経営者が是正しないとき|リスクの受容と内部監査の対応

内部監査が指摘を出しても、経営者が是正しないと判断することがあります。このとき内部監査がとるべき態度は、判断を覆させることではありません。

リスクを引き受けるかどうかは経営の判断です。内部監査の役割は、判断に必要な事実と影響を示し、その判断が記録に残る状態を作ることにあります。

この記事では、是正されない4つの型、事実の確認から受容の記録までの5段階、報告書での書き方、監査役等への報告、翌年度以降の扱いを整理します。

この記事でわかること

  • 是正されない4つの型と、それぞれへの対応
  • まず事実の認識のずれを確かめるべき理由
  • 受容の記録に残す5つの項目
  • 誰が判断したかを明記することの意味
  • 報告書で使う表現と、避けたほうがよい表現
  • 受容された事項を翌年度以降どう管理するか

📌 結論 受容そのものは否定しない

内部監査が指摘を出しても、経営者が是正しないと判断することがあります。このとき内部監査がとるべき態度は、判断を覆させることではありません。リスクを引き受けるかどうかは経営の判断であり、内部監査の役割は、判断に必要な事実と影響を示し、その判断が記録に残る状態を作ることです。

内部監査人協会の枠組みでも、経営者が組織にとって受け入れられない水準のリスクを受容したと内部監査部門長が判断した場合には、その事項について協議し、解決しなければ統治機関に報告するという考え方が示されています。判断を止める権限はないが、上位に伝える経路は確保されているという構図です。

是正されない4つの型と対応経営の言い分内部監査の対応受容の判断リスクは認識したうえで受け入れる判断の記録を残し上位に報告する費用対効果直すコストが見合わない影響の見積りを示して再検討を促す優先順位今期は他を優先する期限を定めて翌期の計画に載せる認識のずれそこまでのリスクではない事実と影響の説明をやり直す

受容という判断自体は否定しない。記録が残るかが分かれ目

🧭 まず事実の確認に戻る

是正されない場面に出くわしたら、最初にやるべきなのは事実の確認です。経営が是正しないと言う理由の多くは、リスクを軽く見ているのではなく、内部監査が示した事実とは違う認識を持っていることにあります。

是正されないときの5段階事実の認識に相違がないかをもう一度確認するリスクが顕在化した場合の影響を金額と事象で示すそれでも受容するなら、誰の判断かを文書で確認する受容の記録を報告書に残し監査役等にも報告する翌年度の監査で状況が変わっていないかを確かめる

受容の判断を口頭で終わらせると、後で誰も責任を負えない

たとえば、承認が形だけになっているという指摘に対し、経営者は担当者が実質的に確認していると理解している場合があります。この認識のずれは、確かめた事実を具体的に示すことで解消できます。何件のうち何件で、どういう状態だったかを示すと、議論が事実の上で進みます。

それでも判断が変わらない場合は、リスクが顕在化したときの影響を示します。金額で示せるなら金額を、示せないなら起こりうる事象を書きます。上場準備の会社であれば、審査での説明が難しくなるという影響も現実的な材料になります。

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📊 受容を記録に残す

受容するという判断が固まったら、それを記録に残します。残すのは、受容の対象となる事項、リスクの内容と影響、受容を判断した人、判断の理由、見直しの時期の5点です。

ここで重要なのが、誰が判断したのかを明確にすることです。会社としては対応しない方針という書き方だと、後から誰も責任を負えません。経営者や担当役員の判断であることを書いておけば、その人が状況の変化を踏まえて見直すという道筋もできます。

報告書には、指摘を落とすのではなく、受容されたものとして記載します。落としてしまうと、翌年度以降にその論点が存在したことすら分からなくなります。上場審査の局面で、過去に指摘があったが受容されたという経緯を説明できることは、体制が動いていた証拠にもなります。

