決算の直前に数えた在庫の金額は、そのまま所得の金額を動かします。期末の棚卸資産を100万円少なく計上すれば、売上原価が100万円ふくらみ、所得が100万円減ります。調査官がここを見るのは、金額が大きいからではなく、確かめやすいからです。仕入の請求書と納品書、倉庫の受払簿、期末前後の入出荷の記録を突き合わせれば、数えていない在庫は表に出てきます。
やっかいなのは、悪意がなくても漏れることです。倉庫にない在庫、届いていない在庫、外注先に渡した材料、まだ製品になっていない仕掛品。どれも「在庫」という言葉から連想しにくい場所にあります。棚卸の指摘は、数え方の問題ではなく、何を数えるべきかの問題であることが多いのです。
この記事では、棚卸資産の範囲と取得価額を定めた条文と通達を確認したうえで、計上漏れが起きやすい場所、指摘を受けたときに動く金額、そして重加算税との分かれ目を整理します。あわせて、来期から手を打てる記録の残し方もまとめます。
この記事は税務調査で指摘される項目 別冊の一編です。調査の進み方そのものについては税務調査 完全ガイドをご覧ください。
在庫を少なく計上すると、その分だけ所得が減ります。だからこそ最初に確かめられます。
この記事の見出し
🧭 在庫の金額が所得を動かす仕組み
法人税法は、損金に算入する金額のひとつとして、その事業年度の収益に係る売上原価を挙げています(法人税法第22条第3項第1号)。その売上原価をいくらとするかは、期首在庫と当期仕入から期末在庫を差し引いて求めます。期末在庫が小さくなれば売上原価は大きくなり、所得は小さくなります。
その期末在庫をいくらで評価するかを定めているのが、法人税法第29条第1項です。
内国法人の棚卸資産につき第二十二条第三項(各事業年度の損金の額に算入する金額)の規定により各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入する金額を算定する場合におけるその算定の基礎となる当該事業年度終了の時において有する棚卸資産(以下この項において「期末棚卸資産」という。)の価額は、棚卸資産の取得価額の平均額をもつて事業年度終了の時において有する棚卸資産の評価額とする方法その他の政令で定める評価の方法のうちからその内国法人が当該期末棚卸資産について選定した評価の方法により評価した金額(評価の方法を選定しなかつた場合又は選定した評価の方法により評価しなかつた場合には、評価の方法のうち政令で定める方法により評価した金額)とする。(法人税法第29条第1項)
条文が「事業年度終了の時において有する棚卸資産」と書いていることに注目してください。倉庫にあるかどうかではなく、その時点で会社が有しているかどうかで決まります。計上漏れの多くは、この一語のずれから生まれます。
| 項目 | 正しく数えた場合 | 200万円分を数え落とした場合 |
|---|---|---|
| 期首棚卸資産 | 1,000万円 | 1,000万円 |
| 当期仕入高 | 5,000万円 | 5,000万円 |
| 期末棚卸資産 | 1,200万円 | 1,000万円 |
| 売上原価 | 4,800万円 | 5,000万円 |
| 所得への影響 | — | 200万円少なくなる |
1,000万円+5,000万円-1,200万円=4,800万円、1,000万円+5,000万円-1,000万円=5,000万円。差額は数え落とした200万円と一致します。
📦 そもそも何を、どこまで数えるのか
棚卸資産とは何かは、法人税法第2条第20号が「商品、製品、半製品、仕掛品、原材料その他の資産で棚卸しをすべきものとして政令で定めるもの」と定め、その政令として法人税法施行令第10条が次の7つを挙げています。
一 商品又は製品(副産物及び作業くずを含む。)/二 半製品/三 仕掛品(半成工事を含む。)/四 主要原材料/五 補助原材料/六 消耗品で貯蔵中のもの/七 前各号に掲げる資産に準ずるもの(法人税法施行令第10条)
実務で落ちやすいのは、第3号の仕掛品(半成工事を含む)と、第6号の消耗品で貯蔵中のものです。どちらも会計上は費用として処理されていることが多く、棚卸表にそもそも行がありません。
| 施行令第10条の区分 | 現場で落ちやすい例 |
|---|---|
| 商品又は製品(副産物及び作業くずを含む) | 値引販売用に別置きした商品、返品されて検品待ちの商品、作業くずとして売却できるもの |
