福利厚生費の否認|特定の社員だけが受益する支出

福利厚生費は、税法に定義のない科目です。法人税法にも所得税法にも「福利厚生費とは」という条文はありません。あるのは、本来なら給与として課税される経済的な利益について、一定の場合には課税しなくて差し支えないと定めた通達の集まりです。つまり福利厚生費とは、例外の要件を満たしたものに付く名前であって、名前を付ければ例外になるわけではありません。

調査でこの科目が見られるとき、論点はほぼひとつに集約されます。その支出が、全員に開かれているかどうかです。通達の多くが「役員だけを対象として供与される場合を除き」「従業員等におおむね一律に」という形で、対象の範囲を要件に組み込んでいます。特定の人だけが受け取っているとなると、その人に対する給与になります。

この記事では、通達が置いている例外の要件を、社員旅行、食事の補助、記念品の3つの場面で確認します。あわせて、否認されたときに会社側で何が動くのかを整理します。

この記事は税務調査で指摘される項目 別冊の一編です。調査の進み方そのものについては税務調査 完全ガイドをご覧ください。

図1 福利厚生費が給与に戻される3つの入口入口1 役員だけ役員だけを対象として供与される場合は通達の例外から外れる入口2 特定の人だけ一律でない、参加割合が足りない、不参加者に金銭を支給している入口3 金額が過大社会通念上相当の範囲や通達が示す金額の枠を超えているいずれの入口に入っても、行き着く先は「その人に対する給与」です。

3つの入口はどれも、対象の範囲か金額の大きさに関わるものです。

🧭 出発点は、経済的な利益も収入金額だということ

会社が費用を負担して、役員や従業員が何かを受け取れば、それは受け取った側の収入になります。所得税法第36条第1項が、その原則を置いています。

その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。(所得税法第36条第1項)

課税されないほうが例外である、という順序を押さえておくと、通達の読み方が変わります。所得税基本通達のうち「課税しない経済的利益」で始まる一連の定めは、この例外を具体的に書いたものです。

そして、その例外のほとんどに、対象の範囲に関する条件が入っています。代表的なのが所得税基本通達36-29です。

使用者が役員若しくは使用人に対し自己の営む事業に属する用役を無償若しくは通常の対価の額に満たない対価で提供し、又は役員若しくは使用人の福利厚生のための施設の運営費等を負担することにより、当該用役の提供を受け又は当該施設を利用した役員又は使用人が受ける経済的利益については、当該経済的利益の額が著しく多額であると認められる場合又は役員だけを対象として供与される場合を除き、課税しなくて差し支えない。(所得税基本通達36-29)

「著しく多額」と「役員だけを対象」。この2つが、福利厚生費が否認される場面のほぼすべてを説明します。

👥 通達ごとに「外れる条件」を並べてみる

個々の場面を見る前に、主な通達がどんな条件で例外を打ち切っているかを並べておきます。

通達 例外から外れる条件
36-29 用役の提供等・福利厚生施設 経済的利益の額が著しく多額であると認められる場合、又は役員だけを対象として供与される場合
36-30 レクリエーションの費用 不参加者にその参加に代えて金銭を支給する場合、又は役員だけを対象として行事の費用を負担する場合
36-21 永年勤続者の記念品等 勤続期間等に照らし社会通念上相当と認められないもの、おおむね10年以上の勤続年数を対象としていないもの、現物に代えて金銭を支給するもの
36-22 創業記念品等 価額が1万円を超えるもの、おおむね5年以上の期間ごとでないもの、現物に代えて金銭を支給するもの
36-38の2 食事の支給 本人負担が食事の価額の50パーセント相当額に満たない場合、又は会社負担の残額が月額7,500円を超える場合

並べてみると、条件の形は3種類です。対象が役員だけでないこと、対象が一律であること、金額が枠に収まっていること。加えて、現物に代えて金銭を渡した瞬間に例外が切れる定めが複数あります。ここが実務で最もよく外れます。

