当期の決算作業のさなかに、過去の年度の会計処理に誤りがあったことが分かる。経理責任者にとって、これほど心臓に悪い場面はそう多くないのではないでしょうか。しかも、過去の決算を作り直すのか、当期の損益で処理してよいのか、訂正報告書は要るのか、監査法人にはいつ何を伝えるのかという判断が、一度に押し寄せます。
この論点の難しさは、会計基準・金融商品取引法・会社法・取引所規則という4つの物差しが、それぞれ別の重要性で動く点にあります。会計上は修正再表示が必要でも、訂正報告書が必要かどうかは別の判断です。順番を誤ると、開示のやり直しや監査法人との差し戻しが発生します。
本記事は連載の第2のピラーとして、誤謬を発見してから開示・提出を終えるまでの流れを1本にまとめます。個別論点は第11回以降で扱いますので、まずは全体像と初動の勘所をつかんでください。
- 会計基準上の「誤謬」の定義と、意図的かどうかを問わない意味(基準4項(8))
- 発見から開示までの7ステップと、誰が・いつまでに・何をするか
- 修正再表示をどの期に反映するか(基準21項)と、有価証券報告書と計算書類の違い
- 金融商品取引法の注記と会社法の注記で求められる項目の違い
- 修正再表示か当期処理か、訂正報告書は要るかの判定フロー
- 適時開示・上場管理措置とIPO準備企業での留意点
過年度の誤りへの対応は、会計、金商法、会社法、税務でそれぞれ手続が違います。この記事が全体像で、個別の場面は次の7本で扱っています。

過年度の誤謬 発見から開示までの進行シート
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- ✓発見から開示までの7ステップと成果物
- ✓事実調査の4点と、調査の網羅性の確認リスト
- ✓記入式の影響額算定表と、修正再表示・訂正報告書の判定フロー
- ✓有価証券報告書と計算書類で違う注記の記載事項(対照表)
この記事の見出し
📄 「過去の誤謬」とは何か|意図的かどうかを問わない
基準が定める3類型
企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下「基準」といいます)は、誤謬を「原因となる行為が意図的であるか否かにかかわらず、財務諸表作成時に入手可能な情報を使用しなかったことによる、又はこれを誤用したことによる」次の誤りと定義しています(基準4項(8))。
- 財務諸表の基礎となるデータの収集又は処理上の誤り(基準4項(8)①)
- 事実の見落としや誤解から生じる会計上の見積りの誤り(基準4項(8)②)
- 会計方針の適用の誤り又は表示方法の誤り(基準4項(8)③)
実務上の意味が大きいのが「意図的であるか否かにかかわらず」という文言です。基準は、会計上は意図の有無で取扱いを区別する必要はないとの考えから、誤謬を不正に起因するものも含めて定義しています(基準42項)。単純な集計ミスも意図的な売上の前倒し計上も、会計処理としては同じく修正再表示の対象です。ただし意図の有無は調査体制や開示のあり方に影響しますので、会計処理と社内対応は分けて考えてください。
なお、過去の財務諸表における誤謬の訂正は「会計上の変更」には該当しません(基準4項(4))。会計上の変更が「正しかった処理を別の正しい処理に変える」ものであるのに対し、誤謬の訂正は「誤っていた処理を正す」ものだからです。
見積りの変更との分かれ目は「当時、何が入手可能だったか」
実務でもっとも迷うのは、会計上の見積りの変更(基準4項(7))との線引きです。軸は一つで、過去の財務諸表を作成した時点で入手可能だった情報を使ったかどうかです。当時の情報で最善の見積りを行っていたのなら、その後に状況が変わって見直しても見積りの変更です。当時すでに入手できた情報を見落としていたのなら誤謬になります。
| 場面 | 誤謬(修正再表示) | 会計上の見積りの変更(将来にわたる処理) |
|---|---|---|
| 判断の前提 | 作成時に入手可能だった情報を使わなかった、又は誤用した | 作成後に新たに入手可能となった情報に基づいて見直した |
