税務署からの電話で「今回は法人税の3期分を見せていただきます」と言われたあと、社内で最初に出る質問は、たいてい同じです。3期で終わるのか、途中で増えるのか、そもそも何年前まで遡られる可能性があるのか。
この数字は、調査担当者の気分で決まるものではありません。国税通則法が、更正や決定をすることができる期間の上限を、5年・10年・7年という3本立てで定めています。一方で、最初の電話で伝えられる「調査の対象となる期間」は、その上限の内側で個別に決められるもので、3年という数字を定めた条文はありません。
この記事では、条文が定める期間制限を区分ごとに整理し、通知された期間の外側の帳簿まで見られるのはなぜか、遡られたときに本税以外に何が増えるのか、そして何年分を保存しておけばよいのかまでを、順を追って説明します。
この記事の見出し
🧭 「何年分ですか」への答えは、二つの層に分かれます
「何年分見られますか」という問いには、性格の違う二つの答えが混ざっています。ひとつは、最初の電話で伝えられる調査の対象となる期間です。もうひとつは、税務署が更正や決定をすることができる期間の上限です。
前者は、実地の調査を行う前にあらかじめ通知される事項のひとつとして、条文に列挙されています。
税務署長等は…あらかじめ、当該納税義務者…に対し、その旨及び次に掲げる事項を通知するものとする。…五 調査の対象となる期間(国税通則法第74条の9第1項第5号)
後者は、更正決定等の期間制限として別の条文に置かれています。通知される期間は、この上限の内側で個別に決まります。したがって「3期分」という通知は、法律が3年と決めているからではなく、その事案でまず3期分を見ると判断した結果にすぎません。
通知された期間と、法律が定める上限は別の話です
⚖️ 原則は5年、法人税の欠損金に関する更正は10年
更正決定等の期間制限は、国税通則法第70条に置かれています。第1項第1号が原則です。
次の各号に掲げる更正決定等は、当該各号に定める期限又は日から五年…を経過した日以後においては、することができない。一 更正又は決定 その更正又は決定に係る国税の法定申告期限(国税通則法第70条第1項第1号)
数え始めの日は、調査を受けた日でも、決算日でもなく、法定申告期限です。法人税の確定申告書は、各事業年度終了の日の翌日から2月以内に提出しなければならないとされています(法人税法第74条第1項)ので、3月決算法人であれば5月31日が出発点になります。
期間の数え方は、国税通則法第10条第1項が定めています。初日は算入せず、月または年で定めた期間は暦に従い、最後の年の起算日に応当する日の前日に満了します。申告期限が日曜日や祝日に当たるときは、その翌日が期限とみなされます(同条第2項)ので、出発点自体がずれる年もあります。
もうひとつ、法人税には10年の枠があります。
法人税に係る純損失等の金額で当該課税期間において生じたものを増加させ、若しくは減少させる更正又は当該金額があるものとする更正は、前項の規定にかかわらず、同項第一号に定める期限から十年を経過する日まで、することができる。(国税通則法第70条第2項)
これは税額を直接動かす更正ではなく、その期に生じた欠損金額そのものを増減させる更正についての定めです。繰越欠損金は10年間繰り越せますので、繰越しの元になった期の金額を後から直せる期間も、それに合わせて10年になっていると理解すると座りがよくなります。繰越控除の仕組みは欠損金の繰越控除とは?10年繰越の要件・控除限度額で整理しています。
| 区分 | 期間 | 根拠 |
|---|---|---|
| 更正または決定(原則) | 法定申告期限から5年 | 法第70条第1項第1号 |
| 法人税の純損失等の金額を増減させる更正 | 法定申告期限から10年 | 法第70条第2項 |
| 偽りその他不正の行為があった場合 | 法定申告期限から7年 | 法第70条第5項第1号 |
| 納税者からの更正の請求 | 5年(法人税の純損失等に係るものは10年) | 法第23条第1項 |
| 徴収権の消滅時効 | 法定納期限から5年 | 法第72条第1項 |
同じ「5年」でも、税務署が更正できる期間と、会社が更正の請求をできる期間と、いったん確定した税金を徴収できる期間は、別々の条文で別々に定められています。
