SSBJ基準への対応について、社内で話が出たとします。まず決めるべきは、自社が義務の対象なのかどうかです。ここを確認せずに準備を始めると、必要のない工数をかけることになります。
結論から言えば、義務の対象はかなり絞られています。開示府令が定める閾値は平均時価総額1兆円以上です。しかもその平均時価総額の計算方法が独特で、直前事業年度の末日を含みません。
この記事では、根拠となる条文の番号と、判定の手順、そして2026年7月に成立した保証制度の枠組みまでを確認します。
- SSBJが公表した3本の基準の正式名称(テーマ別基準とユニバーサル基準)
- 義務の根拠は開示府令 第19条の9 第1項であること
- 平均時価総額の算定に直前事業年度の末日を含めないこと(第3項)
- 3兆円は2027年3月期、1兆円は2028年3月期からという段階
- 対象外の会社も第2項で任意適用ができること、ただし「準拠」の表記に注意が必要なこと
- 保証は限定的保証で、当初2年間の対象はScope1・2とガバナンス・リスク管理であること
- Scope3は開示要求の対象だが、適用初年度に限り開示しないことができること
この記事の見出し
📌 結論 義務の対象は平均時価総額1兆円以上。多くの会社は対象外
根拠は、企業内容等の開示に関する内閣府令の第19条の9です。第1項が、金融商品取引法第24条第1項第1号に掲げる有価証券の発行者のうち、金融庁長官が指定する取引所金融商品市場に上場されている株券等の発行者に限り、かつ平均時価総額が1兆円以上である者について、サステナビリティ関連記載事項を、一般に公正妥当と認められるサステナビリティ情報の作成及び開示に関する基準に従って記載しなければならない、と定めています。
この条文は、令和八年内閣府令第五号によって新設されたものです。公布と施行はいずれも2026年2月20日です。
ひとつ注意があります。府令の本文には「プライム市場」という言葉が出てきません。書かれているのは「金融庁長官が指定する取引所金融商品市場」です。金融庁が国会に提出した法案の説明資料では、一定のプライム市場上場企業を対象とする、という説明がされています。社内資料で条文を引くときは、府令の表現をそのまま使ってください。
したがって、スタンダード市場とグロース市場の上場会社、および上場準備中の会社は、この開示義務の対象ではありません。
🗂️ 基準の名前を正確に書く
「サステナビリティ開示基準第1号」という書き方は正確ではありません。号数を持つのはテーマ別基準で、適用のルールを定めるユニバーサル基準に号数はありません。社内資料の表記から直してください。
SSBJが2025年3月5日に公表したのは3本です。名称の階層が二つに分かれており、ここを取り違えている資料をよく見かけます。
適用のルールを定めるのがサステナビリティ開示ユニバーサル基準「サステナビリティ開示基準の適用」で、これに号数はありません。号数を持つのはテーマ別基準のほうで、第1号が一般開示基準、第2号が気候関連開示基準です。
3本とも2026年3月13日に改正されています。また、2026年6月11日に、サステナビリティ開示実務対応基準第1号が公表されています。温対法のSHK制度により測定し報告する温室効果ガス排出を用いて気候関連開示基準に従う場合の開示を扱うものです。
自社が義務の対象になるのか、任意適用をどう位置づけるのか、取引先からの要請にどこまで応えるのか。判定と方針づくりからお手伝いします。上場準備中の会社についても、いつから何を整えるべきかを整理します。公認会計士・税理士が直接お受けします。初回のご相談は無料です。
📅 いつから、どの規模から
開示府令の本則が定める閾値は1兆円です。5000億円の層は、金融審議会のワーキング・グループ報告書と法案の説明資料で示されている段階です。保証は開示が始まる期の翌期からとされています。
段階は3つに分かれています。平均時価総額3兆円以上が2027年3月期(令和9年3月期)から、3兆円未満1兆円以上が2028年3月期(令和10年3月期)から、1兆円未満5000億円以上が2029年3月期(令和11年3月期)からです。
ただし、確認できた範囲を正確に書いておきます。3兆円以上を令和9年3月31日以後に終了する事業年度から適用する旨は、改正府令の附則で確認できました。1兆円の層と5000億円の層については、金融審議会のワーキング・グループ報告書(2026年1月8日公表)と法案の説明資料で示されている段階です。府令の本則が定める閾値は1兆円です。
それ以外のプライム市場上場企業への拡大は、今後の検討事項とされています。
🧮 平均時価総額の計算がいちばんの落とし穴
ここを読み違えると判定を誤ります。直近の期末時価総額が1兆円を超えたからといって、すぐに対象になるわけではありません。株価に何を使うか、株式数に自己株式を含むかといった細目は、府令とガイドラインでは確認できませんでした。
