IFRS第16号では、借手は原則としてすべてのリースについて使用権資産とリース負債を計上します。費用として処理するだけの扱いは、短期と少額の免除規定を適用する場合に限られます。
オフィスの賃借、社用車、複合機といった契約が資産と負債として計上され、費用の区分も賃借料から減価償却費と利息費用に変わります。
この記事では、注記に書くこと、契約の識別、リース期間の判断、免除規定、満期分析とキャッシュ・フローを整理します。
- 借手の注記に書く8つの項目
- 契約の一覧づくりから始まる作業の順序
- リース期間の判断で見る5つの要素
- 自動更新の賃貸借でリース期間をどう見るか
- 短期リースと少額リースの免除規定
- リース負債の満期分析とキャッシュ・アウトフロー
📌 結論 借手はほぼすべてを資産と負債に計上する
IFRS第16号では、借手は原則としてすべてのリースについて使用権資産とリース負債を計上します。日本基準のオペレーティング・リースのように、賃借料を費用として処理するだけという扱いは、短期リースと少額リースの免除規定を適用する場合に限られます。
この結果、オフィスの賃借、社用車、複合機といった契約が資産と負債として計上されます。財政状態計算書の規模が変わり、費用の区分も賃借料から減価償却費と利息費用に変わります。
使用権資産と負債の両方について、動きと残高を示す
🧭 契約の識別から始まる
作業の出発点は、契約の一覧を作ることです。リースという名称でなくても、特定された資産の使用を支配する権利が一定期間にわたって移転する契約であれば、リースに該当します。
契約の識別が出発点。契約の一覧がないと始まらない
上場準備の会社でよくあるのが、契約の一覧がそもそもないという状態です。総務が管理している賃貸借契約、各部門が独自に結んだリース契約、子会社が持つ契約が散在していると、網羅的な把握ができません。
契約管理の仕組みを整えることが、リースの会計処理の前提になります。この作業は内部統制の整備とも重なるため、上場準備の早い段階で着手する価値があります。
📊 リース期間の判断
リース負債の金額を大きく左右するのが、リース期間の判断です。解約不能期間に加えて、延長オプションを行使することが合理的に確実であれば、その期間も含めます。
リース期間の判断が、負債の金額を大きく左右する
オフィスの賃貸借では、2年契約で自動更新という形が多く見られます。契約上の期間は2年でも、実際には長期間使い続ける見込みであれば、リース期間はそれより長くなります。
判断の材料としては、内装への投資の大きさ、移転にかかるコスト、代替の物件の有無、過去の更新の実績が挙げられます。この判断は毎期見直し、状況が変わればリース負債を再測定します。
📊 記載例
借手のリースの注記の例です。使用権資産とリース負債の両方について示します。
(1)使用権資産の帳簿価額
| 区分 | 帳簿価額 | 減価償却費 |
|---|---|---|
| 建物 | 1,180 | 320 |
| 車両運搬具 | 96 | 48 |
| その他 | 66 | 22 |
| 合計 | 1,342 | 390 |
(2)損益に認識したその他の金額
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| リース負債に係る金利費用 | 18 |
| 短期リースに係る費用 | 24 |
| 少額資産のリースに係る費用 | 11 |
(3)キャッシュ・アウトフロー
リースに係るキャッシュ・アウトフローの合計額は443百万円であります。
(4)延長オプション
本社および主要な営業所の不動産賃貸借契約には延長オプションが付されており、経営者は行使が合理的に確実であると判断した期間をリース期間に含めております。
会社名と数値は架空です。短期リースと少額資産の免除規定を使った場合は、その費用の金額を示すことが求められます。
リース期間の判断は、借手が延長オプションをどう見たかによって負債の金額が変わる論点です。判断の根拠を注記に一言入れておくと、監査の際の説明が楽になります。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
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📁 実際の開示事例
使用権資産を独立の科目にせず、有形固定資産に含めて表示している例です。
15.リース (1) 借手としてのリース
当社グループでは、多様な形態のリース契約を各社毎に締結しております。リース取引による使用権資産は、主に各社の事務所、工場用地等で構成されております。リース期間は個別資産毎に使用期間を見積っております。リース契約により課されている制限又は特約に重要なものはありません。
使用権資産は、連結財政状態計算書上、有形固定資産に含まれており、当連結会計年度末の帳簿残高は、注記「12. 有形固定資産」に記載しております。