| 半製品・仕掛品(半成工事を含む) | 着手済みで完成していない工事、制作途中の受注品、検査待ちの中間品 |
| 主要原材料・補助原材料 | 外注先に無償支給していない有償支給の材料、期末に入庫済みで検収前の材料 |
| 消耗品で貯蔵中のもの | 包装材料、広告宣伝用の印刷物、見本品、事務用消耗品の未使用分 |
もっとも、消耗品については法人税基本通達2-2-15が、買った期の損金にしてよい場合を定めています。ただし条件があります。
通達が認めているのは、事務用消耗品、作業用消耗品、包装材料、広告宣伝用印刷物、見本品その他これらに準ずる棚卸資産のうち、各事業年度ごとにおおむね一定数量を取得し、かつ、経常的に消費するものに限られます。しかも、その処理を継続して行っていることが前提です。
つまり、期末にまとめて大量に買った販促物やカタログは、この取扱いの対象外です。期末の駆け込み発注が貯蔵品として指摘されるのは、この限定を外れているためです。
法人税法第29条第1項は「事業年度終了の時において有する」ものを対象としています。置き場所は問いません。
会社の外にある在庫
他社の倉庫に預けている在庫、委託販売で受託者の店頭に並んでいる商品、外注先に有償で支給した材料。いずれも自社の倉庫では数えられません。棚卸表の作り方が「倉庫を歩いて数える」だけになっていると、行が立たないまま決算を迎えます。預け先ごとに残高確認を取る手順を決めておくのが、いちばん確実です。
期末前後に動いた在庫
期末の数日に入庫した仕入が検収未了のまま在庫に載らない、逆に翌期の出荷分を先に在庫から落としてしまう。どちらも入出庫の日付と、仕入や売上の計上日がそろっていれば防げます。期末の数日分だけでも、納品書の日付と受払の記録を並べて確かめる価値があります。
数量はあるが金額が動いている在庫
他方で、数量は正しいのに単価が違うという形の指摘もあります。次の章で扱う取得価額の範囲を誤っている場合と、後で触れる評価方法を届け出ていない場合の2つが典型です。
💰 単価の側で起きる漏れ
棚卸資産の取得価額は、法人税法施行令第32条第1項が区分ごとに定めています。購入したものについては、購入の代価に引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税その他その資産の購入のために要した費用を加え、さらにその資産を消費し、又は販売の用に供するために直接要した費用の額を加えます。
ただし、法人税基本通達5-1-1が、少額であれば取得価額に入れなくてよい費用を挙げています。
購入した棚卸資産の取得価額には、その購入の代価のほか、これを消費し又は販売の用に供するために直接要した全ての費用の額が含まれるのであるが、次に掲げる費用については、これらの費用の額の合計額が少額(当該棚卸資産の購入の代価のおおむね3%以内の金額)である場合には、その取得価額に算入しないことができるものとする。(法人税基本通達5-1-1)
対象は、買入事務、検収、整理、選別、手入れ等に要した費用、販売所等から販売所等へ移管するために要した運賃・荷造費等、特別の時期に販売するなどのため長期にわたって保管するために要した費用の3つです。おおむね3パーセント以内という枠がある点に注意してください。枠を超えていれば、取得価額に入れることになります。
| 費用の種類 | 取得価額の扱い |
|---|---|
| 引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税 | 購入の代価に加える(施行令第32条第1項第1号イ) |
| 消費し、又は販売の用に供するために直接要した費用 | 加える(同号ロ) |
| 買入事務、検収、整理、選別、手入れ等の費用ほか2種 | 合計が購入の代価のおおむね3%以内なら算入しないことができる(通達5-1-1) |
| 不動産取得税、固定資産税・都市計画税、登録免許税、借入金の利子ほか | 取得又は保有に関連して支出しても算入しないことができる(通達5-1-1の2) |
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📐 評価方法を届け出ていないとどうなるか
棚卸資産の評価方法は、法人税法施行令第28条第1項が、原価法(個別法、先入先出法、総平均法、移動平均法、最終仕入原価法、売価還元法)と低価法を定めています。これを、法人税法施行令第29条第1項により、事業の種類ごと、かつ、商品又は製品、半製品、仕掛品、主要原材料、補助原材料その他の区分ごとに選定します。