数え始めは決算日ではなく法定申告期限です
| 区分 | 日付 |
|---|---|
| 事業年度終了の日 | 2024年3月31日 |
| 法定申告期限(法人税法第74条第1項) | 2024年5月31日 |
| 原則の5年が満了する日 | 2029年5月31日 |
| 7年が満了する日 | 2031年5月31日 |
| 10年が満了する日 | 2034年5月31日 |
🚨 7年に延びるのは「偽りその他不正の行為」があるとき
期間が7年に延びるのは、次の場合です。
次の各号に掲げる更正決定等は…同項各号に定める期限又は日から七年を経過する日まで、することができる。一 偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ、又はその全部若しくは一部の税額の還付を受けた国税…についての更正決定等(国税通則法第70条第5項第1号)
ここで注意したいのは、「偽りその他不正の行為」という言葉の意味を定義した条文が、国税通則法の中に置かれていないことです。何がこれに当たるかは、個別の事実関係にもとづいて判断され、争いになれば最終的には裁判所が判断します。単純な計上時期の誤りや、解釈が分かれる論点についての処理の違いが、直ちにこれに当たるとは限りません。
7年に延びる要件(法第70条第5項第1号の「偽りその他不正の行為」)と、重加算税の要件(法第68条の「隠蔽し、又は仮装し」)は、別の条文に置かれた別の文言です。実務では同じ場面で問題になることが多いものの、一方が認められれば他方も自動的に認められる、という関係にあるとは条文からは読み取れません。
「7年分と言われたから重加算税が確定した」とも、「重加算税だから当然に7年遡られる」とも決めつけず、それぞれの要件へのあてはめを個別に確認してください。
なお、偽りその他不正の行為により純損失等の金額を過大に申告していた場合の更正についても、7年の枠が用意されています(法第70条第5項第2号)。ただし、第2項の適用を受ける法人税の純損失等に係るものは、そちらから除かれています。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら
📅 通知された期間の外の帳簿も見られます
「3期分と聞いていたのに、5期前の資料を出すよう言われた」という相談は、たいへん多くいただきます。これは通知に反しているわけではありません。国税庁の法令解釈通達が、次のように明示しています。
事前通知した課税期間の調査について必要があるときは、事前通知した当該課税期間以外の課税期間(進行年分を含む。)に係る帳簿書類その他の物件も質問検査等の対象となることに留意する。(調査手続に関する法令解釈通達 5-5)
同じ通達の注は、通知した課税期間より前や後の経理処理を確認する必要があるときは、法第74条の9第4項によることなく、必要な範囲で質問検査等を行うことができるとしています。国税庁のFAQも、たとえば減価償却費の計上額を確認するために取得年度の帳簿書類を検査する場合を挙げ、「これはあくまでもX年度の調査であって、X年度以外の調査を行っているわけではありません」と説明しています。
これとは別に、通知した事項以外について非違が疑われることとなった場合の定めもあります。
第一項の規定は、当該職員が、当該調査により当該調査に係る同項第三号から第六号までに掲げる事項以外の事項について非違が疑われることとなった場合において、当該事項に関し質問検査等を行うことを妨げるものではない。(国税通則法第74条の9第4項)
| 場面 | 位置づけ | 根拠 |
|---|---|---|
| 通知した期間の申告内容を確かめるために他の期間の帳簿を見る | 通知した期間の調査のまま。改めての通知は不要 | 通達5-5とその注 |
| 調査の途中で通知していない税目や期間の非違が疑われた | その事項について質問検査等を行うことは妨げられない | 法第74条の9第4項 |
| 調査の対象そのものを広げる | 更正決定等ができる期間の上限(法第70条)を超えることはできない | 法第70条 |
つまり、通知された期間は「調査の入口」であって、見られる帳簿の範囲を物理的に区切る壁ではありません。3期分と言われても、それより前の資料が出せる状態にしておくほうが、結果として説明が早く終わります。
