過年度の会計処理に誤りが見つかったとき、経理責任者がまず突き当たるのが「これは過去の財務諸表まで直さなければならないのか、それとも当期の損益で処理すれば足りるのか」という問いです。金額は大きくない、けれど何期にもわたっている。監査法人には報告すべきか、報告したら決算スケジュールはどうなるのか。判断を先送りするほど選択肢が狭くなる、という点でも悩ましいテーマです。
企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」は、実は「重要な誤謬」という言葉を使っていません。本記事では、公認会計士として監査対応・IPO実務に携わる立場から、金額的重要性と質的重要性の測り方、重要性が乏しい場合の処理、未修正の誤謬が監査の場でどう扱われるかを整理します。
- 基準24号が「重要な誤謬」という用語を避けた理由と、その実務上の意味
- 金額的重要性の3つの見方と、実務で使われる指標・比率の考え方
- 複数期にまたがる誤謬を「各期の損益」と「累積残高」の両面で測る方法
- 質的重要性のチェックポイント(上場廃止基準・財務制限条項など)
- 重要性が乏しい誤謬の表示区分と、未修正の誤謬が監査でどう集計されるか
🧭 なぜ「重要性」が最初の分かれ目になるのか
基準24号は「重要な誤謬」と書いていない
基準24号は「誤謬」を、原因となる行為が意図的であるか否かにかかわらず、財務諸表作成時に入手可能な情報を使用しなかったことによる、又はこれを誤用したことによる誤りと定義し、①データの収集又は処理上の誤り、②事実の見落としや誤解から生じる会計上の見積りの誤り、③会計方針の適用の誤り又は表示方法の誤り、の3つを挙げています(基準4項(8))。この定義には「重要な」という限定が付いていません。
基準の開発過程では、誤謬の重要性について一般的な重要性とは別に考え方を定めるべきだという意見もありました。しかし、重要性は誤謬に限らず基準のすべての項目について考慮されるべきものであることなどを勘案し、誤謬の重要性については特段の記載を行わず、重要性に関する考え方を示すにとどめられています(基準42項)。「重要な誤謬だけを修正再表示する」という条文があるわけではなく、会計全般に及ぶ一般的な重要性の考え方の中で判断することになります。
重要性は金額と質の両面で見る
その拠りどころとなるのが基準35項です。ここでは、重要性の判断は財務諸表に及ぼす金額的な面と質的な面の双方を考慮する必要があるとされています(基準35項)。金額的重要性には、損益への影響額又は累積的影響額で判断する考え方、損益の趨勢に重要な影響を与えているかで判断する考え方、財務諸表項目への影響で判断する考え方などがあり、具体的な判断基準は企業の個々の状況によって異なり得るとされています(基準35項)。質的重要性については、企業の経営環境、財務諸表項目の性質、又は誤謬が生じた原因などにより判断することが考えられるとされています(基準35項)。
実務では、まず「そもそも誤謬に当たるのか(会計上の見積りの変更ではないか)」を確かめ、次に金額的重要性、最後に質的重要性を見る、という順序が分かりやすいと考えられます。金額が小さくても質的に重要であれば修正再表示が必要になり得るため、金額だけで打ち切らないことが要点です。
誤謬に当たるかを確かめたうえで、金額的重要性・質的重要性の順に検討し、いずれかがあれば修正再表示、いずれもなければ当期の損益で処理する流れです。
📊 金額的重要性の測り方|指標・比率・累積の見方
3つの見方を使い分ける
基準35項が示す金額的重要性の3つの考え方は、どれか1つを選べばよいというものではなく、誤謬の性質に応じて併用するものと考えられます。整理すると次のとおりです。
| 見方 | 測るもの | 向いているケース |
|---|---|---|
| 損益への影響額・累積的影響額 | 各期の損益に与えた影響額、および表示期間より前の期間分を含む累積額 | 費用・収益の期間帰属の誤り、引当金の計上漏れなど |
| 損益の趨勢への影響 | 訂正前後で増収増益・減収減益の方向が変わるか、赤字転落・黒字転換が生じるか | 損益が小さい期、業績予想や配当方針に直結する期 |
| 財務諸表項目への影響 | 特定の科目残高や区分に対する割合、注記事項の記載内容への影響 | 売上高の総額表示・純額表示、区分掲記の誤りなど |
