監査の終盤に、監査人から未修正の虚偽表示の一覧が出てきます。金額はそれほど大きくない。直さなくてもよいと言われる。そのまま監査は終わる。
ただ、この一覧は消えません。翌期以降も持ち越され、積み上がっていきます。そしてある期に、まとめて重要性を超えることがあります。
この記事では、監査基準報告書450が何を求めているのかを項番号で確認し、会社側が何を見ておけばよいのかを整理します。あわせて、実務でよく混同される「明らかに僅少」と「重要性がない」の違いを押さえます。
- 現行の名称は「監査基準報告書」で、「監査基準委員会報告書」は旧称であること
- 明らかに僅少と重要性がないは別の概念であること(監基報450 A2項)
- 疑義があれば明らかに僅少ではないと判断されること
- 過年度の未修正の虚偽表示の影響も考慮されること(第10項(2))
- 経営者確認書に未修正の虚偽表示の要約を記載または添付することが求められること(第13項)
- 複数の評価方法があり、継続適用が期間比較可能性を保つとされていること(A22項)
この記事の見出し
📌 まず名称を正しておく
社内資料や監査調書で旧称を使っていると、そのまま古い引用になります。日本公認会計士協会の一覧で確認できます。
日本公認会計士協会の公表物の名称が変わっています。現行の正式名称は「監査基準報告書」で、略称は監基報です。発行主体は監査・保証基準委員会です。
「監査基準委員会報告書」「監査基準委員会」は旧称です。2022年10月13日に公表された監査基準報告書(序)「監査基準報告書及び関連する公表物の体系及び用語」に関連する体系の見直しに伴うものです。
社内の経理規程や決算のチェックリストに旧称が残っていることがあります。監査人に提出する資料でこの名称を使うと、古い版を見ている印象になります。参照先を点検してください。
🔍 明らかに僅少と、重要性がないは別
「明らかに僅少」の定めは監基報320ではなく監基報450にあります。320の定義項(第8項)に含まれていません。
実務でいちばん混同されるのがここです。
監査基準報告書450の第4項が、明らかに僅少なものを除き、識別した虚偽表示を集計しなければならないとしています。つまり、明らかに僅少なものは集計の対象にすら入りません。
そしてA2項が、明らかに僅少は「重要性がない」とは異なる概念であるとしています。明らかに僅少とは、金額、内容、状況のいずれにおいても明らかに些細であることです。そして、疑義があれば明らかに僅少ではないと判断されます。
さらにA3項が、監査人が明らかに僅少な額として設定した金額を下回っていても、内容や状況から明らかに僅少といえない場合は集計するとしています。金額だけで決まるものではありません。
金額が小さければ問題ない、とは言えない
ここから導かれる実務上の含意ははっきりしています。金額が小さくても、内容が悪ければ集計されます。たとえば経営者の関与が疑われるもの、不正の兆候があるもの、継続的に同じ方向に出ているもの。これらは金額の大小にかかわらず論点になります。
なお、重要性の基準値、手続実施上の重要性といった用語は監査基準報告書320の第8項に定義があります。明らかに僅少の定めは320ではなく450にあります。
監査人から出てきた差異にどう対応するか、直すべきものと説明すべきものをどう分けるか、翌期に持ち越したときに何が起きるか。上場準備中の会社の監査対応を、会社側の立場で整理します。公認会計士・税理士が直接お受けします。初回のご相談は無料です。
📚 監基報450は何を求めているか
制定は2011年12月22日、最終改正は2024年9月26日です。
会社側から見れば、直さない判断をした差異は消えません。翌期以降に積み上がり、経営者確認書に一覧として残ります。
順を追うと、次のようになります。
第3項(1)が虚偽表示を定義し、報告された財務諸表項目と、財務報告の枠組みに準拠した場合に要求されるものとの差異としています。第3項(2)が未修正の虚偽表示を定義し、監査の過程で集計対象とした虚偽表示のうち修正されなかったものとしています。
第4項が集計の要求、第7項が経営者への報告と修正の要請です。集計した全ての虚偽表示を適切な階層の経営者に適時に報告し、修正するよう求めなければならないとされています。
重要なのは第10項(2)です。未修正の虚偽表示が重要かどうかの判断にあたって、過年度の未修正の虚偽表示が全体としての財務諸表および関連する取引種類、勘定残高、注記事項に与える影響を考慮するとされています。
A22項が、過年度の重要性がない未修正の虚偽表示の累積的影響が、当年度の財務諸表に重要な影響を与えることがある旨に触れています。
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🧮 過年度分の影響をどう見るか
過年度の未修正の虚偽表示が当年度の財務諸表に与える影響をどう評価するかについて、A22項は「複数の方法が考えられる」としています。そして、同じ方法を継続して適用することで期間比較可能性が保たれるとしています。
実務書では、当期の損益への影響を見る方法と、期末の貸借対照表への影響を見る方法という2つの整理がよく紹介されます。ただし、これらの方法名が監査基準報告書450の本文および適用指針に用語として置かれているかは、この記事の作成時点で確認できませんでした。A22項は方法があることを述べるにとどまっています。