🚌 社員旅行|4泊5日と50パーセント

所得税基本通達36-30は、役員又は使用人のレクリエーションのために社会通念上一般的に行われていると認められる会食、旅行、演芸会、運動会等の行事の費用を会社が負担することにより参加者が受ける経済的利益について、課税しなくて差し支えないとしています。ただし、次の2つの場合は除かれます。

使用者が、当該行事に参加しなかった役員又は使用人(使用者の業務の必要に基づき参加できなかった者を除く。)に対しその参加に代えて金銭を支給する場合又は役員だけを対象として当該行事の費用を負担する場合を除き、課税しなくて差し支えない。
(注)上記の行事に参加しなかった者(使用者の業務の必要に基づき参加できなかった者を含む。)に支給する金銭については、給与等として課税することに留意する。(所得税基本通達36-30)

この通達の運用について、昭和63年5月25日付の個別通達(直法6-9、直所3-13)が具体的な数字を示しています。旅行に要する期間が4泊5日以内であること(目的地が海外の場合には、目的地における滞在日数による)、そして旅行に参加する従業員等の数が全従業員等の50パーセント以上であることの2つです。

国税庁のタックスアンサーNo.2603は、この2つの要件を満たしていても給与として課税される旅行として、役員だけで行う旅行、取引先に対する接待・供応・慰安等のための旅行、実質的に私的旅行と認められる旅行の3つを挙げています。

不参加者に金銭を支給すると、参加者の分まで課税されます。タックスアンサーNo.2603は、不参加者に金銭を支給する場合には、参加者と不参加者の全員に、その不参加者に対して支給する金銭の額に相当する額の給与の支給があったものとされる、としています。

「行かない人には現金を渡して公平にする」という運用は、税務上は最も高くつきます。

確認する項目 基準 根拠
行事の性格 社会通念上一般的に行われていると認められる会食、旅行、演芸会、運動会等 通達36-30
期間 4泊5日以内。海外は目的地における滞在日数による 昭和63年の個別通達
参加割合 参加する従業員等の数が全従業員等の50パーセント以上 昭和63年の個別通達
除かれる旅行 役員だけで行う旅行、取引先に対する接待等のための旅行、実質的に私的旅行と認められる旅行 タックスアンサーNo.2603
図2 社員旅行が給与課税されないための確認の順序1 社会通念上一般的に行われている行事か(通達36-30)2 期間は4泊5日以内か(昭和63年の個別通達)3 参加者は全従業員等の50パーセント以上か4 役員だけの旅行、接待目的、私的旅行でないか。不参加者に金銭を渡していないか

1から3を満たしても、4で外れると課税されます。順番に確かめてください。

読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか

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🍱 食事の補助|半額以上の負担と月7,500円

食事の支給は、所得税基本通達36-38が評価の方法を定め、36-38の2が課税しない場合を定めています。まず評価は、会社が調理して支給する食事はその材料等に要する直接費の額に相当する金額、購入して支給する食事はその購入価額に相当する金額です。

そのうえで36-38の2は、役員又は使用人から実際に徴収している対価の額が36-38により評価した食事の価額の50パーセント相当額以上である場合には、経済的利益はないものとするとしています。ただし、食事の価額からその実際に徴収している対価の額を控除した残額が月額7,500円を超えるときは、この限りでないとされています。

この月額の枠を3,500円として説明している資料を見かけますが、今回確認した現行の通達は7,500円です。国税庁の「食事の現物支給に係る所得税の非課税限度額の引上げについて」(令和8年4月)によれば、令和8年3月31日付の改正通達により、令和8年4月1日以後に支給する食事から月額7,500円になりました。あわせて、深夜勤務者に夜食の現物支給に代えて金銭を支給する場合の限度額も、1食300円から650円になっています。社内規程が3,500円のままになっていないか確認してください。