| 貸倒引当金 | 当時すでに回収不能が明らかだった債権に引当てを行っていなかった | 当時は合理的に見積もっていたが、その後の取引先の状況変化で引当率を見直した |
| 固定資産の耐用年数 | 取得時から実態と明らかに乖離した年数を、根拠なく設定していた | 合理化策の策定により、使用可能予測期間との乖離が新たに判明して短縮した |
| 処理と注記 | 過去の財務諸表を修正再表示し(基準21項)、誤謬の内容・影響額・累積的影響額を注記(基準22項) | 当期以降で処理し(基準17項)、変更の内容・影響額を注記(基準18項) |
表1 誤謬と会計上の見積りの変更の分かれ目(判定の詳細は連載第2回・第11回で扱います)
🔤 誤謬の訂正・誤謬訂正・誤謬修正 どれが正しい言い方か
会計基準の用語は誤謬の訂正です。誤謬訂正は同じもの、誤謬修正は基準にない言い方、修正再表示は別の概念です。
検索されている言葉には、誤謬の訂正、誤謬訂正、誤謬修正と、いくつかの言い方があります。指しているものはどれも同じですが、会計基準で使われているのは誤謬の訂正です。企業会計基準第24号は、基準の名称そのものが会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準となっています。
誤謬訂正は、この誤謬の訂正から助詞を省いた略記です。社内資料や会話ではよく使われますし、意味も変わりません。誤謬修正は会計基準にない言い方です。話が通じないわけではありませんが、監査法人へ出す書面や取締役会の資料では、誤謬の訂正に寄せておくほうが無用な確認が入りません。
修正再表示は別の言葉
まぎらわしいのが修正再表示です。これは誤謬の訂正と同じ意味ではありません。誤謬の訂正が誤りを正すこと全般を指すのに対し、修正再表示は、過去の財務諸表における誤謬の訂正を財務諸表に反映することを指します。つまり、訂正の中身ではなく、それを表示にどう反映するかという手続の名前です。
この違いが効いてくるのは、誤謬が見つかったときにどの範囲まで手を入れるかを議論する場面です。訂正すること自体は決まっていても、比較情報を遡って直すのか、当期の損益で処理するのかで扱いが変わります。この分かれ目は誤謬の重要性判断|修正再表示か当期の損益で処理かの分かれ目で扱っています。
訂正と修正の使い分け
訂正と修正は、制度によって使い分けられています。金融商品取引法で有価証券報告書の誤りを直すときに出すのは訂正報告書です。一方、税務で申告の誤りを直すときに出すのは修正申告です。会計基準では、誤謬に対しては訂正、表示への反映には修正再表示という語が使われます。似た場面で違う語が当てられているので、社内で言葉を統一しておくと、監査法人や証券会社とのやり取りが噛み合いやすくなります。
🧭 発見から開示までの全体フロー|誰が・いつまでに・何をするか
過去の誤謬への対応には、会計処理を決める前にやるべきことがあります。事実の確定と証拠の保全です。ここを飛ばして金額の話から始めると、後から前提が変わって作業をやり直すことになりがちです。
図1 誤謬の発見から開示・再発防止までの7ステップ。監査人・監査役等との連携は特定の段階だけでなく全工程で並走させます。
①〜③ 初動と事実調査
端緒は、残高照合、取引先からの問合せ、内部通報、監査法人からの質問など様々です。誤りの可能性を認識したら、まず関連する証憑・システムデータ・メールを保全します。担当者が「片付けよう」として資料を差し替えると、事実関係の確定が一気に難しくなります。並行して経営者と監査役等へ第一報を入れ、調査の主体(経理部門で足りるのか、内部監査部門や社外の専門家を入れるのか)を決めます。
事実調査で確定させたいのは、いつから・いくら・なぜ・どの範囲での4点です。とくに「どの範囲で」は見落とされがちで、同じ処理を他の拠点や取引先にも適用していなかったかを確かめないまま影響額を固めると、後から追加が出て開示のやり直しになります。
④〜⑤ 影響額の算定と重要性の判断
影響額は各期・各科目に分けて算定します。損益だけでなく、貸借対照表の科目、税効果、1株当たり情報まで一気通貫で押さえてください。修正申告・更正の請求の要否も、この段階で顧問税理士と共有しておくと後戻りが減ります。
