IFRSでは見積りの不確実性に関する注記が求められます。対象となるのは、翌年度に資産や負債の帳簿価額に重要な修正が生じるリスクがあるものです。
この絞り込みが実務では難しいところです。見積りを含む項目は多くありますが、翌年度に大きく動き得るものは限られます。網羅すると本当に注意すべき項目が埋もれます。
この記事では、対象の絞り込み、書く内容の水準、判断と見積りの区別、当期に生じた変動、上場準備での準備を整理します。
- 見積りの不確実性が生じやすい6つの項目と主な仮定
- 翌年度に重要な修正が生じ得るかという絞り込みの基準
- 仮定と根拠をどこまで具体的に書くか
- 感応度の情報を示す意味
- 会計方針の判断と見積りの区別
- 見積りを見直して金額が変動したときの説明
📌 結論 翌年度に修正が生じ得る項目に絞る
IFRSでは、見積りの不確実性に関する注記が求められます。ここで対象となるのは、すべての見積りではなく、翌年度に資産や負債の帳簿価額に重要な修正が生じるリスクがあるものです。
この絞り込みが実務では難しいところです。見積りを含む項目は多くありますが、そのうち翌年度に大きく動き得るものはいくつかに限られます。網羅的に並べると、本当に注意すべき項目が埋もれます。
仮定が変われば金額が大きく動く項目を選んで書く
🧭 何を書くか
書くのは、その見積りの性質、用いた仮定、仮定の根拠、そして仮定が変わった場合の影響です。金額だけを示しても、読み手はその金額がどのくらい動き得るのかを判断できません。
翌年度に重要な修正が生じ得るかという基準で絞る
仮定については、可能な限り具体的に書きます。将来の事業計画にもとづいているという記載では、その計画がどういうものかが分かりません。取締役会が承認した計画であること、対象とする期間、その後の期間の成長率の考え方といった内容まで書くと、読み手が判断できます。
仮定の数値と、変動したときの影響まで書けると読み手に伝わる
感応度の情報も有用です。主要な仮定が一定程度変動した場合に、帳簿価額や損益がどう変わるかを示します。この情報があると、見積りの幅が具体的に伝わります。
📊 判断と見積りは違う
注記では、会計方針を適用する際の判断と、見積りの不確実性を分けて扱います。判断は、どの会計処理を適用するかという選択の問題であり、見積りは金額をどう算定するかという問題です。
たとえば、ある契約がリースに該当するかどうかは判断です。リースに該当すると判断したうえで、リース期間を何年と見込むかは見積りになります。両方が絡む論点では、判断の部分と見積りの部分を分けて書くと、読み手に伝わります。
実務では、この2つが混ざった記載をよく見ます。判断の説明のなかに金額の見積りが混ざっていたり、見積りの説明のなかに処理の選択の話が入っていたりします。書き始める前に、どちらの話をしているのかを整理します。
📊 記載例
見積りの不確実性の注記の例です。対象を絞り、金額、仮定、変動した場合の影響の3点を書きます。
(1)当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| のれん | 4,250 |
| うち報告セグメントAに配分した金額 | 3,900 |
(2)その他の情報
のれんは、報告セグメントAを資金生成単位のグループとして減損テストを行っております。回収可能価額は使用価値により算定しており、経営者が承認した3年間の事業計画を基礎とした将来キャッシュ・フローの見積りを用いております。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 計画期間 | 3年間 |
| 計画期間経過後の成長率 | 1.0パーセント |
| 税引前割引率 | 8.5パーセント |
| 前提 | 影響 |
|---|---|
| 回収可能価額が帳簿価額を上回る額 | 1,100 |
| 割引率が1.0ポイント上昇した場合 | 減損損失は生じない |
| 計画期間経過後の成長率が1.0ポイント低下した場合 | 減損損失は生じない |
会社名と数値は架空です。金額、算定の方法、主要な仮定、仮定が変動した場合の影響という順に書くと、読み手が判断の余地の大きさをつかめます。
感応度の記載は必須ではありませんが、余裕が小さい場合ほど記載が期待されます。余裕が大きい場合も、その事実を書いておくと読み手の不安を減らせます。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
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📁 実際の開示事例
見積りの注記を独立して書かず、関連する注記への参照だけを置く方式の例です。
5.重要な会計上の判断、見積り及び仮定
IFRS会計基準に準拠した連結財務諸表の作成において、経営者は会計方針の適用並びに資産、負債、収益及び費用の報告額に影響を及ぼす判断、見積り及び仮定を設定することが義務付けられております。実際の業績はこれらの見積りと異なる場合があります。
見積り及びその基礎となる仮定は継続して見直しております。会計上の見積りの見直しによる影響は、見積りを見直した会計期間及び将来の会計期間において認識しております。