前連結会計年度及び当連結会計年度において、新たに取得した使用権資産の金額はそれぞれ7,350百万円及び34,076百万円です。
リース負債は、リース料の支払期日が1年以内に到来する負債額は流動負債、それ以外を非流動負債とし、それぞれ、連結財政状態計算書上、その他の金融負債(流動負債)及びその他の金融負債(非流動負債)に含まれております。
リース負債の残高(単位:百万円) 区分 前連結会計年度 当連結会計年度 支払期日が1年以内 6,823 8,817 支払期日が1年超 33,883 52,498 合計 40,707 61,315
出典:味の素株式会社(証券コード2802)「有価証券報告書」(2026年3月期、2026年6月12日提出)連結財務諸表注記 15.リース
▶ 読み方 使用権資産を独立の科目にせず有形固定資産に含め、リース負債もその他の金融負債に含めています。IFRSはどちらの表示も認めていますが、含めた場合はどの科目に含めたのかを注記で明示する必要があります。もうひとつ注目したいのが、新たに取得した使用権資産の金額です。この金額は現金の支出を伴わないため、キャッシュ・フロー計算書には表れません。前期の7,350百万円から当期の34,076百万円へ大きく増えており、賃借の動きが読み取れます。
契約の洗い出しからリース期間の判断まで、実務の進め方をご提案します。IFRSの導入支援と上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
🗂 免除規定の適用
短期リースと少額リースについては、使用権資産とリース負債を計上せず、費用として処理する免除が認められています。短期リースはリース期間が12か月以内のもの、少額リースは原資産が少額のものです。
免除を適用する場合、その費用の金額を注記で示します。また、短期リースの免除を適用している場合、報告期間末に約定している短期リースの金額も開示します。
少額の判断基準は基準に金額が明示されていないため、会社が方針を決めます。方針を決めたら、その基準を継続して適用し、注記で説明できるようにしておきます。
⚖️ 満期分析とキャッシュ・フロー
リース負債については、残存期間ごとの金額を示す満期分析が求められます。金融商品の流動性リスクの注記と同じ形式で、割引前のキャッシュ・フローを期間区分ごとに示します。
また、リースに係るキャッシュ・アウトフローの総額も開示します。リース負債の返済、利息の支払、短期リースと少額リースの費用、変動リース料といった支出の合計です。
この情報は、リースを含めた資金の流出の全体像を示すものです。使用権資産とリース負債を計上したことで財務指標が変わるため、実際の資金の動きを併せて示すことに意味があります。上場準備の会社では、借入の財務制限条項にリース負債が影響しないかも確かめておきます。
❓ よくある質問
A. IFRSでは原則としてすべてのリースで使用権資産とリース負債を計上します。費用処理は短期と少額の免除を適用する場合に限られます。
A. 契約の一覧を作ることです。リースという名称でなくても、特定された資産の使用を支配する権利が移転する契約は対象になります。
A. 契約管理の仕組みを整えることが前提になります。内部統制の整備とも重なるため、上場準備の早い段階で着手する価値があります。
A. 解約不能期間に加えて、延長オプションの行使が合理的に確実であればその期間も含めます。
A. 実際に長期間使い続ける見込みであれば、リース期間は契約上の2年より長くなります。内装投資や移転コストが判断の材料になります。
A. 基準に金額が明示されていないため会社が方針を決めます。決めた基準を継続して適用し、注記で説明できるようにします。
A. リース負債の残存期間ごとに、割引前のキャッシュ・フローを期間区分で示します。金融商品の流動性リスクの注記と同じ形式です。
A. リース負債の計上で負債比率などが変わるため、条項に抵触しないかを確かめておきます。
📄 まとめ
借手はほぼすべてのリースで使用権資産とリース負債を計上します。財政状態計算書の規模と費用の区分が変わります。
作業は契約の一覧づくりから始まります。契約が散在していると網羅的な把握ができません。
リース期間の判断が負債の金額を大きく左右します。自動更新の契約では実態に即した期間を見積もります。
短期と少額の免除を適用する場合は、その費用の金額を注記で示します。少額の基準は会社が決めて継続します。
満期分析とキャッシュ・アウトフローの総額も開示します。財務制限条項への影響も併せて確かめます。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
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📚 参考(公的な一次情報)
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 金融商品取引法(e-Gov法令検索) 24条の4の4
- 企業内容等の開示に関する内閣府令(e-Gov法令検索)