グロース市場の「高い成長可能性」とは?主幹事証券の評価と東証の事業計画審査を解説

東証グロース市場への新規上場では、プライム市場やスタンダード市場にはない「高い成長可能性」という言葉が必ず出てきます。ところが、東証の新規上場ガイドブック(グロース市場編)を読むと、この「高い成長可能性」を判断するのは東証ではなく主幹事証券会社である、と明記されています。

では東証は何を審査するのか。答えは、有価証券上場規程第219条第1項第4号の「事業計画の合理性」です。この役割分担を取り違えたまま準備を進めると、「成長ストーリーは主幹事に説明したのに、東証のヒアリングで別の角度から詰められた」という事態になりかねません。

本記事では、グロース市場の「高い成長可能性」がどのような枠組みで確認されるのか、主幹事証券会社が事前確認で説明する項目、東証が審査する事業計画の合理性の2つの基準、そして2030年以降に適用される新しい上場維持基準との関係までを、一次情報にあたりながら整理します。

グロース市場だけに置かれた「高い成長可能性」という前提

東証は2022年4月の市場区分見直し以降、プライム・スタンダード・グロースの3市場を運営しています。それぞれの市場にはコンセプトがあり、グロース市場は「高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ一定の市場評価が得られる一方、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業向けの市場」と位置づけられています(新規上場ガイドブック グロース市場編)。市場ごとのコンセプトの違いそのものについては、市場区分とは?東証プライム・スタンダード・グロースの違いとIPOでの選び方もあわせてご覧ください。

このコンセプトの違いは、実質審査基準の条文構成にそのまま現れています。プライム市場(有価証券上場規程第213条第1項)とスタンダード市場(同第207条第1項)は第1号に「企業の継続性及び収益性」を置きますが、グロース市場(同第219条第1項)には継続性・収益性の号がありません。代わりに第4号として「事業計画の合理性」が置かれています。

3市場の実質審査基準を号ごとに並べる

5つの号を横に並べると、グロース市場の設計思想が読み取れます。既に一定の収益基盤があることを求めるプライム・スタンダードに対し、グロース市場は「これから伸びる計画が相応に合理的か」を見る構造になっています。

プライム(213条1項) スタンダード(207条1項) グロース(219条1項)
第1号 企業の継続性及び収益性 企業の継続性及び収益性 企業内容、リスク情報等の開示の適切性
第2号 企業経営の健全性 企業経営の健全性 企業経営の健全性
第3号 企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性 同左 同左
第4号 企業内容等の開示の適正性 企業内容等の開示の適正性 事業計画の合理性
第5号 その他公益又は投資者保護の観点から取引所が必要と認める事項 同左 同左

出典:有価証券上場規程第213条第1項、第207条第1項、第219条第1項および新規上場ガイドブック(プライム市場編・スタンダード市場編・グロース市場編、2026年7月21日版)の実質基準一覧表をもとに整理。

グロース市場では、開示の適切性が第1号に前倒しされている点も見逃せません。事業実績が乏しい会社に投資する以上、投資者が拠り所とするのは開示された事業計画と成長可能性の説明だからです。第1号と第4号は、グロース市場では表裏一体の関係にあります。

「高い成長可能性」は主幹事証券会社が判断する

ここが最も誤解されやすい点です。新規上場ガイドブック(グロース市場編)は、グロース市場の適合要件である高い成長可能性を申請会社が有しているか否かは主幹事を務める証券会社が判断する、と明記しています。東証は、この主幹事証券会社の判断を前提として上場審査を行う立場です。

主幹事証券会社は、申請会社が高い成長可能性を有している旨を記載した東証所定の「上場適格性調査に関する報告書」に、成長に係る評価の対象とした事業について記載した書面を別紙として添付し、東証に提出します。この別紙のドラフトを用いて、上場申請の1週間以上前に行われる事前確認の場で、日本取引所自主規制法人の審査担当者へ説明が行われます。

「高い成長可能性」の評価と「事業計画の合理性」の審査の役割分担主幹事証券会社高い成長可能性を有するか否かを評価・判断する「上場適格性調査に関する報告書」の別紙に評価内容を記載し東証へ提出評価手法は各社の判断による東証(日本取引所自主規制法人)主幹事証券会社の評価を前提として事業計画の合理性を審査するビジネスモデル・事業環境・リスク要因を踏まえた策定かを確認根拠は規程第219条第1項第4号申請会社は、両者に対して同じ事実に基づく一貫した説明ができる状態を作っておく必要がある

