IPOの形式要件とは?東証プライム・スタンダード・グロース3市場の上場基準を一覧比較

IPO(新規株式公開)の準備を始めるとき、最初に確認したいのが東京証券取引所の「形式要件」です。株主数・流通株式・利益の額といった数値基準が市場区分ごとに定められており、プライム・スタンダード・グロースのどの市場を目指すかによって、準備すべき水準は大きく変わります。

本記事では、有価証券上場規程に定めるプライム市場(第211条)・スタンダード市場(第205条)・グロース市場(第217条)の形式要件を一覧表で比較したうえで、項目ごとの意味と実務上の留意点を、IPO支援に特化した公認会計士が解説します。

形式要件とは?実質審査基準との違い

東証の新規上場審査の基準は、大きく「形式要件」と「実質審査基準」の2つに分かれます。形式要件とは、株主数・流通株式・利益の額のように、充足しているかどうかを数値や客観的な事実で判定できる基準のことで、プライム市場は有価証券上場規程第211条、スタンダード市場は同第205条、グロース市場は同第217条に定められています。上場申請にあたっては、まずこの形式要件のすべてに適合していることが前提となります。

これに対して実質審査基準は、企業の継続性・収益性、企業経営の健全性、コーポレート・ガバナンスおよび内部管理体制の有効性、企業内容等の開示の適正性などを定性的に審査する基準で、プライム市場は同第213条、スタンダード市場は同第207条、グロース市場は同第219条に定められています。なお、グロース市場の実質審査基準は他の2市場と項目が異なり、「事業計画の合理性」「企業経営の健全性」「企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」「企業内容、リスク情報等の開示の適切性」で構成されます。高い成長可能性を有しているかどうかの判断は、東証の審査項目ではなく主幹事証券会社が行い、その根拠を記載した書面が上場申請時に提出されます。つまり、形式要件は上場審査の「入口」であり、形式要件を満たしたうえで実質審査基準に基づく審査を受けるという二段構えの構造になっています。

  • 形式要件=数値・事実で客観的に判定できる基準(プライム211条・スタンダード205条・グロース217条)
  • 実質審査基準=継続性・収益性やガバナンス等を定性的に審査する基準(プライム213条・スタンダード207条・グロース219条)
  • 形式要件の充足は上場申請の前提であり、満たしても審査に通るとは限らない

3市場の形式要件を一覧比較

主要な形式要件を3市場で比較すると、次の表のとおりです。株主数や流通株式、時価総額は、申請時点ではなく「上場の時まで」に基準へ到達する見込みで判定される点が特徴です。

項目 プライム スタンダード グロース
株主数(上場時見込み) 800人以上 400人以上 150人以上
流通株式数 2万単位以上 2,000単位以上 1,000単位以上
流通株式時価総額 100億円以上 10億円以上 5億円以上
流通株式比率 35%以上 25%以上 25%以上
時価総額 250億円以上 基準なし 基準なし
純資産の額 連結50億円以上(かつ単体が負でない) 連結純資産が正 基準なし
利益の額又は売上高 最近2年間の利益合計25億円以上、又は最近1年間の売上高100億円以上かつ時価総額1,000億円以上 最近1年間の利益1億円以上 基準なし
公募の実施 要件なし 要件なし 500単位以上の公募(上場日の時価総額250億円以上の場合等を除く)
事業継続年数 3か年以前から 3か年以前から 1か年以前から

※有価証券上場規程第211条・第205条・第217条および東証「新規上場ガイドブック」(プライム市場編・スタンダード市場編・グロース市場編、2026年7月21日更新版)に基づき作成。

このほか、虚偽記載又は不適正意見等がないこと、登録上場会社等監査人による監査を受けていること、株式事務代行機関の設置、単元株式数(100株)、株券等の種類、株式の譲渡制限がないこと、指定振替機関における取扱いといった要件は、3市場に共通して定められています。また、プライム・スタンダードでは合併等の実施の見込みに関する要件(実質的な存続会社でなくなる予定がないこと等)も課されています。

項目別にみる形式要件のポイント

株主数と流通株式──市場での流動性を確保する

株主数は、1単元(100株)以上の株式を所有する株主の数で判定します。プライム800人・スタンダード400人・グロース150人という水準は、いずれも上場時の公募・売出しによる株式の分散を織り込んで判定されるため、資本政策の段階で公募・売出しの規模を意識しておくことが重要です。

流通株式とは、上場株式のうち、大株主や役員等の所有株式、自己株式など、市場に流通する可能性の乏しい株式を除いたものをいいます。流通株式については「数」「時価総額」「比率」の3つの基準があり、特に流通株式時価総額(プライム100億円・スタンダード10億円・グロース5億円)は、原則として上場に係る公募等の価格に上場時に見込まれる流通株式数を乗じて算定されます。想定される公開価格の水準によって充足状況が変わるため、主幹事証券会社と想定時価総額を試算しながら確認していくことになります。

時価総額・純資産・利益──経営成績と財政状態の基準

プライム市場では、時価総額250億円以上、連結純資産50億円以上(かつ単体純資産が負でないこと)に加え、利益の額(最近2年間の合計25億円以上)又は売上高(最近1年間100億円以上かつ時価総額1,000億円以上)という高い水準の基準が課されています。多くの機関投資家の投資対象となりうる規模・実績を求める市場コンセプトの表れといえます。