そして、設立した事業年度などの確定申告書の提出期限までに、書面で納税地の所轄税務署長に届け出なければなりません(同条第2項)。届け出ていない場合、または届け出た方法で評価しなかった場合はどうなるか。法人税法施行令第31条第1項が答えを置いています。
法第二十九条第一項に規定する評価の方法を選定しなかつた場合又は選定した方法により評価しなかつた場合における政令で定める方法は、第二十八条第一項第一号ホ(棚卸資産の評価の方法)に掲げる最終仕入原価法により算出した取得価額による原価法とする。(法人税法施行令第31条第1項)
最終仕入原価法は、期末にいちばん近い時に取得したものの単価を使う方法です。仕入単価が期末にかけて上がっていた場合、総平均法で計算していた金額より期末在庫が大きく出ます。届出をしていないのに総平均法で計算していた、という状態は、それ自体が是正の対象になります。
なお、施行令第31条第2項には、届け出た方法によらずに評価した場合でも、その行った評価の方法が施行令第28条第1項の方法のいずれかに該当し、かつ、それによっても所得の金額の計算を適正に行うことができると税務署長が認めるときは、その方法により計算した所得の金額を基礎として更正又は決定をすることができる、という定めが置かれています。
⚖ 指摘されたときに動く金額
期末在庫の漏れが見つかると、その分だけ所得が増え、法人税等の本税が発生します。これに加算税が付きます。
調査で更正があるべきことを予知したあとに修正申告をした場合の過少申告加算税は、納付すべき税額に100分の10の割合を乗じた金額です(国税通則法第65条第1項)。さらに、その税額が期限内申告税額に相当する金額と50万円とのいずれか多い金額を超えるときは、超える部分に100分の5が加算されます(同条第2項)。予知する前の修正申告なら100分の5、調査通知がある前ならそもそも適用されません(同条第1項括弧書き、第6項)。
問題は、ここから先です。
国税庁の事務運営指針「法人税の重加算税の取扱いについて」第1の1と第1の3にもとづく整理です。
国税庁の事務運営指針は、隠蔽又は仮装に該当する場合の例として、帳簿書類の作成又は帳簿書類への記録をせず、売上げその他の収入の脱ろう又は棚卸資産の除外をしていることを挙げています。ここに当たると、過少申告加算税に代えて、その税額に100分の35を乗じた重加算税になります(国税通則法第68条第1項)。
一方で、同じ指針の第1の3は、棚卸資産の評価換えにより過少評価をしている場合は、帳簿書類の隠匿、虚偽記載等に該当しないとしています。ただし、これには柱書の限定が付いています。
第1の3が適用されるのは、その行為が相手方との通謀又は証ひょう書類等の破棄、隠匿若しくは改ざんによるもの等でないときに限られます。評価の話にしておけば安全、という意味ではありません。
また、偽りその他不正の行為により税額を免れていた場合は、更正決定等ができる期間が5年ではなく7年になります(国税通則法第70条第1項第1号、第5項第1号)。遡られる年数そのものが変わります。
| 状況 | 加算税の割合 |
|---|---|
| 調査通知がある前に、予知せずに修正申告 | 過少申告加算税は課されない(第65条第6項) |
| 調査通知の後、予知せずに修正申告 | 100分の5(第65条第1項括弧書き) |
| 予知したあとの修正申告・更正 | 100分の10。一定額を超える部分にさらに100分の5(第65条第1項、第2項) |
| 隠蔽又は仮装があり、それに基づく申告 | 100分の35(第68条第1項) |
🛡 来期から手を打つ
棚卸の指摘は、決算が終わってから直すのが最も高くつく論点です。手順を決めておけば、ほとんどは防げます。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 期末の1か月前 | 在庫のある場所を棚卸表の行として洗い出す。外注先、預け先、委託先、未着品の4つを必ず立てる |
| 期末日 | 実地棚卸のカウント票に日付と担当者名を残す。締切時点の入出庫伝票の最終番号を控える |
| 期末直後 | 預け先から残高の回答を受け取り、控えた伝票番号と突き合わせる。期末前後の数日分の納品書を並べて計上日を確かめる |
