持分の定めのある医療法人は、平成19年4月1日以後は新たに設立できません。それ以前に設立されたものが、経過措置型医療法人として存続しています。
この持分あり医療法人でもっとも大きな論点が、出資持分の承継です。医療法54条により剰余金の配当が禁止されているため利益は法人内部に蓄積し続け、出資持分の評価額は年々膨らんでいきます。
換金性がないのに評価額だけが高い財産を、どう次の世代に引き継ぐか。この記事では、相続で起きる3つの問題と、評価額を抑える方法、生前移転の選択肢、そして持分なしへの移行という根本的な解決策を整理します。
- 持分あり医療法人が平成19年4月1日以後は設立できないこと
- 出資持分がどのような権利で、なぜ評価額が膨らむのか
- 相続で生じる納税資金、払戻請求、遺産分割という3つの問題
- 役員退職金による評価額の引下げと、移転時期の組み合わせ
- 相続時精算課税の使い方と、持分なしへの移行という選択肢
図 出資持分の承継の確認点(医療法および相続税法にもとづき作成)
この記事の見出し
📌 持分あり医療法人はもう作れない
まず前提の整理からです。平成18年の医療法改正により、平成19年4月1日以後は、持分の定めのある社団医療法人を新たに設立することができなくなりました。設立の認可申請ができるのは、財団医療法人または持分の定めのない社団医療法人に限られます。
それ以前に設立された持分あり医療法人は、当分の間存続するものとされ、平成18年の改正法附則10条2項に規定する医療法人として位置づけられています。実務では経過措置型医療法人と呼ばれています。
つまり、いま持分あり医療法人を運営しているのであれば、それは制度としては経過的な存在です。国は持分なしへの移行を促しており、そのための税制上の措置も用意されています。
この前提を踏まえたうえで、出資持分をどう承継するかを考える必要があります。
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📌 出資持分とは何か
持分あり医療法人の社員が有する出資持分は、ふたつの権利から成ります。ひとつは社員を退社するときに出資額に応じて払戻しを請求できる権利、もうひとつは医療法人が解散したときに残余財産の分配を受ける権利です。
この権利の内容は定款で定められています。多くの医療法人では、出資額に応じて払戻しを請求できるという定めが置かれています。ここでいう出資額に応じてとは、払い込んだ金額そのものではなく、その時点の純資産に対する出資割合に応じた金額と解されるのが一般的です。
そのため、医療法人が利益を積み上げて純資産が大きくなるほど、出資持分の価値も大きくなります。設立時に300万円を出資したものが、30年後には数億円の価値を持つということが起こります。
ここが医療法人の承継における最大の論点です。医療法54条により剰余金の配当が禁止されていますので、利益は法人の内部に留まり続けます。配当で外に出す道がない以上、純資産は増える一方になります。
📌 相続のときに何が起きるか
理事長が死亡すると、その出資持分は相続財産になります。ここで3つの問題が生じます。
ひとつめは相続税の負担です。出資持分は取引相場のない株式に準じた方法で評価されますので、純資産が大きい医療法人ほど評価額は高くなります。しかし、この持分には換金性がありません。売却できる市場もなく、医療法人から払戻しを受ければ医療法人の資金が流出します。納税資金をどう用意するかという問題が残ります。
ふたつめは、後継者以外の相続人が持分を相続した場合です。その相続人が社員を退社して払戻しを請求すると、医療法人は多額の資金を支払わなければなりません。診療を続けるための資金が失われ、経営が立ち行かなくなる例があります。
みっつめは、遺産分割そのものです。相続財産の大部分が出資持分である場合、後継者に持分を集中させると他の相続人の取り分が乏しくなります。代償金を用意できなければ、分割の話がまとまりません。
表 出資持分をめぐる問題
📌 評価額を抑える方法
出資持分の評価額は、医療法人の純資産の大きさに連動します。したがって、純資産を圧縮する取組みは、そのまま評価額の引下げにつながります。
もっとも効果が大きいのは役員退職金です。理事長が退任する際に相当な額の退職金を支給すれば、その金額だけ純資産が減ります。法人税法34条2項により不相当に高額な部分は損金に算入されませんので、金額の妥当性は必要ですが、正当な範囲での支給は評価額の引下げと資金の受取りを同時に実現します。
また、設備投資や修繕によって費用を計上することも、純資産の圧縮につながります。ただし、本来必要のない支出をするのは本末転倒です。必要な投資の時期を承継の前に寄せる、という考え方にとどめてください。
いずれにしても、評価額が下がった時点で持分を移転しなければ意味がありません。評価の引下げと移転の実行を組み合わせて計画してください。
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📌 生前に移転する
相続を待たずに、生前のうちに後継者へ持分を移転する方法があります。暦年課税による贈与を毎年積み重ねる方法と、相続時精算課税を使う方法です。
暦年課税は年110万円の基礎控除の範囲で少しずつ移転していく方法ですが、評価額が数億円になっている場合、この方法だけで移転を完了させることは現実的ではありません。
相続時精算課税は、贈与時に2,500万円の特別控除を使い、それを超える部分に20%の税率で贈与税を課したうえで、相続のときに贈与時の価額で相続財産に加算して精算する制度です。将来さらに純資産が増える見込みがあるのであれば、評価額が低いうちに贈与しておくことに意味があります。