図1 「高い成長可能性」を評価するのは主幹事証券会社、事業計画の合理性を審査するのは東証

両者が見る事項はどう違うのか

ガイドブックのQ&Aによれば、主幹事証券会社は高い成長可能性を評価するために、将来の市場規模に関する見込み(第三者機関が作成したデータ等)、ビジネスモデルや取り扱っている製商品・サービスの特徴、競争力の源泉(経営資源・競争優位性)、経営上重視する経営指標の見込み、将来の事業展開・成長戦略といった事項を、客観的な事実を踏まえながら確認します。

これらの「高い成長可能性の直接的な根拠となる事項」については、東証は主幹事証券会社による評価を前提とします(ただし、著しく合理性を欠く場合を除きます)。そのうえで東証が審査するのは、申請会社が策定した事業計画の合理性です。なお、東証が確認する「事業計画の合理性」に関する事項についても、通常は主幹事証券会社においても十分な確認が行われることになる、とされています。

実務上の意味合いは明快です。成長ストーリーの説得力を作り込む相手は主幹事証券会社ですが、その成長ストーリーを数字に落とした事業計画は東証が直接見ます。両者に矛盾があれば、どちらの局面でも詰まります。

事前確認で主幹事証券会社が説明する6つの事項

ガイドブック(グロース市場編)は、主幹事証券会社が事前確認において別紙のドラフトに基づき説明する内容を、次のとおり列挙しています。申請会社としては、これらを主幹事証券会社が説明できる状態に材料を揃えることが準備の中身になります。

事前確認で主幹事証券会社が説明する6つの事項1 成長事業の内容と選定理由ビジネスモデル・市場環境・競争力の源泉・リスク情報2 重視する重要な経営指標採用理由・最近3年間程度の実績値・具体的な目標値3 高い成長可能性の判断根拠市場の拡大見込み、競合との差別化要因など4 事業計画の内容及び前提条件計画期間は申請会社ごとに異なる5 合理的に作成されたと判断した点判断に至ったポイントを説明する6 利益計画及び前提条件策定している場合に説明する

図2 上場適格性調査に関する報告書の別紙ドラフトに基づいて説明される事項

成長事業の説明で押さえるべき2つの視点

ガイドブックのQ&Aは、成長事業が高い成長可能性を有すると判断した根拠を説明する際の留意点として、市場環境と競争優位性・経営資源の2つを挙げています。

  • 市場環境は、ターゲットとする具体的な市場の内容(顧客の種別、地域など)と規模、主要な製商品・サービスごとの競合の状況(競合の内容、ポジショニング、シェア等)を、できる限り信憑性・客観性の高いデータで説明する
  • 第三者機関による市場データが存在しない場合は、合理的な算出方法を用いて独自に測定したデータでも差し支えない
  • 競争優位性は、付加価値の高い製品の提供や低コストでの提供が可能である点など、競合他社や既存の製商品・サービスとの差別化を可能とした独自の特徴・強みを、客観的事実に基づいて説明する
  • その基礎となる経営資源としては、成長ドライバーとなる技術・知的財産、ビジネスモデル、ノウハウ、ブランド、人材(経営陣等)などが考えられる

「市場が伸びているから当社も伸びる」だけでは説明が足りません。市場の拡大という外部要因と、その拡大を自社が取りにいける理由という内部要因の両方を、事実で裏づける構成が求められます。

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東証が審査する「事業計画の合理性」の2つの基準

有価証券上場規程第219条第1項第4号は、申請会社およびその企業グループが相応に合理的な事業計画を策定しており、それを遂行するために必要な事業基盤を整備していること、または整備する合理的な見込みのあることを求めています。上場審査等に関するガイドラインでは、これが2つの基準に分解されています。