ここが実務でいちばん間違えるところです。直近5期末の時価総額の平均、と理解している人が多いのですが、条文はそう書いていません。
第19条の9第3項第1号は、直前事業年度の前事業年度の末日、および当該前事業年度の開始の日前4年以内に開始した事業年度の全ての末日における時価総額の合計を、5で除して得た額としています。つまり、直前事業年度の末日は算定に含まれません。1期ずらした5つの期末の平均です。
上場から5事業年度に満たない場合は第2号によります。上場日以後に経過した事業年度(直前事業年度を除く)の全ての末日における時価総額の合計を、その末日の数で除します。ここでも直前事業年度の末日は除かれます。
時価総額の意味は、取引所金融商品市場(金融商品取引法第2条第32項の特定取引所金融商品市場を除く)における時価総額と定義されています。
細目は条文にない
株価に各期末の終値を用いるのか、株式数に自己株式を含むのか。こうした細目は、府令の第19条の9第3項にも、企業内容等開示ガイドラインにも見当たりませんでした。判定が境界線上にある会社は、算定方法そのものを確認する必要があります。
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✅ 対象外の会社はどうするか
多くの会社はここで対象外になります。対象外だからといって何もしなくてよいというわけではなく、取引先や投資家からの要請にどう応えるかは別の判断になります。
義務の対象でない会社も、開示府令第19条の9第2項により、SSBJ基準に従って記載することができます。任意適用の道は明文で開かれています。
ただし「準拠」と書けるかは別の話
SSBJは2026年5月29日に注意喚起を出しています。全ての定めに従っていない場合に「準拠」と記載することは不適切であり、SSBJ基準を踏まえて、あるいは考慮して、参考にして開示しているといった表現も、利用者の誤解を避ける観点から不適切である、という趣旨です。
部分的に取り入れた開示を、基準の名前を使って説明することはできない、ということです。任意適用を選ぶなら、全ての定めに従うかどうかをはっきりさせてから始めてください。
上場準備会社の実務
上場準備の段階でSSBJ基準への対応を求められることは、現時点ではありません。グロース市場やスタンダード市場に上場した後も、義務の対象にはなりません。
一方で、取引先の大企業から温室効果ガス排出量の報告を求められる場面は増えています。これは開示制度とは別の、取引上の要請です。義務ではないから何もしない、という整理にはならないことが多いので、要請の内容ごとに対応方針を決めておいてください。準備全体の順序はIPO準備 完全ガイドで扱っています。
🔍 保証の制度はどこまで決まったか
保証の担い手が監査法人に限られない点は、日本の開示制度では新しい設計です。
サステナビリティ開示に対する第三者保証には、金融商品取引法の改正が必要でした。その改正法である金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律は、2026年4月10日に提出され、2026年7月15日に成立しています。主要な施行期日は2027年4月1日と説明されています。
保証の水準は限定的保証です。ワーキング・グループ報告書は、限定的保証とし、合理的保証への移行の検討は行わないことが適当としています。将来的に合理的保証に移行する、という説明は誤りです。
当初2年間の保証の対象範囲は、Scope1とScope2の温室効果ガス排出量、ガバナンス、リスク管理です。3年目以降の範囲は、国際的な動向等を踏まえて今後検討されます。
保証の担い手は監査法人に限られない
保証業務実施者は登録制で、監査法人であるかどうかを問わず登録できる設計です。登録要件として、業務執行担当者の設置、品質管理部門の整備、一定の財産的基礎などが挙げられています。準拠する保証基準は、ISSA5000、ISQM1、IESSAといった国際的な基準と整合性が確保されたものとされています。
監督面では、行政処分と報告徴求、保証業務実施者に対する課徴金制度、立証責任が転換された民事責任、守秘義務と罰則の整備が示されています。
任意保証の報告書を有報に添付できるか
SSBJ基準に準拠した情報に対するもので、登録された保証業務実施者が、登録者の遵守すべき保証基準に沿って行ったものであれば、任意の保証報告書も有価証券報告書に添付できるとされています。これを満たさない任意保証の報告書は添付できませんが、実施者名や登録の有無、準拠した基準等を開示したうえで、任意保証である旨を記載することは可能とされています。
🌍 Scope3の扱い
Scope3については、開示を要求しない、という誤解が広がっています。正しくは、開示は要求されており、適用初年度に限り開示しないことができる、という経過措置が置かれています。
