株式に基づく報酬では、付与した株式や新株予約権の公正価値を、権利確定期間にわたって費用として認識します。日本基準と共通する部分もありますが、条件の扱いに違いがあります。
上場準備の会社ではストック・オプションや譲渡制限付株式を発行していることが多く、未上場の段階で付与したオプションの公正価値の算定が論点になります。
この記事では、3つの類型、条件の区分、公正価値の算定、数量の変動の表、上場準備での論点を整理します。
- 株式報酬の3つの類型と測定の基礎の違い
- 権利確定条件を3つに区分する意味
- 市場条件が達成されなかった場合の費用の扱い
- 公正価値の算定で示す前提の数値
- 未上場会社での株価とボラティリティの算定
- 日本基準の本源的価値による算定がIFRSにないこと
📌 結論 付与日の公正価値を費用にする
株式に基づく報酬では、付与した株式や新株予約権の公正価値を、権利確定期間にわたって費用として認識します。日本基準の考え方と共通しますが、対象となる取引の範囲や条件の扱いに違いがあります。
上場準備の会社では、ストック・オプションや譲渡制限付株式を発行していることが多く、この処理と注記が必要になります。とくに未上場の段階で付与したオプションについては、公正価値の算定が論点になります。
持分決済型は付与日で固定、現金決済型は毎期見直す
🧭 条件の区分
権利確定の条件は、勤務条件、業績条件、市場条件に分かれます。この区分によって、費用の計算の仕方が変わります。
市場条件は公正価値に織り込み、勤務条件は個数の見積りで調整する
勤務条件と、株価以外の業績条件は、権利が確定すると見込まれる個数の見積りに反映します。退職により権利が確定しないと見込まれる分は、費用から除きます。この見積りは各期末に見直します。
一方、株価に連動する市場条件は、付与日の公正価値の算定に織り込みます。市場条件が達成されなかったために権利が確定しなかった場合でも、費用の取消しは行いません。この扱いは実務で誤りやすい部分です。
📊 公正価値の算定
公正価値の算定には、ブラック・ショールズ・モデルや二項モデルといった評価技法を用います。注記では、用いた技法と、算定に使った前提を示します。
前提として示すのは、株価、行使価格、予想ボラティリティ、予想残存期間、無リスク利子率、予想配当率です。これらの数値を具体的に示すことが求められます。
未上場の会社では、株価と予想ボラティリティの算定が難しくなります。株価は直近の資金調達の価格や、株式価値の算定結果を基礎にします。ボラティリティは、類似する上場会社の株価の変動を参考にすることが一般的です。この算定の根拠を記録に残しておきます。
📊 記載例
株式報酬の注記の例です。制度の内容、数の増減、公正価値の算定方法を示します。
(1)制度の内容
当社は、取締役および従業員に対して新株予約権を付与しております。権利確定条件は、付与日から2年間の継続勤務であります。権利行使期間は付与日の2年後から10年後までであります。
(2)新株予約権の数および加重平均行使価格
| 項目 | 株数 | 加重平均行使価格 |
|---|---|---|
| 期首未行使残高 | 320,000株 | 840円 |
| 付与 | 80,000株 | 1,200円 |
| 行使 | △60,000株 | 780円 |
| 失効 | △12,000株 | 900円 |
| 期末未行使残高 | 328,000株 | 950円 |
| 期末に行使可能な数 | 168,000株 | - |
(3)公正価値の算定
付与日の公正価値はブラック・ショールズ式により算定しております。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 株価 | 1,180円 |
| 行使価格 | 1,200円 |
| 予想変動率 | 38パーセント |
| 予想残存期間 | 6年 |
| 無リスク利子率 | 0.9パーセント |
(4)費用計上額
当連結会計年度に費用として計上した金額は42百万円であります。
会社名と数値は架空です。加重平均行使価格は、期首、付与、行使、失効、期末のそれぞれについて示すのが標準的な様式です。
非上場の段階で付与した場合、株価の算定根拠が問われます。予想変動率を類似上場会社から求めた場合は、その方法も注記で説明します。
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📁 実際の開示事例
業績連動型の株式報酬について、評価指標と評価ウエイトを開示している例です。
26.株式報酬 (1) 業績連動型株式報酬制度の概要
本制度は、2023年4月1日から開始する3事業年度の終了後に、予め定めた評価指標により評価し、株式交付信託から対象者に対して当社株式の交付等を行うものです。
本制度のために、当社が信託に拠出する金銭の上限は、対象期間に対して22億円、信託が拠出された金額で取得する当社株式の上限は110万株です。