なお、残業又は宿直若しくは日直をした者に対し、これらの勤務をすることにより支給する食事は、通達36-24により課税されません。こちらは金額の枠がありません。ただし対象は、通常の勤務時間外における勤務としてこれらの勤務を行った者に限られます。

設例(1か月分) 判定
食事の価額18,000円、本人負担9,000円 本人負担は50パーセント。ただし会社負担の残額9,000円が月額7,500円を超えるため、経済的利益はないものとする取扱いの対象になりません
食事の価額14,000円、本人負担7,000円 本人負担は50パーセント、会社負担の残額7,000円は7,500円以下。経済的利益はないものとされます
食事の価額14,000円、本人負担5,000円 本人負担は約35.7パーセントで50パーセントに満たないため、要件を満たしません
残業をした者に支給した夜食 通達36-24により課税されません

検算:18,000円×50パーセント=9,000円、18,000円-9,000円=9,000円。14,000円×50パーセント=7,000円、14,000円-7,000円=7,000円。5,000円÷14,000円=約35.7パーセント。

🎁 記念品と表彰|現金にした瞬間に外れる

永年勤続者の表彰は、所得税基本通達36-21が定めています。記念として旅行、観劇等に招待し、又は記念品を支給することにより受ける利益で、次の2つの要件のいずれにも該当するものは課税しなくて差し支えないとされています。利益の額が勤続期間等に照らし社会通念上相当と認められること、そして表彰がおおむね10年以上の勤続年数の者を対象とし、かつ、2回以上表彰を受ける者についてはおおむね5年以上の間隔をおいて行われるものであることです。

創業記念品等は36-22です。創業記念、増資記念、工事完成記念又は合併記念等に際し支給する記念品で、社会通念上記念品としてふさわしいものであり、かつ、その価額(処分見込価額により評価した価額)が1万円以下であること、創業記念のように一定期間ごとに到来する記念に際し支給するものについては創業後おおむね5年以上の期間ごとに支給するものであることが要件です。なお、建築業者、造船業者等が請負工事又は造船の完成等に際し支給するものは、この取扱いの対象外とされています。

どちらの通達も、条文の中に「現物に代えて支給する金銭は含まない」という括弧書きを持っています。商品券やカタログギフトは、現物といえるかどうかが問題になります。金銭を渡す設計にした時点で、この2つの通達は使えません。

図3 記念品の2つの通達が求めるもの永年勤続者の記念品等(36-21)勤続期間等に照らし社会通念上相当おおむね10年以上の勤続年数が対象2回目以降はおおむね5年以上の間隔現物に代えて支給する金銭は含まない創業記念品等(36-22)記念品としてふさわしいものであること価額が1万円以下であることおおむね5年以上の期間ごとであること現物に代えて支給する金銭は含まない

どちらも現物であることが前提です。金銭にすると通達の対象から外れます。

⚖ 否認されると、会社側で何が動くか

交際費等との境目も、対象の範囲で決まる

会社の側から見ると、同じ支出が交際費等として損金算入の制限を受けるかどうかも問題になります。租税特別措置法第61条の4第6項第1号は、専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用を交際費等から除いています。

さらに、租税特別措置法関係通達61の4(1)-10は、社内の行事に際して支出される金額等のうち、創立記念日、国民祝日、新社屋落成式等に際し従業員等におおむね一律に社内において供与される通常の飲食に要する費用と、従業員等又はその親族等の慶弔、禍福に際し一定の基準に従って支給される金品に要する費用を、交際費等に含まれないものとしています。

ここでも「専ら従業員の」「おおむね一律に」「一定の基準に従って」という形で、対象の範囲と基準の有無が要件になっています。所得税の側と法人税の側は別の規定ですが、着眼点はよく似ています。

法人税と源泉所得税の両方が動く

福利厚生費が給与と認定されると、会社には源泉徴収の問題が生じます。所得税法第183条第1項は、給与等の支払をする者は、その支払の際に所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までにこれを国に納付しなければならないと定めています。徴収していなかった税額は、会社が納付を求められます。

