内部監査を数年続けていると、同じ指摘が毎年出てくる状態に突き当たります。担当部署の意識が低いからだと考えたくなりますが、原因は是正案のほうにあることがほとんどです。
徹底する、周知する、注意するといった是正案は、翌年も同じ指摘を生みます。統制が守られない理由は、手順の設計、人員の配置、引き継ぎの仕組み、守る動機のいずれかに帰着します。
この記事では、繰り返される指摘の5つの型、原因のたどり方、原因別の是正の方向、そして監査の側の見直しまでを整理します。
- 繰り返される指摘の5つの型と、それぞれの本当の原因
- 過去3年分の指摘から繰り返しを見つける4段階の手順
- ありがちな是正案と有効な是正案の違い
- 手順が実務と合っていない場合にどう直すか
- 守る動機がない状態をどう変えるか
- 監査の側の視点が古くなっていないかの確認
図 同じ指摘が繰り返される原因の切り分け
📌 結論 同じ指摘が続くのは是正案の問題
内部監査を数年続けていると、同じ指摘が毎年出てくる状態に突き当たります。担当部署の意識が低いからだと考えたくなりますが、実務で見ていると、原因は是正案のほうにあることがほとんどです。徹底する、周知する、注意するといった是正案は、翌年も同じ指摘を生みます。
繰り返しの指摘を減らすには、なぜ守れなかったのかを分類し、原因に応じた是正の方向を選ぶ必要があります。統制が守られない理由は、意識の問題であることは実は少なく、手順の設計、人員の配置、引き継ぎの仕組み、守る動機のいずれかに帰着します。
型を見分けないと、同じ是正案を繰り返し出すことになる
🧭 繰り返しをどう見つけるか
まず、過去3年分の指摘を一覧にして分類します。部署別、業務別、指摘の種類別に並べると、繰り返されている項目が浮かび上がります。この作業は年度の総括の一部として行うと、翌年度の計画に直結します。
是正案の中身を並べると、毎回同じ案だったことが見えてくる
次に、その項目に対して過去に出した是正案を並べて比べます。毎回同じ案を出していたことが見えれば、監査の側にも改善の余地があることが分かります。是正案が同じなのに結果が変わることは期待できません。
そのうえで、現場に守れなかった理由を直接聞きます。責める形にならないよう、仕組みのどこに無理があるかを一緒に探すという姿勢で臨みます。ここで出てくる話が、原因を特定するうえで最も有力な情報になります。
過去の指摘の分類から是正案の設計まで、繰り返しを止める形に整理します。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の導入、内部監査対応を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
📊 原因別に是正の方向を変える
手順が実務の流れと合っていない場合、手順を守らせようとしても無理があります。この場合の是正は、手順そのものを実務に合わせて変えることです。承認の順序が業務の流れと逆になっている、記録する項目が多すぎて時間内に終わらないといった状態は、設計の問題です。
徹底するという是正案は、ほとんどの場合また同じ指摘につながる
人員が足りない場合も同様です。1人の承認者にすべてが集中していれば、繁忙期には承認が滞ります。この状態で担当者に注意を促しても改善しません。承認者を分散する、金額の区分を見直して承認の件数そのものを減らすといった設計の変更が必要になります。
引き継ぎの問題は、手順書の有無で決まります。前任者のやり方を口頭で引き継いでいる限り、担当が代わるたびに同じ問題が起きます。手順書と、着任時に確認する項目の一覧を作ることが是正になります。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら
🗂 守る動機をどう作るか
最も難しいのが、守らなくても何も起きないという状態です。この場合、周知や研修では変わりません。有効なのは、実施されていないことが自動的に把握される仕組みを入れることです。
たとえば、承認の記録がないまま処理が進められないようにシステム側で制御する、月次で未実施の件数が集計されて上長に共有される、といった形です。人の意識に頼らず、実施されていない事実が見える状態にすることが、結果として最も効きます。
