 |
| 10 | 法人所得税、1株当たり利益 | 損益 |
| 11 | 金融商品(区分別の帳簿価額、公正価値、リスク管理) | 金融商品 |
| 12 | 関連当事者、後発事象 | その他 |
会社名は架空です。作成の基礎を前に置き、財政状態計算書と損益計算書の科目順に並べ、最後に金融商品とその他をまとめる構成が一般的です。
この順序に決まりはありませんが、期をまたいで並び順を変えると比較がしにくくなります。最初の年度で構成を固めておくことをおすすめします。
📁 実際の開示事例
実際の注記の並び順です。作成の基礎から始まり、財政状態計算書と損益計算書の科目順に並べ、最後に金融商品とその他を置いています。
連結財務諸表注記の見出し(2026年3月期) 番号 見出し 番号 見出し 1 報告企業 21 キャッシュ・フロー情報 2 作成の基礎 22 引当金 3 重要性がある会計方針 23 従業員給付 4 会計方針及び開示における変更 24 資本金及び剰余金 5 重要な会計上の判断、見積り及び仮定 25 配当金 6 未適用の公表済み基準書及び解釈指針 26 株式報酬 7 セグメント情報 27 売上高 8 現金及び現金同等物 28 販売費 9 売上債権及びその他の債権 29 研究開発費 10 棚卸資産 30 一般管理費 11 売却目的保有に分類される処分グループ及び非継続事業 31 従業員給付費用 12 有形固定資産 32 その他の営業収益 13 のれん及び無形資産 33 その他の営業費用 14 非金融資産の減損 34 金融収益 15 リース 35 金融費用 16 子会社 36 その他の包括利益 17 持分法で会計処理されている投資 37 1株当たり当期利益 18 法人所得税 38 金融商品 19 仕入債務及びその他の債務 39 公正価値 20 社債及び借入金等 40 関連当事者 - - 41 重要な後発事象
出典:味の素株式会社(証券コード2802)「有価証券報告書」(2026年3月期、2026年6月12日提出)連結財務諸表注記
▶ 読み方 最初の6つが枠組みに関する注記で、7以降が個別の項目です。個別項目は財政状態計算書の資産から負債へと並び、そのあとに資本、損益計算書の項目が続きます。損益の項目を売上高、販売費、研究開発費、一般管理費と細かく分けている点にも注目してください。費用を機能別に分類したため、性質別の内訳を注記で示す必要があるからです。最後に金融商品と公正価値、関連当事者、後発事象を置く構成は、多くのIFRS適用会社に共通します。
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📊 注記の構成をどう決めるか
IFRSでは注記の順序に決まりがありません。会社が読みやすい構成を決められます。一般的には、財務諸表がIFRSに準拠している旨、重要な会計方針、重要な会計上の見積りと判断、そして各項目の内訳という順に並べます。
基準の要求をすべて書くのではなく、重要性で絞る
近年は、会計方針をまとめて冒頭に置くのではなく、各項目の注記のなかに関連する会計方針を書くという構成をとる会社も増えています。読み手にとって、その項目の数字と方針が同じ場所にあるほうが理解しやすいためです。
どちらの構成にするかは会社の判断ですが、一度決めたら年度をまたいで継続します。構成が毎年変わると、比較可能性が損なわれます。
🗂 制度上の位置づけ
日本の制度でIFRSを適用する場合、金融商品取引法にもとづく有価証券報告書では、連結財務諸表を指定国際会計基準に従って作成することが認められています。作成の様式や記載事項は、連結財務諸表規則に定められています。
任意適用にあたっては、有価証券報告書の記載にも影響があります。経理の状況の記載、並行開示の要否、初度適用の年度の取扱いといった論点があり、適用を開始する年度は特に整理が必要になります。
会社法上の計算書類については、連結計算書類でIFRSを用いることが認められる場合があります。金融商品取引法上の連結財務諸表と会社法上の計算書類で、適用する基準が異なる状態になり得るため、どちらをどう作るかを先に決めておきます。
⚖️ 上場準備で何から始めるか
IFRSでの上場を目指す場合、注記の作成は最後の工程ではなく、早い段階から意識する必要があります。注記に書く情報を集める仕組みが業務に組み込まれていないと、決算のたびに手作業で集めることになります。
具体的には、セグメント情報、金融商品のリスク、リースの内訳、収益の分解といった注記は、日々の記録の粒度に依存します。取引を記録する段階で必要な区分が入っていなければ、後から作れません。
したがって、初度適用の準備では、注記に必要な情報の一覧を先に作り、それが現在の記録から取り出せるかを確かめます。取り出せない情報については、システムや業務の設計を変える必要があり、これには時間がかかります。注記から逆算するという発想が、実務では最も効きます。
❓ よくある質問
A. 多くなるのが通常です。判断や仮定の説明が求められるため、分量が増えます。ただし重要性のない項目は省くという判断もあり得ます。
A. 重要性のあるものを選んで書きます。重要性がない項目は、基準が求めていても記載しないという判断があり得ます。
A. 財務諸表の利用者が理解するために必要であれば追加します。開示の目的から考えるという姿勢が基本になります。
A. ありません。会社が読みやすい構成を決められます。ただし一度決めたら年度をまたいで継続します。
A. 各項目の注記のなかに関連する方針を書く構成をとる会社も増えています。数字と方針が同じ場所にあるほうが読みやすいためです。
A. 有価証券報告書では連結財務諸表を指定国際会計基準に従って作成することが認められています。様式や記載事項は連結財務諸表規則に定められています。
A. 連結計算書類でIFRSを用いることが認められる場合があります。金商法上の連結財務諸表と適用する基準が異なり得るため、先に整理します。
A. 注記に必要な情報の一覧を作り、現在の記録から取り出せるかを確かめます。取り出せない情報はシステムや業務の設計を変える必要があります。
📄 まとめ
IFRSでは注記は財務諸表の構成要素の1つです。付属資料ではなく本体の一部として作ります。
基準の要求をすべて書くのではなく、重要性のあるものを選びます。逆に必要な情報は基準になくても追加します。
注記の順序は会社が決められますが、年度をまたいで継続することが前提になります。
日本の制度では、指定国際会計基準に従った連結財務諸表の作成が認められ、様式は連結財務諸表規則に定められています。
上場準備では注記から逆算します。必要な情報が日々の記録から取り出せるかを先に確かめます。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
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📚 参考(公的な一次情報)
- 金融商品取引法(e-Gov法令検索) 24条の4の4
- 企業内容等の開示に関する内閣府令(e-Gov法令検索)
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 会社法(e-Gov法令検索)