過去の決算に誤りが見つかった。訂正報告書を出すのか、臨時報告書を出すのか。どちらか一方でよいのか。上場後にこの判断を迫られると、時間がありません。
結論から言えば、この2つは選択の関係にありません。根拠となる条文がまったく別で、それぞれの要件で別々に判断します。財務諸表の誤りそのものは訂正報告書の話であり、臨時報告書の提出事由には、開示府令が列挙する別の事象が該当します。
この記事では、条文の構造を整理し、自社が訂正報告書を出すときの根拠がどこにあるのかを確認します。
- 訂正報告書の根拠は第24条の2第1項による準用であり、実体要件は第7条・第9条・第10条にあること
- 自発的に出すのは第7条第1項後段の経路であること
- 第9条と第10条は内閣総理大臣が命じる側の条文であること
- 臨時報告書の根拠は第24条の5第4項と開示府令第19条第2項各号であること
- 開示府令第19条第2項に「財務諸表の訂正」を提出事由とする号は見当たらないこと
- 訂正後の財務諸表は監査証明の対象であること
この記事の見出し
📌 結論 訂正報告書と臨時報告書は別々の条文で動く
訂正報告書と臨時報告書は、どちらか一方を選ぶという関係ではありません。別々の要件で、それぞれ判断します。
まず、財務諸表の誤りへの対応は訂正報告書です。金融商品取引法の第24条の2第1項が、第7条第1項、第9条第1項および第10条第1項を有価証券報告書およびその添付書類について準用し、読替えによって「訂正届出書」を「訂正報告書」、「届出者」を「有価証券報告書の提出者」としています。
次に、臨時報告書です。第24条の5第4項が、その会社が発行者である有価証券の募集または売出しが外国において行われるとき、その他公益または投資者保護のため必要かつ適当なものとして内閣府令で定める場合に該当することとなったとき、内閣府令の定めにより遅滞なく提出するとしています。この内閣府令で定める場合について、開示府令の第19条第1項が「次項各号に掲げる場合」としており、第19条第2項の各号が実際の提出事由です。
この第19条第2項の各号を確認したところ、「財務諸表の訂正」そのものを提出事由とする号は見当たりませんでした。誤りに気づいて訂正報告書を出すことと、臨時報告書を出すことは、別の話です。
ただし、誤りの発見に伴って別途の事由が生じることはあります。監査公認会計士等が交代すれば第9号の4、重要な後発事象に相当する事象で金額基準を満たせば第12号、有価証券報告書を定時株主総会前に提出していて総会で決議事項が修正または否決されれば第9号の3です。
🧾 訂正報告書の3つの経路
自社で誤りに気づいて出すのは、第7条第1項後段の経路です。第9条と第10条は行政庁が命じる側の条文なので、自社の判断の根拠として引くと主語がずれます。
ここが実務でいちばん取り違えられるところです。訂正報告書には3つの入口があり、主語が違います。
自社で出す場合は第7条第1項
自社が誤りに気づいて出すのは、第7条第1項の経路です。前段は、記載すべき重要な事項の変更その他公益または投資者保護のため当該書類の内容を訂正する必要があるものとして内閣府令で定める事情があるとき。後段は、訂正を必要とするものがあると認めたとき、です。
実務では後段が根拠になります。提出者が訂正を必要とすると認めた場合の規定で、内閣府令の定めを要しません。
第9条と第10条は命じる側の条文
第9条第1項は、形式上の不備があり、またはその書類に記載すべき重要な事項の記載が不十分であると認めるときの規定です。第10条第1項は、重要な事項について虚偽の記載があり、または記載すべき重要な事項もしくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けていることを発見したときの規定です。
いずれも主語は内閣総理大臣で、提出を命じる側の条文です。実務書で「記載すべき重要な事項の記載が不十分であると認めるときに訂正報告書を提出する」と書かれていることがありますが、これは第9条第1項の要件であり、提出者の自発的提出の要件ではありません。社内規程に書くときは主語を確認してください。
なお、いずれの命令にも行政手続法第13条第1項の区分にかかわらず聴聞が必要とされています。権限は第194条の7第1項により金融庁長官に委任されます。
訂正報告書を出すのか、何期分さかのぼるのか、監査報告書の再発行と適時開示をどの順番で進めるのか。判断と段取りをお手伝いします。上場準備中の会社の、過年度の誤りへの対応もお受けします。公認会計士・税理士が直接お受けします。初回のご相談は無料です。
📋 臨時報告書の提出事由
根拠は金融商品取引法第24条の5第4項と、開示府令第19条第1項が第2項各号を指定する構造です。提出は遅滞なくとされています。
開示府令第19条第2項の各号が提出事由です。第2項の柱書は、内国会社は第5号の3様式、外国会社は第10号の2様式により臨時報告書を三通作成し、財務局長等に提出するとしています。
号の割り当てを覚えておくと、判断が速くなります。親会社・特定子会社の異動が第3号、主要株主の異動が第4号、重要な災害が第5号、訴訟の提起または解決が第6号、代表取締役の異動が第9号、監査公認会計士等の異動が第9号の4です。
金額基準のあるものが多いのも特徴です。重要な災害は被害資産の帳簿価額が最近事業年度末の純資産額の3パーセント以上、訴訟の提起は損害賠償請求金額が純資産額の15パーセント以上、訴訟の解決は支払金額が3パーセント以上です。第12号の著しい影響を与える事象は、損益への影響額が純資産額の3パーセント以上かつ最近5事業年度の当期純利益の平均額の20パーセント以上とされています。
