従来の内部監査は、母集団から数十件を抽出して確かめる進め方が中心でした。しかし業務システムから明細データを取り出せる領域では、条件を指定して全件を処理するほうが早くて確実です。
抽出には、選ばれなかった明細について何も言えないという限界があります。全件を処理できるなら、その限界がなくなります。
この記事では、データの入手の仕方、条件の作り方、数値の関係から異常を見る方法、使うときの注意点までを整理します。
- データで全件を見るときの着眼点と、領域ごとの抽出条件
- データ分析を5段階で進める手順と、網羅性の確認
- 必要な項目を落とさずに出力を依頼する方法
- 統制の目的から逆算して条件を作る考え方
- 推移や比率、金額帯の分布から異常の兆候を見る方法
- 条件に該当したことをそのまま指摘にしてはいけない理由
📌 結論 抽出よりも全件を先に検討する
従来の内部監査は、母集団から数十件を抽出して確かめるという進め方が中心でした。しかし業務システムから明細データを取り出せる領域では、条件を指定して全件を処理するほうが、早くて確実です。承認のない明細、申請者と承認者が同じ明細といった条件は、データ上で一度に判定できます。
抽出には、選ばれなかった明細については何も言えないという限界があります。全件を処理できるなら、その限界がなくなります。データが取り出せる領域では、まず全件処理ができないかを検討する価値があります。
条件は1つずつ試し、当たった条件を翌年も使う
🧭 データをどう入手するか
データの入手でつまずくのは、何が欲しいかを伝えないまま出力を依頼することです。この画面のデータをくださいという頼み方をすると、必要な項目が落ちた一覧が出てきます。承認者、承認日時、変更履歴といった項目は、標準の帳票には含まれないことが多いためです。
網羅性の確認を飛ばすと、抽出できなかったものが分からない
依頼するときは、確かめたいことと、そのために必要な項目を先に伝えます。承認の分離を確かめたいので申請者と承認者の両方の項目が必要です、という形です。システムの担当者と話せば、出力できる項目とできない項目がはっきりします。
データを受け取ったら、まず件数と合計額を会計の数値と突き合わせます。ここが合わないまま分析に進むと、抽出できなかった明細があることに気づけません。網羅性の確認は、データを使う場合の最初の作業です。
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📊 条件をどう作るか
条件を考えるときは、統制が働いていない状態がデータ上でどう見えるかを想像します。発注の前に納品されていれば、発注日が納品日より後になります。承認の分離が働いていなければ、申請者と承認者の欄が同じになります。統制の目的から逆算すると、条件は自然に出てきます。
最初はうまく当たらないことが多いので、条件は1つずつ試します。該当が多すぎる場合は条件が緩すぎるか、そもそもその運用が常態化しているかのどちらかです。ゼロ件の場合は条件が厳しすぎるか、データの項目が想定と違う可能性があります。
当たった条件は、翌年もそのまま使えます。年を重ねるほど条件が蓄積され、少ない手間で見られる範囲が広がります。この蓄積が、データを使う監査の最大の利点です。
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🗂 数値の関係から異常を見る
明細を条件で絞る方法とは別に、数値の関係や推移から異常の兆候を見つける方法があります。会計監査で分析的手続と呼ばれるものと同じ考え方で、内部監査でも往査の前に使うと、どこを重点的に見るべきかが分かります。
承認基準の直下に山ができるのは、基準を意識した分割のサイン
特に有効なのが、金額帯ごとの件数の分布を見る方法です。承認の基準が1件50万円であれば、49万円台に不自然な山ができていないかを見ます。山ができていれば、基準を回避するために取引を分割している可能性があります。この兆候は、個別の伝票を何件見ても気づけません。
推移や比率を見て気になる点が出たら、往査でその点を担当者に確かめます。データで見つかるのは兆候までで、原因は現場でしか分かりません。データ分析は、往査で聞くことを絞り込むための道具だと考えると使いやすくなります。
⚖️ 使うときの注意点
1つ目は、条件に該当したことをそのまま指摘にしないことです。該当した明細には、正当な理由があるものが必ず混ざります。緊急の対応で事後承認になった、システムの都合で日付がずれた、といった事情を確かめてから指摘にします。
2つ目は、データの範囲を調書に書くことです。どのシステムから、どの期間の、どの条件で出力したデータかを書いておかないと、後から同じ結果を再現できません。出力の画面を印刷して添付しておくのが確実です。
3つ目は、データで見えないものがあることを忘れないことです。承認の記録があっても、内容を見ずに押していれば統制は機能していません。データによる全件処理と、現場での確認を組み合わせることで、はじめて結論が出せます。
❓ よくある質問
A. 表計算ソフトでも始められます。件数の多い領域では専用のツールが役立ちますが、まずは出力したデータを表計算で絞り込むところから始めれば十分です。
A. 確かめたいことと必要な項目を先に伝えます。承認者や変更履歴といった項目は標準の帳票に含まれないことが多いため、項目を指定して依頼します。
A. まず件数と合計額を会計の数値と突き合わせます。網羅性を確かめずに進むと、抽出できなかった明細があることに気づけません。
A. 統制が働いていない状態がデータ上でどう見えるかを想像します。発注の前に納品されていれば発注日が納品日より後になる、という形で逆算します。
A. 条件が緩すぎるか、その運用が常態化しているかのどちらかです。まず現場に確認し、常態化しているなら運用そのものを指摘の対象にします。
A. 承認基準の直下に不自然な山ができていれば、基準を回避するために取引を分割している可能性があります。個別の伝票を見ても気づけない兆候です。
A. 正当な理由があるものが必ず混ざります。緊急の対応で事後承認になった、システムの都合で日付がずれたといった事情を確かめてから指摘にします。
A. 承認の記録があっても内容を見ずに押していれば統制は機能していません。データによる全件処理と現場での確認を組み合わせる必要があります。
📄 まとめ
データが取り出せる領域では、抽出より先に全件処理ができないかを検討します。選ばれなかった明細について何も言えないという限界がなくなります。
データの入手では、確かめたいことと必要な項目を先に伝え、受け取ったら件数と合計額で網羅性を確かめます。
条件は統制の目的から逆算して作ります。当たった条件は翌年も使えるため、年を重ねるほど見られる範囲が広がります。
金額帯の分布は、承認基準を回避する分割のような、個別の伝票では気づけない兆候を見せてくれます。
データで見つかるのは兆候までです。原因は現場でしか分からないため、往査で聞くことを絞り込む道具として使います。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
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