重要性について基準は、「重要性の判断は、財務諸表に及ぼす金額的な面と質的な面の双方を考慮する必要がある」と定めています。金額的重要性には損益への影響額や累積的影響額で判断する考え方などがあり、具体的な判断基準は企業の個々の状況によって異なり得るとされます。質的重要性は、企業の経営環境、財務諸表項目の性質、又は誤謬が生じた原因などにより判断することが考えられるとされています(いずれも基準35項)。
誤謬では、質的重要性が結論を左右することがしばしばあります。金額が小さくても、原因が意図的な処理であった、利益と損失の境目をまたぐ、財務制限条項に抵触するといった事情があれば、重要性ありと判断される場面が多いと考えられます。監査法人とは、この質的側面の評価をこそ早めにすり合わせたいところです。方針が決まったら当期の財務諸表の作成・訂正報告書・適時開示の準備を並行して進め、最後に内部統制上の原因を整理して是正措置を実行します。
⚖️ 修正再表示の方法と注記|金商法と会社法で書くことが違う
どの期に反映するか
基準は、過去の財務諸表における誤謬が発見された場合の修正再表示の方法を次のとおり定めています(基準21項)。
- 表示期間より前の期間に関する修正再表示による累積的影響額は、表示する財務諸表のうち最も古い期間の期首の資産、負債及び純資産の額に反映する(基準21項(1))
- 表示する過去の各期間の財務諸表には、当該期間の影響額を反映する(基準21項(2))
この定めは表示期間を前提にしているため、同じ誤謬でも、開示する書類によって「どこに」反映するかが変わります。有価証券報告書の財務諸表は2期を表示しますが、会社法の計算書類は当期のみを表示するのが通常だからです。
自作の数値例で確認する
次の設例で整理します(金額は百万円、いずれも筆者が作成した架空の数値です)。
設例 B社(3月決算・上場会社)はX4年3月期の決算作業中に、取引先C社への売掛金について、X2年3月期の時点で既に回収不能が明らかだったにもかかわらず貸倒引当金を計上していなかったことを発見した。計上すべきだった繰入額はX2年3月期に120、X3年3月期に追加で50(累計170)。法定実効税率30%、税務上は損金不算入で過年度の課税所得に影響はなく、繰延税金資産は回収可能とする。発行済株式総数は25,000千株。
図2 同じ誤謬でも、開示書類の表示期間によって累積的影響額を反映する期が変わります(数値はすべて自作、単位は百万円)。
有価証券報告書(X3年3月期を比較情報として表示)の場合 表示期間より前のX2年3月期の分120は、税効果36を控除した84を、最も古い期間であるX3年3月期の期首の純資産額に反映します(基準21項(1))。X3年3月期の分50は同期の販売費及び一般管理費と法人税等調整額に反映し、当期純利益を35減少させます(基準21項(2))。結果としてX3年3月期末は貸倒引当金が170増加、繰延税金資産が51増加、利益剰余金が119減少し、1株当たり当期純利益は1円40銭、1株当たり純資産額は4円76銭それぞれ減少します。
計算書類(当期のみを表示)の場合 過去の期間の分をまとめて、税効果控除後の119をX4年3月期の期首の純資産額に反映します。同じ誤謬でも、有価証券報告書ではX3年3月期の期首に84、計算書類ではX4年3月期の期首に119となり、反映する期も金額も異なります。社内説明では必ずこの点を添えてください。
検算:120+50=170/170×30%=51/36+15=51/84+35=119/170-51=119/35百万円÷25,000千株=1円40銭/119百万円÷25,000千株=4円76銭
注記は法令ごとに項目が違う
基準は、修正再表示を行った場合の注記として、過去の誤謬の内容、表示期間のうち過去の期間について影響を受ける財務諸表の主な表示科目に対する影響額及び1株当たり情報に対する影響額、最も古い期間の期首の純資産の額に反映された累積的影響額の3項目を求めています(基準22項(1)〜(3))。これを受けた法令の定めは次のとおりです。
| 注記事項 | 有価証券報告書の財務諸表 (財務諸表等規則8条の3の7) |
