内部監査の人数と体制|1人で回せるかと3年一巡の設計

内部監査に何人必要かという質問には、法令にも上場審査基準にも答えがありません。専任1名、あるいは兼務1名という体制で上場している会社は実際に多くあります。

ただし、人数が少ないこと自体は問題にならなくても、限られた人員で全体をどう見るかという設計がないと、監査していない領域が何年も放置されます。ここが審査で問われます。

この記事では、人員体制ごとに現実的に実施できる分量と、3年で一巡させる監査サイクルの作り方、そして人を増やすべき局面を整理します。

この記事でわかること

  • 内部監査の人数に基準がない理由
  • 兼務1名で年に何テーマ実施できるか
  • 3年で全体を一巡させる監査サイクルの組み立て
  • 1人体制で弱くなる点とその補い方
  • 人員の追加を検討すべき3つの局面
1人で回せるか監査の対象と会社の規模を確かめる拠点や子会社が複数あるか複数名または外部の支援を検討はいいいえ監査の対象を3年で一巡できないか体制を増やすか範囲を絞るはいいいえITや海外など専門性が必要な領域があるか外部の専門家の力を借りるはいいいえ1人でも年度計画を立てれば回せる

図 内部監査の体制をどう組むかの判定

📌 結論 人数の基準はなく、一巡の設計が問われる

図1 人員体制ごとの現実的な回し方体制1年で見る範囲補い方専任1名主要プロセスを一巡子会社は隔年に回す兼務1名年3から4テーマ3年で全体を一巡する計画にする兼務2名年5から6テーマ相互レビューで調書の質を保つ専任1名と兼務1名主要プロセスと子会社繁忙期の分担をあらかじめ決める

人数よりも、何年で全体を一巡するかを決めているかどうかが問われます。

内部監査に必要な人数を定めた法令はありません。上場審査でも、何人以上という基準は示されていません。実際に、専任1名あるいは兼務1名という体制で上場している会社は多くあります。

問われるのは人数ではなく、限られた人員で全体をどう見るかという設計です。1年ですべての業務プロセスを監査できないのであれば、何年かけて一巡させるのかを決め、その根拠を計画書に残します。

逆に、人数が足りているように見えても、毎年同じ部門ばかり監査していると、リスクの高い領域が何年も見られていないことになります。人数の議論より先に、対象の網羅性を確認してください。

🧭 1人体制で何ができるか

図2 1人体制で起きやすいこと起きることなぜ起きるか対策調書のレビューがない上位者がいない管掌役員か監査役にレビューを依頼する繁忙期に監査が止まる兼務先の業務が優先される年間計画で実施月を先に押さえる担当者交代で記録が途切れる様式が個人依存手続書と調書の様式を標準化し共有する同じ部門ばかり見る関心のある領域に偏るリスク評価の結果を計画書に残す

1人体制そのものは否定されません。止まった記録が残ることが問題になります。

兼務1名の体制で現実に実施できるのは、年に3から4テーマです。1テーマあたり、予備調査に2から3日、往査に2日、調書と報告書の作成に3から4日を見込みます。これを兼務先の業務の合間に入れると、四半期に1テーマが上限になります。

この前提で年間計画を立てると、無理のない設計になります。年8テーマと書いて4テーマしか実施できなかった記録より、年4テーマと書いて4テーマ実施した記録のほうが、審査での説明がつきます。

1人体制でとくに弱くなるのが、調書のレビューです。通常は監査人が作成した調書を上位者が確認しますが、1人ではその工程がありません。内部監査部門を管掌する役員か、監査役にレビューを依頼し、レビューした記録を調書に残してください。

もうひとつ、担当者が退職すると監査が止まります。手続書と調書の様式を標準化し、共有フォルダに集約しておけば、後任が同じ手順を再現できます。属人化した内部監査は、継続性の面で審査に耐えません。

📄 監査サイクルの組み立て

図3 3年で一巡させる監査サイクルの作り方業務プロセスを10前後の単位に分ける各プロセスのリスクを高中低で評価する高リスクは毎年、中は2年に1度、低は3年に1度と決める年度ごとに割り付けて3か年の表にする取締役会に3か年計画として報告する

毎年すべてを見る必要はありません。頻度に差をつけた根拠が計画書に残っていれば足ります。

3年で一巡させる設計が実務では一般的です。まず業務プロセスを10前後の単位に分けます。販売、購買、在庫、固定資産、経費精算、人事労務、資金、情報システム、子会社管理、というような区切り方です。