基準 内容と審査のポイント
(1)事業計画が適切に策定されていること 事業計画が、そのビジネスモデル、事業環境、リスク要因等を踏まえて適切に策定されていると認められること。審査では、ビジネスモデルの特徴(強み・弱み)、業界環境や競合他社の状況、対象市場の規模や成長度合い、製商品・サービスの需要動向、原材料市場等の動向、主要な取引先の状況、法的規制の状況といった要素が事業計画に適切に反映されているかを中心に確認する。あわせて、利益計画・販売計画・仕入生産計画・設備投資計画・人員計画・資金計画が整合的か、高い成長を実現するための事業計画となっているかも確認する。ただし短期的な計画の達成・進捗状況を確認する趣旨ではない。
(2)事業基盤が整備されていること又はその合理的な見込みがあること 事業計画の遂行に当たって当面必要となる、営業人員や研究・開発人員等の人的資源、事業拠点や設備等の物的資源、投資資金等の金銭資源など各種経営資源について、審査時点の状況または上場後の見込みから整備されていると認められるかを確認する。審査時点で整備が十分でなくても、上場時の調達資金を用いた具体的な設備投資計画や合理的な人員確保の計画がある場合は、整備される合理的な見込みがあるものとして取り扱われる。一方、将来における整備の見込みに極端に依存する場合や、審査時点で整備されていない理由を合理的に説明できない場合は、合理的な見込みがあると認められないことがある。

出典:有価証券上場規程第219条第1項第4号および上場審査等に関するガイドラインⅣ5.(1)(2)、新規上場ガイドブック グロース市場編(2026年7月21日版)。

上場時に赤字を計上する計画の場合

グロース市場では短期的な黒字化の実現は必要ありません。もっとも、上場時点で赤字を計上する計画である場合には、ガイドブックのQ&Aが示すとおり、次のような観点からも事業計画の合理性について確認が行われます。

  • 販売実績に乏しい場合、販売先の確保の見通しがあるか
  • 市場環境(市場規模やシェア・競合状況)と自社の製商品・サービス・開発品等の特徴から、販売計画を合理的に説明できるか
  • 今後の販売拡大が過去実績を大きく上回る計画である場合、その要因を合理的に説明できるか
  • 販売計画の前提となる事象(販売パートナーとの契約締結や許認可の取得など)があるとき、それが整備されていること又はその見込みを説明できるか
  • 人件費や広告宣伝費を含む投資によって見込まれる効果(販売数量の増加、原価の低減、新製品・新サービスの開始など)を計画に織り込んでいる場合、その効果は合理的に見積もられているか
  • 投資の期間について、投資方針の変更や投資継続の判断に係る考え方を踏まえて合理的に説明できるか
  • 資金計画において上場時の調達資金の比重が大きい場合、調達額が想定を下回った際のバックアッププランや事業計画の変更・縮小について、その影響を含め十分な検討が行われているか

とくに最後の資金計画は見落とされがちです。市況によって公開価格や調達額は上下しますから、「調達できた前提」の一本値で組んだ計画は、合理性の説明が難しくなります。

月次業績が計画から乖離している場合

上場申請期の月次業績の進捗が当初計画と乖離していると、それだけで審査上の問題になるのではないかと不安になるところです。ガイドブックのQ&Aは、「事業計画の合理性」の審査は短期的な計画の達成・進捗状況を確認する趣旨ではないため、足元の月次業績が当初計画と乖離しているという状況だけで事業計画の合理性を問題視することはない、としています。

ただし、そのような状況では「企業内容の開示の適切性」および「内部管理体制の有効性」の観点から、適時・適切に業績予想などの将来予測情報の修正を行うために、経営環境や月次業績、予実差異を適切に把握・分析できるかが確認されます。また、売上比率の大部分を占める取引先との取引関係の解消や、会員積上型ビジネスにおける会員数の大幅減少など、高い成長可能性の前提や事業基盤・事業計画の前提に影響を来す事態であれば、事業計画の合理性の観点からも必要な検討が行われます。

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高い成長可能性に数値基準はない、ただし2030年の上場維持基準がある

「時価総額いくら以上なら高い成長可能性があると認められるのか」という質問に対し、ガイドブックのQ&Aは明確に答えています。会社の成長は、成長するまでの期間や伸び率も含め、会社の規模や属する業界、事業特性等によって様々であると考えられることから、高い成長可能性の判断の目安となるような数値基準は設けられていません。

その一方で、東証はグロース市場について上場維持基準の見直しを進めており、原則2030年以降、上場後5年経過後から時価総額100億円以上という新たな上場維持基準を適用することとしています。ガイドブックは、主幹事証券会社が時価総額100億円未満の規模で上場しようとする会社の成長可能性を評価するにあたっては、この上場維持基準への適合を意識した評価が求められる、と述べています。

新規上場と、原則2030年以降に適用される上場維持基準の関係グロース市場に上場高い成長可能性の評価を受けて上場上場から5年経過成長戦略の進捗を継続して開示原則2030年以降新たな上場維持基準の適用時価総額100億円以上上場5年経過後から適用時価総額100億円未満の規模で上場する場合、主幹事証券会社の成長可能性の評価も、この上場維持基準への適合を意識したものであることが求められる。

