ソフトウェアの会計処理は、まずどの区分に当たるかを決めるところから始まります。研究開発目的か、受注制作か、市場販売目的か、自社利用か。区分が決まらないまま償却年数の話をしても答えは出ません。
この記事では、日本基準の枠組みを移管指針の項番号で確認したうえで、SaaSを利用する側の会計処理がどう扱われているのかを整理します。日本基準にはこの点の明文がなく、IFRS解釈指針委員会のアジェンダ決定が参考になる、というのが現在の状況です。
- ソフトウェア制作費の4区分
- 実務指針は2024年7月1日にASBJへ移管され、移管指針第8号になったこと
- 自社利用の資産計上要件と、原則5年以内という利用可能期間(第11項・第21項)
- 市場販売目的の資産計上開始時点と、原則3年以内という見込有効期間(第8項・第18項)
- SaaS利用者側の会計処理に日本基準の明文がないこと
- 税務上の耐用年数は3年と5年に分かれること
この記事の見出し
📌 結論 実務指針はASBJに移った。名称と号数が変わっている
先に、参照する文書の名前を正しておきます。長く「会計制度委員会報告第12号 研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」と呼ばれてきた文書は、2024年7月1日をもって日本公認会計士協会で廃止され、企業会計基準委員会へ移管されました。
移管後の名称は、移管指針第8号「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」です。Q&A版は移管指針第11号「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関するQ&A」になっています。
会計処理の中身が変わったわけではありませんが、社内規程や監査調書で参照している文書名が古いままだと、監査人から指摘を受けます。番号が違う文書を引くのは避けてください。
🗂️ まず区分を決める
まず自社のソフトウェアがどの区分に当たるかを決めます。ここを飛ばして償却年数の話から入ると、必ず途中で行き詰まります。
枠組みを定めているのは、企業会計審議会が平成10年3月13日に公表した「研究開発費等に係る会計基準」です。適用は平成11年4月1日以後に開始する事業年度からでした。
同基準の「四 研究開発費に該当しないソフトウェア制作費に係る会計処理」が、1 受注制作のソフトウェアに係る会計処理、2 市場販売目的のソフトウェアに係る会計処理、3 自社利用のソフトウェアに係る会計処理、4 ソフトウェアの計上区分、5 ソフトウェアの減価償却方法という構成になっています。
受注制作は請負工事の会計処理に準じます。市場販売目的は、製品マスターの制作費のうち研究開発部分を除いて資産計上し、機能維持に要した費用は資産計上できません。自社利用は、将来の収益獲得または費用削減が確実であると認められる場合に資産計上します。計上区分は無形固定資産です。
どの区分に当たるのか、資産計上の要件を満たすと言えるのか、支出のどこまでを資産に含めるのか。導入の意思決定資料から、監査人に説明できる形の判断メモを作成します。SaaSの初期設定費用の扱いについても、社内方針の設計からお手伝いします。公認会計士・税理士が直接お受けします。初回のご相談は無料です。
🖥️ 自社利用ソフトウェア
いずれも「原則として」です。3年、5年という数字が固定の年数として定められているわけではありません。
「確実であると認められる」という要件の充足を、どの資料で説明するか。ここが監査でいちばん議論になります。導入の意思決定の段階で整理しておいてください。
実務でいちばん多いのが自社利用です。移管指針第8号の第11項が、自社利用のソフトウェアの資産計上の検討に際しては、将来の収益獲得または費用削減が確実であるという要件の充足を判断する、としています。
この「確実である」という言葉が、実務での議論の中心になります。基幹システムを入れ替えるとき、業務効率が上がることは期待できますが、それを確実だと言えるのか。監査人が求めるのは、期待ではなく根拠です。
根拠は導入の意思決定資料に残す
実務としては、導入を決める段階で作った資料が根拠になります。どの業務にどれだけの時間がかかっていて、導入後にどれだけ減るのか。人員配置がどう変わるのか。いつから効果が出るのか。これらが投資判断の資料に書かれていれば、そのまま会計上の判断の根拠になります。
逆に、決算のときに慌てて根拠を作ろうとすると、後付けの説明になります。稟議書や取締役会資料の段階で、この観点を入れておいてください。
償却は原則5年以内
第21項が、自社利用のソフトウェアについて、定額法による償却が合理的であるとし、利用可能期間を原則として5年以内としています。5年と決まっているわけではありません。利用可能期間が3年であれば3年です。
5年を超える期間で償却する場合は、その期間の合理性を説明することになります。基幹システムのように長く使う前提のものについては、この議論が出てきます。
📦 市場販売目的ソフトウェア
