業績連動給与を導入したものの、支給が間に合わず損金にならなかった。この失敗が起きるのは、期限の起算日を取り違えているからです。
よくある誤解は、事業年度終了の日の翌日から3月以内、というものです。これは事前確定届出給与や申告期限の感覚が混ざっているだけで、条文はそう書いていません。正しくは、業績連動指標の数値が確定した日の翌日から、金銭は1月、株式または新株予約権は2月です。
この記事では、法人税法第34条第1項第3号の構造から、指標に付く限定、開示の方法、支給時期、そして適正な手続までを、条項番号で確認します。
- 第34条第1項第3号の枝番はイとロの2つで、ハがないこと
- 算定の基礎にできる指標は利益・株式の市場価格・売上高の3類型に限られること
- 有価証券報告書に記載されるものに限る、という限定が付くのは利益指標と売上高指標であること
- 売上高指標は単独では使えないこと
- 開示の代替手段が施行規則第22条の3第6項にあること
- 支給期限の起算日は業績連動指標の数値が確定した日の翌日であること
- 損金経理の要件が施行令第69条第19項第2号にあること
📌 結論 起算日は事業年度末ではない
起算日は事業年度終了の日ではありません。業績連動指標の数値が確定した日です。ここが実務でいちばん間違えられます。
法人税法施行令第69条第19項が、法第34条第1項第3号ロに規定する政令で定める要件を定めています。
第1号イ(1)が金銭による給与についての定めで、算定の基礎とした業績連動指標の数値が確定した日の翌日から1月を経過する日までに交付され、または交付される見込みであること、としています。
第1号イ(2)が株式または新株予約権による給与についての定めで、同じく業績連動指標の数値が確定した日の翌日から2月を経過する日までです。
起算日は、事業年度終了の日ではありません。業績連動指標の数値が確定した日です。3月という期間も条文には見当たりません。ここを取り違えると、支給スケジュールの設計を丸ごと間違えます。
2以上の給与を合わせて支給する場合は、職務執行期間が同一のものに限り、それぞれの日のうち最も遅い日までとされています。
第2号が損金経理の要件です。損金経理をしていること、給与の見込額として損金経理により引当金勘定に繰り入れた金額を取り崩す方法により経理していることを含む、とされています。この要件は本法ではなく施行令にあります。
🧱 条文の構造
枝番はイとロの2つです。ハはありません。損金経理の要件は本法ではなく施行令にあります。
法人税法第34条第1項第3号は、柱書と、イ、ロで構成されています。ハはありません。損金経理の要件がハにある、という説明を見かけたら誤りです。
柱書に、支給できる法人の範囲が書かれています。内国法人であって、同族会社にあっては、同族会社以外の法人との間に当該法人による完全支配関係があるものに限る、という限定です。つまり同族会社は原則として対象外ですが、非同族法人の完全子会社であれば対象になります。
また、金銭以外の資産が交付されるものについては、適格株式または適格新株予約権が交付されるものに限られます。
加えて、他の業務執行役員のすべてに対して要件を満たす業績連動給与を支給する場合に限る、という限定もあります。一部の役員だけに入れる制度設計はできません。業務執行役員の定義は施行令第69条第9項にあります。
どこか一つでも欠けると損金になりません。特に多いのが、開示のタイミングと支給の期限です。
業績連動給与を導入したい、いま導入しているものが要件を満たすか確認したい、上場後を見据えて報酬諮問委員会を設けたい。制度設計から、手続の書面化、開示文言の確認までお手伝いします。公認会計士・税理士が直接お受けします。初回のご相談は無料です。
📈 どの指標を使えるか
3つとも限定が付いています。違うのは中身です。有価証券報告書に記載されるものに限る、という限定が付いているのは利益指標と売上高指標です。売上高指標は単独では使えません。
第34条第5項が業績連動給与を定義しており、利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標その他の当該内国法人または支配関係法人の業績を示す指標を基礎として算定される額または数の金銭、株式、新株予約権による給与、としています。
そして第1項第3号イの本文が、それぞれの指標に括弧書きの限定を付けています。3つとも限定が付いている点は同じで、違うのは中身です。
利益指標
利益の額、利益の額に有価証券報告書に記載されるべき事項による調整を加えた指標その他の利益に関する指標として政令で定めるもので、有価証券報告書に記載されるものに限る、とされています。
株価指標
政令で定めるものに限る、という限定と、期間の限定が付いています。期間は、職務執行期間開始日の属する事業年度開始の日以後の所定の期間、または職務執行期間開始日以後の所定の日における市場価格です。
ここで注意したいのは、株価指標には有価証券報告書に記載されるものに限る、という限定が付いていない点です。限定が一切ない、という意味ではありません。書き方を正確にしてください。
売上高指標
売上高指標には、利益の状況を示す指標または株式の市場価格の状況を示す指標と同時に用いられるもの、という条件が付いています。売上高だけを指標にした業績連動給与は要件を満たしません。
売上高に関する指標として政令で定めるものは、法人税法施行令第69条第12項にあります。第1号が有価証券報告書に記載される売上高の額、第2号がそこから有価証券報告書に記載される費用の額を減算した額、第3号が目標や前期等の確定値を上回る数値またはその比率、第4号がこれらに準ずる指標です。
ESG指標は使えるか
温室効果ガス排出量や女性管理職比率といった指標を算定の基礎に使えるか、という質問をよく受けます。
この点について、国税庁の質疑応答事例や法令解釈通達を、この記事の作成時点で確認することができませんでした。したがって、可否を断定することはできません。確認できる事実は、現行の条文が算定の基礎を利益、株式の市場価格、売上高の3類型に限定しており、いずれも政令で内容が特定されている、ということです。導入を検討する場合は、事前に税務署または顧問税理士に確認してください。