| 決算作業中 | 評価方法の届出書の控えを確認し、実際の計算方法とそろっているかを見る。単価の根拠となる仕入明細を残す |
❓ よくある質問
外注先に預けた材料も自社の在庫になりますか
有償で支給し、所有権が外注先に移っている場合と、無償で支給して自社の所有のままである場合とで扱いが分かれます。法人税法第29条第1項は「事業年度終了の時において有する棚卸資産」を対象としているため、契約上どちらが所有しているかが出発点になります。支給の条件が書面で残っていないと、この判断自体ができません。契約書や注文書の記載を確かめてください。
期末にまとめて買ったカタログは、その期の費用にできますか
法人税基本通達2-2-15が認める取扱いは、各事業年度ごとにおおむね一定数量を取得し、かつ、経常的に消費するものに限られています。期末にまとめて買ったものは、この限定を外れます。未使用分は施行令第10条第6号の「消耗品で貯蔵中のもの」として棚卸資産になると考えるのが素直です。
評価方法の届出をしていませんでした。今から出せますか
施行令第29条第2項が定める届出の期限は、設立した日などの属する事業年度に係る確定申告書の提出期限です。過ぎている場合、その期に遡って届出の効力を生じさせる定めは見当たりませんでした。届出がない状態では最終仕入原価法による原価法によることになります(施行令第31条第1項)。実際の計算方法と食い違っている場合は、早めに整理したほうが傷は浅くなります。
在庫を少なく数えていたら必ず重加算税ですか
そうではありません。事務運営指針は、棚卸資産の評価換えにより過少評価をしている場合は帳簿書類の隠匿、虚偽記載等に該当しないとしています。ただし、相手方との通謀や証ひょう書類等の破棄、隠匿、改ざんによるものでないことが前提です。帳簿書類の作成や記録をせずに在庫を外していた場合は、不正事実の例として挙げられています。
棚卸表はどのくらい残しておくべきですか
棚卸表は、事務運営指針が「帳簿書類」の例として名前を挙げている書類のひとつです。決算の根拠として最も直接的な資料ですから、カウント票などの元データを含めて、他の帳簿書類と同じ期間だけ保存しておくのが安全です。
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公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。法人の税務顧問と申告業務、新しい会計基準の導入支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
📄 まとめ
棚卸の計上漏れは、数え方ではなく、何を数えるべきかの問題であることが多い論点です。法人税法第29条第1項は「事業年度終了の時において有する棚卸資産」と書いており、置き場所を問いません。外注先、預け先、委託先、未着品の4つに棚卸表の行を立てるだけで、漏れの多くは消えます。
単価の側では、法人税法施行令第32条第1項が定める取得価額の範囲と、法人税基本通達5-1-1のおおむね3パーセントの枠を押さえておくことです。評価方法の届出をしていなければ、最終仕入原価法による原価法によることになります。
そして、指摘を受けたときに最も差が出るのは、加算税の割合です。評価の誤りなのか、帳簿に記録せずに在庫を外していたのか。この区別を、資料で示せるようにしておいてください。
🔗 参考(公的な一次情報)
- 法人税法(e-Gov法令検索) 第2条第20号、第22条第3項、第29条
- 法人税法施行令(e-Gov法令検索) 第10条、第28条、第29条、第31条、第32条
- 国税通則法(e-Gov法令検索) 第65条、第68条、第70条
- 国税庁 法人税基本通達 第1款 購入した棚卸資産 5-1-1、5-1-1の2
- 国税庁 法人税基本通達 第2款 販売費及び一般管理費等 2-2-15
- 国税庁 法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針) 第1 賦課基準
本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、法令・通達および国税庁の公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は改正される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、専門家にご確認ください。