新リース会計基準の影響は?自己資本比率・EBITDAへのインパクト

新リース会計基準の適用で、自社の貸借対照表や経営指標がどれくらい変わるのか──。IPO準備会社や上場企業の経理・財務・経営企画のご担当者、そして銀行借入の財務制限条項(コベナンツ)を管理されている方にとって、最初に押さえておきたいのがこの「数値インパクト」です。

結論からいえば、これまでオペレーティング・リースとして費用処理していたリースがオンバランスされる結果、総資産と負債は増加し、自己資本比率やROAは低下する一方、営業利益やEBITDAはむしろ改善方向に動きます。本記事では、その仕組みを条項ベースで確認したうえで、自作の数値例と影響試算チェックリストで具体的に解説します。

結論:貸借対照表は「重く」、利益指標は「改善方向」に動く

新リース会計基準(企業会計基準第34号)は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度・事業年度の期首から強制適用され、2025年4月1日以後開始する年度からの早期適用も認められています(基準58項)。借手は、原則としてすべてのリースについて、リース開始日に使用権資産とリース負債を計上します(基準33項)。従来型の賃貸借処理が広く残るわけではないため、オフィスや店舗の賃借が多い会社ほど、財務数値への影響は大きくなります。

主な財務指標への影響の方向性を整理すると、次のとおりです。

指標方向主な理由
総資産・負債増加使用権資産とリース負債が新たに計上される
自己資本比率低下分母(総資産)が大きく増える一方、分子(純資産)は増えない。リース開始時点では使用権資産=リース負債で純資産は不変だが、その後は使用権資産の減少が先行し純資産もやや減少する
負債資本倍率上昇有利子負債に準じるリース負債が分子に加わる
営業利益改善方向賃借料が消え、代わりの費用のうち利息部分が営業外に移る
EBITDA改善賃借料が減価償却費と利息費用に置き換わり、いずれも足し戻し・除外の対象になる
経常利益・当期純利益初期は減少方向利息費用が前半に多く計上され、費用が前傾化する
ROA低下利益の増加より総資産の増加の影響が大きい

※影響の程度はリースの量・期間・割引率により大きく異なります。方向性も個社の状況によって変わり得ます。

なぜ指標が動くのか──オンバランス化の仕組み

使用権資産とリース負債が計上される

借手は、リース開始日に、未払のリース料から利息相当額を控除した現在価値でリース負債を計上します(基準34項)。そして、このリース負債に開始日までに支払ったリース料や付随費用等を加減した額で使用権資産を計上します(基準33項)。つまり、これまで貸借対照表に載っていなかった「借りて使う権利」と「将来の支払義務」が、両建てで資産・負債に載ることになります。

使用権資産は、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合の科目に含めるか、原資産の表示区分の中で「使用権資産」として区分するかのいずれかで表示します(基準49項)。リース負債は、貸借対照表で区分表示するか、含まれる科目と金額を注記し、1年以内に支払期限が到来する部分は流動負債に、1年超の部分は固定負債に分類します(基準50項)。

なお、リース開始日においてリース期間が12か月以内であり購入オプションを含まない短期リースについては、使用権資産・リース負債を計上せず費用処理を続ける簡便的な取扱いを選択できます(指針4項(2)、指針20項)。少額リースにも同様の簡便的な取扱いがあります(指針22項)。これらをどこまで使うかで、オンバランスされる金額は変わってきます。

費用の「性格」と「配分」が変わる

従来のオペレーティング・リースでは、支払リース料(賃借料)が毎期ほぼ定額で営業費用に計上されていました。新基準では、この賃借料が「使用権資産の減価償却費」と「リース負債に係る利息費用」の2つに分解されます。利息相当額はリース期間にわたり原則として利息法で配分されるため(基準36項)、負債残高が大きい前半ほど利息費用が多く、費用総額は前傾化します。

所有権が借手に移転すると認められるリース以外のリースでは、原則としてリース期間を耐用年数、残存価額をゼロとして減価償却費を算定します(基準38項)。所有権が移転すると認められるリースでは、自己所有の固定資産と同一の方法で償却します(基準37項)。また、リース負債に係る利息費用は、損益計算書で区分表示するか、含まれる科目と金額を注記することとされています(基準51項)。

賃借料という営業費用が、営業費用としての減価償却費と、財務費用としての性格を持つ利息費用に置き換わる結果、利息部分を営業外費用として表示する一般的な損益計算書の区分を前提とすれば、営業利益は「従来の賃借料-使用権資産の減価償却費」の分だけ改善方向に動きます。リース期間を通算すればこの改善額の合計は利息相当額の総額と一致しますが、各年度でみると当該年度の利息費用の額とは一致しません(後掲の設例では、初年度の改善額は84千円であるのに対し、同年度の利息費用は137千円です)。EBITDA(利払前・税引前・償却前利益)でみると、減価償却費も利息費用も除かれるため、従来の賃借料相当額がまるごと改善要因になります。

数値例:適用前後で指標はこう変わる

前提(自作の設例):年間リース料1,000千円・後払い、リース期間5年、割引率3%のオフィス賃借(従来はオペレーティング・リース処理)。リース負債の現在価値は約4,580千円、使用権資産も同額とします。適用前の会社の数値は、総資産10,000千円、負債4,000千円、純資産6,000千円、営業利益1,000千円(賃借料1,000千円控除後)、既存の減価償却費500千円、他に営業外損益はないものとします。