図3 高い成長可能性の判断に数値基準はないが、上場維持基準は意識した検討が求められる

ガイドブックのQ&Aは、上場維持基準に抵触する可能性のある時価総額の規模(時価総額100億円未満など)で上場する場合、上場維持基準への適合を意識して、上場後の成長戦略や具体的な施策などについて取締役会等でより丁寧に議論するとともに、その検討内容を投資家に対してより積極的に説明・開示していくことが求められる、としています。上場時の時価総額の水準に応じて、将来の上場維持基準抵触リスクについて開示することも考えられる、とも述べられています。

そして上場審査においては、これらの上場維持基準への適合を意識した取締役会等での議論や、投資家への説明・開示の状況について確認が行われます。つまり、2030年の話は「上場した後の話」ではなく、上場審査の場で議事録や開示ドラフトを通じて確認される、現在進行形の論点です。

成長事業の選定で慎重な判断が求められるケース

高い成長可能性の判断に際しては、成長事業だけでなく申請会社全体が成長する計画となることが求められます。ガイドブックのQ&Aは、次のようなケースでは慎重な判断が求められる、としています。

・成長事業の属する市場が非常に小さく、数年で成長が限界点に達することが想定される場合

・利益の増加要因が専らリストラによる経営効率の向上や投資の抑制等によるものである場合(成長事業の売上高がほとんど増加していない場合)

・高い成長可能性を有する事業の成長が、申請会社全体の成長を牽引することとならないような軽微なものである場合

3つ目のケースについては、成長事業の今後の拡大余地など個社ごとに状況が異なるため、東証への事前相談が求められています。売上構成比が小さい新規事業だけを成長事業として切り出し、全体の大半を占める既存事業が横ばいという計画は、この観点から説明が必要になります。

製商品化・サービス化前のディープテック企業

宇宙、素材、ヘルスケアなど、先端的な領域で新技術を活用し新たな市場の開拓を目指す研究開発型企業(ディープテック企業)が、製商品化・サービス化に至っていない段階で上場しようとする場合、事業環境やビジネスモデルの内容、事業基盤の整備見込みの確認手段が限られるため、事業計画の合理性の評価が相対的に困難になります。

ガイドブックのQ&Aは、こうした場合でも、機関投資家から大規模に資金を調達することで上場までに相応の企業規模となっており、上場時も機関投資家を中心に大規模な資金調達を行う場合には、投資家評価などを前提に事業計画の合理性を確認することでグロース市場への上場が可能となる、としています。想定されている水準として、上場前から100億円程度の資金調達実績があり、上場時の時価総額が1,000億円程度の水準に達する場合が例示されています。

なお、ディープテック企業であっても、これまでの事業実績等から技術開発等の水準・見通し、顧客需要やコストを含むビジネスモデルの具体的な計画、規制動向・法的基盤等の状況を踏まえて事業計画の合理性を評価できる場合には、投資家評価が求められるものではないとされています。

上場日に開示する「事業計画及び成長可能性に関する事項」

グロース市場に新規上場する会社は、その上場日当日に「事業計画及び成長可能性に関する事項」を開示することが求められます(有価証券上場規程施行規則第408条)。記載するのは、ビジネスモデル、市場環境、競争力の源泉、事業計画、リスク情報等です。

この資料は上場(予備)申請日に提出します。審査では、資料の内容が会社の事業実態や上場審査で説明した事業計画、主幹事証券会社による成長可能性に関する評価と整合的な内容となっているかという観点、分かりやすさの観点、そして投資者の投資判断(特に成長可能性の評価)に資する情報が適切に記載されているかという観点から確認が行われ、場合によっては記載の充実を求められることがあります。

上場後も、1事業年度に1回以上(事業年度経過後3か月以内に少なくとも1回)、進捗状況を反映した最新の内容によって開示することが求められます。事業計画を見直した場合や事業の内容に大幅な変更があった場合など、記載内容に重要な変更が生じたときは、速やかにその内容を開示する必要があります。

グロース市場のコンセプトが「事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ一定の市場評価が得られる」ことを前提としている以上、この開示は上場後の継続的な義務であると同時に、上場前に主幹事証券会社・東証・投資家の三者へ同じ成長ストーリーを提示するための共通資料でもあります。