会社法の計算書類 (会社計算規則102条の5) |
|---|---|---|
| 誤謬の内容 | 必要(1項1号) | 必要(1号) |
| 主な科目に対する前事業年度における影響額 | 必要(1項2号) | 定めなし |
| 前事業年度に係る1株当たり情報に対する影響額 | 必要(1項3号) | 定めなし |
| 前事業年度の期首における純資産額に対する累積的影響額 | 必要(1項4号) | 定めなし |
| 当該事業年度の期首における純資産額に対する影響額 | 定めなし | 必要(2号) |
| 重要性が乏しい場合 | 注記を省略することができる(1項ただし書き) | 重要性の乏しいものを除く(柱書き) |
表2 修正再表示に関する注記事項の対応関係(条文はe-Gov法令検索の現行条文により確認)
財務諸表等規則が前事業年度への影響額を細かく求めるのに対し、会社計算規則は当該事業年度の期首における純資産額への影響額に絞っています。両方を作る会社では、注記文案の担当を分けると齟齬が生じやすいので、1人の担当者が通しで作るほうが安全です。
いま、どの段階にいますか
発見したばかりか、影響額まで出したか、監査法人に伝えたか。段階によって次の一手が変わります。状況をお聞かせいただければ、次にやることを一つに絞ってお返しします。
初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら
会社法の計算書類については、金商法とは手続そのものが違います。すでに確定した計算書類をどう扱うのかは確定した計算書類に誤りが見つかったときで詳しく扱っています。また、期中に誤りが判明した場合に半期報告書の比較情報をどこまで直すのかは期中に誤りが見つかったときを参照してください。
🗺️ 修正再表示か当期処理か、訂正報告書は要るか
ここまでの判断を1枚に整理すると次のようになります。重要なのは、会計上の重要性の判断と、訂正報告書の要否の判断が別のステップだという点です。
図3 誤謬かどうか、重要性があるか、過去の提出書類自体に誤りがあるかを順に判断します。
訂正報告書は「過去の提出書類そのもの」の問題
金融商品取引法は、有価証券報告書及びその添付書類について訂正届出書に関する規定(7条1項、9条1項、10条1項)を準用しています(金商法24条の2第1項)。記載すべき重要な事項の記載が不十分であるとき、重要な事項について虚偽の記載があるときなどには、訂正報告書を提出することになります。記載事項のうち重要なものについて訂正報告書を提出したときは、政令で定めるところによりその旨を公告する義務もあります(同条2項)。
ここでの「重要」は投資者保護の観点からの金融商品取引法上の判断であり、会計上の重要性とは概念が異なります。理論上は結論が常に一致するとは限りませんが、実務上は、会計上重要な誤謬があると判断した場合には過去の提出書類の訂正も併せて検討するのが通例と考えられます。
また、重要な事項につき虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項の記載が欠けている有価証券報告書等を提出した場合は、課徴金納付命令の対象となります。額は600万円と、株券等の市場価額の総額に10万分の6を乗じた額のいずれか高い方です(金商法172条の4第1項)。半期報告書・臨時報告書等はその2分の1です(同条2項)。
四半期報告書は2024年4月1日施行の金融商品取引法改正により廃止されており、上場会社の法定開示は半期報告書、第1・第3四半期は取引所規則に基づく四半期決算短信に一本化されています。古い書籍や過去の開示例を参照する際はご注意ください。
比較情報は「訂正後の数値」と一致させる
監査の側からも順序は明確です。監査基準報告書710「過年度の比較情報-対応数値と比較財務諸表」は、監査人が比較情報について、前年度に表示された金額及び注記事項(訂正報告書が提出されている場合には、訂正後の金額及び注記事項)と一致しているかどうか、又は修正再表示された場合はその金額及び注記事項が妥当かどうかを検討しなければならないとしています(監基報710 6項(1))。前年度の財務諸表が訂正されている場合、比較情報が訂正後の財務諸表と一致しているかを確かめることも求められます(同7項)。
