IFRSの有形固定資産の注記|増減表と耐用年数の見直し

有形固定資産の注記の中心は、種類ごとの増減表です。取得原価と減価償却累計額のそれぞれについて、期首から期末までの動きを示します。

もう1つの柱が、耐用年数と残存価額の見直しです。IFRSでは各年度末に見直すことが求められ、日本基準とは前提が違います。

この記事では、注記の項目、増減表の作り方、耐用年数の見直し、減価償却の方法、構成部分ごとの償却を整理します。

この記事でわかること

  • 有形固定資産の注記に書く7つの項目
  • 増減表に示す変動の内訳と見落としやすい行
  • 為替換算差額と売却目的保有への振替の扱い
  • 耐用年数と残存価額を毎期見直す手順
  • 減価償却の方法を消費のパターンで選ぶ考え方
  • 構成部分ごとに減価償却する場合の管理単位

📌 結論 増減表と毎期の見直しが柱

有形固定資産の注記の中心は、種類ごとの増減表です。取得原価と減価償却累計額のそれぞれについて、期首から期末までの動きを示します。取得、処分、減価償却、減損、為替換算といった変動を行に分けて表します。

もう1つの柱が、耐用年数と残存価額の見直しです。IFRSでは、各年度末に見直すことが求められます。日本基準では変更に一定の要件がありますが、IFRSでは毎期の見直しが前提になります。

有形固定資産の注記に書くこと項目内容測定の基礎原価モデルか再評価モデルか減価償却の方法定額法・定率法などと選択の理由耐用年数または償却率種類ごとの年数または率増減表取得原価と減価償却累計額の期首から期末への動き担保の状況借入の担保に供している資産の帳簿価額取得の契約契約上の取得の義務がある金額建設中の資産建設仮勘定に含まれる金額

増減表が中心。取得原価と償却累計額を分けて示す

🧭 増減表の作り方

増減表は、資産の種類ごとに作ります。建物、機械装置、工具器具備品、土地、建設仮勘定といった区分が一般的です。区分は会社が決められますが、事業の実態が伝わる粒度にします。

増減表に示す変動の内訳変動内容見落としやすい点取得購入と自己建設資産化した借入コスト企業結合取得した子会社からの引継ぎ取得日の公正価値で計上処分売却と除却売却目的保有への振替と区別減価償却費当期の償却額どの費用科目に含めたか減損損失と戻入減損の計上と戻入れ戻入があるのが日本基準と違う為替換算差額在外子会社の資産の換算増減表の調整項目として示す

為替換算差額を独立の行として示すと、動きが説明できる

変動の内訳で見落とされやすいのが、為替換算差額です。在外子会社が保有する資産は、期末の為替レートで換算されるため、為替が動けば帳簿価額も変わります。この変動を独立の行として示さないと、増減の合計が合わなくなります。

もう1つが、売却目的保有への振替です。売却が決まった資産は、有形固定資産から売却目的保有に分類され、増減表からは減ります。処分とは別の行として示します。

📊 耐用年数の見直し

耐用年数と残存価額は、各年度末に見直します。実際の使用の見込み、技術の進歩による陳腐化、事業計画の変更といった要素を踏まえて、当初の見積りが依然として妥当かを確かめます。

耐用年数と残存価額を見直す4段階各年度末に見直しが必要かを確かめる使用の見込みや技術の変化を踏まえる変更する場合は見積りの変更として処理する変更の内容と当期以降への影響を注記に書く

毎期の見直しが求められる点が日本基準と違う

見直しの結果、変更する場合は会計上の見積りの変更として処理します。遡及せず、当期以降の減価償却費に反映します。注記では、変更の内容と、当期の損益への影響額を示します。

実務でよくあるのが、税法上の耐用年数をそのまま使い続けているケースです。IFRSでは、経済的な使用可能期間を見積もることが求められるため、税法の年数と一致するとは限りません。適用開始の段階で、資産の種類ごとに使用の実態を確かめておきます。

📊 記載例

有形固定資産の増減表の例です。取得原価と減価償却累計額を分けて示します。

設例 有形固定資産の増減

取得原価(単位:百万円)
項目 建物 機械装置 その他 合計
期首残高 6,200 4,800 1,300 12,300
取得 180 620 140 940
売却または除却 △60 △340 △90 △490
期末残高 6,320 5,080 1,350 12,750
減価償却累計額および減損損失累計額(単位:百万円)
項目 合計
期首残高 △6,940
減価償却費 △820
売却または除却 420
期末残高 △7,340
帳簿価額(単位:百万円)
時点 金額
期首 5,360
期末 5,410

会社名と数値は架空です。日本基準の有形固定資産等明細表に近い内容ですが、IFRSでは注記の本体として区分ごとに示します。

増減表は、種類ごとに取得原価と償却累計額の両方を示すため、金額の欄が多くなります。表計算で作った表をそのまま貼るのではなく、区分をいくつに分けるかを先に決めてから作り始めてください。

