役員報酬の期中改定を指摘されたら|業績悪化改定事由の主張

期の途中で役員報酬を下げた。業績が落ちていたのだから当然の判断だった。ところが調査でこう言われます。「この減額は業績悪化改定事由に当たりませんね」。

ここで多くの方が戸惑うのは、否認されるのが減額した後の金額ではないからです。下げたこと自体が問題にされるわけではなく、下げる前に払っていた金額のうち、下げた後の水準を超える部分が損金不算入になります。減額して支出を抑えたつもりが、税金は増える形になるわけです。

この記事では、条文と通達がどこで線を引いているのかを確認したうえで、国税庁が公表しているQ&Aが認めている三つの場合と、国税不服審判所の裁決が退けた主張を並べて整理します。指摘を受けた場面で何を主張できるのかを、材料から逆算して考えます。この論点の全体像は税務調査で指摘される項目の別冊にまとめています。

🧭 否認されるのは、減額前の上乗せ部分です

まず、何がいくら損金不算入になるのかを先に押さえます。国税不服審判所の裁決の見出しが、この点を端的に示しています。

役員給与の減額理由が業績悪化改定事由に該当しないから減額後の定期給与の額を超える部分は定期同額給与とはいえず損金の額に算入することができないとした事例(平成23年1月25日裁決)

つまり、減額が認められない場合、その事業年度を通じて同額といえるのは減額後の低いほうの金額です。減額前に払っていた金額のうち、その水準を超える部分が損金不算入になります。減額した月数が少ないほど、つまり期の後半で下げたときほど、否認される期間は長くなります。

認められなかったとき、損金不算入になるのは上乗せ部分ですこの帯が損金不算入 月額40万円改定前の6か月 月額100万円合計600万円改定後の6か月 月額60万円合計360万円事業年度開始事業年度終了40万円かける6か月イコール240万円が損金不算入になります支出は減っているのに、課税所得は減額前より増える形になります

月額100万円を期首から6か月後に60万円へ減額した場合(数値は説明用の仮のものです)

📌 条文は、施行令第69条第1項第1号ハにあります

役員給与の損金算入は、法人税法第34条第1項が三つの類型を定め、そのいずれにも該当しないものの額は損金の額に算入しないという建て付けになっています。定期同額給与は第1号で、条文は次のように書いています。

その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるものとして政令で定める給与(法人税法第34条第1項第1号)

「その他これに準ずるものとして政令で定める給与」を受けているのが法人税法施行令第69条第1項第1号です。同号は、イ・ロ・ハの三つの改定をした場合には、改定の前後それぞれで支給額が同額であれば定期同額給与に当たるとしています。

区分 条文が定める改定
イ 通常改定 会計期間開始の日から三月を経過する日までにされた定期給与の額の改定。継続して毎年所定の時期にされる改定が三月経過日等後にされることについて特別の事情があると認められる場合は、その改定の時期までの改定を含みます
ロ 臨時改定事由 役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情によりされた改定
ハ 業績悪化改定事由 経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由によりされた改定(その定期給与の額を減額した改定に限る)

ハの括弧書きに注意してください。業績悪化改定事由による改定は、減額した改定に限られます。業績が悪化したことを理由に増額することは、この号の対象外です。また、イに当たる期首から三月以内の改定は、そもそも業績悪化改定事由を持ち出す必要がありません。争いになるのは、三月経過日等を過ぎてから減額したときだけです。

なお、イの通常改定については、法人税基本通達9-2-12の2が、三月経過日等後にされることについて特別の事情があると認められる場合の例として、法人の役員給与の額がその親会社の役員給与の額を参酌して決定されるなどの常況にあるため、親会社の定時株主総会の終了後でなければ改定の決議ができない等の事情を挙げています。期首から三月を過ぎた改定でも、こうした事情があればイで説明できる余地があるということです。自社の改定がロやハではなくイで通るのかを、先に確認しておく価値があります。

期中の減額で持ち出せるのは、ロかハのどちらかです期首から三月以内の改定イ 通常改定で足ります三月経過日等の後の減額ロかハに当たるかを個別に判断しますロ 臨時改定事由地位の変更や職務の内容の重大な変更ハ 業績悪化改定事由経営の状況が著しく悪化した場合の減額条番号は法人税法施行令第69条第1項第1号のイ・ロ・ハです

どの改定として主張するのかを、はじめに決めておきます

🔍 通達が外している二つの理由

「経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由」が何を指すのかは、法人税基本通達9-2-13が示しています。

経営状況が著しく悪化したことなどやむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情があることをいうのであるから、法人の一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかったことなどはこれに含まれないことに留意する(法人税基本通達9-2-13)

