医療法人が理事に賞与を支給しても、そのままでは損金になりません。法人税法34条1項は、役員給与のうち定期同額給与、所定の時期に確定した額を交付する旨の定めに基づいて支給する給与、業績連動給与のいずれにも該当しないものは損金の額に算入しないと定めているためです。
2番目のものが、実務でいう事前確定届出給与です。あらかじめ届出書を提出しておけば、理事への賞与を損金にできます。ただし、届出の期限を1日でも過ぎれば使えず、届出た金額と1円でも違えば全額が損金不算入になります。
この記事では、届出期限の計算方法、届出どおりに支給しなかった場合の影響、そして毎月の役員報酬とのバランスをどう考えるかを整理します。
- 役員給与が損金になる3つの類型と、退職給与の位置づけ
- 届出期限が決議から1月と会計期間開始から4月のどちらで決まるか
- 届出た内容と実際の支給が違うと全額が損金不算入になること
- 毎月の報酬を抑えて賞与に寄せる場合の社会保険料への影響
- 届出をしても不相当に高額な部分は別に判定されること
図 事前確定届出給与の判定(法人税法34条1項2号にもとづき作成)
📌 役員給与が損金になる3つの類型
法人税法34条1項は、役員に対して支給する給与のうち、次の3つのいずれにも該当しないものは損金の額に算入しないと定めています。ひとつめが定期同額給与、ふたつめが所定の時期に確定した額の金銭等を交付する旨の定めに基づいて支給する給与、みっつめが業績連動給与です。
このうち2番目のものが、実務で事前確定届出給与と呼ばれているものです。条文にはこの言葉は出てきませんが、届出書の提出が要件とされていることからこう呼ばれています。
医療法人の理事に賞与を支給したいのであれば、この事前確定届出給与の枠組みを使うことになります。業績連動給与は、有価証券報告書での開示など上場企業を想定した要件が並んでいますので、医療法人が使うことは想定されていません。
なお、退職給与で業績連動給与に該当しないものは、法人税法34条1項の柱書により、この3類型の枠外に置かれています。役員退職金は定期同額給与でも事前確定届出給与でもなくても損金になり得ます。
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📌 届出の期限がもっとも重要
事前確定届出給与でつまずくのは、ほとんどが届出の期限です。法人税法施行令69条4項1号が期限を定めています。
原則は、株主総会等の決議によりその役員の職務につき定めをした場合の、その決議をした日から1月を経過する日です。ただし、その日が会計期間開始の日から4月を経過する日(四月経過日等)より後になる場合には、四月経過日等が期限になります。
つまり、決議から1月と、会計期間開始から4月という2つの日を比べて、結果として早いほうが期限になります。3月決算の医療法人が5月20日の社員総会で決議したのであれば、決議から1月を経過する日は6月20日、四月経過日等は7月31日ですので、6月20日が期限です。
なお、新たに設立した法人がその役員の設立の時に開始する職務について定めをした場合は、設立の日以後2月を経過する日が期限になります。医療法人を設立した初年度は、この期限で判断します。
また、臨時改定事由が生じた場合の届出については、条文の柱書により、いくつかの日のうちいずれか遅い日が期限とされています。原則の期限とは考え方が異なりますので、該当する場合は個別に確認してください。
表 届出期限(法人税法施行令69条4項)
なお、法人税法にいう株主総会等には、医療法人の社員総会も含まれます。医療法人では社員総会で役員報酬の総額の枠を決め、理事会でその配分を決めるという運用が一般的です。どの機関のいつの決議を起点とするのかを明確にし、議事録を残しておいてください。
📌 1円でも違うと全額が損金不算入
事前確定届出給与の怖いところは、届出た内容と実際の支給が食い違った場合、その差額だけが否認されるのではなく、支給額の全額が損金不算入になることです。
届出た金額が300万円で、実際に250万円しか支給しなかった場合、損金になるのは250万円ではなく0円です。逆に350万円支給した場合も、全額が損金不算入となります。支給日についても同様で、届出た日と異なる日に支給すれば要件を満たしません。
業績が想定より悪かったので支給額を減らす、資金繰りの都合で支給を見送る。こうした判断は、事前確定届出給与では通用しません。届出た以上は、そのとおりに支給するという前提で金額を決めてください。
複数回に分けて支給する定めをした場合、そのうち1回でも届出どおりに支給しなければ、その事業年度に支給した全額が損金不算入とされる取扱いがあります。年2回の支給を届け出るのであれば、両方とも確実に実行できる金額にしてください。
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📌 どう使うか
事前確定届出給与を使う実務上の狙いは、いくつかあります。
ひとつは社会保険料です。健康保険と厚生年金保険の保険料は、毎月の報酬月額と賞与額のそれぞれに上限が設けられています。年収の総額が同じであっても、毎月の役員報酬を抑えて賞与の形で支給すると、保険料の負担が変わることがあります。ただし、標準報酬月額の上限は段階的に引き上げられていますので、その影響も含めて試算する必要があります。
