税務調査で社長がいちばん気にされるのは、追徴税額よりも「取引先に連絡が行くのかどうか」であることが少なくありません。長く付き合ってきた得意先に税務署から電話が入り、自社の取引について問い合わせが行く。それだけで、翌期以降の関係に影響するのではないかと考えてしまいます。
これがいわゆる反面調査です。取引先に迷惑をかけたくないという気持ちは自然なものですが、感情で止められるものではありません。止まるとすれば、それは「自社の資料だけで事実が確かめられる」状態になっているときです。
この記事では、反面調査が条文のどこに位置づけられているのか、本人に対する調査と手続がどう違うのか、そして反面調査に至らせないために自社で何ができるのかを、条文と国税庁の公表資料に沿って整理します。
この記事の見出し
🧭 反面調査とは何か|条文のどこに書かれているか
まず押さえておきたいのは、「反面調査」という言葉そのものは、国税通則法の条文には出てこないということです。条文にあるのは、質問検査等の相手方となる者の範囲です。
二 法人税又は地方法人税に関する調査 次に掲げる者
イ 法人…
ロ イに掲げる者に対し、金銭の支払若しくは物品の譲渡をする義務があると認められる者又は金銭の支払若しくは物品の譲渡を受ける権利があると認められる者(国税通則法第74条の2第1項第2号)
法人税の調査で質問検査等の相手方になるのは、調査を受ける法人そのもの(イ)だけではありません。その法人に対して金銭を支払う義務がある者や金銭の支払を受ける権利がある者、つまり売上先や仕入先も、条文上は最初から相手方に含まれています。この、イ以外の者に対して行われる調査が、実務で反面調査と呼ばれています。
「反面調査」という語が公的な資料に現れるのは、国税庁の事務運営指針です。調査時における手続の一項目として、次の定めが置かれています。
(6) 反面調査の実施 取引先等に対する反面調査の実施に当たっては、その必要性と反面調査先への事前連絡の適否を十分検討する。(注)反面調査の実施に当たっては、反面調査である旨を取引先等に明示した上で実施することに留意する。(調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について)
どちらも法第74条の2第1項第2号にもとづく質問検査等です
| 条文上の区分 | 誰が当てはまるか |
|---|---|
| 第2号イ | 調査の対象となる法人そのもの |
| 第2号ロ(支払義務がある者) | 自社に代金を支払う立場の相手。売上先など |
| 第2号ロ(受領権利がある者) | 自社から代金を受け取る立場の相手。仕入先や外注先など |
| 代理人・使用人その他の従業者 | 調査のために必要がある場合には質問検査権が及ぶ(通達1-4) |
🔍 なぜ取引先まで行くのか|必要性と事前連絡
国税庁のFAQは、反面調査を行う場面をこう説明しています。取引先など納税者以外の者に対する調査を実施しなければ、納税者の申告内容に関する正確な事実の把握が困難と認められる場合に実施することがある、というものです。
裏返せば、自社の帳簿と証憑で事実が確かめられるなら、取引先に行く必要性は乏しくなるということです。事務運営指針も、実施に当たってはその必要性を十分検討するとしています。反面調査は、調査担当者にとっても手間のかかる手続であり、理由なく行われるものではありません。
事前連絡についても、同じFAQに記載があります。反面調査の場合には事前通知に関する法令上の規定はないものの、運用上、原則としてあらかじめその対象者に連絡を行うこととしている、という内容です。事務運営指針も、事前連絡の適否を十分検討するとしたうえで、実施に当たっては反面調査である旨を取引先等に明示するとしています。
ここで注意していただきたいのは、取引先には「これは反面調査である」と明示されるという点です。つまり、自社の調査が行われていること自体は、取引先に伝わる前提で考えておく必要があります。
取引先に知られたくないという理由だけで反面調査を止めることはできません。止められるとすれば、それは必要性がないと判断される場合です。
| 論点 | 本人に対する実地の調査 | 取引先に対する反面調査 |
|---|---|---|
| 事前通知 | 法第74条の9第1項により通知される | 法令上の規定はない。運用上、原則としてあらかじめ連絡 |
| 更正決定等をすべきと認められない旨の通知 | 法第74条の11第1項の対象 | 同項の「納税義務者」に当たらない |
| 質問検査等に応じる立場 | 対象になる | 対象になる(第74条の2第1項第2号ロ) |
| 罰則 | 適用がある | 適用がある(法第128条第2号・第3号) |
法第74条の11第1項の「納税義務者」は、法第74条の9第3項第1号で定義されており、そこで引かれているのは第74条の2第1項第2号のうち「イ」です。反面調査の相手方であるロの者は、この定義には含まれていません。
📨 反面調査で取引先は何を求められるか