訂正報告書を出したのに当期の比較情報が訂正前のまま、といった不整合は監査手続で検出されます。訂正報告書の提出と当期の財務諸表の作成は、同じ数値に基づいて同時並行で進める必要があります。
過年度に遡るのか当期の損益で処理するのかという分かれ目そのものについては、金額的重要性と質的重要性の測り方を誤謬の重要性判断で整理しています。訂正報告書を出すことになった場合の提出範囲、何期分さかのぼるのか、監査報告書が改めて発行されるのかについては有価証券報告書を訂正することになったときで扱っています。
🏢 取引所対応と監査法人対応|IPO準備企業の場合も
適時開示と上場管理措置
上場会社では、金融商品取引法の対応と並行して取引所への対応が生じます。東京証券取引所の有価証券上場規程は、個別に列挙された開示事項のほか、「当該上場会社の運営、業務若しくは財産又は当該上場株券等に関する重要な事項であって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの」を適時開示事項としており(有価証券上場規程402条1号at)、過去の決算の訂正やその原因となった事象はこの包括条項に該当し得ます。内部統制に開示すべき重要な不備がある旨を記載する内部統制報告書の提出も、独立の適時開示事項です(同402条1号am)。
適時開示に係る規定や企業行動規範の「遵守すべき事項」に違反し、改善の必要性が高いと認められるときは、東証は改善報告書の提出を求め、提出から6か月経過後速やかに改善状況報告書の提出を求めることとしています(同504条・505条)。さらに、有価証券報告書等に虚偽記載を行った場合などで内部管理体制等の改善の必要性が高いと認めるときは、特別注意銘柄への指定という措置があります(同503条5項〜7項、601条1項9号)。指定された会社は、指定から1年経過後速やかに内部管理体制確認書を提出し、審査を受けます。
かつて「特設注意市場銘柄」と呼ばれていた制度は、現在は「特別注意銘柄」という名称です(2026年8月時点の東証の公表資料による)。社内資料や過去の書籍の表記をそのまま流用すると古い名称になっている場合があります。
監査法人から必ず問われること
過年度の誤謬を報告すると、監査人からは概ね次の点が問われます。現場で実際に議論になるのは、金額よりも調査の網羅性です。
- 同種の誤りが他の期間・拠点・取引先に存在しないと、どのように確かめたか
- その誤りは当時の情報で気づけたものか(誤謬か見積りの変更かの根拠)
- 金額的重要性と質的重要性を、どの指標でどう評価したか
- 未修正の誤謬を含めた、財務諸表全体としての影響の集計
- 内部統制上の原因と、是正措置の実行時期
IPO準備企業の場合
IPO準備企業では、直前期・申請期の監査の過程でそれ以前の年度の誤りが判明することがあります。訂正報告書や適時開示の問題は生じませんが、直前期の期首残高が確定しないと監査が前に進まないという別の切迫感があります。申請スケジュールに直結するため、遅くとも直前々期のうちに過去の会計処理の棚卸しを済ませておくことが望ましいと考えられます。詳細は連載第20回で扱います。
- 関連する証憑・システムデータ・メールを保全したか
- 経営者・監査役等・監査法人に、誤りの可能性を認識した段階で共有したか
- いつから・いくら・なぜ・どの範囲で、の4点を文書で確定させたか
- 影響額を各期・各科目・税効果・1株当たり情報まで分解して算定したか
- 金額的重要性と質的重要性の双方を評価し、判断根拠を文書化したか(基準35項)
- 過去に提出した有価証券報告書等の記載自体の誤りを、会計上の重要性とは別に検討したか
- 有価証券報告書の注記(財規8条の3の7)と計算書類の注記(計算規102条の5)の両方を用意したか
- 適時開示の要否と、内部統制上の原因分析・是正措置の計画を用意したか
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訂正が有価証券報告書の虚偽記載にあたるかどうかは別の判断です。IPOの虚偽記載と監査意見の要件で線引きを整理しています。