スタンダード市場は、連結純資産が正であることと、最近1年間の利益1億円以上が基準です。一方、グロース市場には時価総額・純資産・利益のいずれの基準もありません。そのため制度上は赤字の会社でも申請できますが、その代わりに、高い成長可能性を有しているかどうかを主幹事証券会社が判断し、その根拠を記載した書面が上場申請時に提出されます。東証の実質審査(第219条関係)では、事業計画の合理性が重点的に確認されます。

公募の実施と事業継続年数

グロース市場に特有の要件として、500単位以上の新規上場申請に係る株券等の公募を行うことが求められます(上場日における時価総額が250億円以上となる場合等を除きます)。上場に際して新たに市場から資金調達を行い、株式を分散させることを前提とした要件です。

事業継続年数は、プライム・スタンダードが「3か年以前から」、グロースが「1か年以前から」株式会社として継続的に事業活動をしていることが必要です。起算点は株式会社としての事業活動であるため、合同会社からの組織変更や法人成りのタイミングが影響することがあります。設立間もない会社や組織再編を予定している会社は、スケジュールへの影響を早めに確認しておきましょう。

監査意見と登録上場会社等監査人による監査

プライム・スタンダードでは、最近2年間の有価証券報告書等に虚偽記載がなく、監査意見について、最近2年間(最近1年間を除く)は「無限定適正」又は「限定付適正」、最近1年間は原則として「無限定適正」であることが求められます。グロースでも、新規上場申請のための有価証券報告書に添付される監査報告書等について同趣旨の要件が定められています。

また、これらの監査は登録上場会社等監査人(日本公認会計士協会の品質管理レビューを受けた監査法人・公認会計士)によることが必要です。実務上は、いわゆる直前々期・直前期の2期分(グロースは申請書類に添付する財務諸表等)について監査を受ける必要があるため、監査法人の選任は上場準備の最初期に着手すべき事項です。監査法人の受嘱余力が限られる時期には、ショートレビューから監査契約までの動き出しの早さが結果を左右することもあります。

そのほかの共通要件

株式事務代行機関(信託銀行等)への委託又は受託の内諾、単元株式数が100株となる見込み、株券等の種類(原則として議決権付株式1種類)、株式の譲渡制限を行っていないこと、指定振替機関(証券保管振替機構)の振替業における取扱い対象となることも、3市場共通の形式要件です。定款変更や株式事務代行機関との契約など、上場申請までに会社側で対応すべき事項が多く含まれます。

実務上の留意点

  • 流通株式時価総額や時価総額は公募等の価格をもとに上場時見込みで判定されるため、資本政策と想定時価総額をセットで検討する
  • 形式要件を上場時にぎりぎり満たす水準だと、上場後の上場維持基準への抵触リスクについて対応方針の確認や開示要請を受けることがあるため、余裕をもった水準設計を心がける
  • 形式要件の充足状況だけで申請市場を決めるのではなく、自社の事業ステージと市場コンセプトの適合を先に考え、形式要件はその実現可能性の確認に使う
  • 監査要件・事業継続年数は後から遡って対応できないため、上場予定期から逆算して最初期に確認する

よくある質問(FAQ)

Q. 形式要件をすべて満たせば上場できますか?

いいえ。形式要件は上場申請の前提となる入口の基準にすぎず、これを満たしたうえで、企業の継続性・収益性やガバナンス、内部管理体制などを確認する実質審査基準(プライム第213条・スタンダード第207条・グロース第219条)に基づく審査に適合する必要があります。

Q. グロース市場は赤字でも上場できますか?

グロース市場の形式要件には利益の額・純資産の額・時価総額の基準がないため、制度上は赤字でも申請可能です。ただし、高い成長可能性を有しているかどうかは東証ではなく主幹事証券会社が判断し、その根拠が上場申請時に提出されます。そのうえで東証の実質審査では、事業計画の合理性や、企業内容・リスク情報等の開示の適切性などが確認されます。

Q. 「上場時見込み」とは、いつ時点の数値で判定されるのですか?

株主数や流通株式などの要件は、申請時点の実績ではなく、上場の時までに基準へ到達する見込みがあるかで判定されます。流通株式時価総額は、原則として上場に係る公募等の価格に、上場時に見込まれる流通株式数を乗じて算定されます。

上場基準の充足確認・IPO準備のご相談は当事務所へ

鈴木佑也公認会計士税理士事務所は、東京都台東区を拠点にIPO支援業務へ特化した会計事務所です。形式要件の充足状況の確認から、資本政策・上場準備の課題整理まで、公認会計士が実務に踏み込んで伴走支援いたします。

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【根拠条文・参照資料】東京証券取引所「有価証券上場規程」第211条・第213条(プライム市場)、第205条・第207条(スタンダード市場)、第217条・第219条(グロース市場)、東証「新規上場ガイドブック」プライム市場編・スタンダード市場編(2026年3月25日版)、グロース市場編(2026年7月21日版)。本記事は2026年7月時点の情報に基づいています。個別の案件については、必ず最新の規程・ガイドブックをご確認のうえ、専門家にご相談ください。

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