IFRSの減損の注記|日本基準との違いと主要な仮定

IFRSの減損は日本基準と手順が違います。日本基準にある割引前のキャッシュ・フローによる認識の判定という段階がなく、兆候があれば直ちに回収可能価額を算定して比較します。

回収可能価額は割引後の金額であるため、日本基準の判定より小さくなります。この構造の違いにより、IFRSのほうが減損が生じやすくなります。

この記事では、日本基準との違い、資金生成単位の識別、回収可能価額の算定、戻入れ、注記の分量を整理します。

この記事でわかること

  • IFRSと日本基準の減損の手順の違い
  • 減損テストを5段階で行う進め方
  • 資金生成単位が管理の実態と結びつく理由
  • のれんを資金生成単位に配分する考え方
  • のれん以外で減損の戻入れが求められること
  • 注記で示す主要な仮定と感応度の情報

📌 結論 減損が生じやすい構造になっている

IFRSの減損は、日本基準と手順が違います。日本基準では、兆候があった場合にまず割引前の将来キャッシュ・フローと帳簿価額を比較し、下回る場合に初めて測定に進みます。IFRSにはこの段階がなく、兆候があれば直ちに回収可能価額を算定して比較します。

回収可能価額は割引後の金額であるため、日本基準の認識の判定より小さくなります。この構造の違いにより、IFRSのほうが減損が生じやすくなります。移行の検討では、この点の影響を確かめておく必要があります。

日本基準との違い論点IFRS日本基準判定の手順兆候があれば直ちに回収可能価額と比較兆候・認識の判定・測定の3段階割引の有無回収可能価額は割引後の金額認識の判定は割引前の将来キャッシュ・フロ戻入れのれん以外は戻し入れる戻し入れないのれんの扱い毎期テストする兆候がある場合にテストする単位資金生成単位資産グループ

認識の判定に割引前の金額を使わないため、減損が生じやすい

🧭 資金生成単位の識別

減損テストは、個別の資産または資金生成単位を単位として行います。資金生成単位とは、他の資産からおおむね独立したキャッシュ・インフローを生み出す最小の単位です。

減損テストを5段階で行う資金生成単位を識別するのれんを資金生成単位に配分する兆候の有無を確かめる(のれんは毎期テスト)回収可能価額を算定する帳簿価額と比較して減損損失を計上する

回収可能価額は使用価値と処分費用控除後の公正価値の高いほう

単位の識別は、事業の管理の仕方と関係します。店舗ごとに収支を管理しているのであれば店舗が単位になり得ますし、地域ごとに管理しているなら地域が単位になります。管理の実態と切り離して単位を決めることはできません。

のれんは、それ自体では独立したキャッシュ・フローを生まないため、資金生成単位に配分します。配分の方法は、のれんが生じた企業結合のシナジーが及ぶ単位を基礎に決めます。この配分は最初に決めたら継続し、組織の変更があった場合は組み替えます。

📊 回収可能価額の算定

回収可能価額は、使用価値と、処分費用控除後の公正価値のいずれか高いほうです。使用価値は、その資産または単位から生じる将来キャッシュ・フローの割引現在価値として算定します。

使用価値の算定には、経営者が承認した事業計画を用います。計画の期間は通常5年以内とされ、それを超える期間については一定の成長率を用いて延長します。成長率は、その事業が属する市場の長期の平均成長率を超えないことが求められます。

割引率は税引前のものを用います。実務では、加重平均資本コストを基礎に、税効果を調整して税引前の率を算定します。この算定の過程も記録に残しておきます。

📊 記載例

減損の注記の例です。減損損失を認識した場合は、資金生成単位と主要な仮定を示します。

設例 減損損失

当連結会計年度において、報告セグメントBに属する製造設備について減損損失を認識しております。

減損損失の内訳(単位:百万円)
資産の種類 金額
建物 120
機械装置 98
その他 22
合計 240

当該資金生成単位は、事業計画を下回る営業損失が継続していることから、減損の兆候があると判断いたしました。

回収可能価額は使用価値により算定しており、経営者が承認した3年間の事業計画を基礎とした将来キャッシュ・フローを、税引前の割引率9.2パーセントで割り引いて算定しております。

減損損失は、その他の費用に含めております。

なお、前連結会計年度に認識した減損損失のうち、当連結会計年度において戻し入れた金額はありません。

会社名と数値は架空です。IFRSではのれん以外の減損損失の戻入れが認められているため、戻入れの有無まで書くのが通例です。

日本基準との最大の違いは、減損の判定を1段階で行う点と、戻入れが認められる点です。注記でも、割引後の回収可能価額と割引率を必ず示すことになります。

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📁 実際の開示事例

減損損失を資産の種類別に示し、さらに資金生成単位ごとに測定方法を説明している例です。

実際の開示事例 味の素株式会社(証券コード2802)

14.非金融資産の減損 (1) 認識した減損損失及び資産の種類別内訳

当社グループは、前連結会計年度及び当連結会計年度において、それぞれ33,854百万円及び8,450百万円の減損損失を計上しております。これらの減損損失は連結損益計算書のその他の営業費用に計上しております。

