税務調査で指摘される項目は、会社ごとに違うように見えて、実際にはかなり決まった型があります。売上の計上時期、外注費の性格、在庫の数え方、交際費の区分、役員に関する支出、そして源泉所得税と消費税への波及。どれも、条文の書き方と証憑の残し方で結論が動く論点です。
大切なのは、指摘を受けたときに「言われたから直す」で終わらせないことです。同じ「否認」でも、翌期に戻ってくる指摘と、二度と戻ってこない指摘があります。同じ金額でも、加算税が10パーセントで済む指摘と35パーセントになる指摘があります。この違いを知らないまま修正申告に応じると、本来なら主張できたことを手放すことになります。
この記事は、指摘されやすい26項目を扱う別冊シリーズの入り口です。個々の論点に入る前に、指摘の効き方、重くなる分かれ目、そして反論の組み立て方という共通の骨組みを、条文と国税庁の公表資料にもとづいて整理します。
指摘の効き方。時期がずれるだけの指摘と、そうでない指摘を分けて考えます。
この記事の見出し
🧭 まず、その指摘が「時期の問題」かどうかを見分ける
法人税の所得は、益金の額から損金の額を控除して計算されます(法人税法第22条第1項)。調査での指摘は、この益金か損金のどちらかを動かすものですが、動かし方には2種類あります。
ひとつは、金額そのものは認められるが、計上する事業年度が違うという指摘です。売上の期ズレ、棚卸資産の計上漏れ、未払費用の債務確定、修繕費と資本的支出の区分などがこれに当たります。当期の所得が増える代わりに、翌期以降の所得は減ります。会社に最終的に残るのは、加算税と延滞税、そして資金繰りへの影響です。
もうひとつは、その支出が損金にならない、あるいはその収益が益金になるという指摘です。損金算入に限度のある交際費等(租税特別措置法第61条の4)、寄附金(法人税法第37条)、過大な役員給与(同第34条)、役員と特殊の関係のある使用人への過大な給与(同第36条)などが典型です。翌期に戻ってきません。
そして3つめに、法人税の所得は動かなくても、別の税目で負担が生じる指摘があります。外注費が給与と認定されれば源泉所得税の納税の告知につながり、課税区分の誤りは消費税に、契約書の作り方は印紙税に跳ね返ります。
指摘を受けたら、まずこの3つのどれなのかを確かめてください。優先して争うべき論点も、受け入れてよい論点も、ここで見え方が変わります。
📌 重くなる分かれ目は、隠蔽または仮装があったかどうか
加算税の割合は、条文に書かれています。過少申告加算税は、修正申告または更正に基づき納付すべき税額に100分の10の割合を乗じた金額です。ただし、調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたものでないときは100分の5になります(国税通則法第65条第1項)。さらに、納付すべき税額が期限内申告税額に相当する金額と50万円とのいずれか多い金額を超えるときは、その超える部分に100分の5が加算されます(同条第2項)。
これに対して重加算税は、課税標準等または税額等の計算の基礎となるべき事実の全部または一部を隠蔽し、または仮装し、かつ、その隠蔽し、または仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときに、過少申告加算税に代えて100分の35の割合で課されます(同第68条第1項)。無申告の場合は100分の40です(同条第2項)。
| 区分 | 条文が定める割合 |
|---|---|
| 過少申告加算税(原則) | 納付すべき税額の100分の10(法第65条第1項) |
| 過少申告加算税(予知前の修正申告) | 100分の5(同項の括弧書き) |
| 過少申告加算税(加重される部分) | 期限内申告税額と50万円のいずれか多い金額を超える部分に100分の5を加算(同条第2項) |
| 賦課されない場合 | 予知前の修正申告で、かつ調査通知がある前に行われたものであるとき(同条第6項) |
| 重加算税 | 隠蔽または仮装があるときは100分の35。無申告の場合は100分の40(法第68条第1項・第2項) |
では、何が隠蔽または仮装に当たるのか。国税庁は法人税の重加算税について事務運営指針を公表しており、そこに不正事実の例示が置かれています。
| 例示されている事実 | 内容 |
|---|---|
| 二重帳簿 | いわゆる二重帳簿を作成していること |
| 帳簿書類の隠匿・虚偽記載等 | 帳簿、原始記録、証ひょう書類、決算に関係のある書類の破棄・隠匿、改ざん、虚偽記載、相手方との通謀による虚偽の証ひょう書類の作成、意図的な集計違算、記録をせずに収入を脱ろうし、または棚卸資産を除外すること |