通達が明示的に外しているのは二つです。一つは一時的な資金繰りの都合、もう一つは単に業績目標値に達しなかったことです。この二つは、社内で減額を決めるときの説明としてはよく使われる言い方です。だからこそ、議事録にこの表現がそのまま残っていると、通達が外している理由を会社が自ら書き残したことになってしまいます。

減額の理由の書き方 通達との関係
資金繰りが一時的に厳しいため 通達が明示的に含まれないとしている理由です
期初に設定した業績目標に届かなかったため これも通達が明示的に含まれないとしている理由です
やむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情があるため 通達が定義として掲げている言い方です。ただし、その事情の中身を示す必要があります

平成19年の改正時に国税庁が公表した趣旨説明は、この通達の解説として、経営の状況の悪化により従業員の賞与を一律カットせざるを得ないような状況にある場合は、通常は本通達にいう事情がある場合に当たるといえよう、と述べています。役員給与だけを動かしたのか、会社全体の処遇に手を付けたのかが見られる、ということです。なお、この趣旨説明は平成19年の改正時のものなので、引かれている条項番号は当時のものである点に注意してください。

読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか

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💡 国税庁のQ&Aが挙げている三つの場合

国税庁が公表している「役員給与に関するQ&A」は、業績悪化改定事由について、経営状況の悪化に伴い第三者である利害関係者との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情が生じていれば該当するという考え方を示し、通常はこれに該当するものとして次の三つを挙げています。

場面 Q&Aが挙げている内容
株主との関係 株主との関係上、業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から役員給与の額を減額せざるを得ない場合
取引銀行との関係 取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において、役員給与の額を減額せざるを得ない場合
取引先等との関係 業績や財務状況又は資金繰りが悪化したため、取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保する必要性から、経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに役員給与の額の減額が盛り込まれた場合

三つに共通しているのは、会社の外側に減額を求める相手がいるという構造です。社内の判断だけで完結していると、通達が外している「単に業績目標値に達しなかったこと」との区別がつきにくくなります。

三つ目の経営改善計画については、Q&Aが、その計画は取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保することを目的として策定されるものであるから、利害関係者から開示等の求めがあればこれに応じられるものということになる、としています。社外に見せられない計画では、この三つ目の型には乗りにくいということです。

Q&Aは同時に、業績や財務状況、資金繰りの悪化といった事実が生じていたとしても、利益調整のみを目的として減額改定を行う場合には、やむを得ず役員給与の額を減額したとはいえないことから、業績悪化改定事由に該当しないとしています。

悪化の事実があることと、その悪化ゆえに減額せざるを得なかったことは別の話です。指摘を受けた場面では、この二つを分けて説明できるかどうかが分かれ目になります。

⚖️ 裁決が退けた主張を見ておきます

平成23年1月25日裁決は、決算月の2か月前に代表取締役の給与を減額した事案です。請求人は、経常利益が対前年比で6パーセント減少している状況からの減額であり、法人税法施行令第69条第1項第1号ハに規定する業績悪化改定事由に該当すると主張しました。

審判所の判断は次のとおりです。本件事業年度の売上高、経常利益は過去の業績と比べて何らそん色がないこと、請求人が設定した業務目標を達成できなかったことが減額の理由であること等からすれば、業績悪化改定事由があるとは認められず、また、上記理由以外に役員給与を減額せざるを得ない特段の事情が生じていたと認めるに足る事実はない、というものでした。

裁決が見た点 判断の向き
過去の業績との比較 売上高・経常利益が過去と比べてそん色がないとされました。前年比の減少幅だけでは足りていません
減額の理由 自社で設定した業務目標の未達が理由であるとされ、通達が外している類型に当たると整理されました
その他の事情 他に減額せざるを得ない特段の事情を認めるに足る事実はない、とされました

この裁決から読み取れるのは、比較の対象が前年だけではないということです。前年比で落ちていても、過去数年の水準の中に収まっていれば、著しい悪化とは評価されにくくなります。主張を組み立てるなら、単年度の増減率ではなく、複数年の推移と、外部との関係で減額が必要になった経緯を並べる必要があります。

もう一つ、裁決が触れていない点として、減額の時期そのものが金額に効きます。期首から三月を過ぎた直後に下げれば否認される期間は短く、期末近くで下げれば否認される期間は長くなります。冒頭の設例で、減額が9か月目だったとすれば、上乗せ部分は40万円かける9か月で360万円になり、実際に節約できた支出は40万円かける3か月の120万円にとどまります。事情が固まった段階で早めに判断するほうが、結果として傷は浅くなります。