取引先が求められることは、本人の調査と同じ構造です。質問に答えること、事業に関する帳簿書類その他の物件を検査させること、その提示または提出に応じることの三つです(法第74条の2第1項)。
対象となる物件の範囲は、法令解釈通達が広めに定めています。国税に関する法令の規定により備付け・記帳・保存をしなければならないこととされている帳簿書類のほか、調査の目的を達成するために必要と認められる帳簿書類その他の物件も含まれる、というものです(通達1-5)。取引先の側から見れば、自社との取引に関する契約書、注文書、納品書、請求書、入出金の記録などが想定されます。
正当な理由なく提示・提出に応じない場合や、質問に対して偽りの答弁をした場合には、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金という罰則の定めがあります(法第128条第2号・第3号)。これは反面調査の相手方にも同じように適用されます。
一方で、この権限は税務調査のためのものであって、犯罪捜査のために認められたものと解してはならないと定められています(法第74条の8)。取引先に対して強制的な捜索が行われるわけではありません。
求められる中身は、本人の調査と変わりません
取引先の担当者からすると、突然の照会に身構えてしまうのが普通です。実際に求められるのは自社との取引に関する記録であって、先方の会社全体の申告内容を調べられるわけではありません。この点を先に共有しておくだけでも、先方の負担感はかなり変わります。
分かれ目は、自社の資料だけで説明が閉じるかどうかです
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🛡️ 反面調査に行かせないために、自社でできること
反面調査を避けたいのであれば、打つ手は「取引先に行かないでほしいと頼むこと」ではなく、取引先に確認しなくても事実が分かる資料を、その場で出せるようにしておくことです。
調査で事実確認が必要になるのは、たいてい次のような場面です。金額が大きいのに契約書がない、役務の提供を受けた形跡が資料に残っていない、支払先の実在性が確かめられない、現金でのやりとりが多く入出金の裏付けがない、といった状態です。いずれも、自社の資料だけで完結していないことが共通しています。
| 確認されやすい状態 | 先に手当てしておくこと |
|---|---|
| 金額の大きい外注費に契約書や発注書がない | 契約書・発注書・検収記録をそろえ、成果物や作業記録を保存する |
| 支払先の実態が資料から読み取れない | 登記事項証明書、名刺、やりとりの記録など、実在性を示す資料を残す |
| 現金取引が多く、入出金の裏付けが薄い | できるかぎり口座を経由させ、現金出納帳と残高を日々一致させる |
| 売上の計上時期が取引先の記録とずれる | 検収基準や引渡しの時点を社内で統一し、納品書と請求書の日付をそろえる |
| 値引き・リベート・相殺の処理が個別対応になっている | 取引条件を書面にし、総額と控除額が追える形で記帳する |
もうひとつ大切なのは、調査当日に「取引先に聞いてもらえば分かります」と言わないことです。自社で説明できないと述べたに等しく、反面調査の必要性を自ら裏づけてしまいます。手元の資料で説明できる部分と、確認に時間がかかる部分を分けて示し、後者については期限を切って自社で確認して回答する、という進め方のほうが安全です。
🤝 取引先に連絡が行ったときの伝え方
それでも反面調査が行われることはあります。事務運営指針の注が示すとおり、取引先には反面調査である旨が明示されますので、自社から何も言わずにいると、取引先は事情が分からないまま対応することになります。
先方に伝えるべきことは多くありません。自社が税務調査を受けていること、取引の事実確認のために資料の照会が行くこと、対応をお願いしたいこと、この三点です。ここで内容の口裏を合わせようとすることだけは、絶対に避けてください。
| 場面 | 取るべき対応 |
|---|---|
| 反面調査が行われそうだと分かったとき | 取引先に事実だけを伝え、資料の照会が行く可能性を先に共有する |
| 取引先から問い合わせを受けたとき | 自社の調査であることを説明し、先方の判断で対応いただくようお願いする |
| 回答内容を確認したいと言われたとき | 事実の確認は行ってよいが、回答をそろえるような依頼はしない |
| 取引先の資料と自社の記録が食い違ったとき | 食い違いの原因を自社側で調べ、経緯を書面にして説明する |
⚠️ いちばん危ないのは、口裏合わせです
反面調査をめぐって最も重い結果を招くのは、取引先に対して「こう答えてほしい」と依頼することです。これは事実の隠蔽や仮装と評価されうる行為で、重加算税の要件に触れます。