準備段階で整えておきたいこと

ここまでの内容を、申請会社側の準備という観点で整理します。

  • 成長事業を明確に切り出し、その選定理由を、全社の成長を牽引する規模感とともに説明できるようにする
  • ターゲット市場の規模と競合状況を、第三者データまたは合理的な算出方法による独自データで裏づける
  • 競争優位性を、経営資源(技術・知的財産・ビジネスモデル・ノウハウ・ブランド・人材)と結びつけて客観的事実で示す
  • 経営上重視する経営指標を定め、採用理由と最近3年間程度の実績値・具体的な目標値を揃える
  • 利益・販売・仕入生産・設備投資・人員・資金の各計画を整合させ、前提条件を文書化する
  • 事業基盤(人的・物的・金銭資源)の現状と、上場後の整備計画を具体的に示す
  • 調達額が想定を下回った場合のバックアッププランを検討しておく
  • 時価総額100億円未満での上場を想定する場合、上場維持基準への適合を意識した議論を取締役会等で行い、議事録に残す
  • 「事業計画及び成長可能性に関する事項」のドラフトを早期に着手し、Ⅰの部・審査説明資料との整合を確保する

IPO準備全体の流れのなかで本論点がどこに位置するかは、IPO準備 完全ガイド|上場までの流れと審査要件を全11回で解説もあわせてご確認ください。

よくある質問

Q. 高い成長可能性は東証が判断するのですか。

いいえ。新規上場ガイドブック(グロース市場編)は、申請会社がグロース市場の適合要件である高い成長可能性を有しているか否かについては主幹事を務める証券会社が判断する、としています。東証はその判断を前提として、事業計画の合理性等の実質審査基準に照らした上場審査を行います。

Q. 高い成長可能性に数値基準はありますか。

設けられていません。会社の成長は、成長するまでの期間や伸び率も含め、会社の規模や属する業界、事業特性等によって様々であるためです。ただし、原則2030年以降に上場5年経過後から時価総額100億円以上という上場維持基準が適用されるため、時価総額100億円未満の規模で上場する場合は、その適合を意識した評価・検討が求められます。

Q. 上場時点で赤字でもグロース市場に上場できますか。

ガイドブックは短期的な黒字化の実現は必要ないとしています。ただし上場時点で赤字を計上する計画の場合、販売計画・投資計画・資金計画のそれぞれについて、より踏み込んだ観点から事業計画の合理性が確認されます。

Q. 事業計画の期間はどれくらいが一般的ですか。

ガイドブックのQ&Aでは、一般的には3年程度の中期計画を策定している例が多いようだとしつつ、事業計画の策定期間は申請会社ごとに異なるとされています。

Q. 申請期の月次業績が計画に届いていません。審査で問題になりますか。

足元の月次業績が当初計画と乖離しているという状況だけで事業計画の合理性が問題視されることはない、とされています。ただし、予実差異を適切に把握・分析し将来予測情報を適時に修正できる体制かどうかは、開示の適切性・内部管理体制の有効性の観点から確認されます。

まとめ

グロース市場の「高い成長可能性」は、東証が数値で線を引く要件ではなく、主幹事証券会社が客観的事実に基づいて評価し、東証がその評価を前提に事業計画の合理性(有価証券上場規程第219条第1項第4号)を審査するという二層構造で確認されます。

準備の実務としては、成長事業の切り出しと選定理由、市場規模と競争優位性の客観的な裏づけ、経営指標の実績値と目標値、そして各計画が整合した事業計画と事業基盤の整備状況という材料を、主幹事証券会社への説明・東証への審査説明・上場日の開示という3つの場面で矛盾なく使える形に揃えておくことが要点です。加えて、原則2030年以降の上場維持基準を意識した取締役会等での議論と開示の状況も、上場審査で確認される論点となっています。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の整備支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

【参考・出典】本記事は次の一次情報に基づいて作成しています。日本取引所グループ「新規上場ガイドブック」(グロース市場編・プライム市場編・スタンダード市場編、2026年7月21日版)、東京証券取引所 有価証券上場規程・同施行規程等(JPX規則集)(第219条第1項第4号、第213条第1項、第207条第1項、施行規則第408条ほか)、日本取引所グループ「上場審査基準」日本取引所グループ「上場維持基準の詳細(時価総額)」。記載内容は2026年9月時点の情報に基づく一般的な解説であり、個別事案の判断を保証するものではありません。実際の対応に当たっては主幹事証券会社および専門家にご相談ください。

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