会社側として押さえるべきなのは、どちらの方法を監査人が使っているかを確認し、その方法が期をまたいで変わっていないかを見ることです。方法が変われば、同じ差異でも評価が変わります。
会社側で持っておきたい表
監査人が作る集計表とは別に、会社側でも自前の表を持っておくことをおすすめします。項目、発生した期、金額、当期の損益への影響、期末の貸借対照表への影響、直さなかった理由。この6列があれば足ります。
この表があると、翌期の決算前に「この差異は今期直しておいたほうがよい」という判断が自社でできます。監査の終盤に一覧を渡されてから考えるのでは遅い、という場面がなくなります。
✍️ 経営者確認書に残る
第13項が、未修正の虚偽表示の影響が個別にも集計しても重要性がないと判断しているかを経営者確認書に記載することを求め、あわせて未修正の虚偽表示の要約を記載するか、または添付することを求めなければならないとしています。適用指針はA26項です。
監査基準報告書580「経営者確認書」の付録2にある経営者確認書の記載例にも、未修正の虚偽表示の影響が重要でない旨の記載と、一覧を確認書に添付している旨の文言があります。監基報580の適用指針A13項に、監基報450第4項への参照があります。
つまり、直さないという判断は、経営者が署名する文書に残ります。ここを軽く見ないでください。上場審査でも、内部統制報告制度の評価でも、この一覧は説明の対象になり得ます。
なお、監基報580の制定は2011年12月22日、最終改正は2024年9月26日です。
🏢 上場準備会社での実務
上場準備の局面では、この論点が2つの意味を持ちます。
ひとつは、監査の年数です。N-2期からの監査を受けるとして、初年度に出た差異を直さずに持ち越すと、N-1期、申請期と積み上がります。申請期に累積で重要性を超えると、そこで修正再表示の議論になります。修正再表示になれば、比較情報を作り直すことになります。
もうひとつは、差異が出る原因です。同じ種類の差異が毎期出るのであれば、それは業務プロセスか会計方針の問題です。差異を直すかどうかの議論の前に、なぜ出るのかを潰しておく必要があります。この視点がないと、毎期同じ議論を繰り返すことになります。
過去の誤りが重要と判断された場合の処理は過年度の会計処理に誤りが見つかったとき、重要性の判断そのものは誤謬の重要性判断で扱っています。
❓ よくある質問
A. 旧称です。現行は監査基準報告書450で、発行主体は監査・保証基準委員会です。
A. 別の概念です。A2項が明確に区別しています。明らかに僅少は、金額、内容、状況のいずれにおいても明らかに些細であることです。
A. A3項が、監査人が設定した金額を下回っても、内容や状況から明らかに僅少といえない場合は集計するとしています。
A. A2項が、疑義があれば明らかに僅少ではないと判断するとしています。
A. 関係します。第10項(2)が、過年度の未修正の虚偽表示が与える影響を考慮するとしています。
A. これらの用語が監基報450の本文および適用指針に置かれているかは確認できませんでした。A22項は複数の方法が考えられるとするにとどまっています。
A. 経営者確認書です。第13項が、要約を記載するか添付することを求めなければならないとしています。
A. 第12項が、過年度の未修正の虚偽表示が与える影響について監査役等へ報告するとしています。
A. 項目、発生した期、金額、当期の損益への影響、期末の貸借対照表への影響、直さなかった理由を並べた表です。監査の終盤ではなく、期中から持っておいてください。
📄 まとめ
現行の名称は監査基準報告書450「監査の過程で識別した虚偽表示の評価」です。制定は2011年12月22日、最終改正は2024年9月26日です。
明らかに僅少と重要性がないは別の概念です(A2項)。明らかに僅少は金額、内容、状況のいずれにおいても明らかに些細であることで、疑義があれば明らかに僅少ではないと判断されます。金額だけで決まるものではありません。
未修正の虚偽表示は消えません。過年度分の影響も含めて重要性が判断され(第10項(2))、監査役等に報告され(第12項)、経営者確認書に要約が残ります(第13項)。
会社側では、監査人の集計表とは別に自前の表を持ち、期中から動かしてください。翌期の決算前に自分で判断できる状態を作ることが目的です。
📚 参考(公的な一次情報)
- 日本公認会計士協会 監査・保証基準委員会 監査基準報告書450「監査の過程で識別した虚偽表示の評価」第3項・第4項・第7項・第10項・第12項・第13項、A2項・A3項・A22項・A26項(2011年12月22日制定、2024年9月26日最終改正)
- 同 監査基準報告書320「監査の計画及び実施における重要性」第8項から第13項(2011年12月22日制定、2023年1月12日最終改正)
- 同 監査基準報告書580「経営者確認書」A13項、付録2(2011年12月22日制定、2024年9月26日最終改正)
- 企業会計審議会「監査基準の改訂に関する意見書」(令和2年11月11日)
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