持分変動計算書は、資本の各項目が期首から期末までどう動いたかを示す計算書です。包括利益、配当、資本取引、株式報酬といった動きを表します。
IFRSで日本基準と違いが出やすいのが、子会社株式の追加取得や一部売却の扱いです。支配が継続していれば資本取引として処理し、損益には影響しません。
この記事では、示す情報、支配が継続する持分の変動、非支配持分への配分、配当の注記、株式報酬と自己株式を整理します。
- 持分変動計算書に示す6つの情報
- 支配が継続する持分の変動が資本取引になる理由
- 支配の継続と喪失で処理がどう変わるか
- 包括利益を非支配持分に配分するときの注意点
- 配当に関する注記で示す内容
- 株式報酬と自己株式の資本への影響
📌 結論 資本取引と損益取引を分ける
持分変動計算書は、資本の各項目が期首から期末までどう動いたかを示す計算書です。包括利益による増減、配当による減少、増資や自己株式の取得による増減、株式報酬による増加といった動きを表します。
IFRSで日本基準と違いが出やすいのが、子会社株式の追加取得や一部売却の扱いです。支配が継続している状態での持分の変動は、資本取引として処理し、損益には影響しません。この処理により、持分変動計算書のなかで資本の内訳が振り替えられます。
支配が継続する持分の変動は損益ではなく資本の変動になる
🧭 支配が継続する持分の変動
子会社の株式を追加で取得した場合、日本基準ではのれんを追加で計上することがあります。IFRSでは、支配が継続している限り、この取引は資本取引として扱われ、のれんは追加計上されません。取得した持分に対応する非支配持分の帳簿価額と、支払った対価との差額が、資本の内部で調整されます。
支配の変動を伴わない取引は損益に影響しない
一部売却の場合も同様で、支配が継続していれば売却損益を認識しません。売却により減少する持分に対応する金額と、受け取った対価との差額が資本に計上されます。
一方、支配を喪失する売却では、残存する持分を公正価値で再測定し、売却損益を純損益に認識します。支配の継続と喪失で扱いが大きく変わるため、取引の設計段階から影響を確かめておく必要があります。
📊 非支配持分への配分
包括利益は、親会社の所有者に帰属する部分と非支配持分に帰属する部分に分けて表示します。持分変動計算書でも、この2つを列に分けて示すのが一般的です。
非支配持分への配分を誤ると、1株当たり情報にも影響する
配分の計算は、子会社の損益に持分比率を乗じるだけでは足りません。連結上の調整、のれんの減損、未実現利益の消去といった項目の帰属も考慮する必要があります。
この配分を誤ると、1株当たり当期利益の計算にも影響します。1株当たり情報は親会社の所有者に帰属する当期利益を基礎に計算するため、配分の誤りがそのまま指標の誤りになります。
📊 記載例
持分変動計算書に関する注記のうち、資本の内容を説明する部分の例です。
(1)授権株式数および発行済株式数
| 項目 | 株数 |
|---|---|
| 授権株式数(普通株式) | 40,000,000株 |
| 発行済株式数 期首 | 10,000,000株 |
| 新株予約権の行使による増加 | 200,000株 |
| 発行済株式数 期末 | 10,200,000株 |
| 期末の自己株式数 | 120,000株 |
(2)資本剰余金
会社法では、株式の発行に係る払込金額の2分の1を超えない額は資本金として計上せず、資本準備金として計上することができるとされております。当社は払込金額の2分の1を資本準備金に計上しております。
(3)自己株式
自己株式は、取締役会決議に基づく市場買付によるものであります。
会社名と数値は架空です。株式数の増減は、原因ごとに分けて示します。非支配持分との取引がある場合は、資本剰余金の変動として別に説明します。
支配を維持したままの持分比率の変動は資本取引として扱うため、のれんは動かず資本剰余金が変動します。上場準備の過程で少数株主から買い取る場面では、この説明が必要になります。
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📁 実際の開示事例
株式数の増減と、自己株式の内容を説明している例です。株式分割や信託が保有する株式の扱いも含みます。
24.資本金及び剰余金 (1) 授権株式数、発行済株式数、自己株式数
株式数(無額面普通株式) 項目 前連結会計年度 当連結会計年度 授権株式数 1,000,000,000株 2,000,000,000株 発行済株式数 期首 521,430,854株 1,005,637,616株 自己株式の消却による減少 18,612,046株 27,902,000株 発行済株式数 期末 502,818,808株 977,735,616株 当社保有の自己株式数 期首 8,864,260株 11,237,848株 当社保有の自己株式数 期末 5,618,924株 19,290,839株 (注)1.発行済株式は全額払込済みとなっております。