それが難しい場合でも、次善の策として、是正の完了確認を厳しくするという方法があります。完了の報告を受けるだけでなく、証拠の提示を求め、翌年度の往査で改めて確かめると事前に伝えておきます。確認されることが分かっていれば、対応の優先度が上がります。
⚖️ 監査の側を見直す
繰り返しの指摘が続くとき、監査の側にも原因があることがあります。毎年同じ手続を同じ順序で行っていると、同じ論点しか見つかりません。すでに解決した領域を見続け、新しく生じたリスクを見落としているという状態です。
年度計画を作る際に、リスク評価をやり直します。事業の内容が変わった、新しいシステムを導入した、拠点が増えたといった変化があれば、見るべき対象も変わります。前年度の計画をそのまま踏襲すると、この変化が反映されません。
また、繰り返しの指摘については、重要度の区分を見直すことも検討します。何年も同じ指摘が改善されない状態は、個々の事実としては軽微でも、統制が機能していないという意味では重い問題です。重要度を上げて報告することで、経営の関与を促すという使い方もあります。
❓ よくある質問
A. 意識の問題であることは実は少なく、手順の設計、人員の配置、引き継ぎの仕組み、守る動機のいずれかに原因があることがほとんどです。
A. 過去3年分の指摘を部署別・業務別・種類別に分類します。年度の総括の一部として行うと、翌年度の計画に直結します。
A. ほとんどの場合また同じ指摘につながります。何をどう変えるのかが具体的に書かれていない是正案は実行されません。
A. 手順そのものを実務に合わせて変えることが是正になります。守らせようとするより、守れる形に設計し直すほうが確実です。
A. 承認者を分散する、金額の区分を見直して承認の件数を減らすといった設計の変更を検討します。注意喚起では改善しません。
A. 実施されていないことが自動的に把握される仕組みを入れるのが最も効きます。システムでの制御や、未実施件数の月次集計と共有といった形です。
A. 証拠の提示を求め、翌年度の往査で改めて確かめると事前に伝えておきます。確認されることが分かっていれば対応の優先度が上がります。
A. あります。毎年同じ手続を同じ順序で行っていると同じ論点しか見つかりません。年度計画の際にリスク評価をやり直し、対象を見直します。
📄 まとめ
同じ指摘が続く原因は、現場の意識ではなく是正案の設計にあることがほとんどです。
過去3年分の指摘と、それに対する是正案を並べて比べると、毎回同じ案を出していたことが見えてきます。
原因が手順の設計にあるなら手順を変え、人員にあるなら統制の設計を変えます。守らせる方向ではなく守れる形にするのが基本です。
守る動機がない状態には、実施されていないことが自動的に把握される仕組みが最も効きます。
監査の側の視点が古くなっていないかも点検します。リスク評価をやり直さないと、解決済みの領域を見続けることになります。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
体制と立ち上げ
- 内部監査規程には何を書くか
- 内部監査基準と規程
- 内部監査は誰が担当するか
- 内部監査は何人必要か
- 内部監査を外部に委託できるか
- 内部監査室はいつ設置するか
- 内部監査室の立ち上げ90日
- 内部監査の年間スケジュール
- 3ラインモデルと内部監査
- 企業統治の指針と内部監査
- 内部監査の助言はどこまで
計画とリスク評価
手続と実施
報告とフォローアップ
- 内部監査報告書には何を書くか
- 指摘事項はどう区分するか
- 改善のフォローアップはどう回すか
- 経営者が是正しないとき
- 内部監査の指摘が減らないとき(この記事)
- 内部監査の品質をどう保つか
業務別の監査
- 購買と支払の内部監査
- 販売と売上計上の内部監査
- 現金預金と経費精算の内部監査
- 棚卸資産と固定資産の内部監査
- 労務管理の内部監査
- ITの内部監査
- 予算実績管理の内部監査
- 関連当事者取引の内部監査
- 契約管理の内部監査
- 子会社の内部監査
不正への対応
内部統制報告制度
通報と監査役との連携