受け取ったのが役員である場合は、さらに法人税の側でも影響が出ます。法人税法第34条第4項は、役員給与に関する規定にいう給与には債務の免除による利益その他の経済的な利益を含むと定めています。定期同額給与にも事前確定届出給与にも当たらない臨時の経済的利益は、損金の額に算入されません。

受け取った人 会社側で動くもの
従業員 費用としては損金になるが、源泉所得税の徴収漏れが生じる(所得税法第183条第1項)
役員 源泉所得税に加えて、法人税法第34条により損金不算入となる(同条第4項)
社内行事が交際費等とされた場合 損金算入限度額を超える部分が損金不算入(租税特別措置法第61条の4)
いずれの場合も 本税に加えて加算税と延滞税が生じる

❓ よくある質問

役員だけが使えるスポーツクラブの会費は福利厚生費になりますか

所得税基本通達36-29は、福利厚生のための施設の運営費等を会社が負担することによる経済的利益について、役員だけを対象として供与される場合を除き課税しなくて差し支えないとしています。役員だけが利用できる契約であれば、この例外から外れます。全員が利用できる制度として整えることが出発点になります。

社員旅行に参加できなかった人に旅行代金相当額を支給してもよいですか

通達36-30は、不参加者にその参加に代えて金銭を支給する場合を例外から除いています。さらにタックスアンサーNo.2603は、この場合には参加者と不参加者の全員に、その金銭の額に相当する額の給与の支給があったものとするとしています。参加した人の分まで課税されることになるため、避けたほうがよい設計です。

食事補助の月7,500円は、いつから変わったのですか

国税庁の「食事の現物支給に係る所得税の非課税限度額の引上げについて」(令和8年4月)は、令和8年3月31日付の改正通達により月額3,500円が7,500円に引き上げられ、令和8年4月1日以後に支給する食事について適用されると説明しています。それより前に支給した食事は、当時の金額で判断することになります。

表彰で商品券を渡すのは記念品になりますか

通達36-21と36-22は、どちらも「現物に代えて支給する金銭は含まない」と明記しています。商品券がこの括弧書きにいう金銭に当たるかどうかを一義的に定めた条文や通達は、今回の調査では確認できませんでした。制度を設計する段階で、現物を支給する形にしておくのが安全です。

通達の要件を満たしていれば、金額がいくらでも大丈夫ですか

そうとは限りません。通達36-29は「経済的利益の額が著しく多額であると認められる場合」を例外から外しています。通達36-21も「勤続期間等に照らし、社会通念上相当と認められること」を要件にしています。形式的な要件を満たしていても、金額が突出していれば別途の判断が入る構造になっています。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。法人の税務顧問と申告業務、新しい会計基準の導入支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

📄 まとめ

福利厚生費は税法上の科目ではなく、経済的な利益について課税しない例外を集めたものです。その例外の多くが、対象の範囲を要件に組み込んでいます。役員だけを対象としていないか、従業員等におおむね一律か、参加割合は足りているか。ここが福利厚生費の調査で問われる中心です。

場面ごとの数字は、社員旅行が4泊5日以内かつ参加者50パーセント以上、食事の補助が本人負担50パーセント以上かつ会社負担の残額が月額7,500円以下、創業記念品等が1万円以下です。食事補助の枠は令和8年4月1日以後に支給する食事から7,500円です。社内規程が古い金額のままになっていないか確認してください。

そして、現物に代えて金銭を渡した瞬間に例外が切れる定めが複数あります。不参加者への金銭の支給は、参加者の分まで課税を広げます。制度を作るときは、金額よりも先に、誰が対象で何を渡すのかを決めてください。

🔗 参考(公的な一次情報)

本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、法令・通達および国税庁の公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は改正される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、専門家にご確認ください。

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