| 証明書類の改ざん等 | 特定の損金算入または税額控除の要件とされる証明書その他の書類を改ざんし、または虚偽の申請により交付を受けていること |
| 簿外資産の果実 | 簿外資産に係る利息収入、賃貸料収入等の果実を計上していないこと |
| 簿外資金による支出 | 簿外資金をもって役員賞与その他の費用を支出していること |
国税庁「法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)」第1の1の例示を要約しています。このほか、同族会社の判定の基礎となる株主等の所有株式等を架空の者や単なる名義人に分割する等により非同族会社としていることも挙げられています。
反対に、同じ事務運営指針は該当しない場合も定めています。相手方との通謀や証ひょう書類等の破棄・隠匿・改ざんによるものでないときは、次の場合は帳簿書類の隠匿、虚偽記載等に該当しないとされています。
売上げ等の収入の計上を繰り延べている場合で、その収入が翌事業年度の収益に計上されていることが確認されたとき。経費の繰上計上をしている場合で、その経費が翌事業年度に支出されたことが確認されたとき。棚卸資産の評価換えにより過少評価をしている場合。交際費等や寄附金のように損金算入に制限のある費用を、単に他の費用科目に計上している場合。
まず隠蔽・仮装の有無、次に時期。この順で決まります。
🔍 反論には3つの型しかありません
指摘に対して主張できることは、突き詰めると3つです。事実が違う、条文へのあてはめが違う、時期の判断が違う。この3つのどれで争うのかを最初に決めると、集めるべき資料が決まります。
反論の型。まず型を決め、それに合う資料だけを出します。
実務でいちばん多いのは、3つめの時期で争う場面です。ここで意識したいのが、先ほどの事務運営指針の「該当しない場合」です。売上の計上を繰り延べていても、その収入が翌事業年度の収益に計上されていることが確認されたときは、相手方との通謀や証憑の破棄等がない限り、帳簿書類の隠匿、虚偽記載等に該当しないとされています。翌期に計上されている事実を示せるかどうかが、加算税の重さを分けます。
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🗂️ 26項目の一覧
この別冊では、次の26項目をそれぞれ1本ずつ取り上げます。指摘される理由、反論の材料、そろえておく証憑の順に整理していきます。項目は多く見えますが、性質で束ねると5つのかたまりになります。どの束の話をしているのかが分かると、調査官の質問の意図もつかみやすくなります。
| グループ | この別冊で扱う項目 |
|---|---|
| 収益と在庫の計上 | 売上の期ズレ、売上除外、棚卸の計上漏れ、現金管理の不備 |
| 人に関する支出 | 架空外注費、外注費と給与の区分、役員報酬の期中改定、役員退職金の過大部分、決算賞与の未払計上、源泉徴収漏れ |
| 経費の区分 | 交際費、福利厚生費、旅費交通費と出張日当、社用車と社宅の私的利用、個人的経費の混入、使途不明金 |
| 資産と計上時期 | 貸倒損失、修繕費と資本的支出、消耗品費、減価償却の償却超過、未払費用の債務確定 |
| 会社の外との取引 | グループ間取引の寄附金認定、関連会社との取引価格、印紙税、消費税の課税区分、海外送金 |
※各回のリンクは、記事の公開にあわせて順次追加していきます。役員給与に関する論点は役員給与の税務 完全ガイドで、期中改定の考え方は定期同額給与とは?改定できる時期と3か月ルールで先に整理しています。
🧾 項目は違っても、そろえる資料の型は似ています
26項目を並べると多く見えますが、指摘に対して示すものは4つの型に収まります。逆に言えば、この4つを日ごろから残しておけば、どの項目で聞かれても答え方が変わりません。
| 資料の型 | 何を示すためのものか |
|---|---|
| 取引の存在を示すもの | 契約書、注文書、納品書、検収書、請求書、入出金の記録。取引が本当にあったこと、相手方が誰かを示す |
| 日付を示すもの | 出荷記録、検収日の分かる書類、作業完了報告。どの事業年度に属するかを示す |
| 目的と相手を示すもの | 参加者名簿、社内規程、稟議書、議事録。誰のための支出で、何を目的としていたかを示す |
| 金額の根拠を示すもの | 見積書、価格表、按分の計算資料、第三者との取引条件。金額が相当であることを示す |
これらは調査が始まってから作るものではありません。期末の締めの段階で、その期に判断が分かれた論点についてだけメモを残しておくだけでも、数年後の調査での説明のしやすさは大きく変わります。