💰 遡られたときに増えるのは本税だけではありません
遡及の年数が実務で重く効くのは、増える金額が本税だけではないからです。過去の期に指摘があれば、その期の本税に加えて加算税と延滞税が乗ります。年数が延びるほど、延滞税の計算期間も長くなります。
年数が延びると、延滞税の計算期間も長くなります
| 名称 | 割合 | 根拠 |
|---|---|---|
| 過少申告加算税 | 追加で納付すべき税額の10パーセント。調査による更正を予知しないでした修正申告は5パーセント | 法第65条第1項 |
| 過少申告加算税の加重 | 期限内申告税額と50万円のいずれか多い金額を超える部分に5パーセントを加算 | 法第65条第2項 |
| 重加算税(過少申告加算税に代えて) | 35パーセント | 法第68条第1項 |
| 重加算税(無申告加算税に代えて) | 40パーセント | 法第68条第2項 |
| 延滞税 | 条文の本則は年14.6パーセント。実際に適用される割合は特例により定められる | 法第60条第2項 |
もうひとつ、見落とされやすい定めがあります。期限内申告書を提出していた国税について、法定申告期限から1年を経過する日より後に修正申告書を提出したり更正を受けたりした場合には、延滞税の計算期間から一定の期間を控除する取扱いがあります(法第61条第1項第1号)。ところが、この取扱いは、偽りその他不正の行為により国税を免れた納税者が、調査があったことにより更正があるべきことを予知して提出した修正申告書などについては、適用の対象から外されています。7年遡られる事案では、この点でも負担が重くなります。
📂 何年分を保存しておけばよいか
調査の場でいちばん困るのは、遡られること自体ではなく、遡られた期の資料が手元にないことです。説明できないまま推計や否認を受け入れることになりかねません。保存期間は法人税法施行規則が定めています。
青色申告法人は、次に掲げる帳簿書類を整理し、起算日から七年間、これを納税地…に保存しなければならない。(法人税法施行規則第59条第1項)
起算日は、帳簿についてはその閉鎖の日の属する事業年度終了の日の翌日から2月を経過した日、書類についてはその作成または受領の日の属する事業年度終了の日の翌日から2月を経過した日です(同条第2項)。申告期限の延長を受けている事業年度は、その延長に係る月数に2を加えた月数で数えます。
欠損金の繰越控除を受ける場合は、10年です。
内国法人が法第五十七条第一項(欠損金の繰越し)の規定の適用を受けようとする場合には…同項の欠損金額が生じた事業年度の第五十九条第一項各号に掲げる帳簿書類を整理し、第五十九条第二項に規定する起算日から十年間、これを納税地…に保存しなければならない。(法人税法施行規則第26条の3第1項)
この保存は、単なる義務ではなく適用要件です。法人税法第57条第10項は、欠損金額の生じた事業年度について確定申告書を提出し、その後において連続して確定申告書を提出している場合であって、欠損金額の生じた事業年度に係る帳簿書類を財務省令で定めるところにより保存している場合に限り、繰越控除の規定を適用すると定めています。保存していなければ、繰越控除そのものが使えなくなります。
| 対象 | 期間 | 根拠 |
|---|---|---|
| 青色申告法人の帳簿書類 | 起算日から7年 | 法人税法施行規則第59条第1項 |
| 起算日の数え方 | 事業年度終了の日の翌日から2月を経過した日 | 同条第2項 |
| 欠損金の繰越控除を受ける事業年度の帳簿書類 | 起算日から10年 | 法人税法施行規則第26条の3第1項 |
| 繰越控除の適用要件 | 連続した確定申告書の提出と、上記の保存 | 法人税法第57条第10項 |
7年で足りるのは、欠損金の繰越しに関係しない場合です。過去に欠損が生じた期があるなら、その期の帳簿書類は10年間そろえておく必要があります。
事前準備から当日の立会い、指摘への反論、修正申告の要否判断まで対応します。顧問税理士がいらっしゃる場合も、この調査だけのスポットのご依頼を承ります。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。法人の税務顧問と申告業務、新しい会計基準の導入支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