指標適用前適用後(初年度期首・通期損益)
総資産10,000千円14,580千円(使用権資産+4,580)
負債4,000千円8,580千円(リース負債+4,580)
自己資本比率60.0%41.2%(▲18.8pt)
営業利益1,000千円1,084千円(賃借料1,000が消え、減価償却費916を計上)
EBITDA1,500千円2,500千円(+1,000=従来の賃借料相当額)
経常利益1,000千円947千円(利息費用137を営業外に計上)
ROA(営業利益ベース)10.0%7.4%

※貸借対照表項目は適用日(初年度期首)の残高、損益計算書項目は初年度通期の金額です。使用権資産は減価償却により逓減するため、初年度末時点の総資産は13,664千円、自己資本比率は約43.9%となり、期首時点の41.2%からは戻り方向に動きます。適用の影響を経年でみる場合は、各期末残高ベースでの試算が必要です。

使用権資産の減価償却費は4,580千円÷5年=年916千円、初年度の利息費用は4,580千円×3%≒137千円です。初年度の費用合計は1,053千円と、従来の賃借料1,000千円より53千円多くなり、後半の年度ほど利息費用の減少により費用は小さくなります。リース期間を通算した費用総額は変わらない一方、「貸借対照表の膨張」と「費用の前傾化」が同時に起きることが、この設例からも確認できます。

実務上の留意点──「試算」の前に契約の棚卸しが必要になる

財務指標への影響を経営陣や銀行に説明するには、まず自社のリース契約を網羅的に把握し、契約ごとにリース期間と割引率を設定して現在価値を計算する必要があります。不動産賃貸借を含めて契約書を一件ずつ確認する作業(いわゆる契約書のローラー作業)は、経理部門だけで完結せず、総務・現場部門を巻き込む全社的なプロジェクトになりがちです。

また、監査法人との協議では、影響額の試算根拠として、リースの識別・リース期間・割引率の設定方針を文書で説明できることが実務上重要になります。IPO準備会社であれば、利益計画や予算にどの年度から新基準を織り込むか、適用初年度に自己資本比率やROAが段差的に動くことをどう説明するかが論点になります。銀行借入に財務制限条項(自己資本比率や有利子負債倍率など)が付されている場合、基準適用による数値変動が条項に抵触しないか、事前に金融機関と協議しておくことも検討に値します。影響額の試算やスケジュール設計を含めた導入対応の全体像は、新リース会計基準 導入支援サービスのページでもご案内しています。

影響試算チェックリスト

  • 賃貸借契約・レンタル契約を含め、リースを含む可能性のある契約を全社から収集したか
  • 短期リース・少額リースの簡便的な取扱いをどの範囲で使うか方針を仮決めしたか
  • 契約ごとにリース期間(延長・解約オプション含む)の前提を設定したか
  • 割引率の算定方針(貸手の計算利子率・借手の追加借入利子率)を決めたか
  • 使用権資産・リース負債の概算額を計算し、自己資本比率・EBITDA等の主要指標で適用前後を比較したか
  • 財務制限条項・格付け・与信への影響と、金融機関への説明タイミングを検討したか
  • 経営陣・監査法人への報告資料に、試算の前提条件を明記したか

よくある質問(FAQ)

Q. 新リース会計基準で自己資本比率はなぜ下がるのですか?

使用権資産とリース負債が両建てで計上されて総資産(分母)が増える一方、分子である純資産は増えないためです。リース開始時点では使用権資産とリース負債が同額なので純資産は変動しませんが、その後は定額の減価償却による使用権資産の減少が、利息法によるリース負債の減少を上回るため、純資産も徐々に減少します。さらに、適用初年度に過去の期間へ遡及適用する方法を採る場合は、その累積的影響額が期首の利益剰余金から控除されます。リース依存度が高い業種ほど低下幅は大きくなる傾向があります。

Q. EBITDAが改善するのは本当ですか?

従来の賃借料が減価償却費と利息費用に置き換わり、どちらもEBITDAの計算上は足し戻し・除外されるため、指標としては改善します。ただし実際のキャッシュ・フローが変わるわけではないので、社内KPIや役員報酬の業績指標にEBITDAを使っている場合は、基準変更の影響を除いて評価する仕組みの検討が必要です。

Q. 当期純利益への影響はありますか?

リース期間を通算した費用総額は賃借料の合計と一致しますが、利息法による配分のため費用が前半に偏り(基準36項)、適用初期の利益は小さく、後半は大きくなる傾向があります。新しいリースを継続的に契約していく会社では、前傾化の影響が続きやすい点に留意が必要です。

Q. 銀行借入の財務制限条項(コベナンツ)には影響しますか?

自己資本比率や有利子負債関連の指標を用いた条項では、基準適用により数値が悪化して見える可能性があります。契約上の指標の定義(会計基準変更の取扱い)を確認し、必要に応じて早めに金融機関と協議しておくことが望ましいと考えられます。

まとめ

新リース会計基準の適用により、総資産・負債の増加と自己資本比率・ROAの低下、営業利益・EBITDAの改善方向への変化、そして費用の前傾化という形で、財務数値と経営指標は広い範囲で動きます。大切なのは、適用が始まってから慌てるのではなく、契約の棚卸しに基づく影響額の早期試算と、経営陣・金融機関・監査法人への計画的な説明です。

連載の全体像は連載目次:新リース会計基準を基礎から実務まで解説を、前回の記事は新リース会計基準とIFRS16の違いは?日本基準独自の取扱いを解説をご覧ください。次回からは第2部として、すべての出発点となる「リースの識別」を読み解いていきます。

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本記事は執筆時点の会計基準等に基づく一般的な解説であり、個別の会計処理・経営判断については、監査法人や顧問の専門家にご相談ください。

参考(本文で引用した基準等):企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」33項・34項・36項・37項・38項・49項・50項・51項・58項、企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」4項(2)・20項・22項

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