サンプリングの相談で最も多いのは、何件見ればよいのかという質問です。しかし実務で問題になるのは件数よりも母集団です。母集団が正しくなければ、何件確かめても何も言えません。
件数については、統制の実施頻度に応じた目安が広く使われています。内部統制報告制度の評価でも同じ考え方が使われるため、両方の作業を重ねやすいという利点があります。
この記事では、母集団の定義から件数の決め方、抽出の方法、逸脱が見つかったときの扱い、データで全件を見るという選択までを整理します。
- 母集団の定義と網羅性の確かめ方
- 統制の実施頻度に応じた件数の目安
- 件数を増やす判断と減らせる場面
- 5つの抽出方法と、それぞれの向いている場面
- 特定項目抽出の結果を全体に広げてはいけない理由
- 逸脱が見つかったときに追加で何を確かめるか
図 サンプル件数の決め方
📌 結論 件数より母集団が先
サンプリングの相談で最も多いのが、何件見ればよいのかという質問です。しかし実務で問題になるのは件数よりも母集団です。母集団が正しく定義されていなければ、何件確かめても、その領域について何かを言うことはできません。
母集団とは、確かめようとしている統制が適用されるはずの取引や事象の全体です。当期に承認を経るべき購買の全件、当期に検収された全件、といった形で定義します。定義したら、その件数が正しいかをシステムの出力や伝票の連番で確かめます。ここまでできてはじめて、抽出の話に進めます。
母集団が正しくなければ、何件確かめても意味がない
🧭 件数をどう決めるか
件数の決め方には統計的な方法と、そうでない方法があります。統計的サンプリングは、母集団のなかの逸脱の割合を一定の信頼度で推定できるという利点がありますが、必要な件数が多くなりがちで、少人数の内部監査では負担が大きくなります。
実務では、統制の実施頻度に応じた件数の目安が広く使われています。年に1回しか行われない統制なら1件、日常的に繰り返される統制なら25件程度、という形です。内部統制報告制度の評価でも同じ考え方が使われるため、両方の作業を重ねやすいという利点があります。
目安であって決まりではない。監査法人と事前にすり合わせる
ただし、これはあくまで目安です。過去に不備が見つかっている統制、担当者が交代した統制、リスクが高いと評価した領域については、件数を増やす判断をします。逆に、システムで自動的に行われる統制については、設定が変わっていないことを確かめれば少ない件数でも足りることがあります。
件数を決めたら、なぜその件数にしたのかを調書に書きます。件数そのものより、根拠が説明できることのほうが後から問われます。
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📊 抽出の方法を選ぶ
件数が決まったら、どう選ぶかを決めます。無作為に選ぶ、一定の間隔で選ぶ、金額の大きいものを選ぶ、条件に当たるものを選ぶという方法があり、確かめたいことによって使い分けます。
特定項目抽出の結果を母集団全体に広げて結論づけない
注意したいのは、特定項目抽出の位置づけです。期末に集中した取引だけを選ぶ、特定の担当者の取引だけを選ぶという抽出は、リスクの高いところを狙って見るという意味では有効ですが、その結果を母集団全体に広げることはできません。3件見て問題がなかったから全体も問題ない、とは言えないためです。
調書には、どの方法で抽出したかと、抽出した明細の一覧を残します。一覧は証憑を確かめる前に貼っておきます。後から貼ると、都合の悪いものを外したのではないかという疑いを否定できません。
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🗂 逸脱が見つかったとき
抽出した件数のなかに、統制が行われていないものが見つかった場合の扱いを決めておきます。1件でも見つかれば、まずその原因を確かめます。担当者が失念したのか、手続そのものが曖昧なのか、システムの設定が変わったのかで、意味が違います。
原因が個別の失念であれば、追加で件数を増やして他にも同じことが起きていないかを確かめます。原因が手続やシステムにあるのであれば、件数を増やす意味はありません。母集団の全体に及ぶ問題として扱い、対象の期間の全件を確かめるか、統制そのものの不備として報告します。
この判断を現場でその場で行うのは難しいので、逸脱が見つかったときの進め方を事前に決めておくと迷いません。追加で何件見るか、どの時点で上長に報告するかを手続書に書いておきます。
⚖️ データで全件を見るという選択
近年は、システムから全件のデータを取り出して確かめるという方法が使いやすくなっています。承認の記録が電子で残っていれば、承認がない明細を抽出する、承認者と申請者が同じ明細を抽出する、といった処理はデータ上で全件に対して行えます。
全件を見られる場合、サンプリングの議論そのものが不要になります。件数の根拠を説明する必要もなく、母集団の網羅性さえ確かめれば結論が出せます。取り出せるデータがある領域では、まず全件処理ができないかを検討する価値があります。
ただし、データで確かめられるのは記録の有無や項目の整合までです。承認が形だけになっていないか、確かめた内容が妥当かといった点は、結局のところ現物や証憑に当たる必要があります。データによる全件処理と、抽出による深い確認を組み合わせるのが現実的な形です。
❓ よくある質問
A. 統制の実施頻度に応じた目安が使われます。年次なら1件、四半期ごとなら2件、日常反復する統制なら25件程度が広く用いられています。目安であり、監査法人と事前にすり合わせます。
A. 過去に不備が見つかっている統制、担当者が交代した統制、リスクが高いと評価した領域では件数を増やします。逆に自動化された統制は設定の確認で足りることがあります。
A. システムの出力件数や伝票の連番で網羅性を確かめます。母集団の件数が正しいと言えなければ、抽出の議論に進めません。
A. 確かめたいことによります。偏りを避けたいなら無作為、金額がリスクに直結するなら金額基準、期末や特定の担当者に着目したいなら特定項目抽出を使います。
A. その結果を母集団全体に広げることはできません。リスクの高いところを狙って見るという位置づけで、全体についての結論は別に導く必要があります。
A. 証憑を確かめる前に貼ります。後から貼ると、都合の悪いものを外したのではないかという疑いを否定できません。
A. まず原因を確かめます。個別の失念であれば件数を増やして他にないか確かめ、手続やシステムに原因があるなら母集団全体の問題として扱います。
A. 有効な方法です。承認がない明細や、承認者と申請者が同じ明細の抽出はデータ上で全件処理できます。ただし承認が形だけでないかは証憑に当たる必要があります。
📄 まとめ
サンプリングは件数より母集団が先です。母集団が正しく定義され網羅性が確かめられていなければ、何件見ても結論は出せません。
件数は統制の実施頻度に応じた目安を使い、リスクに応じて増減します。件数そのものより根拠が説明できることが重要です。
特定項目抽出の結果を母集団全体に広げてはいけません。狙って見るという位置づけを明確にします。
逸脱が見つかったときの進め方は事前に決めておきます。追加で何件見るか、いつ上長に報告するかを手続書に書いておくと迷いません。
取り出せるデータがある領域では、まず全件処理ができないかを検討します。件数の議論そのものが不要になります。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
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