市場販売目的のソフトウェアについては、移管指針第8号の第8項が、最初に製品化された製品マスターの完成をもって研究開発の終了時点とするとしています。それより前の支出は研究開発費、それ以後の支出が資産計上の対象という整理です。
第18項が減価償却の定めで、見込販売数量に基づく方法によるとし、見込有効期間を原則として3年以内としています。ここも「原則として」です。
実務上の難しさは、製品マスターの完成時点をいつと見るかにあります。ソフトウェア開発は、ある日はっきりと完成するものではありません。どの成果物をもって最初に製品化された製品マスターと見るのかを、開発プロセスの中に定義しておく必要があります。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
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☁️ SaaSを利用する側はどうするか
日本基準に明文がないことを前提に、社内で方針を決めて監査人と合意するのが現実的な進め方です。
ここが現在いちばん整理されていない論点です。自社でソフトウェアを作るのではなく、外部のSaaSを契約して使う。その際、初期設定やカスタマイズに多額の費用がかかる。この費用を資産計上できるのか。
日本基準には、SaaSを利用する側の会計処理を定めた会計基準、実務指針、実務対応報告は、この記事の作成時点で確認できませんでした。参考になるものとしては、日本公認会計士協会が2022年6月30日に公表した会計制度委員会研究資料第7号「ソフトウェア制作費等に係る会計処理及び開示に関する研究資料 DX環境下におけるソフトウェア関連取引への対応」があります。
ただし、これは研究資料です。同協会自身が、調査し現時点における考えを取りまとめたものと位置づけています。実務指針ではないので、これに従わなければならないというものではありません。
IFRSの整理
IFRSでは、IFRS解釈指針委員会のアジェンダ決定という形で整理が示されています。2019年3月のアジェンダ決定「Customer's Right to Receive Access to the Supplier's Software Hosted on the Cloud (IAS 38)」は、供給者がクラウド上でホストするソフトウェアへのアクセス権について、リースには該当せず、アクセス権のみでは無形資産にも該当せず、サービス契約として期間にわたり処理するという結論を示しました。
2021年3月には「Configuration or Customisation Costs in a Cloud Computing Arrangement (IAS 38)」のアジェンダ決定が確定し、IASBが2021年4月の会議で異議を唱えませんでした。顧客はソフトウェアを支配しておらず、設定・カスタマイズ活動は通常ソフトウェアと区別される顧客が支配する資源を生まないため、無形資産を認識しないという結論です。
そのうえで、無形資産を認識しない場合の費用の認識時点として、供給者が提供する区別可能なサービスであればサービスの実行時、区別できない場合はソフトウェアへのアクセスが提供される契約期間にわたり、第三者が実施する場合は当該実施時、という整理が示されています。
注意点
これらはアジェンダ決定であって、IFRSの解釈指針(IFRIC Interpretation)ではありません。また、日本基準を適用している会社にそのまま当てはまるものでもありません。参考としてどう扱うかは、監査人との協議になります。
ASBJは開発していない
ASBJが基準を作るのを待つ、という選択肢もあり得ますが、2026年9月4日時点の「現在開発中の会計基準に関する今後の計画」および2025年12月12日公表の中期運営方針には、ソフトウェアやクラウド・コンピューティングに関するプロジェクトは記載されていません。近いうちに明文が示される見通しは、公表物からは読み取れません。
したがって、社内で方針を決め、その根拠を整理し、監査人と合意しておくというのが現実的な進め方です。契約書の内容、設定作業の実施主体、ソフトウェアを支配していると言えるかどうか。この3点を軸に整理してください。
🧾 税務上の取扱い
会計上の償却年数と税務上の耐用年数は別物です。自社利用でも、複写して販売するための原本であれば3年になります。
会計上の償却年数と、税務上の耐用年数は別物です。国税庁のタックスアンサーは、ソフトウェアの耐用年数について、複写して販売するための原本または研究開発用のものは3年、その他のものは5年としています。根拠は耐用年数省令の別表第三と別表第六です。
自己制作の場合の取得価額は、法人税基本通達7-3-15の2が定めています。原材料費、労務費および経費の額ならびに当該ソフトウエアを事業の用に供するために直接要した費用の額の合計額とされ、合理的な方法により継続して計算している場合はこれを認めるとされています。