気候関連開示基準(2026年3月13日改正版)の第55項が、スコープ3基準のカテゴリーに従い、報告企業の活動に関連するカテゴリー別に分解して開示することを求めています。第103項(2)が、本基準を適用する最初の年次報告期間においてScope3を開示しないことができるとする経過措置です。第104項に継続適用の定めがあります。
カテゴリー15(投資)については、ファイナンスド・エミッション以外の排出やデリバティブに関連する排出を除外できる定め(第56-2項)と、ファイナンスド・エミッションの合計を小計として開示する定め(第56-4項)が置かれています。
保証の対象は、当初2年間はScope1・2とガバナンス、リスク管理です。Scope3が3年目以降に保証の対象に加わるかどうかは決まっていません。
📝 有価証券報告書のどこに書くか
新しい記載欄が作られたわけではありません。開示府令第19条の9第4項第1号が、有価証券届出書等の記載事項のうち「サステナビリティに関する考え方及び取組」の項目に記載すべき事項を対象としています。府令の様式に定めるものに限り、当該事項の全部または一部を他の項目において記載する場合を含む、とされています。
同項第2号により、当該事項を訂正する訂正届出書や訂正報告書の当該部分も対象に含まれます。
なお、外国会社については第6項に定めがあり、金融庁長官が認める場合に、SSBJ基準と整合的な基準、またはIFRS財団が公表した国際的なサステナビリティ開示基準およびこれと整合的な基準を用いることができるとされています。
❓ よくある質問
A. なりません。義務の対象は金融庁長官が指定する取引所金融商品市場に上場し、かつ平均時価総額が閾値以上の会社です。金融庁の説明資料では一定のプライム市場上場企業とされています。
A. その一時点では判定できません。第19条の9第3項の平均時価総額は、直前事業年度の末日を含まない5つの期末の平均で算定します。
A. 正確ではありません。正しくはサステナビリティ開示テーマ別基準第1号「一般開示基準」です。適用のルールを定めるユニバーサル基準に号数はありません。
A. 開示府令第19条の9第2項が、第1項の対象者以外の者も基準に従って記載できる旨を定めています。
A. SSBJが2026年5月29日に、そうした表現は利用者の誤解を避ける観点から不適切であるとする注意喚起を出しています。
A. 登録制であり、監査法人であるかどうかを問わず登録できる設計です。監査法人に限られません。
A. 限定的保証とされており、報告書は合理的保証への移行の検討は行わないことが適当としています。
A. 開示は要求されています。適用する最初の年次報告期間に限り開示しないことができるという経過措置が第103項(2)に置かれています。
A. 新設は確認できません。既存の「サステナビリティに関する考え方及び取組」の項目が対象です。
A. 事業年度経過後3月以内という現行制度を維持する方針が示されています。延長承認制度の柔軟な活用を開示ガイドラインの改正で明確化するとされています。
📄 まとめ
SSBJ基準の適用が義務づけられるのは、金融庁長官が指定する取引所金融商品市場に上場し、平均時価総額が1兆円以上の会社です。根拠は開示府令第19条の9第1項で、令和八年内閣府令第五号により2026年2月20日に公布・施行されました。
平均時価総額の算定には直前事業年度の末日を含めません(第3項)。ここを取り違えると判定を誤ります。
段階は、3兆円以上が2027年3月期、1兆円以上が2028年3月期、5000億円以上が2029年3月期です。保証は開示が始まる期の翌期から義務づけられ、限定的保証で、当初2年間の対象はScope1・2とガバナンス、リスク管理です。根拠法は2026年7月15日に成立しています。
スタンダード市場、グロース市場、上場準備中の会社は、この義務の対象ではありません。任意適用は可能ですが、一部だけ取り入れて基準の名前を使うことはできません。
📚 参考(公的な一次情報)
- 企業内容等の開示に関する内閣府令 第19条の9(令和八年内閣府令第五号により新設、2026年2月20日公布・施行)
- サステナビリティ基準委員会 サステナビリティ開示ユニバーサル基準、テーマ別基準第1号・第2号(2025年3月5日公表、2026年3月13日改正)、実務対応基準第1号(2026年6月11日)
- サステナビリティ基準委員会 開示に関する注意喚起(2026年5月29日)
- 金融審議会 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ報告書(2026年1月8日公表)
- 金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律(2026年7月15日成立)および金融庁の法案説明資料
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