自社で判断がつかないときはIPO支援サービスのページもご覧ください。初回のご相談は無料です。
注記に何を書くかは誤謬の訂正に関する注記の記載例|修正再表示の注記は金商法と会社法で違うで解説しています。
🧾 税務の手続は会計とは別に動く
会計上で修正再表示をしても、それだけで過去の申告が直るわけではありません。確定決算主義のもとでは、会計上の遡及処理は過去の確定申告に自動的には影響せず、税務の側で別に手続を踏むことになります。
会計の遡及処理が税務にどう跳ねるのか、当期の申告書でどの調整が必要になるのかは過年度遡及処理と税務で整理しています。
過去の申告そのものを直す場合は、税額が過少なら修正申告、過大なら更正の請求です。期間制限は法定申告期限から5年が基本で、仮装経理があった場合には特例があります。この手続は税務調査で過年度の計上漏れを指摘されたときで扱っています。
遡及処理をすると、繰延税金資産の回収可能性の前提も変わります。分類の判定に影響が出ることもあります。この点は遡って直したら繰延税金資産はどうなるのかを参照してください。
🗺️ 場面から記事を探す
この記事が全体像です。個別の場面については、下の各記事で条文と数値例まで踏み込んでいます。
どの場面に当たるかがはっきりしないうちは、まずこの記事の全体フローに戻ってください。順番を飛ばすと、開示のやり直しが起きます。
🗒️ よくあるご質問
基準は重要性について金額的な面と質的な面の双方を考慮するとしていますが(基準35項)、重要でない誤謬の表示区分について具体的な科目を定めているわけではありません。実務上は、その性質に応じて営業損益又は営業外損益の該当科目で処理する例が多いと考えられます。なお、過去に広く行われていた「前期損益修正損益」として特別損益に一括計上する処理は、重要な誤謬については採ることができません。重要でないと判断した根拠は、金額と質的側面の両面から文書に残し、監査人と事前に合意しておくことをおすすめします。
金額が固まってからでは遅い、というのが実務の感覚です。監基報710は、前年度の財務諸表を前任監査人が監査している場合において、監査人が重要な虚偽表示が存在すると判断するときは、適切な階層の経営者及び監査役等に報告するとともに、前任監査人を含め三者間で協議するよう求めなければならないとしています(監基報710 17項)。誤りの可能性を認識した段階で共有し、調査の範囲と手続をすり合わせておくほうが、結果的に手戻りは少なくなります。なお、過去の計算書類そのものを作り直すかという論点は連載第13回で扱います。
🧾 まとめ
過去の誤謬への対応は、判断の順序を守ることが何より重要です。①誤謬か見積りの変更か(基準4項(7)(8))、②金額的・質的に重要か(基準35項)、③過去の提出書類そのものに誤りがあるか(金商法24条の2第1項)。この3段階は物差しが異なるため、まとめて考えると必ずどこかで矛盾します。
修正再表示は、表示期間より前の分を最も古い期間の期首に、表示する過去の期間の分をその期間に反映し(基準21項)、有価証券報告書では財務諸表等規則8条の3の7の4項目、計算書類では会社計算規則102条の5の2項目を注記します。開示書類によって反映する期も注記項目も変わる点が、実務での落とし穴です。
会計処理を決める前にやるべきことは、証拠の保全と事実の確定です。ここに時間を割いた案件ほど、その後の監査法人との協議も開示も早く終わります。次回は「重要性の判断」を掘り下げ、修正再表示と当期処理をどう切り分けるかを扱います。
影響額の算定、重要性の評価、訂正報告書の要否、監査法人への報告。順序を誤るとどこかで後戻りになります。判明している事実をお聞かせいただければ、着手すべき順に作業を並べてご提示します。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の整備支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
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