(注)2.当社は、当社の役員等を対象として、中期業績連動型株式報酬制度を導入しております。本制度は、役員報酬に係る信託の仕組みを採用しており、当連結会計年度において当社普通株式792,000株(株式の取得価額の総額1,638百万円)を保有しております。なお、当該信託が有する当社株式は、連結財政状態計算書において自己株式として表示しております。
(注)3.当社は、2025年4月1日付で普通株式1株につき2株の割合で株式分割を行っております。
出典:味の素株式会社(証券コード2802)「有価証券報告書」(2026年3月期、2026年6月12日提出)連結財務諸表注記 24.資本金及び剰余金
▶ 読み方 株式数の増減を、原因ごとに分けて示しています。この例では自己株式の消却による減少が独立した行になっています。注目したいのは注2で、報酬制度のために信託が保有する自社株式を自己株式として表示している旨を説明している点です。形式上は信託が保有していても、実質的に会社の自己株式として扱うという判断で、その根拠を注記で示しておく必要があります。株式分割を行った場合も、いつ何倍で行ったかを注記します。
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🗂 配当に関する注記
配当については、当期に認識した配当の金額と、1株当たりの金額を示します。また、報告期間後に提案または決議された配当で、まだ負債として認識していないものについても、その金額を注記します。
日本の会社では、期末配当を翌年度の株主総会で決議することが多く、この場合、報告期間末には負債として認識されません。したがって、注記で提案されている配当の金額を示すという扱いになります。
また、配当可能な剰余金に制限がある場合は、その内容も開示します。子会社に配当の制限がある場合や、財務制限条項で配当が制約されている場合が該当します。
⚖️ 株式報酬と自己株式
株式報酬制度がある場合、報酬費用の計上に対応して資本が増加します。この動きも持分変動計算書に表れます。制度の内容、当期の費用の金額、期末の未行使の状況といった情報は、別の注記で示します。
自己株式については、取得と処分の金額、株式数の増減を示します。IFRSでは自己株式は資本の控除項目として扱われ、その取得や処分によって損益は生じません。処分による差額は資本の内部で処理されます。
上場準備の会社では、ストック・オプションや譲渡制限付株式の制度を導入していることが多く、これらの処理が持分変動計算書に反映されます。制度の設計段階で、会計処理と開示への影響を確かめておくと、後の作業が楽になります。
❓ よくある質問
A. IFRSでは支配が継続している限り資本取引として扱い、のれんは追加計上しません。対価との差額は資本の内部で調整されます。
A. 支配が継続していれば認識しません。支配を喪失する場合は、残存持分を公正価値で再測定し売却損益を純損益に認識します。
A. 持分比率を乗じるだけでは足りません。連結上の調整、のれんの減損、未実現利益の消去といった項目の帰属も考慮します。
A. 1株当たり当期利益の計算にも影響します。親会社の所有者に帰属する当期利益を基礎に計算するためです。
A. 株主総会で決議された時点です。報告期間末に未決議であれば負債として認識せず、提案されている金額を注記で示します。
A. 子会社に配当の制限がある場合や、財務制限条項で制約がある場合は、その内容を開示します。
A. IFRSでは自己株式は資本の控除項目として扱われ、取得や処分によって損益は生じません。差額は資本の内部で処理されます。
A. 報酬費用の計上に対応して資本が増加します。制度の内容や未行使の状況は別の注記で示します。
📄 まとめ
持分変動計算書では、資本取引と損益取引を分けて示します。
支配が継続する持分の変動は資本取引として処理し、のれんも売却損益も生じません。
包括利益の非支配持分への配分は、連結上の調整まで含めて計算します。誤ると1株当たり情報にも影響します。
期末配当が未決議であれば負債にせず、提案されている金額を注記で示します。
自己株式は資本の控除項目であり、取得や処分で損益は生じません。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
全体像と適用の準備
財務諸表の表示
- 財政状態計算書の表示
- 包括利益計算書の様式
- その他の包括利益の注記
- 持分変動計算書の注記(この記事)
- キャッシュ・フロー計算書の注記
資産の注記
負債と損益の注記
金融商品とリスクの注記
グループと開示の枠組み
📚 参考(公的な一次情報)
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 金融商品取引法(e-Gov法令検索) 24条の4の4
- 会社法(e-Gov法令検索)
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)