出典:企業会計基準第24号35項に示された考え方をもとに、実務での使い分けの観点を筆者が整理したものです。
比率の目安はどこから持ってくるか
基準は具体的な数値基準を示していません。実務では、内部統制監査の指針が示す考え方が参照されることがあります。財務報告内部統制監査基準報告書第1号「財務報告に係る内部統制の監査」では、金額的重要性は連結総資産、連結売上高、連結税引前利益などの指標に対する比率で判断するとされ、例えば連結税引前利益を指標とする場合にはおおむね5%程度とすることが考えられるとされています(内基報1号189項)。ただし、これらの指標や比率は画一的に適用するのではなく、会社の業種、規模、特性など会社の状況に応じて適切に用いる必要があり、連結税引前損失を計上している場合や、税引前利益の金額が著しく小さい場合、事業年度ごとに著しく変動する場合などは、使用する指標や比率が適切かどうかを検討するとされています(内基報1号189項)。
同報告書は、内部統制の不備に関わる重要性の判断指針は財務諸表監査における重要性と同一になると考えられるとしており(内基報1号188項)、この指標と比率の考え方が誤謬の重要性を検討する際の手がかりになります。もっとも、これは内部統制監査の文脈で示された指針であり、修正再表示の要否を機械的に決める基準ではない点には注意が必要です。
「5%を下回るので重要性なし」とだけ書かれた検討資料は、まず追加の質問を受けます。分母に何を使ったのか(税引前利益か、純資産か、当該科目残高か)、なぜその指標が自社の状況に適しているのか、赤字期や利益が小さい期をどう扱ったのか、が説明できる形になっているかを事前に確認しておくと、往査時のやり取りが短くなります。
複数期にまたがる誤謬をどう測るか(設例)
金額的重要性でつまずきやすいのが、誤りが何期にもわたって少しずつ積み上がっているケースです。次の設例で考えます(金額はすべて解説のために設定したものです)。
3月決算の上場会社A社は、X4年3月期の決算作業中に、仕入計上の締め処理の誤りにより期末棚卸資産が過大に計上されていたことを発見しました。過大計上額は、X1年3月期末30百万円、X2年3月期末50百万円、X3年3月期末62百万円です。各期の連結税引前利益は、X1年3月期800百万円、X2年3月期900百万円、X3年3月期1,000百万円でした。
各期の税引前利益に与えた影響額は、期末残高の増減額として求めます。X1年3月期は+30百万円、X2年3月期は50-30=+20百万円、X3年3月期は62-50=+12百万円です。それぞれ税引前利益に対して3.8%、2.2%、1.2%となり、単年度で見ればいずれも5%を下回ります。
一方、X3年3月期末時点で貸借対照表に残っている過大計上額は30+20+12=62百万円で、X3年3月期の税引前利益1,000百万円の6.2%に相当します。単年度の損益で見るか累積残高で見るかによって重要性の見え方が変わるため、両方を算定したうえで、どちらの視点でも重要性が乏しいといえるかを確認しておくと、監査人との議論がかみ合いやすくなります。
同じ誤謬でも、各期の損益への影響で測るか、期末時点の累積残高で測るかによって重要性の見え方が変わります(数値は解説用の設例です)。
過年度の会計処理の見直し・修正再表示の要否判断から、影響額の算定、注記案の作成、監査法人対応まで、公認会計士が伴走支援します。
🗒️ 質的重要性のチェックポイント
金額が小さくても重要になる場面
基準35項は、質的重要性を企業の経営環境、財務諸表項目の性質、又は誤謬が生じた原因などにより判断することが考えられるとしています(基準35項)。抽象的な表現ですが、実務では次のような具体的な切り口に落とし込むことができます。
内基報1号は、質的重要性を、上場廃止基準や財務制限条項に関する記載事項などが投資判断に与える影響の程度、関連当事者との取引や大株主の状況に関する記載事項などが財務報告の信頼性に与える影響の程度で判断するとしています(内基報1号190項)。例えば、債務超過の回避など、財務諸表に対する虚偽記載が上場廃止基準に抵触することとなる場合には質的な重要性があると判断するとされ(内基報1号191項)、財務制限条項を回避することとなる場合も同様とされています(内基報1号192項)。
