保有する不動産のうち、賃貸収入や値上がり益を目的とするものは投資不動産として区分し、自社で使用する不動産とは別に扱います。また、売却が決まった資産や事業は売却目的保有に分類し、通常の資産とは異なる測定と表示を行います。いずれも日本基準には対応する明確な区分がないため、移行時に整理が必要になります。
この記事では、上場準備会社がIFRSを任意適用する場面を想定して、投資不動産の区分と測定、売却目的保有への分類、そして非継続事業の表示について整理します。
- 投資不動産に該当する不動産と、該当しない不動産の切り分け
- 公正価値モデルと原価モデルの違いと、注記で必要になる情報
- 売却目的保有に分類するための要件と、分類後の測定と表示
- 非継続事業として区分表示する場合の損益計算書への影響
この記事の見出し
📌 投資不動産は目的で区分する
投資不動産は、賃貸収益または値上がり益を得ることを目的として保有する土地や建物です。自社の事業で使用している不動産や、販売目的で保有する不動産は該当しません。区分は不動産の種類ではなく保有目的で決まるため、同じビルでも自社使用部分と賃貸部分がある場合、区分して処理するかどうかの判断が必要になります。
区分して売却できる場合は、部分ごとに区分して処理します。区分できない場合は、自社使用部分が重要でない場合に限り、全体を投資不動産とします。上場準備会社では、本社ビルの一部を賃貸しているケースがこれに当たります。判断の根拠は注記で説明します。
📌 測定は2つの方法から選ぶ
投資不動産の事後の測定には、公正価値モデルと原価モデルの2つがあります。公正価値モデルでは毎期末に公正価値で測定し、差額を純損益に計上します。減価償却は行いません。原価モデルでは有形固定資産と同じように減価償却を行い、公正価値は注記でのみ開示します。
いずれの方法を選んでも、公正価値の情報は注記で必要になります。
日本の会社の多くは原価モデルを選択しています。公正価値モデルを選ぶと不動産市況の変動が毎期の損益に直接現れるためです。ただし原価モデルを選んだ場合でも、公正価値の情報は注記で必要になるため、評価の負担がなくなるわけではありません。不動産鑑定を毎期取得するか、簡便な方法で算定するかの検討が必要です。
📌 売却が決まったら区分を変える
継続的な使用ではなく売却によって帳簿価額を回収する予定になった資産は、売却目的保有に分類します。分類には要件があり、単に売却を検討しているという段階では該当しません。経営者が売却計画を確約し、買手を探す活動を実際に始めていることが必要です。
要件を満たした時点で分類し、減価償却を停止します。
分類した時点で減価償却を停止し、帳簿価額と売却費用控除後の公正価値のいずれか低い金額で測定します。減損に近い処理ですが、売却費用を控除する点が通常の減損テストと異なります。
比較年度を組み替えない点は、他の区分変更と扱いが異なります。
表示上は、他の資産と区分して流動資産に表示します。関連する負債がある場合も区分して表示します。ここで注意したいのが、比較年度の財政状態計算書は組み替えないという点です。前期末の数値はそのままにしておくため、資産の内訳を前期と比較すると科目が動いたように見えます。
📌 事業単位の売却は非継続事業になる
売却の対象が事業の重要な構成単位である場合、非継続事業として扱います。この場合、損益計算書では非継続事業からの損益を1行にまとめて表示し、継続事業の損益と分けます。読み手が、今後も続く事業の業績だけを取り出して評価できるようにするための表示です。
損益計算書については、比較年度も組み替えます。財政状態計算書は組み替えないのに損益計算書は組み替えるという非対称な扱いになるため、作成時に混乱しやすい点です。あわせて、非継続事業の収益と費用の内訳、キャッシュ・フローの区分ごとの金額を注記で示します。
上場準備の過程では、上場に適さない事業を切り離す再編を行うことがあります。その場合、切り離した事業が非継続事業に該当するかどうかで、申請書類に載る損益の見え方が変わります。再編の設計段階から会計処理の見通しを立てておくことをおすすめします。
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📌 分類後に売却が長引いた場合
1年以内の売却を見込んで分類したものの、売却が遅れることがあります。会社が引き続き売却計画を維持しており、遅れが会社の支配できない事象によるものであれば、分類を継続できます。一方、売却の意思そのものが失われた場合は分類を取り消し、通常の資産に戻します。
戻す場合の帳簿価額は、売却目的保有に分類しなかったとした場合の帳簿価額と、回収可能価額のいずれか低い金額です。つまり分類していた期間の減価償却を遡って計算し直すことになります。分類の判断は慎重に行い、要件を満たしたことを示す資料を残しておく必要があります。
📊 記載例
投資不動産と売却目的保有の注記の例です。原価モデルを採用した場合でも公正価値は開示します。
(1)投資不動産
当社グループは、賃貸収益を得ることを目的として保有する不動産について、原価モデルを採用しております。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 期首残高 | 1,240 |
| 取得 | - |
| 減価償却費 | △42 |
| 期末残高 | 1,198 |
| 期末の公正価値 | 1,620 |