第13号から第19号は連結子会社版、第20号と第21号は連結子会社の財務上の特約付金銭消費貸借契約や社債に関するものです。
🔍 訂正すれば監査報告書も要る
訂正すれば監査報告書も改めて必要になります。訂正の意思決定をする前に、監査人と日程を合わせてください。
訂正の意思決定をする前に確認しておくべき点です。
金融商品取引法の第193条の2第1項が、特定発行者がこの法律の規定により提出する貸借対照表、損益計算書その他の財務計算に関する書類で内閣府令で定めるものについて、特別の利害関係のない公認会計士または監査法人の監査証明を受けなければならないとしています。
そして財務諸表等の監査証明に関する内閣府令の第1条第1項第13号が、法第7条第1項、第9条第1項または第10条第1項(これらを第24条の2第1項および第24条の5第5項において準用する場合を含む)により提出される訂正届出書または訂正報告書による訂正後の書類を、監査証明の対象に含めています。
つまり、訂正後の財務諸表には改めて監査証明が必要です。監査人の作業日程を確保しないまま訂正の公表日を決めると、間に合いません。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら
📆 公衆縦覧と公告
第25条第1項が公衆縦覧の定めです。有価証券報告書およびその添付書類ならびにこれらの訂正報告書は第3号の縦覧書類とされ、受理の日から5年間公衆の縦覧に供されます。半期報告書およびその訂正報告書が第6号、臨時報告書およびその訂正報告書が第8号です。
また、第24条の2第2項が、有価証券報告書の記載事項のうち重要なものについて訂正報告書を提出したときは、政令の定めにより公告しなければならないとしています。
📅 半期報告書と臨時報告書の訂正
半期報告書と臨時報告書についても、訂正報告書の仕組みがあります。第24条の5第5項が、第7条第1項、第9条第1項および第10条第1項を半期報告書および臨時報告書について準用しています。読替えの構造は有価証券報告書の場合と同じで、第10条第1項の効力停止の部分は落ちます。
同条第6項が第6条を、第12項が外国会社半期報告書の訂正報告書を、第19項が外国会社臨時報告書の訂正報告書を、それぞれ準用しています。
⚠️ 何期分さかのぼるか
実務でいちばん聞かれる質問ですが、何期分さかのぼるかについて、金融庁や東京証券取引所の公表物で確認できる定めは、この記事の作成時点で見当たりませんでした。企業内容等開示ガイドラインにも、訂正報告書の遡及期間についての記述は見当たりません。
実務では、誤りの内容と、比較情報として表示される期間、そして投資判断への影響を踏まえて、監査人および財務局と協議して決めることになります。3期分、5期分といった数字を断定的に説明している資料を見かけたら、根拠を確認してください。
会計上の修正再表示の方法については過年度の会計処理に誤りが見つかったときで扱っています。
❓ よくある質問
A. 開示府令第19条第2項の各号に「財務諸表の訂正」を提出事由とする号は見当たりませんでした。誤りへの対応は訂正報告書です。
A. 選択の関係ではありません。別々の条文で、それぞれの要件で判断します。両方が必要になることもあります。
A. 第24条の2第1項が準用する第7条第1項です。実務では後段の「訂正を必要とするものがあると認めたとき」が根拠になります。
A. それは第9条第1項の要件で、主語は内閣総理大臣です。提出者の自発的提出の要件ではありません。
A. 有価証券報告書の訂正では効力停止はありません。読替えでその部分が落ちています。効力停止は有価証券届出書に固有のものです。
A. 必要です。監査証明府令 第1条第1項第13号が、訂正報告書による訂正後の書類を監査証明の対象に含めています。
A. 一次情報で確認できる定めは見当たりませんでした。誤りの内容と比較情報の範囲を踏まえ、監査人および財務局と協議することになります。
A. 有価証券報告書の記載事項のうち重要なものについて訂正報告書を提出したときは、第24条の2第2項により政令の定めにより公告が必要です。
A. 第25条第1項により、有価証券報告書とその訂正報告書は受理の日から5年間です。
📄 まとめ
訂正報告書の根拠は第24条の2第1項による準用で、実体要件は第7条第1項、第9条第1項、第10条第1項にあります。自社で気づいて出すのは第7条第1項後段の経路です。第9条と第10条は内閣総理大臣が提出を命じる側の条文なので、自社の根拠として引くと主語がずれます。
臨時報告書の根拠は第24条の5第4項と開示府令第19条第2項各号です。財務諸表の訂正そのものを提出事由とする号は見当たりませんでした。ただし監査公認会計士等の異動や重要な後発事象など、別の事由が生じることはあります。
訂正後の財務諸表は監査証明の対象です(監査証明府令 第1条第1項第13号)。訂正の公表日を決める前に、監査人と日程を合わせてください。
📚 参考(公的な一次情報)
- 金融商品取引法 第7条第1項、第9条第1項・第5項、第10条第1項、第24条の2、第24条の5第4項・第5項、第25条第1項、第193条の2第1項、第194条の7第1項
- 企業内容等の開示に関する内閣府令 第11条、第19条第1項・第2項
- 財務諸表等の監査証明に関する内閣府令 第1条第1項第13号
- 金融庁 企業内容等開示ガイドライン
あわせて読みたい