監査人の側でも同様の視点が用いられます。監査基準報告書450「監査の過程で識別した虚偽表示の評価」は、虚偽表示が重要性の基準値を下回る場合でも重要と評価することがあるとして、法令遵守への影響、財務制限条項その他の契約条項の遵守への影響、利益や趨勢の変化を認識できなくなる状況、セグメント情報への影響、経営者の報酬を増加させる場合などを例示しています(監基報450 A20項)。会社側の判断も、この視点と大きくずれていないかを確認しておくと安全です。
質的重要性の確認リスト
- 訂正により債務超過や上場廃止基準への抵触が生じないか
- 借入契約の財務制限条項(純資産維持・利益維持など)の判定が変わらないか
- 関連当事者との取引や大株主の状況の記載に影響しないか
- 訂正により増益・減益の方向や、赤字・黒字の別が変わらないか
- 既に公表した業績予想や配当予想の前提に影響しないか
- セグメント情報や1株当たり情報など、投資判断に用いられる情報が変わらないか
- 誤謬の原因が意図的なものや内部統制の広範な不全に起因していないか
上記は、基準35項の考え方と、内基報1号190項から194項および監基報450 A20項に示された観点をもとに、筆者が実務用に整理したものです。該当があれば金額が小さくても質的重要性を検討することになると考えられます。
特に注意したいのが最後の項目です。基準24号は誤謬を意図的であるか否かにかかわらず定義し、不正に起因するものも含めています(基準42項)。原因が意図的であった場合は、金額の大小にかかわらず、重要性の議論とは別のルートでの対応が必要になります。
⚖️ 重要性が乏しい場合の処理と、未修正の誤謬の扱い
「前期損益修正損」で処理してよいか
基準24号は、従来の誤謬の取扱いとして企業会計原則注解(注12)の前期損益修正項目を挙げたうえで、基準の適用により、過去の誤謬を前期損益修正項目として当期の特別損益で修正する従来の取扱いは修正再表示する方法に変更されるとし、重要性の判断に基づき過去の財務諸表を修正再表示しない場合は、損益計算書上、その性質により、営業損益又は営業外損益として認識する処理が行われることになると考えられるとしています(基準63項、65項)。
ここが実務でしばしば誤解される点です。重要性が乏しいと判断した誤謬は、特別損失の「前期損益修正損」として計上するのではなく、その誤謬が本来影響していた科目の性質に従って処理することになると考えられます。先ほどの設例であれば、棚卸資産の過大計上の解消は売上原価(営業損益)に含める、という整理です。財務諸表等規則でも、特別利益・特別損失の例示に前期損益修正の項目は見当たりません(財規95条の2、95条の3)。
| 比較項目 | 重要性がある場合 | 重要性が乏しい場合 |
|---|---|---|
| 過去の財務諸表 | 比較情報として表示する過去の財務諸表を訂正(基準21項) | 訂正しない |
| 表示期間より前の影響 | 最も古い期間の期首の資産・負債・純資産に反映(基準21項(1)) | 反映しない |
| 当期の損益計算書 | 当期分の影響のみが当期の損益に含まれる | その性質により営業損益又は営業外損益として認識(基準65項) |
| 注記 | 誤謬の内容・主な科目への影響額・1株当たり情報への影響額・期首純資産への累積的影響額(基準22項、財規8条の3の7) | 重要性の乏しいものは注記を省略できる(財規8条の3の7ただし書き) |
「当期処理」でも監査人の集計対象からは外れない
重要性が乏しいと判断して当期の損益で処理した場合でも、その誤謬が監査の場から消えるわけではありません。監査人は、明らかに僅少なものを除き、監査の過程で識別した虚偽表示を集計し(監基報450第4項)、集計した全ての虚偽表示を適切な階層の経営者に適時に報告して修正を求めることが要求されています(監基報450第7項)。会社が修正しない場合、監査人は修正しない理由を把握したうえで、全体としての財務諸表に重要な虚偽表示がないかどうかを評価します(監基報450第8項)。
