ウォークスルーは、業務の起点から終点まで同じ取引1件を追いかけて、流れと統制を確かめる手続です。購買なら発注の依頼から支払と会計処理まで、同じ案件で追います。
目的は統制が機能したかを確かめることではなく、業務が実際にどう流れているかを理解することです。理解ができてはじめて、何を何件確かめるべきかが決まります。
この記事では、運用評価との違い、6段階の進め方、見つかることの例、流れ図と統制の一覧への落とし方、よくある失敗を整理します。
- ウォークスルーと運用評価の違いを5つの観点で整理
- 追跡する1件をどう選び、どう追うか
- 書類を回してもらうのではなく担当者本人に会う理由
- ウォークスルーで見つかる5つの典型
- 成果を流れ図と統制の一覧に落とす方法
- 追跡が途中で切れるなど3つのよくある失敗
図 ウォークスルーの進め方
📌 結論 1件を最後まで追う
ウォークスルーは、業務の起点から終点まで、同じ取引1件を追いかけて流れと統制を確かめる手続です。購買であれば発注の依頼から支払と会計処理まで、販売であれば受注から売上計上と入金までを、同じ案件で追います。
目的は、統制が期間を通じて機能したかを確かめることではありません。業務が実際にどう流れているかを理解し、どこにどんな統制があるかを把握することです。理解ができてはじめて、何を何件確かめるべきかが決まります。順序を逆にして、いきなりサンプルを抽出しても、確かめるべき統制が分かっていない状態では意味のある結論が出ません。
ウォークスルーで設計を確かめてから運用評価に進む
🧭 進め方
追跡する取引は、標準的で流れの分かりやすいものを選びます。金額が大きいものや特殊な案件を選ぶと、例外的な処理が混ざって全体の流れが見えなくなります。まず標準の流れを押さえ、例外の流れは別に確かめるのが順序です。
書類を回してもらうのではなく、工程ごとに担当者本人に会う
重要なのは、書類を回してもらうのではなく、工程ごとに担当者本人に会うことです。書類だけを見ると、押印があるという事実は分かっても、その人が何を見て押したのかは分かりません。本人に、この書類を受け取ったときに何を確かめましたかと聞くと、実態が出てきます。
各工程では、受け取った記録、行った作業、次に渡した記録の3つを確かめます。この3つが工程間でつながっていれば、流れが追えたことになります。つながらない箇所があれば、そこに記録の分断があります。
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📊 何が見つかるか
ウォークスルーで最もよく見つかるのは、文書に書かれた流れと実際の流れのずれです。業務記述書に書かれた順序と違う順で進んでいる、書かれていない工程が挟まっている、担当が変わっているといったずれが出てきます。
記述書どおりでないこと自体より、どちらが実態かを確かめる
ここで大事なのは、記述書と違うこと自体を問題として扱わないことです。実務のほうが合理的に改善されている場合もあります。どちらが実態として妥当かを確かめたうえで、記述書を直すのか、実務を戻すのかを判断してもらいます。
もう1つよく見つかるのが、確かめてはいるが記録が残らない統制です。担当者は毎回内容を確認しているのに、確認したという痕跡が書類にもシステムにも残らないという状態です。この場合、統制としては存在しているが、後から確かめることができません。記録の方法を決めてもらうことが是正になります。
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🗂 流れ図と統制の一覧に落とす
ウォークスルーの成果は、業務の流れ図と、統制の一覧という2つの形に落とします。流れ図には、工程、担当、使う書類やシステム、そして統制の位置を書き込みます。統制の一覧には、統制の内容、実施する人、実施の頻度、記録の残り方を並べます。
この2つがあると、次の年度も同じ作業を一から繰り返す必要がなくなります。翌年は、前年の流れ図を担当者に見せて、変わったところがないかを聞くところから始められます。変更がなければ確認だけで済み、変更があればその部分だけを追い直します。
内部統制報告制度の評価を行っている会社であれば、この2つは業務記述書とフローチャートに相当します。評価のために作った資料が内部監査でも使えますし、逆に内部監査のウォークスルーで得た理解が評価の資料の精度を上げます。両方の作業を重ねる出発点になります。
⚖️ よくある失敗
1つ目は、追跡が途中で切れることです。会計の記録まで追わずに、承認が終わったところで止めてしまうと、その取引が最終的にどう数字になったかが確かめられません。必ず仕訳と残高まで追います。
2つ目は、1件で分かった気になることです。ウォークスルーは流れの理解が目的なので、1件で足ります。しかしそれは統制が機能していることの確認にはなりません。ここで止めて統制は問題ないと結論づけてしまうのが、最も多い誤りです。
3つ目は、聞いた内容を記録に残さないことです。担当者から聞いた説明は、後から思い出せません。工程ごとに、誰に何を聞き、どの記録を見たかを、その場で調書に書きます。日付と相手の氏名まで残しておけば、後から確かめ直すこともできます。
❓ よくある質問
A. 原則として1件で足ります。目的は流れの理解であり、統制が機能したかを確かめる運用評価とは別の手続です。
A. 標準的で流れの分かりやすいものを選びます。金額が大きいものや特殊な案件は例外処理が混ざり、全体の流れが見えにくくなります。
A. 工程ごとに担当者本人に会います。書類だけでは押印の事実は分かっても、その人が何を見て押したのかが分かりません。
A. 違うこと自体を問題として扱わず、どちらが実態として妥当かを確かめます。実務のほうが合理的に改善されている場合もあります。
A. 統制としては存在していても後から確かめられません。記録の方法を決めてもらうことが是正になります。
A. できません。1件の追跡は流れの理解が目的であり、統制が期間を通じて機能したかは運用評価で別に確かめます。
A. 前年の流れ図を担当者に見せて変わったところを聞くところから始められます。変更がなければ確認だけで済みます。
A. 会計の記録まで追います。承認が終わったところで止めると、その取引が最終的にどう数字になったかを確かめられません。
📄 まとめ
ウォークスルーは1件を起点から終点まで追う手続です。目的は流れと統制の理解であり、統制が機能したかの確認ではありません。
書類を回してもらうのではなく、工程ごとに担当者本人に会って何を確かめたのかを聞きます。
成果は流れ図と統制の一覧に落とします。翌年は変更点の確認から始められ、内部統制の評価資料としても使えます。
よくある失敗は、追跡が会計処理まで届かないこと、1件で統制は問題ないと結論づけること、聞いた内容を記録に残さないことです。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
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