🧮 指摘を受けたときに整理する順序

指摘の場で反論するときは、次の順に材料を並べると、条文と通達の構造に沿った説明になります。

主張は、事実から外部の関係へ向かって積み上げます1 悪化の事実複数年の推移で示します2 外部の相手株主・銀行・取引先のどれかを示します3 減額の必要その相手との関係で必要だった経緯4 記録議事録・計画協議の記録1だけで止まると、通達が外している理由と区別がつかなくなります

悪化の事実を示すだけでは足りず、減額の必要につなげる必要があります

そろえておく記録 何を示すか
複数年の売上高・利益の推移表 単年度の前年比ではなく、過去の水準と比べて著しく悪化していること
金融機関との協議の記録 リスケジュールの協議のなかで役員給与の減額が求められた経緯
経営改善計画と、その提出先の記録 計画に役員給与の減額が盛り込まれていること、社外に開示できるものであること
従業員の処遇に関する決定 役員給与だけでなく会社全体の処遇に手を付けていること
改定を決議した議事録 減額の理由の書き方。通達が外している表現をそのまま書いていないか

指摘を受けてから記録を作ることはできません。だからこそ、減額を決める会議の議事録に何を書くかが、その時点で将来の主張の幅を決めています。期中の減額を検討する段階で、上の五つのうちどれを用意できるかを先に確認しておくことをおすすめします。より基本的な判定の枠組みは役員報酬を期中に減額したら損金になるかを扱った回で整理しています。

税務調査の連絡が来たら、まずご相談ください

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。法人の税務顧問と申告業務、新しい会計基準の導入支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

❓ よくある質問

減額した後の金額は損金になりますか

裁決の見出しが示しているのは、減額後の定期給与の額を超える部分が損金の額に算入できないということです。減額後の水準そのものが否定されているわけではありません。したがって、否認の対象になるのは減額前に支給していた金額のうちの上乗せ部分です。

役員が自分から申し出て下げた場合はどうなりますか

誰が言い出したかではなく、減額せざるを得ない事情があったかどうかで判断されます。国税庁のQ&Aは、経営状況の悪化に伴い第三者である利害関係者との関係上、減額せざるを得ない事情が生じていれば該当するという考え方を示しています。自発的な申出であっても、その背景に外部との関係があれば主張の材料になります。

前年より利益が減っていれば、それで足りますか

平成23年1月25日裁決では、経常利益が対前年比で6パーセント減少している状況からの減額について、売上高・経常利益が過去の業績と比べて何らそん色がないとして、業績悪化改定事由があるとは認められないとされました。前年比の減少だけでは足りない場合があるということです。

業績が悪化したので増額を取りやめた場合はどうですか

施行令第69条第1項第1号ハは、業績悪化改定事由による改定を「その定期給与の額を減額した改定に限り」としています。増額しなかったこと自体は改定ではないので、この号の話にはなりません。期首の水準のまま各支給時期の支給額が同額であれば、法人税法第34条第1項第1号の本文で定期同額給与に当たります。

認められなかった場合、源泉徴収はやり直しますか

損金不算入は法人税の所得計算の話です。実際に支払った給与に対する源泉徴収は、支払の事実にもとづいて行われているので、損金不算入になったからといって自動的にやり直すという関係にはありません。両者は別の条文で動いています。

📄 まとめ

期中の役員報酬の減額を指摘されたとき、争点は三つに分かれます。第一に、その減額が法人税法施行令第69条第1項第1号のイ・ロ・ハのどれとして主張するものなのか。第二に、ハで主張するなら、法人税基本通達9-2-13が外している二つの理由(一時的な資金繰りの都合、単に業績目標値に達しなかったこと)と、どこで区別されるのか。第三に、損金不算入になる金額がいくらかです。

国税庁のQ&Aが挙げる三つの場合は、いずれも会社の外に減額を求める相手がいる構造です。株主、取引銀行、取引先等のいずれかとの関係で減額が必要になった経緯を、記録で示せるかどうかが実質的な分かれ目になります。

そして、指摘を受けてから記録を作ることはできません。減額を決議する時点で、議事録に何をどう書くかが、その後に主張できる範囲を決めています。

すでに指摘を受けている場合でも、減額の背景に外部との関係があったのに議事録の書き方だけが弱い、という状態であれば、他の資料で補える余地があります。修正申告に応じる前に、手元の材料を一度並べ直してみることをおすすめします。

🔗 参考(公的な一次情報)

本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、法令・通達および国税庁の公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は改正される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、専門家にご確認ください。

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