さらに、未修正の虚偽表示が重要かどうかの判断にあたっては、過年度の未修正の虚偽表示が財務諸表に与える影響も考慮することとされています(監基報450第10項(2))。過年度の重要性がない未修正の虚偽表示の累積的影響が、当年度の財務諸表に重要な影響を与えることがあるためです(監基報450 A22項)。「毎期少しずつなら大丈夫」という発想が通用しにくいのは、この定めがあるからです。
また、未修正の虚偽表示の内容と監査意見への影響は監査役等に報告され、重要な虚偽表示がある場合はその旨を明示して報告されます(監基報450第11項)。加えて、未修正の虚偽表示の影響が個別にも集計しても重要性がないと判断しているかどうかを、経営者確認書に記載することが求められます(監基報450第13項)。当期処理で済ませるのであれば、その根拠を文書化し、監査役等にも同じ内容を説明できるようにしておくことが実務上重要です。
💬 よくある質問
A. 出発点として金額基準を定めておくこと自体は有用と考えられます。ただし、基準35項は具体的な判断基準が企業の個々の状況によって異なり得るとしており、内基報1号189項も指標や比率を画一的に適用しないよう求めています。赤字期や利益が著しく小さい期の代替指標、質的重要性に該当する場合は金額基準にかかわらず重要と扱う旨をあわせて定めておくのが実務的です。
A. 過去の財務諸表作成時に入手可能な情報を使わなかった、又は誤用したのであれば誤謬に当たります(基準4項(8))。一方、その時点では最善の見積りを行っており、その後の状況の変化や実績の確定によって差額が生じたのであれば、会計上の見積りの変更として、変更のあった期又は実績が確定した期に、その性質により営業損益又は営業外損益として認識することになります(基準55項)。判断の分かれ目は「いつ時点で入手可能だった情報か」です。
A. 監査人は明らかに僅少なものを除いて識別した虚偽表示を集計することが求められており(監基報450第4項)、いずれ集計の対象になります。会社側から先に報告し、影響額の算定過程と重要性の判断根拠を示すほうが、決算スケジュールへの影響を抑えやすいと考えられます。
📌 まとめ
基準24号はあえて「重要な誤謬」という用語を使わず、一般的な重要性の考え方に判断を委ねています(基準42項)。そのぶん、会社側が判断の枠組みを組み立て、根拠を説明できるようにしておく必要があります。押さえるべきは、①誤謬か見積りの変更かの切り分け、②金額的重要性を各期の損益と累積残高の両面で測ること、③質的重要性に該当する事情がないかを具体的な項目で確認すること、④重要性が乏しい場合でも表示区分は営業損益又は営業外損益となり、監査人の集計対象からは外れないこと、の4点です。
次回は、重要性があると判断した場合の次の論点として、有価証券報告書の訂正報告書の提出範囲と実務対応を扱います。連載の全体像は「過年度修正 完全ガイド」からご覧いただけます。
- 企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」4項(8)、17項、21項、22項、35項、42項、55項、63項、65項 ― 企業会計基準委員会 公表資料(2020年3月31日改正)
- 監査基準報告書450「監査の過程で識別した虚偽表示の評価」第4項、第7項、第8項、第10項(2)、第11項、第13項、A20項、A22項 ― 日本公認会計士協会 公表資料(2024年9月26日最終改正)
- 財務報告内部統制監査基準報告書第1号「財務報告に係る内部統制の監査」188項、189項、190項、191項、192項 ― 日本公認会計士協会 公表資料(2024年9月26日最終改正)
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則 8条50項・53項、8条の3の7、95条の2、95条の3 ― e-Gov法令検索 現行条文
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区)。監査法人での上場会社監査・IPO支援の経験をもとに、上場企業・上場子会社・IPO準備企業の会計論点および開示実務を支援しています。
本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の会計処理の判断は、監査人・専門家にご確認ください。
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