報告書での書き方の例場面書かないほうがよい表現書くとよい表現受容された指摘対応されなかった経営者の判断によりリスクを受容判断の主体会社は対応しない方針誰が受容を判断したかを明記する影響の記載重大なリスクがある顕在化した場合の影響を具体的に監査の立場改善を強く求める事実と影響を示し判断は経営に委ね翌年の扱い記載を落とす受容が継続していることを再掲する

表現を整えることが、次年度以降の議論を可能にする

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🗂 監査役等への報告

受容されたリスクのうち、影響が大きいと内部監査が判断するものについては、監査役等にも報告します。経営者への報告だけで終わると、経営者自身の判断について誰も検証しない構図になるためです。

報告の仕方は、事実と影響を淡々と伝える形にします。経営者の判断が誤っていると主張するのではなく、こういう指摘があり、こう判断され、影響としてはこう考えられる、という整理を示します。判断するのは監査役等であり、内部監査は材料を提供する立場です。

この経路を機能させるには、報告の仕組みが事前に規程で定まっていることが必要です。事案が起きてから経路を作ろうとすると、報告すること自体が対立と受け取られます。平時から、経営者と監査役等の双方に報告する運用にしておけば、特別なことをしているように見えません。

⚖️ 翌年度以降の扱い

受容された事項は、翌年度の監査計画に残します。状況が変わっていないかを確かめるためです。事業の規模が変わった、担当者が代わった、実際に事象が発生したといった変化があれば、受容の前提が崩れている可能性があります。

確認の方法は簡単で、前年度に受容された事項の一覧を作り、それぞれについて前提が変わっていないかを聞くだけです。変わっていなければ受容が継続していることを記録し、変わっていれば改めて指摘として出します。

この繰り返しによって、受容された事項が忘れられずに管理されている状態が作れます。審査で問われるのは、指摘が全部解消されているかではなく、解消されていない事項が把握され管理されているかです。受容の記録と年次の確認があれば、その説明ができます。

❓ よくある質問

Q. 経営者が是正しないと言ったら諦めるしかないですか

A. 判断を覆させることは役割ではありませんが、事実と影響を示し、受容の判断が記録に残る状態を作ることはできます。影響が大きければ監査役等にも報告します。

Q. まず何をすべきですか

A. 事実の確認に戻ります。是正しない理由の多くは、内部監査が示した事実とは違う認識を持っていることにあります。件数と状態を具体的に示すと議論が進みます。

Q. 受容の記録には何を書きますか

A. 対象となる事項、リスクの内容と影響、受容を判断した人、判断の理由、見直しの時期の5点です。

Q. 誰が判断したかを書く必要がありますか

A. 必要です。会社としての方針という書き方だと後から誰も責任を負えません。判断した人を書いておけば、状況の変化を踏まえた見直しの道筋もできます。

Q. 受容された指摘は報告書から落としてよいですか

A. 落とさず、受容されたものとして記載します。落とすと翌年度以降にその論点が存在したことすら分からなくなります。

Q. 監査役等への報告は経営者との対立になりませんか

A. 平時から双方に報告する運用にしておけば特別なことには見えません。事案が起きてから経路を作ろうとすると対立と受け取られます。

Q. 翌年度はどう扱いますか

A. 受容された事項の一覧を作り、前提が変わっていないかを確かめます。変わっていなければ継続を記録し、変わっていれば改めて指摘として出します。

Q. 審査では未解消の指摘があると不利ですか

A. 全部解消されている必要はありません。解消されていない事項が把握され管理されているかが問われます。受容の記録と年次の確認があれば説明できます。

📄 まとめ

リスクを受容するという判断自体は否定しません。内部監査の役割は判断の材料を示し、判断を記録に残すことです。

是正されない場面ではまず事実の確認に戻ります。認識のずれが原因であることが少なくありません。

受容の記録には、誰が判断したかを必ず書きます。方針という書き方では後から誰も責任を負えません。

影響が大きい受容は監査役等にも報告します。平時から双方に報告する運用にしておくことが前提になります。

受容された事項は翌年度の計画に残し、前提が変わっていないかを毎年確かめます。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

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