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📁 実際の開示事例

有形固定資産の帳簿価額の増減表の例です。建設仮勘定からの振替まで含めて、動きをすべて行に分けています。

実際の開示事例 味の素株式会社(証券コード2802)

12.有形固定資産 ① 帳簿価額(当連結会計年度)

帳簿価額の増減(単位:百万円)
項目 建物及び構築物 機械装置及び運搬具 工具器具及び備品 土地 建設仮勘定 合計
期首残高 244,337 212,696 23,870 46,252 54,172 581,330
外部からの購入による取得 28,097 8,526 2,779 4,695 85,088 129,188
売却又は処分 △3,875 △3,296 △616 △2,993 △519 △11,301
減損損失 △2,588 △4,632 △79 △70 △1,073 △8,443
減価償却費 △25,361 △42,673 △8,269 △498 △76,803
建設仮勘定からの振替 24,592 48,132 7,985 △80,710
為替換算差額 12,827 13,019 1,061 2,501 3,133 32,543
期末残高 279,933 231,824 26,774 49,958 58,889 647,381

出典:味の素株式会社(証券コード2802)「有価証券報告書」(2026年3月期、2026年6月12日提出)連結財務諸表注記 12.有形固定資産

▶ 読み方 増減の理由を1行ずつ独立させているのが特徴です。取得、売却または処分、減損損失、減価償却費、建設仮勘定からの振替、為替換算差額と分かれており、期首から期末までの動きがすべて追えます。建設仮勘定からの振替の行は、合計欄がゼロになる点に注目してください。区分の中での移動なので総額は変わりません。この表を作るには、固定資産システムで事由ごとに集計できるようにしておく必要があります。

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🗂 減価償却の方法

減価償却の方法は、資産の経済的便益が消費されるパターンを反映するものを選びます。定額法、定率法、生産高比例法といった方法があり、資産の使われ方によって選びます。

日本の会社では、税法に合わせて定率法を使っている例が多くありますが、IFRSでは消費のパターンに照らして選ぶ必要があります。建物のように長期にわたって均等に使う資産は定額法が適することが多く、稼働に応じて価値が減る機械は生産高比例法が適する場合があります。

方法を変更する場合も、見積りの変更として扱います。したがって遡及せず、当期以降に反映します。変更の理由と影響を注記に書きます。

⚖️ 資産の単位と構成部分

IFRSでは、取得原価のうち重要な部分について、それぞれ別に減価償却することが求められます。建物の躯体と設備、航空機の機体とエンジンといった形で、使用可能期間が異なる部分を分けるという考え方です。

この考え方を取り入れると、資産の管理単位が細かくなります。台帳の設計が資産全体を1単位としている場合、構成部分ごとに分ける作業が必要になります。

適用開始の準備では、どの資産について構成部分に分けるかを決めます。すべての資産を分ける必要はなく、金額が大きく、構成部分の使用可能期間の差が大きいものに絞ります。この判断も記録に残しておくと、監査法人との協議で説明ができます。

❓ よくある質問

Q. 増減表はどの単位で作りますか

A. 資産の種類ごとです。建物、機械装置、工具器具備品、土地、建設仮勘定といった区分が一般的で、事業の実態が伝わる粒度にします。

Q. 増減表で見落としやすい行は何ですか

A. 為替換算差額です。在外子会社の資産は期末レートで換算されるため、独立の行として示さないと合計が合いません。

Q. 売却が決まった資産はどう扱いますか

A. 売却目的保有に分類され、有形固定資産から減ります。処分とは別の行として示します。

Q. 耐用年数は毎期見直すのですか

A. 各年度末に見直します。使用の見込み、技術の陳腐化、事業計画の変更といった要素を踏まえて妥当性を確かめます。

Q. 税法の耐用年数を使ってよいですか

A. IFRSでは経済的な使用可能期間を見積もります。税法の年数と一致するとは限らないため、使用の実態を確かめます。

Q. 減価償却の方法はどう選びますか

A. 資産の経済的便益が消費されるパターンを反映する方法を選びます。税法に合わせるという理由だけでは足りません。

Q. 方法を変更したら遡及しますか

A. 見積りの変更として扱うため遡及しません。当期以降に反映し、変更の理由と影響を注記に書きます。

Q. 構成部分ごとの償却はすべての資産で必要ですか

A. 金額が大きく、構成部分の使用可能期間の差が大きいものに絞ります。判断の根拠を記録に残しておきます。

📄 まとめ

有形固定資産の注記の中心は種類ごとの増減表です。取得原価と償却累計額を分けて示します。

為替換算差額と売却目的保有への振替は、独立の行として示さないと合計が合いません。

耐用年数と残存価額は各年度末に見直します。税法の年数をそのまま使い続けることはできません。

減価償却の方法は消費のパターンで選びます。変更は見積りの変更として当期以降に反映します。

構成部分ごとの償却は、金額が大きく期間の差が大きい資産に絞って適用します。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

📚 参考(公的な一次情報)

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