❓ よくある質問
3期分と通知されました。途中で5期分に増えることはありますか。
あり得ます。通知した事項以外について非違が疑われることとなった場合、その事項に関して質問検査等を行うことは妨げられないと定められています(法第74条の9第4項)。ただし、更正や決定ができる範囲は法第70条の上限を超えられませんので、原則としては法定申告期限から5年が限度です。
7年分を見たいと言われました。重加算税が確定したということですか。
そうとは限りません。7年に延びる要件は「偽りその他不正の行為」(法第70条第5項第1号)、重加算税の要件は「隠蔽し、又は仮装し」(法第68条)で、別の条文の別の文言です。どの事実がどちらの要件に当たるとされているのかを、具体的に確認してください。
5年より前の期については、もう何を言われても関係ないのですか。
いいえ。法人税の純損失等の金額を増減させる更正は10年まで可能ですし(法第70条第2項)、偽りその他不正の行為があれば7年まで遡れます(同条第5項)。また、不服申立てや訴えの裁決等があった場合などには、期間制限の特例(法第71条)が働くこともあります。
通知された期間より前の帳簿を出す義務はありますか。
通知した期間の調査に必要があるときは、それ以外の課税期間の帳簿書類その他の物件も質問検査等の対象になるとされています(通達5-5)。提示・提出の求めに正当な理由なく応じない場合の罰則も定められています(法第128条第3号)ので、出せないと考える理由がある場合は、その理由を具体的に説明することになります。
保存期間を過ぎて廃棄した帳簿を求められたら、どうなりますか。
法令が求める期間を過ぎて保存していない場合の一般的な取扱いを定めた規定は、今回確認できた範囲では見当たりませんでした。ただし、欠損金の繰越控除については保存が適用要件とされている(法人税法第57条第10項)ため、廃棄していれば控除そのものが認められなくなります。廃棄の前に、繰越欠損金の有無を必ず確認してください。
📄 まとめ
調査で何年分を見られるかは、二つの層に分けて考えると整理できます。最初の電話で伝えられる「調査の対象となる期間」は、その事案でまず見る範囲であって、法律が3年と決めているわけではありません。法律が定めているのは更正決定等ができる期間の上限で、原則5年、法人税の純損失等の金額を増減させる更正は10年、偽りその他不正の行為があれば7年です。
通知された期間は壁ではなく、その期の申告内容を確かめるために必要であれば、前後の期の帳簿も質問検査等の対象になります。遡られれば本税に加算税と延滞税が乗り、7年の事案では延滞税の計算期間を短くする取扱いも使えません。だからこそ、7年(欠損金があるなら10年)の資料を、いつでも出せる形で持っておくことが、いちばん確実な備えになります。
🔗 参考(公的な一次情報)
- 国税通則法(e-Gov法令検索) 第10条、第23条、第60条、第61条、第65条、第68条、第70条、第71条、第72条、第74条の9、第128条
- 法人税法(e-Gov法令検索) 第57条、第74条
- 法人税法施行規則(e-Gov法令検索) 第26条の3、第59条
- 国税庁 第4章 法第74条の9〜法第74条の11関係(事前通知及び調査の終了の際の手続) 通達5-5
- 国税庁 税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け) 問9、問20
- 国税庁 調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)
本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、法令・通達および国税庁の公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は改正される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、専門家にご確認ください。