⏳ 何年分さかのぼられるかも、条文で決まっています
更正決定等ができる期間は、国税通則法第70条に定めがあります。更正または決定は、原則としてその国税の法定申告期限から5年を経過した日以後はすることができません(同条第1項)。法人税に係る純損失等の金額を増減させる更正などは、同項第1号に定める期限から10年を経過する日までとされています(同条第2項)。
そして、偽りその他不正の行為によりその全部もしくは一部の税額を免れ、または還付を受けた国税についての更正決定等は、7年を経過する日まですることができます(同条第5項)。よく耳にする「3年、5年、7年」という言い方のうち、条文に現れるのは5年と7年、そして純損失等に関する10年です。
事前準備から当日の立会い、指摘への反論、修正申告の要否判断まで対応します。顧問税理士がいらっしゃる場合も、この調査だけのスポットのご依頼を承ります。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。法人の税務顧問と申告業務、新しい会計基準の導入支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
❓ よくある質問
指摘されたら、その場で修正申告に応じたほうがよいですか
修正申告の勧奨は、国税通則法第74条の11第3項にもとづくものです。同項は、申告書を提出した場合には不服申立てをすることはできないが更正の請求をすることはできる旨を説明し、その旨を記載した書面を交付しなければならないと定めています。応じるかどうかを決める前に、その指摘がどの型なのか、事実に争いがあるのかを確かめてください。
指摘された金額をすべて認めると、重加算税になりますか
重加算税の要件は、隠蔽または仮装があり、かつ、それに基づいて申告書を提出していたことです(法第68条第1項)。認めるかどうかと、隠蔽・仮装があったかどうかは別の問題です。事実関係の説明は分けて行ってください。
売上の計上が翌期になっていた場合はどうなりますか
国税庁の事務運営指針は、売上げ等の収入の計上を繰り延べている場合において、その収入が翌事業年度の収益に計上されていることが確認されたときは、相手方との通謀や証ひょう書類等の破棄・隠匿・改ざんによるものでない限り、帳簿書類の隠匿、虚偽記載等に該当しないとしています。翌期に計上されている事実を示せることが重要になります。
1つの調査で複数の税目を指摘されることはありますか
あります。外注費の性格が問われれば源泉所得税に、課税区分の誤りは消費税に影響します。手続通達6-2は、更正決定等に、加算税等の賦課決定のほか、源泉徴収等による国税に係る納税の告知が含まれるとしています。
過去に指摘された項目は、次の調査でも見られますか
そのような取扱いを定めた規定は、確認した範囲では見当たりません。ただし、一度指摘された論点について同じ処理を続けていれば、説明を求められたときに答えられる状態にしておく必要はあります。
📄 まとめ
指摘への向き合い方は、3つの問いに整理できます。その指摘は時期の問題か、戻ってこないものか、別の税目に広がるものか。隠蔽または仮装に当たる事実はあるか。そして、事実・あてはめ・時期のどれで争うのか。
この3つを最初に決めておけば、調査の場でやり取りが散らかりません。個々の項目については、次回以降の26本で、指摘される理由と反論の材料を順に見ていきます。
🔗 参考(公的な一次情報)
- 国税通則法(e-Gov法令検索) 第65条、第68条、第70条、第74条の11
- 法人税法(e-Gov法令検索) 第22条、第34条、第36条、第37条
- 租税特別措置法(e-Gov法令検索) 第61条の4、第62条
- 国税庁 法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針) 第1 賦課基準
- 国税庁 法令解釈通達 第4章 法第74条の9〜法第74条の11関係 6-2、6-3
本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、法令・通達および国税庁の公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は改正される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、専門家にご確認ください。
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