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📰 開示の要件とタイミング
第1項第3号イ(3)が開示の要件です。算定方法の内容が、適正な手続の終了の日以後遅滞なく、有価証券報告書に記載されていること、その他財務省令で定める方法により開示されていること、とされています。
「手続の終了の日以後遅滞なく」という部分が要件です。決算のときにまとめて開示する、という運用では要件を満たしません。報酬委員会や株主総会の手続が終わったら、遅滞なく開示する必要があります。
有価証券報告書以外の方法
財務省令で定める方法は、法人税法施行規則第22条の3第6項にあります。3号構成です。
第1号が、金融商品取引法第24条の5第1項の半期報告書に記載する方法。第2号が、同条第4項の臨時報告書に記載する方法。第3号が、金融商品取引所の業務規程(金融商品取引所等に関する内閣府令第63条第2項第3号に掲げる事項を定めたもの)にもとづく開示方法です。
有価証券報告書の提出時期を待たなくても、臨時報告書や取引所規則にもとづく開示で要件を満たす道があります。手続の終了から有価証券報告書の提出まで期間が空く場合は、この選択肢を検討してください。
同条第7項に、同族会社が有価証券報告書等を提出できない場合に関する規定があります。
⚖️ 適正な手続
いずれの号にも、独立社外取締役の過半数要件、特殊関係者の除外、全員賛成といった要件が付されています。形式だけ委員会を置いても要件を満たしません。
第1項第3号イ(2)が求める適正な手続は、法人税法施行令第69条の第16項(同族会社でない場合)と第17項(同族会社である場合)に定められています。
第16項は4号構成です。第1号が会社法第404条第3項の報酬委員会の決定、第2号が株主総会の決議による決定(指名委員会等設置会社を除く)、第3号が3人以上で構成される報酬諮問委員会への諮問を経た取締役会決議、第4号が前3号に準ずる手続です。
いずれの号にも要件が付いています。委員の過半数が独立社外取締役であること、業務執行役員の特殊関係者が委員でないこと、独立社外取締役の全員が決議に賛成していること。第3号ではさらに、給与を受ける者が参加していないことが求められます。
形式的に報酬諮問委員会を作るだけでは足りません。構成、議事、賛否の記録まで整えておく必要があります。
第17項は同族会社の場合で、3号構成です。第1号が完全支配関係法人の報酬委員会の決定に従ってされる株主総会または取締役会の決議、第2号が完全支配関係法人の報酬諮問委員会への諮問を経た取締役会決議、第3号が前2号に準ずる手続です。こちらにも同種の要件が付されています。
🏢 上場準備会社での考え方
上場準備中の会社は、原則として業績連動給与の対象になりません。同族会社に該当することが多く、また有価証券報告書を提出していないためです。
ただし、上場を見据えて制度を設計しておく意味はあります。報酬諮問委員会を先に設けておけば、コーポレートガバナンス・コードへの対応にもつながります。上場と同時に業績連動給与を入れるつもりなら、その前の期から手続の形を作っておくのが実務です。
役員報酬全体の設計についてはIPO準備 完全ガイドで扱っています。
❓ よくある質問
A. 違います。起算日は業績連動指標の数値が確定した日の翌日で、金銭は1月、株式・新株予約権は2月です(施行令第69条第19項第1号イ)。
A. ハは存在しません。損金経理の要件は施行令第69条第19項第2号にあります。
A. できません。利益の状況を示す指標または株式の市場価格の状況を示す指標と同時に用いられるものに限られます。
A. 政令で定めるものに限る、という限定と期間の限定があります。有価証券報告書に記載されるものに限る、という限定が付いていないだけです。
A. 原則として対象外ですが、同族会社以外の法人との間にその法人による完全支配関係があるものは対象になります。
A. 他の業務執行役員のすべてに対して要件を満たす業績連動給与を支給する場合に限る、という限定があります。
A. 適正な手続の終了の日以後遅滞なく開示することが要件です。施行規則第22条の3第6項に、半期報告書、臨時報告書、金融商品取引所の業務規程にもとづく開示という代替手段があります。
A. 3人以上で構成され、委員の過半数が独立社外取締役等であること、特殊関係者が委員でないこと、独立社外取締役等の全員が賛成していること、給与を受ける者が参加していないことが要件です(施行令第69条第16項第3号)。
A. 国税庁の見解を確認できませんでした。確認できるのは、条文が算定の基礎を利益、株式の市場価格、売上高の3類型に限定しているという点です。導入前に確認してください。
A. 同族会社に該当することが多く、また有価証券報告書を提出していないため、通常は対象になりません。上場後を見据えて手続の形を先に作っておく、という進め方になります。
📄 まとめ
業績連動給与の支給期限の起算日は、業績連動指標の数値が確定した日の翌日です。金銭は1月、株式または新株予約権は2月を経過する日までに交付します(施行令第69条第19項第1号イ)。事業年度終了の日から3月、ではありません。
法人税法第34条第1項第3号はイとロの2つで構成され、ハはありません。損金経理の要件は施行令第69条第19項第2号です。
算定の基礎にできるのは利益、株式の市場価格、売上高の3類型で、3つとも限定が付いています。有価証券報告書に記載されるものに限る、という限定が付くのは利益指標と売上高指標です。売上高指標は単独では使えません。
開示は手続の終了の日以後遅滞なく行う必要があり、代替手段が施行規則第22条の3第6項にあります。適正な手続は施行令第69条第16項と第17項です。
📚 参考(公的な一次情報)
- 法人税法第34条第1項第3号、同条第5項
- 法人税法施行令第69条 第9項・第12項・第16項・第17項・第19項
- 法人税法施行規則第22条の3 第6項・第7項
- 国税庁タックスアンサー No.5211 役員に対する給与
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