令和6年1月1日以後の贈与については、租税特別措置法70条の3の2により、相続時精算課税にも年110万円の基礎控除が設けられました。この基礎控除の部分は相続財産に加算されません。制度の使い勝手は以前より良くなっています。
相続時精算課税を使えるのは、贈与をした年の1月1日において60歳以上である父母または祖父母から、同じく18歳以上である推定相続人である直系卑属への贈与です。孫への贈与については、租税特別措置法70条の2の6が相続税法の規定を準用しています。
表 生前移転の方法
📌 持分なしへ移行するという選択
もうひとつの根本的な解決が、持分の定めのない医療法人への移行です。出資持分という財産そのものをなくしてしまえば、相続税も払戻請求も生じません。
移行にあたっては、出資者が持分を放棄することになります。この放棄によって医療法人が経済的利益を受けたとみなされ、医療法人に贈与税が課される場合があります。これを避けるために設けられているのが認定医療法人制度です。
厚生労働大臣の認定を受けた医療法人については、持分の放棄に伴う贈与税が非課税とされ、また相続税や贈与税の納税猶予を受けられる制度が用意されています。認定を受けられる期限は令和11年12月31日までとされています。
ただし、持分なしへ移行すると、解散時の残余財産は国や地方公共団体等に帰属することになり、出資者やその親族に戻ることはありません。事実上、蓄積した財産を放棄する判断になります。この点を家族で共有したうえで決めてください。
認定医療法人制度の詳細は、別の記事で改めて整理します。
図 検討の手順
評価額の試算から、移転の方法、持分なしへの移行の可否まで、医療法人の状況に即して整理します。時間をかけるほど選択肢は増えます。医療法人の設立支援と医療機関の税務顧問を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。医療法人の設立支援と医療機関の税務顧問を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
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❓ よくある質問
A. 出資者が持分を放棄することで移行できます。ただし放棄によって医療法人が経済的利益を受けたとみなされ、贈与税が課される場合があります。厚生労働大臣の認定を受けた認定医療法人であれば、この贈与税が非課税とされる制度があります。認定を受けられる期限は令和11年12月31日までです。
A. 取引相場のない株式に準じた方法で評価されます。医療法人の純資産の大きさが評価額に直結しますので、利益を積み上げてきた医療法人ほど評価額は高くなります。具体的な評価方法は、直近の決算書をもとに試算してください。
A. その相続人が社員を退社して持分の払戻しを請求すると、医療法人は多額の資金を支払うことになります。診療を続けるための資金が失われる事態を招きかねません。生前のうちに後継者へ持分を集中させておくか、持分なしへの移行を検討してください。
A. 退職金の支給によって純資産が減りますので、出資持分の評価額も下がります。ただし法人税法34条2項により不相当に高額な部分は損金に算入されません。同法施行令70条2号が業務に従事した期間や退職の事情などを勘案するとしていますので、金額の妥当性を説明できるようにしておいてください。
A. 将来さらに純資産が増える見込みがあるのであれば、評価額が低いうちに贈与しておくことに意味があります。贈与時の価額で相続財産に加算されるためです。逆に評価額が下がる見込みであれば不利になります。令和6年1月1日以後は年110万円の基礎控除も使えますので、以前より選択しやすくなっています。
📄 まとめ
持分あり医療法人は平成19年4月1日以後は設立できず、既存のものは経過措置型医療法人として存続しています。医療法54条により配当ができないため、利益は法人内部に蓄積し、出資持分の評価額は年々膨らみます。
相続では、換金性がないのに評価額が高いという納税資金の問題、後継者以外の相続人による払戻請求の問題、そして遺産分割の問題が生じます。いずれも相続が起きてからでは打つ手が限られます。
対策は、役員退職金などによる評価額の引下げと、生前の計画的な移転の組み合わせが基本です。相続時精算課税は、評価額が今後上昇する見込みがある場合に検討する価値があります。そして根本的な解決として、持分なしへの移行という選択肢があります。認定医療法人の認定を受けられる期限は令和11年12月31日までです。
⚖ 本記事の根拠法令
- 医療法54条(医療法人は、剰余金の配当をしてはならない)
- 良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律(平成18年法律第84号)附則10条2項(持分の定めのある社団医療法人は当分の間存続する。いわゆる経過措置型医療法人)、同附則10条の2(経過措置医療法人の定義)、同附則10条の3および10条の4(移行計画の認定制度)
- 相続税法21条の9(相続時精算課税の選択)、同法21条の12第1項1号(特別控除2,500万円)
- 租税特別措置法70条の3の2、同法70条の2の6(相続時精算課税適用者の特例)
- 租税特別措置法70条の7の9、70条の7の12、70条の7の14(認定医療法人に係る贈与税および相続税の納税猶予等)
- 法人税法34条2項(役員給与のうち不相当に高額な部分の損金不算入)、同法施行令70条2号(役員退職給与の過大判定)
- 認定を受けられる期限が令和11年12月31日までとされていることは、厚生労働省の公表資料および国税庁タックスアンサーNo.4150によります
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
このテーマの全体像は医療法人と開業医の税務|法人化から役員報酬・承継までにまとめています。