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 賃貸収益 | 96 |
| 直接発生した営業費用 | 38 |
公正価値は、社外の不動産鑑定士による鑑定評価額に基づいております。
(2)売却目的で保有する資産
報告セグメントBに属する土地および建物について、取締役会が売却の方針を決議し、買手を探す活動を開始したことから、売却目的で保有する資産に分類しております。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 帳簿価額 | 280 |
| 売却費用控除後の公正価値 | 260 |
| 評価損 | 20 |
売却は翌連結会計年度中に完了する見込みであります。
会社名と数値は架空です。原価モデルを採用した場合、公正価値の算定を誰が行ったのかまで書くのが通例です。
売却目的保有に分類した資産は、財政状態計算書上で他の資産と区分して表示します。比較年度は組み替えないため、前期との比較で科目が動いたように見える点に注意してください。
📁 実際の開示事例
子会社の株式売却が決まり、その資産と負債を処分グループとして売却目的保有に分類した例です。
11.売却目的保有に分類される処分グループ及び非継続事業
当社は、2025年4月24日開催の取締役会において、当社の子会社である味の素アルテア社の株式の全てを譲渡することを決議し、同日、株式譲渡契約を締結しました。
前連結会計年度末において、当連結会計年度に当該株式の売却可能性が高まったことを受け、単一の資金生成単位から当該会社を分離したうえで、のれん及び固定資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額し、その他の営業費用に29,840百万円の減損損失を計上しております。その上で、当該会社の資産・負債を売却目的保有に分類される処分グループに分類しております。
処分グループの内訳(単位:百万円) 項目 前連結会計年度 当連結会計年度 売上債権及びその他の債権 3,008 - その他の金融資産 247 - 棚卸資産 4,490 - その他の流動資産 303 - 有形固定資産 8,900 - 無形資産 284 - 長期金融資産 72 - 資産合計 17,308 - 仕入債務及びその他の債務 2,329 - その他の金融負債(流動) 228 - 短期従業員給付 1,002 - その他の流動負債 6,330 - その他の金融負債(非流動) 4,617 - 負債合計 14,512 - 当該売却目的保有に分類される処分グループについては、売却コスト控除後の公正価値(2,796百万円)により測定しております。なお、公正価値は、株式譲渡契約で見込まれる売却予定価格に基づいて決定しており、この公正価値測定はレベル3の公正価値に区分されます。
出典:味の素株式会社(証券コード2802)「有価証券報告書」(2026年3月期、2026年6月12日提出)連結財務諸表注記 11.売却目的保有に分類される処分グループ及び非継続事業
▶ 読み方 分類のきっかけが取締役会の決議と株式譲渡契約の締結であることが明示されています。売却を検討している段階では分類できず、この2つが揃って初めて要件を満たすという点が読み取れます。測定は売却コスト控除後の公正価値で、その根拠が譲渡契約の価格であること、そして公正価値のレベルまで示しています。資産と負債を科目ごとに並べる様式にも注目してください。
区分の判定は、保有目的と売却計画の実態にもとづく判断です。判定の整理から注記の作成まで、IFRSの導入支援と上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
❓ よくある質問
A. 区分して売却できる場合は、賃貸部分だけを投資不動産とします。区分できない場合は、自社使用部分が重要でないときに限り全体を投資不動産とします。判断の根拠は注記で説明します。
A. なりません。原価モデルを選んだ場合でも、公正価値は注記で開示する必要があります。算定の負担そのものはなくならない点に注意が必要です。
A. 分類しません。経営者が売却計画を確約し、買手を探す活動を開始していることなどの要件を満たす必要があります。検討段階での分類は認められません。
📄 まとめ
投資不動産と売却目的保有は、いずれも日本基準に対応する明確な区分がなく、移行時に整理が必要になる領域です。区分は資産の種類ではなく、保有目的と売却計画の実態で決まります。
とくに非継続事業の表示は、損益計算書の比較年度を組み替える一方で財政状態計算書は組み替えないという非対称な扱いになります。事業の切り離しを予定している上場準備会社は、再編の設計段階から会計処理の見通しを立てておくことをおすすめします。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
全体像と適用の準備
財務諸表の表示
資産の注記
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- 投資不動産と売却目的保有(この記事)
負債と損益の注記
金融商品とリスクの注記
グループと開示の枠組み
📚 参考(公的な一次情報)
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 会社法(e-Gov法令検索)
- 企業内容等の開示に関する内閣府令(e-Gov法令検索)