7-3-15の3が、取得価額に算入しないことができる費用です。(1)計画変更等により不要となったことが明らかなものに係る費用、(2)研究開発費の額(自社利用は将来の収益獲得または費用削減にならないことが明らかな場合に限る)、(3)製作等の間接費・付随費用等で製作原価のおおむね3%以内の少額のもの、の3つが挙げられています。
研究開発税制との関係
試験研究費の額には、製品の製造または技術の改良、考案もしくは発明に係る試験研究に加えて、対価を得て提供する新たな役務の開発に係る試験研究が含まれます。後者の説明の中に、情報解析を行う機能を有するソフトウエアへの言及があります。
ただし、ソフトウェアの開発費が一律に研究開発税制の対象になるわけではありません。個別の該当性は、制度の要件に照らして判断することになります。
🏢 上場準備会社が気をつける点
上場準備の局面で、ソフトウェアの資産計上は必ず論点になります。理由は2つあります。
ひとつは、金額が大きくなりやすいことです。基幹システムの導入、自社サービスの開発。いずれも数千万円から億単位になることがあり、資産計上するかどうかで損益が大きく変わります。
もうひとつは、判断の根拠が残っていないことが多いことです。開発を始めた当時は上場を意識しておらず、稟議も簡素だった。あとから資産計上の根拠を説明しようとしても資料がない。この状態で監査を受けると、費用処理を求められることがあります。
いつから整えるか
N-2期には、ソフトウェアの資産計上に関する社内ルールを作っておいてください。どの区分に当たるかの判定、資産計上の要件を満たすかの検討、対象となる支出の範囲、利用可能期間の見積り。この4点を書式にして、開発案件ごとに残す運用にします。
SaaSの初期設定費用についても、社内方針を決めておくのが安全です。明文がない論点だからこそ、会社としてどう考えるかを先に決め、監査人と合意しておく必要があります。関連する論点はIPO準備 完全ガイドで扱っています。
❓ よくある質問
A. 2024年7月1日に日本公認会計士協会で廃止され、企業会計基準委員会へ移管されました。現行は移管指針第8号です。
A. 移管指針第8号 第21項は、利用可能期間を原則として5年以内としています。5年に固定されているわけではありません。
A. 第18項が見込有効期間を原則として3年以内としています。こちらも固定の年数ではありません。
A. 日本基準にこの点を定めた会計基準や実務指針は確認できませんでした。IFRSのアジェンダ決定では無形資産を認識しないという結論が示されています。社内方針を決めて監査人と協議してください。
A. 研究資料であり実務指針ではありません。参考にはなりますが、これに従わなければならないというものではありません。
A. 2026年9月4日時点の「今後の計画」および2025年12月の中期運営方針に、ソフトウェアやクラウドのプロジェクトは記載されていません。
A. 複写して販売するための原本または研究開発用のものは3年です。それ以外が5年です。自社利用でも、販売用の原本であれば3年になります。
A. 税務上は、法人税基本通達7-3-15の3が、計画変更等により不要となったことが明らかなものに係る費用を取得価額に算入しないことができるとしています。
A. 導入の意思決定資料に、削減される業務量や効果の発現時期が書かれていれば、それが根拠になります。決算時に後から作るのではなく、稟議の段階で整理しておいてください。
📄 まとめ
ソフトウェアの会計処理は、まず4つの区分のどれに当たるかを決めます。枠組みは「研究開発費等に係る会計基準」の四が定め、詳細は移管指針第8号(旧・会計制度委員会報告第12号、2024年7月1日にASBJへ移管)が定めています。
自社利用は、将来の収益獲得または費用削減が確実であると認められる場合に資産計上し(第11項)、利用可能期間は原則として5年以内です(第21項)。市場販売目的は、最初に製品化された製品マスターの完成を研究開発の終了時点とし(第8項)、見込有効期間は原則として3年以内です(第18項)。
SaaSを利用する側の会計処理には日本基準の明文がありません。IFRSではアジェンダ決定により、設定・カスタマイズ費用について無形資産を認識しないという整理が示されています。日本基準を適用する会社は、社内で方針を決め、根拠を整理して監査人と合意しておくのが現実的です。
📚 参考(公的な一次情報)
- 企業会計審議会「研究開発費等に係る会計基準」(平成10年3月13日)四
- 移管指針第8号「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」第8項・第11項・第18項・第21項、移管指針第11号
- 日本公認会計士協会 会計制度委員会研究資料第7号(2022年6月30日)
- IFRS解釈指針委員会アジェンダ決定(2019年3月、2021年3月)
- 企業会計基準委員会「現在開発中の会計基準に関する今後の計画」(2026年9月4日)、中期運営方針(2025年12月12日)
- 国税庁タックスアンサー No.5461・No.5442、法人税基本通達7-3-15の2・7-3-15の3