もうひとつは資金繰りです。毎月の役員報酬は定期同額給与でなければ損金になりませんので、期中に減額することは原則としてできません。毎月の報酬を抑えて年1回か2回の賞与に寄せておけば、医療法人の資金繰りに合わせた支給がしやすくなります。
ただし、報酬月額を下げることには副作用もあります。傷病手当金や出産手当金、将来受け取る厚生年金の額は標準報酬月額をもとに計算されますので、月額を下げるとこれらも下がります。目先の保険料だけで判断せず、保障の水準も含めて検討してください。
表 2つの類型の比較
図 実施の手順
📌 過大な部分は別に判定される
届出の要件を満たしていても、それで金額の妥当性が保証されるわけではありません。法人税法34条2項は、役員給与のうち不相当に高額な部分の金額は損金の額に算入しないと定めています。
不相当に高額かどうかは、法人税法施行令70条1号イの実質基準と、同号ロの形式基準で判定されます。実質基準は、その役員の職務の内容、医療法人の収益や職員に対する給与の支給の状況、同種同規模の法人の役員給与の支給の状況などを勘案するものです。形式基準は、定款の定めまたは社員総会等の決議により定められている限度額を超えているかどうかを見るものです。
つまり、届出をしたうえで、金額としても相当であることが必要です。定期同額給与と事前確定届出給与を合わせた年間の総額が、理事の職務の内容に見合っているかという観点で検討してください。
医療法人では、社員総会で役員報酬の限度額を定めているケースがあります。この限度額を超えて支給していると形式基準に抵触しますので、限度額の確認も忘れないでください。
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公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。医療法人の設立支援と医療機関の税務顧問を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
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❓ よくある質問
A. 決議をした日から1月を経過する日は6月20日、会計期間開始の日から4月を経過する日は7月31日です。前者が後者より前ですので、6月20日が期限になります。決議が遅れて7月に入った場合には、7月31日が期限になります。
A. なりません。届出た内容と異なる支給をした場合、その差額だけではなく支給額の全額が損金不算入となります。250万円全額が損金にならず、しかも理事個人には給与所得として課税されます。届出る金額は、確実に支給できる水準にしてください。
A. 支給しないという判断自体は可能ですが、その場合も届出どおりの支給ではありませんので、事前確定届出給与としての取扱いは受けられません。もっとも支給していなければ損金にする対象もありませんので、結果として何も起きないという整理になります。ただし複数回に分けて支給する定めをしている場合には、1回でも届出どおりでなければその事業年度に支給した全額が損金不算入とされる取扱いがありますので注意してください。
A. 社会保険料の負担が変わることはありますが、一概に得とはいえません。標準報酬月額を下げると、傷病手当金や出産手当金、将来の厚生年金の額も下がります。また、標準報酬月額の上限は段階的に引き上げられていますので、その影響も含めて試算する必要があります。
A. なりません。法人税法34条2項により、役員給与のうち不相当に高額な部分の金額は損金の額に算入されません。職務の内容、医療法人の収益や職員に対する給与の支給の状況、同種同規模の法人の支給の状況などを勘案する実質基準と、定款や社員総会の決議による限度額を見る形式基準の両方で判定されます。
📄 まとめ
医療法人の理事に賞与を支給して損金にするには、法人税法34条1項2号の事前確定届出給与として、あらかじめ届出書を提出する必要があります。届出の期限は、株主総会等の決議をした日から1月を経過する日と、会計期間開始の日から4月を経過する日を比べて、結果として早いほうです。
届出た内容と実際の支給が食い違うと、差額ではなく支給額の全額が損金不算入になります。業績や資金繰りに応じて金額を調整するという使い方はできませんので、確実に支給できる金額を届け出てください。
毎月の報酬を抑えて賞与に寄せる設計は、社会保険料の観点から検討されることがありますが、傷病手当金や将来の年金額にも影響します。また、届出をしても不相当に高額な部分は損金不算入となりますので、年間の総額が職務の内容に見合っているかという観点も欠かせません。
⚖ 本記事の根拠法令
- 法人税法34条1項(役員給与の損金不算入)
- 法人税法34条2項(役員給与のうち不相当に高額な部分の金額は損金の額に算入しない)
- 法人税法施行令69条4項1号(事前確定届出給与に関する届出の期限)
- 法人税法施行令70条1号イおよびロ(過大な役員給与の額)
- 法人税法2条15号(役員の定義)
- 医療法46条の5第1項(役員として理事3人以上および監事1人以上を置く)、同法54条(剰余金の配当の禁止)
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
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