次に、それぞれのリスクを高中低で評価します。金額の大きさ、不正が起きたときの影響、過去の指摘の有無、担当者の交代の有無などを見ます。この評価の記録が、なぜその年にその部門を選んだのかの説明になります。

高リスクのプロセスは毎年、中リスクは2年に1度、低リスクは3年に1度という頻度を決め、3か年の表に落とします。この表を取締役会に報告しておけば、単年度の計画だけを見て網羅性を疑われることがなくなります。

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📊 人を増やすべき局面

次のいずれかに当てはまるときは、人員の追加を検討してください。第1に、子会社が複数あり、往査に出張を伴う場合です。移動日を含めると1社あたりの日数が倍近くになります。

第2に、財務報告に係る内部統制の評価を内部監査部門が兼ねている場合です。評価作業は期末に集中し、その時期の業務監査が止まります。上場後は内部統制報告書の提出が必要になりますので、申請期までに体制を作っておく必要があります。

第3に、直近の監査で重要な指摘が複数出ている場合です。フォローアップに時間を取られ、新しいテーマに着手できなくなります。

増員が難しい場合は、特定のテーマだけを外部に委託する選択肢があります。全部を任せるのではなく、ITや労務のように専門性が高い領域だけを切り出す形が現実的です。

🗂 時間の記録を残す

審査では、内部監査に年間どれくらいの時間を使っているかを聞かれます。兼務者の場合、この数字が答えられないことが多くあります。

調書に作業日と作業時間を記録しておけば、年間の投入時間が集計できます。1テーマあたり7から9日、年4テーマで30日前後、という数字が出せれば、体制の説明として十分です。

時間の記録は、増員を経営陣に説明するときの根拠にもなります。感覚で足りないと訴えるより、実績の時間と計画の乖離を示すほうが通ります。

⚖️ 上場審査での見られ方

審査では、年度計画、実施した監査のテーマと日程、報告書、フォローアップの記録が求められます。計画に対する実施率が低いと、体制が機能していないと判断されます。

また、監査していない領域について、なぜ選ばなかったのかを聞かれます。3か年の監査サイクルとリスク評価の記録があれば、この質問に答えられます。

人員が1名であること自体を理由に不合格になることはありません。ただし、その1名が退職したときに監査が止まる設計であれば、継続性の面で指摘されます。手続書と調書の標準化は、そのための備えでもあります。

❓ よくある質問

Q. 内部監査は何人必要ですか。

A. 人数の基準を定めた法令も審査基準もありません。何年で全体を一巡させるかの設計があるかどうかが問われます。

Q. 兼務1名で年に何テーマ実施できますか。

A. 1テーマあたり7から9日が目安ですので、年3から4テーマが現実的な上限です。

Q. 毎年すべての部門を監査する必要がありますか。

A. ありません。リスク評価にもとづいて頻度に差をつけ、3年程度で一巡する計画にするのが一般的です。

Q. 1人体制で調書のレビューはどうしますか。

A. 管掌役員または監査役にレビューを依頼し、レビューした記録を調書に残してください。

Q. 担当者が辞めたら監査が止まりませんか。

A. 手続書と調書の様式を標準化し共有フォルダに集約しておけば、後任が同じ手順を再現できます。

Q. 人を増やすべきなのはどんなときですか。

A. 子会社への往査がある場合、内部統制評価を兼ねている場合、重要な指摘のフォローアップが重なっている場合です。

Q. 一部だけ外部に委託できますか。

A. できます。ITや労務のように専門性が高い領域を切り出す形が現実的です。

Q. 年間の投入時間はどう示しますか。

A. 調書に作業日と作業時間を記録しておけば集計できます。審査で聞かれる項目です。

📄 まとめ

内部監査の人数に法令上の基準はありません。問われるのは、限られた人員で全体をどう見るかの設計です。

兼務1名なら年3から4テーマが現実的です。実施できない計画を書くより、実施できる計画を書いて守ってください。

業務プロセスを10前後に分け、リスク評価にもとづいて頻度に差をつけ、3年で一巡する表を作ります。

1人体制では調書のレビューと様式の標準化が要点になります。属人化した内部監査は継続性を疑われます。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

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