本制度は、持分決済型の株式報酬として会計処理しております。本制度は報酬として株式の交付等を行うものであるため行使価額はありません。
評価指標と評価ウエイト(抜粋) 分類 評価指標 評価ウエイト 経済価値指標 投下資本税引後営業利益率 40パーセント 経済価値指標 相対的な株主総利回り 20パーセント 社会価値指標 温室効果ガス排出量削減率 10パーセント 社会価値指標 健康寿命の延伸人数 10パーセント 無形資産強化指標 従業員エンゲージメントスコア 10パーセント 無形資産強化指標 グローバル女性管理職比率 5パーセント 無形資産強化指標 コーポレートブランド価値 5パーセント
出典:味の素株式会社(証券コード2802)「有価証券報告書」(2026年3月期、2026年6月12日提出)連結財務諸表注記 26.株式報酬
▶ 読み方 新株予約権ではなく、信託を使った株式交付の制度です。行使価額がないため、公正価値は付与日の株価を基礎に算定します。注目したいのは、評価指標を経済価値、社会価値、無形資産強化の3つに分けて開示している点です。株価に連動しない業績条件は公正価値の算定に含めず、権利が確定する見込みの数に反映させます。どの指標が市場条件でどれが業績条件かを整理してから、費用の計算方法を決めることになります。
公正価値の算定から費用の配分まで、監査に耐える形で整理します。IFRSの導入支援と上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
🗂 数量の変動の表
注記では、オプションの個数の変動を表で示します。期首の未行使数、当期の付与、行使、失効、期末の未行使数という区分です。それぞれについて加重平均行使価格も示します。
公正価値の算定に用いた前提を具体的に示す
期末に未行使のオプションについては、加重平均の残存契約期間と、行使価格の範囲も示します。複数回にわたって付与している会社では、付与の回ごとに条件が違うため、この情報が意味を持ちます。
当期に行使されたオプションについては、行使日の株価の加重平均も示します。行使の時点で株価がどの水準だったかを示す情報です。
⚖️ 上場準備での論点
上場準備の会社で論点になるのが、未上場の段階で付与したオプションの扱いです。日本基準では、未公開会社が付与したストック・オプションについて、公正な評価単価に代えて本源的価値で算定することが認められる場合があります。IFRSにはこの取扱いがありません。
したがって、IFRSを適用する場合、未上場の段階のオプションについても公正価値を算定して費用を計上することになります。過去に付与したオプションについて、遡って算定が必要になる場合もあります。
この影響は、移行時の利益剰余金と、移行後の各期の費用の両方に及びます。オプションを多く発行している会社では影響が大きくなるため、IFRSの適用を検討する段階で、この点の影響額を試算しておきます。制度の設計を変える判断につながることもあります。
❓ よくある質問
A. 持分決済型は付与日の公正価値で固定し、現金決済型は各期末の公正価値で洗い替えます。
A. 勤務条件、業績条件、市場条件に分かれます。区分によって費用の計算の仕方が変わります。
A. 権利が確定すると見込まれる個数の見積りに反映します。この見積りは各期末に見直します。
A. 費用の取消しは行いません。市場条件は付与日の公正価値に織り込まれているためです。
A. 評価技法と、株価、行使価格、予想ボラティリティ、予想残存期間、無リスク利子率、予想配当率といった前提です。
A. 類似する上場会社の株価の変動を参考にすることが一般的です。算定の根拠を記録に残しておきます。
A. 直近の資金調達の価格や、株式価値の算定結果を基礎にします。
A. IFRSにはこの取扱いがありません。未上場の段階のオプションについても公正価値を算定して費用を計上します。
📄 まとめ
株式報酬は付与日の公正価値を権利確定期間にわたって費用にします。現金決済型は毎期洗い替えます。
勤務条件と株価以外の業績条件は個数の見積りで、市場条件は公正価値の算定で反映します。
市場条件が未達でも費用は取り消しません。実務で誤りやすい部分です。
未上場会社では株価とボラティリティの算定が論点になります。根拠を記録に残します。
日本基準の本源的価値による算定はIFRSにありません。適用の検討段階で影響額を試算しておきます。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
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- 株式報酬の注記(この記事)
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グループと開示の枠組み
📚 参考(公的な一次情報)
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 金融商品取引法(e-Gov法令検索) 24条の4の4
- 会社法(e-Gov法令検索)