納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、かつ、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書…を提出していたときは…百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。(国税通則法第68条第1項)
さらに、偽りの答弁や、偽りの記載をした帳簿書類その他の物件の提示・提出には、法第128条第2号・第3号の罰則が用意されています。取引先を巻き込めば、先方にも同じ条文が及びます。関係を守るつもりの行動が、結果として取引先に法令上のリスクを負わせることになりかねません。
加えて、偽りその他不正の行為があったと判断されれば、更正決定等ができる期間は7年に延びます(法第70条第5項第1号)。目先の1件を隠すために、遡られる年数まで増えることになります。
事前準備から当日の立会い、指摘への反論、修正申告の要否判断まで対応します。顧問税理士がいらっしゃる場合も、この調査だけのスポットのご依頼を承ります。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。法人の税務顧問と申告業務、新しい会計基準の導入支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
❓ よくある質問
反面調査を断ることはできますか。
反面調査の相手方も、法第74条の2第1項の質問検査等の対象になります。正当な理由なく提示・提出の求めに応じない場合には罰則の定めがあります(法第128条第3号)ので、単に断るという対応は想定されていません。何が正当な理由に当たるかは個別の事案に即して判断され、最終的には裁判所が判断すると国税庁は説明しています。
取引先には事前に連絡が行きますか。
法令上の事前通知の規定はありませんが、国税庁は、運用上、原則としてあらかじめ対象者に連絡を行うこととしていると説明しています。ただし「原則として」という書き方ですので、常に連絡があると決まっているわけではありません。
すべての取引先に一斉に行くのですか。
そうした運用を定めた公表資料は、今回確認できた範囲では見当たりませんでした。事務運営指針は、実施に当たってその必要性を十分検討するとしていますので、確認が必要な取引に関係する先が対象になると考えるのが自然です。
反面調査の結果は、こちらに知らされますか。
反面調査そのものの結果を通知する定めは見当たりません。ただし、その結果を踏まえて自社に非違があると認められる場合には、調査結果の内容の説明が行われます(法第74条の11第2項)。指摘の根拠として反面調査の内容が示されたときは、どの資料にもとづく指摘なのかを具体的に確認してください。
取引先に迷惑をかけたことを、あとから謝るべきでしょうか。
税務上の論点ではありませんが、事実だけを簡潔に伝え、対応いただいたことにお礼を述べるのが実務的です。そのうえで、同じことが繰り返されないよう、契約書や検収記録の整備状況を見直すほうが、関係の維持には効きます。
📄 まとめ
反面調査は、条文上は特別な手続ではありません。法第74条の2第1項第2号ロが、自社に対して金銭を支払う義務がある者や、自社から金銭を受け取る権利がある者を、最初から質問検査等の相手方に含めています。「反面調査」という言葉は、国税庁の事務運営指針に現れます。
本人に対する調査と違うのは、事前通知に関する法令上の規定がないこと、調査終了の際の通知の対象にならないことです。一方で、質問検査等に応じる立場も罰則も、本人と同じように及びます。
そして、反面調査が行われるかどうかの分かれ目は、自社の帳簿と証憑だけで事実を示せるかどうかです。契約書・発注書・検収記録・入出金の裏付けをそろえておくことが、取引先を巻き込まないための最も確実な備えになります。逆に、口裏合わせは重加算税と罰則、そして7年への期間延長という三重のリスクを呼び込みます。
🔗 参考(公的な一次情報)
- 国税通則法(e-Gov法令検索) 第68条、第70条、第74条の2、第74条の8、第74条の9、第74条の11、第128条
- 国税庁 調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針) 3(6) 反面調査の実施
- 国税庁 税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け) 問6、問23
- 国税庁 第1章 法第74条の2〜法第74条の6関係(質問検査権) 通達1-4、1-5、1-6
- 国税庁 第4章 法第74条の9〜法第74条の11関係(事前通知及び調査の終了の際の手続)
本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、法令・通達および国税庁の公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は改正される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、専門家にご確認ください。