(1) 連結財務諸表上で認識する金額に重要な影響を与える会計方針の適用
重要な判断に関する情報は、次の注記に含めております。
・子会社、関連会社、共同支配企業及び共同支配事業の範囲(注記3.重要性がある会計方針 (1) 連結の基礎、注記16.子会社、注記17.持分法で会計処理されている投資)
(2) 翌連結会計年度において重要な修正をもたらすリスクのある、仮定及び見積りの不確実性
・非金融資産の減損(注記3.重要性がある会計方針 (11) 非金融資産の減損、注記14.非金融資産の減損)
出典:味の素株式会社(証券コード2802)「有価証券報告書」(2026年3月期、2026年6月12日提出)連結財務諸表注記 5.重要な会計上の判断、見積り及び仮定
▶ 読み方 見積りの内容そのものはここに書かず、該当する注記への参照だけを置いています。金額や仮定は個別の注記に一度だけ書き、この注記は索引として使うという整理です。同じ内容を2か所に書くと、片方だけ更新して食い違うという事故が起きます。参照方式はそれを避ける実務的な工夫で、判断の対象と見積りの対象を2つに分けて示している点も参考になります。
対象の絞り込みから感応度の示し方まで、記載の水準をご提案します。IFRSの導入支援と上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
🗂 当期に生じた変動
見積りを見直した結果、当期に金額が変動した場合は、その内容を説明します。耐用年数を見直して減価償却費が変わった、引当金の見積りを変更して費用が増えたといった事象です。
この説明があると、業績の変動の理由が読み手に伝わります。説明がないと、事業の状況が変わったのか、見積りを変えただけなのかが区別できません。
また、見直しの理由も書きます。新しい情報が得られた、状況が変わった、過去の実績が蓄積されたといった理由です。理由がないまま数値だけが変わると、恣意的な調整ではないかという疑いを招きます。
⚖️ 上場準備での準備
見積りの注記は、社内の情報がそろっていないと書けません。事業計画、過去の実績データ、契約の条件といった情報を、経理が使える形で持っておく必要があります。
特に、のれんや固定資産の減損に関わる見積りでは、事業計画が根拠になります。取締役会で承認された計画があり、その計画がどういう前提で作られているかが説明できる状態にしておきます。計画が毎年大きくぶれていると、その計画を基礎とした見積りの信頼性も問われます。
上場準備の段階では、予算の精度を上げることと、見積りの根拠を文書に残すことを並行して進めます。この2つは、内部統制の評価でも上場審査でも問われる領域であり、注記の作成にもそのまま使えます。
❓ よくある質問
A. 翌年度に帳簿価額に重要な修正が生じるリスクがあるものに絞ります。網羅すると注意すべき項目が埋もれます。
A. 見積りの性質、用いた仮定、仮定の根拠、仮定が変わった場合の影響です。金額だけでは動き得る幅が伝わりません。
A. 将来の事業計画にもとづくという記載では不十分です。承認の主体、対象期間、その後の成長率の考え方まで書きます。
A. 必須ではありませんが、主要な仮定が変動した場合の影響を示すと、見積りの幅が具体的に伝わります。
A. 判断はどの会計処理を適用するかの選択、見積りは金額をどう算定するかの問題です。両方が絡む論点では分けて書きます。
A. 変更の内容と、当期の金額に与えた影響、そして見直しの理由を書きます。理由がないと恣意的な調整を疑われます。
A. その計画を基礎とした見積りの信頼性が問われます。予算の精度を上げることが、注記の説得力にもつながります。
A. 事業計画、過去の実績データ、契約条件を経理が使える形で持っておきます。見積りの根拠を文書に残すことも並行して進めます。
📄 まとめ
見積りの注記は、翌年度に重要な修正が生じ得る項目に絞ります。
仮定は具体的に書きます。承認の主体、対象期間、成長率の考え方まで書くと読み手が判断できます。
感応度の情報があると、見積りの幅が伝わります。
会計方針の判断と見積りは別のものです。書き始める前にどちらの話かを整理します。
見積りを変更したときは、影響と理由の両方を書きます。理由のない変更は疑いを招きます。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
全体像と適用の準備
- 注記の全体像と構成の決め方
- 任意適用の準備と初度適用
- 会計方針の注記
- 見積りの不確実性の注記(この記事)
- 会計方針の変更と誤謬の訂正
財務諸表の表示
資産の注記
負債と損益の注記
金融商品とリスクの注記
グループと開示の枠組み
📚 参考(公的な一次情報)
- 金融商品取引法(e-Gov法令検索) 24条の4の4
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 企業内容等の開示に関する内閣府令(e-Gov法令検索)
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)