資産の種類別内訳(単位:百万円)
資産の種類 前連結会計年度 当連結会計年度
建物及び構築物 5,067 2,588
機械装置及び運搬具 4,863 4,632
工具器具及び備品 111 79
土地 70
建設仮勘定 1,517 1,073
ソフトウェア 355 6
のれん 20,913
その他 1,025 0
合計 33,854 8,450

(注)使用権資産は各資産に含めて表示しております。

(2) 減損損失を認識した主な資産及びセグメントの内訳(前連結会計年度)

回収可能価額は、売却コスト控除後の公正価値(2,796百万円)により測定しており、公正価値は株式譲渡契約で見込まれる売却予定価額に基づいて決定しております。

出典:味の素株式会社(証券コード2802)「有価証券報告書」(2026年3月期、2026年6月12日提出)連結財務諸表注記 14.非金融資産の減損

▶ 読み方 資産の種類別の内訳と、資金生成単位ごとの説明の2段構えになっています。金額の大きい減損については、どの単位で、いくらを、どのように測定したのかまで示すのが実務の水準です。この例では回収可能価額を使用価値ではなく売却コスト控除後の公正価値で測定しており、その根拠が株式譲渡契約の価額であることまで書かれています。測定方法を2つのうちどちらで行ったのかは、必ず明示します。

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🗂 戻入れがある

IFRSでは、のれん以外の資産について、減損損失の戻入れが求められます。過去に減損を認識した資産について、回収可能価額が回復した場合、減損がなかった場合の帳簿価額を上限として戻し入れます。

日本基準では戻入れを行わないため、この点は運用上の違いになります。過去に減損した資産について、毎期、戻入れの兆候がないかを確かめる作業が加わります。

戻入れの兆候としては、市場価値の回復、事業環境の好転、資産の使用方法の変更といったものがあります。減損を認識したときの理由を記録しておくと、その理由が解消したかを確かめやすくなります。

⚖️ 注記の分量

減損に関する注記は、IFRSでは分量が多くなります。のれんや耐用年数を確定できない無形資産については、減損が生じていなくても、資金生成単位ごとの帳簿価額、回収可能価額の算定方法、主要な仮定を毎期示すことが求められるためです。

注記で示す主要な仮定仮定示す内容よくある不足事業計画の期間何年間の計画を使ったか期間の根拠が書かれていない成長率計画期間後の成長率業界の見通しとの関係が不明割引率税引前の割引率算定の基礎が説明されていない主要な前提売上高や利益率の見込み数値が示されていない感応度仮定が変わった場合の影響記載そのものがない

数値を示さないと、読み手は見積りの幅を判断できない

主要な仮定については、具体的な数値を示すことが期待されます。割引率が何パーセントか、成長率が何パーセントかを示さないと、読み手は見積りの妥当性を判断できません。

感応度の情報も有用です。割引率が1パーセント上昇した場合、成長率が1パーセント低下した場合に、回収可能価額がどう変わるかを示します。回収可能価額と帳簿価額の差が小さい単位については、この情報の重要性が特に高くなります。

❓ よくある質問

Q. IFRSのほうが減損しやすいのですか

A. 日本基準にある割引前キャッシュ・フローによる判定の段階がないため、構造として減損が生じやすくなります。

Q. 資金生成単位はどう決めますか

A. 他の資産からおおむね独立したキャッシュ・インフローを生む最小の単位です。事業の管理の仕方と切り離しては決められません。

Q. のれんはどう扱いますか

A. それ自体では独立したキャッシュ・フローを生まないため、資金生成単位に配分します。シナジーが及ぶ単位を基礎に決めます。

Q. 回収可能価額とは何ですか

A. 使用価値と、処分費用控除後の公正価値のいずれか高いほうです。使用価値は将来キャッシュ・フローの割引現在価値です。

Q. 事業計画は何年分を使いますか

A. 通常は5年以内とされ、それを超える期間は一定の成長率で延長します。成長率は市場の長期平均を超えないことが求められます。

Q. 割引率は税引後でよいですか

A. 税引前の割引率を用います。実務では加重平均資本コストを基礎に、税効果を調整して算定します。

Q. 減損の戻入れはありますか

A. のれん以外の資産では求められます。減損がなかった場合の帳簿価額を上限として戻し入れます。

Q. 減損が生じていなくても注記は必要ですか

A. のれんや耐用年数を確定できない無形資産については、毎期、帳簿価額と算定方法、主要な仮定を示します。

📄 まとめ

IFRSでは認識の判定という段階がなく、兆候があれば直ちに回収可能価額と比較します。減損が生じやすい構造です。

資金生成単位は事業の管理の実態と結びつきます。管理と切り離して決めることはできません。

回収可能価額の算定では、経営者が承認した事業計画と税引前の割引率を用います。

のれん以外では戻入れが求められます。減損の理由を記録しておくと判断しやすくなります。

注記では主要な仮定を数値で示します。感応度の情報があると見積りの幅が伝わります。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

📚 参考(公的な一次情報)

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